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第三十三節 スピン・アンド・シェイク

 レジャー施設からの帰り道、暗い雪道へ車を走らせる。

 暗いのに白い、そんな雪景色を見慣れた車内から覗き込みながら僕は運転していた。


 コーニングスさんは自分の車で来たらしいので別れた。

 彼女の申し出はありがたいが、まだ信用はできない。

 相談するなら、まず大和さんだろう。


 全身に伝わる振動を感じながら僕は言葉を選ぶ。


「陽葵、普通に学校(がっこ)にも行ってて元気だってよ」


 僕が言葉を吐き出す前に大和さんが口を開いた。

 そうか、それもまた大事な話だ。

 あんな思いをしたのに立ち直れたか……強い子だ。

 和久さんにどう言い訳をしたかもわからないが、仲違いもしていないようだし問題はないだろう。


 よかった……次は、こっちの番か。

 ちょうど合図をするかのように、赤信号に照らされ車を停める。


「あの、大和さんが和久さんと喋っている間に高校時代の友達と話したんです」

「そうなのか? 友達ほんとにいたんだな」

「その友達、彼女連れでして……紹介されたんです」


 あまり口に出したくない……理由もわからず、物凄いショックを受けている。

 ただ空さんが心配ではない気がする、それもあるのだがなにか……。

 それでも信号は青へと変わり、僕はアクセルを踏む。


「その彼女さんが、人間ではなかったんです」

「……妖怪とか吸血鬼とか、そういうことか?」

「直感ですけど、その類です。コーニングスさんも断定していたのでまず間違いないかと」


 その言葉に、大和さんは沈黙を返す。

 道がカーブに差し掛かったせいで、運転に集中を割かれてその表情は伺いしれなかった。


「オメェはちょっと目ぇ話すとすぐそういう目に合う……だがま、複雑だわな」

「妖怪は頭が悪いですけど、吸血鬼(ヴァンパイア)は違いました。そのどちらでもないようですが、知性はあるように見えましたし、騙されている可能性はあります」


 空さんは、僕が高校に通い続けられた理由の一人だ。

 彼がいなければ、僕はどっかでやめてたかもしれない。

 さっきと変わらず、ずっとニヒルでイケメンだった彼と遊んだ日々は忘れられない。


 そして僕には友達と呼べる関係の人が数人しかいない、大事にしたい関係だ。

 そんな人が厄介事に巻き込まれているのなら、助けたい。


「悪い奴に見えたのかァ?」

「いや……どうでしょう……?」


 リートさん、そう呼ばれた彼女は礼儀正しく、また社交的でもあった。

 だからこそ空さんを騙している可能性を捨てきれないのだが……空さんは頭もいい。

 大和さんから豪胆さを抜いてクールさを足した感じだ。


 当時はなんで僕と同じ学校に通ってたんだが理解できなかったが、事情があって欠席が続く時期があった。

 その都合については、はぐらかせられたまま卒業を迎えたが……本来、机を並べて授業を受けることはなかっただろう。

 頭の出来がまるで違った。


「でも、騙されるようなタイプじゃないんですよね」

「俺ァ、オメェをそういうのからゾーニングしたいんだけどよォ……」


 意味がわかってないんだよな。

 さっきも意味がわからぬまま、聞ける雰囲気でもなかったから流してしまった。

 聞くか。


「ゾーニングってなんですか?」

「簡単に言や、区分けだァ。で、話を続けるがよォ……正直、俺ァオメェが妖怪と付き合ってても驚かねぇぜ?」

「……うん? はい?」


 なぜ僕の話にすり替わったのだろうか。

 これは空さんの話だというのに。


「だから、おかしなことは切り分けて、普通になっちまったもンは受け入れる。オメェの場合は元から崩術師だからそうするしかねぇだろ? 俺から言や、元から普通ではねぇンだよ」


 元から普通ではない。

 彼の立場から言えばそうだろう。

 黄昏世界でお父さんに拾われ、妖怪も元々見えた。

 そして崩術師になった、スタートラインがそこだった僕にとっては普通でも一般的に見れば十分おかしい。

 それでも彼は僕を日常に置こうとしてくれている……つまり、違和感なく平穏に過ごす日常こそが大事ということか。


「……そうですね」

「つまり、そのダチが困ってたら助けりゃいいし、それで幸せならいいんじゃねぇの? オメェが深く悩むことじゃねぇよ。会紡機戦の相手になるってンなら、話は別だがな」


 会紡機戦に関与している可能性か……空さんは運動も抜群に出来たが、参加できるくらい強いかと言われるとそうではないだろう。

 今すぐ危険かと言われれば判断できない、が……たしかに、本人もそれを知っていて望んでいるのならば僕は関与すべきではない。


 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまう。


「とにかく確かめるしかないってことですね?」

「そういうこった、厄介事だったら俺も呼べよォ」


 本当、お兄ちゃんみたいだ。

 最近助けてもらってばかりで申し訳なくなる。


「ありがとうございます」

「おゥ。オメェは陽葵の件も手伝ってくれたんだから当たりめぇだろ」


 少し、スッキリした。

 やっぱり彼に相談してよかった……コーニングスさんにも、心配をかけてしまったことを今度謝ろう。

 とにもかくにも、空さんと話すことが先決だろう。


「あ、そういえばコーニングスさんについては……」


 そこまで言いかけ、なにか視界に違和感を覚えた。


「嘘だろォ!? スパンが短すぎるッ……!」


 この感覚、会紡機戦のビジョン……!


 やばい、運転中だぞ!? 最悪のタイミングで来やがった!

 ルームミラーを覗き込むと、後続車がライトを光らせている、今ここでブレーキ踏んだら事故る!

 視界が回転し、外の景色へとなる、歩行者はいない。


 ハンドルを左に切りながら、ブレーキを踏み込み続ける。

 視界は拡大され続け、進み続ける……しかし、吹っ飛ばされそうになる遠心力に意識を持っていかれる。

 スピンしている、気がする……!


「王雅ァ……大丈夫か!?」


 しかしもう視界は一人歩きしてなにが起こっているのだかわからない。

 恐怖に思わず目を瞑ってしまうが、網膜に焼き付けられているのか、それでも映像が流れ続ける。


 凄まじい衝撃が腕と顔へ、そして一瞬の遅れを伴って全身を揺るがす。

 フロントに投げ出されそうになると、シートベルトが体を叩く。

 つぶ、れる……!

 まるでシェイカーに閉じ込められて、無茶苦茶に振られているようだ。


 見えているのは、エキゾチックな黒い肌の二人……それ以外の情報が頭に入らない。


「ふっ……はぁ、はぁ……」


 次第に僕の呼吸が聞こえてきた。

 遅れて、胴体には腫れ上がるような痛みがやってくると、それに引きずられるように視界が僕の元へと戻ってきた。


 ひび割れている。

 雪の結晶のようにフロントガラスに亀裂が走っていて、目の前にある電柱は明らかに車体に食い込んでいた。

 ボンネットが跳ね上がって、初心者マークを見せながら歪んでいる。


 ハンドルからは、白い袋のようなものが飛び出して僕の足元へ垂れていた。


 単独、事故……。


「うぅぷ……気持ちわりぃ」


 左に目をやると、大和さんは左手で口元を抑えながらスマホを取り出していた。

 よかった、無事……だよな? 怪我はないよな?


「ごめんなさい、僕、僕のせいで、大丈夫ですか……!?」


 彼は目を瞑って、二度三度、生唾を飲み込んだ。


「……落ち着けや、オメェのせいじゃねぇだろ、どう考えてもよォ」

「そう、ですか……すみません」


 僕はどうしても謝ってしまう。

 よかった、生きててよかった、大和さんに怪我がなくてよかった。


「日本車で助かったなァ……こういう時のために敢えてクラッシャブルゾーン弱くして、クッション性上げてっからな」


 よ、よく事故った直後に平然としていられるな。

 僕はまだ、なんなんだか、ただ安堵と罪悪感が胸から全身に染み出しているだけだ。

 パニックから抜け出せない、頭が働かないのに感情だけが駆動している。


「南アフリカ……ケープタウンかァ?」

「ちょ、ちょっと待ってください、落ち着かせてください」


 深呼吸しようと息を吸い込むが、痛みが走る。

 どうやって落ち着けばいい、事故なんてしたことがない。


 突然、運転席の扉が開いて、冷たい空気が足元から忍び寄る。

 もうやめてくれ、これ以上僕をパニックに陥れないでくれ。


「二人とも大丈夫!?」

「あァ、こいつはパニクってっけどな。会紡機戦の次の相手が見えて事故ったンだよ」


 黒いトレンチコート……。

 こ、コーニングスさんか。


「ぼ、僕どうしたらいいですか? 警察? 捕まります?」

「こっちで処理するから、とにかく降りて」


 そう言われて、とにかく指示通りに降りようとするとシートベルトに締め付けられた。

 左手でシートベルトを探り、ボタンを押し込む。


 身を投げ出すように降りると、滑って躓いてしまった。

 そのまま地面に倒れるかと思ったが、コーニングスさんが僕を支えた。

 なんでこれでここまで打ちのめされてるんだ?


「戦い、はここまでならないのに、なのに……僕は本当に頭がおかしいんでしょうか?」

「いえ、そんな……」

「戦闘時はドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン……神経伝達物質やホルモンが大量に出っからな。この状況は怖ぇだけで当たり前だ」


 言い淀んだコーニングスさんに被せて大和さんも僕を支えながら囁いた。


「今回は視覚と感覚がズレてるから脳がどう判断してるかわからねぇ、ヤク中なら慣れてるかもしれねぇがな」

「なるほど……」


 そのまま、近くに止まっていた車に駆け寄る。

 さっき、後続についていた車だ……コーニングスさんのだったのかこれ。


「もう、大丈夫です」


 そう告げると、大和さんとコーニングスさんが肩を離して僕はなんとか歩く。

 シルバーのセダンの後部座席へ乗り込むと、大和さんも反対側の扉を開けるが乗らずにコーニングスさんへと視線を投げかけた。


「おい、コーニングス! オメェまだ着けてきてたのか!?」

「違うわよ! ホテルの方向がこっちだっただけだから!」


 後部座席から見える彼女はそう言いながら、僕の潰れた車のナンバープレートを確認していた。

 そしてスマホを取り出し、耳に当てた。


「頭打ってねぇか?」


 大和さんは隣へ乗り込みながら、僕の全身に視線を滑らせながら問う。

 僕は頭を弄ったり、自分の体に集中するがとくに肩と胴が痛い。

 鞭打ちだ、頭は後頭部がちょっと痛いくらいか。


「頭はちょっとだけ、大和さんは?」

「俺なら下半身潰れても再生すンだろ、問題ねぇよ……で、吐き気はねぇか? 頭痛や手足の痺れは?」

「それも、ないです」


 コーニングスさんは電話が終わったのか、戻ってきて運転席へ座った。


「あの、警察とかレッカーとかは……?」

「こっちでやると言ったでしょ? これくらい財団で処理できるから」


 いいの、だろうか。

 僕が起こした事故なのに、誰も怪我していないとはいえ。

 いくらなんでも無責任ではないのか?


「コーニングス、オメェが俺の家を知ってんのは気持ちわりぃが……助かったぜ、行先はまず病院だ」


 それは少し大袈裟なんじゃ……大和さんはゲノム強化剤で大丈夫らしいし、僕だってそこまで酷い怪我はない。


「わかったわ、あなたも診察を受けたほうがいいからね」

「ゲノム強化はそんなヤワじゃねぇ」


 なら、僕の心配か?


「あの、病院は必要ですか?」

「いいか、事故後は危険なんだ。今はわからなくても、後で気づいて重症化したなんて、よくある話なンだよ」

「は、はぁ……」

「あれくらいの衝撃じゃ基本的には大丈夫だと思うが、万が一ってことがあンだよ」


 そういうもの、だろうか。

 僕は大丈夫な気がしているが……二人のやり取りから危ないは危ないのだろう。

 でも、さすがに過保護すぎないだろうか。

 戦闘後でもここまで心配されたことはなかったが……保護者魂に火がついているのか?


 コーニングスさんは迷いなく車のナビに行先を入れ、車を動かす。


「でも戦いの度にいちいち病院に行くハメになるんじゃ?」

「バカヤロォ、戦闘時は肩や首の筋肉を緊張させたり、受け身取ったりすンだろ? 事故は無防備な状態が多いンだよ。さっきも言ったが今回は幻覚見えて事故ったようなもンだぞ?」


 なるほど、ちゃんとそれにも理屈があるのか。


「それに最初の暴走パワードスーツの時に、生体情報モニタリングが搭載されてるって小物社長が言ってたろォ? 戦闘終わりに毎回モニター係に報告させてっからな」


 ちょっと覚えていないが。

 にしても優しい……いや、元々優しかったのだ彼は。

 割と当初から心配されていたんだな。

 知らぬ間に、健康管理をされていたとは驚きだが。


「オメェが常時スーツなしで戦ったのは、まず会紡機戦の初戦だ、そン時は病院行ったし、他の戦いはテンスに治されてただろうが。だから唯一戦闘後に危険があったのは、暴走パワードスーツだけだろォ?」


 そ、そうだっけ……スーツなしの他の戦いというと、伝送爆弾(メーリング・ボム)事件のヤクザ戦と日妖で暴れた時。

 たしかにテンスさんがいて、天術で治されたな。

 その通りだった。


 その後何度も体に異変はないか集中していると、いつしか病院に到着していた。

 大和さんとコーニングスさんも同時に降りる。


「……大和さんも来るんですか? 帰って大丈夫ですよ、門限とかあるんでしょう?」


 また彼のお父さんと揉めないだろうか。


「さっきお袋にメッセ入れたからなァ、ってそっちじゃねぇよ」


 僕は何気なく入口に向かっていたが、どうやら違うらしい。

 促されるがままに歩くと、救急・時間外入口と印された看板が掲げられていた。

 そうか、もう通常なら病院閉まっている時間だもんな。


 三人でそこへ入ると、通路の先が暗くて怖いと感じる……異様な雰囲気だ。

 やけに静かで、物音が少ない。

 来ていけない場所に忍び込んでしまったような、そんな風に感じる。

 動揺は落ち着いてきたが、罪悪感がまだ胸に残っているからそう思うのだろうか。


 すぐに僕は受付さんに語りかけられると、大和さんを交えてやり取りを始める。


「あのこっちの子も診察してあげて、同乗者よ」

「あァ? いらねぇよ俺は」

「ワガママ言っちゃだめだから!」


 そう言って、コーニングスさんは強制的に大和さんの手続きも申し出た。


 僕は受付さんや大和さんに聞かれは答え、指示があればマイナンバーカードを出して、と為されるがままに身を委ねる。

 そして待合室の椅子にようやく腰を掛けた。


「すぐ呼ばれるぜ、多分な」


 大和さんはコーニングスさんに目線に送る。

 僕は辺りを見渡すが、五人程度は診断の待機をしているように見える……重症といった人はいないが、この場合は順番通りではないのだろうか?


「事故者は優先なんですか?」

「俺はコーニングスに病院名を教えてねぇ、それに財団に電話後にコーニングスはスマホを見てねぇ。すぐナビに病院名を入れられるのはおかしいだろォ? 土地勘があるわけでもなさそうなのによォ」


 ふんふん。

 どういうことかわからんが……あ、そうか。

 この病院や道筋を知る方法は一つ、エダーク財団との電話中だけだったんだ。

 つまり、財団にこの病院に行けと指示された、とすれば財団はこの病院とやり取りをした可能性が高い。

 だから優先されるんだ。


「鋭すぎるからあなた。私よりもエージェントに向いているかも……」


 と、コーニングスさんが漏らす。同感だ。

 どれだけ集中力を維持しながら気を配っているのだ、彼にもゾーニングが必要だろう。


 僕は罪悪感を隅へ仕舞い、笑顔を作ってみせて彼の肩に手を置いた。


「大和さんも気負いすぎず、リラックスして過ごしたほうがいいですよ」

「俺は元々こうなんだよ、オメェみたいなマシュマロメンタリティじゃねぇんだよ」


 いやあなたが強いってコーニングスさんも言ってたから。

 二対一だから、日本は民主主義国家だから。

 と頭の中で突っ込んでいると、看護師さんに呼ばれ僕は立ち上がる。


「ついてこなくていいんですけど」

「駄目よ、二人とも私が連れ添うから」

「げぇ……俺ァパスで。王雅にはついてっていいぜ」

「もうっ……子供なんだから」


 大和さんが勝手なことを言うが、看護師さんに呼ばれた以上口論している時間はない。

 そう思い診察室へと入った。


 ここは意外と普通だ、誰もが思い描くような普通の診察室。

 お医者さんらしき人には、先ほど大和さんにされたような質問に追加し、瞳孔を確認される。

 そしてあろうことに、鞭打ちになっているだろう患部を視診するから服を捲れと言われてしまう。


 僕一人なら平気でやるさ、でも後ろにコーニングスさんがいるんだぞ……?

 恥ずかしい、だがそう言えるはずもない。

 僕は生娘のように目を瞑って、ゆっくりと服を捲った。


「軽い鞭打ちですね」


 医者はそう告げてくれた。

 結果はそんなもんで終わったというのに、CTとやらに入れられる話へと進んでいく。

 なんだCTって、MRIとどう違うんだ。

 一度待機室で待つように伝えられ、僕はお礼を言い診察室を出た。


 入れ替わりですぐに大和さんが席を立った。


「……」


 ちょっと怖い、CTってなんなんだ。

 きっと寝かされた状態で、機械でスキャンする系なのは想像がつくが、僕はそういった装置にお世話になったことがない。

 大袈裟すぎて怖いのか、それで重大なことがわかってしまうのが怖いのか……という問題ではなく単に純粋な恐怖心が胸に募る。


「なんかちょっと怖いですね……」


 口からするりと本音が滑り出る、隣に座るコーニングスさんへと。

 思い返せば、黄昏世界に初めて行く時も、同じ言葉でお父さんに弱音を吐いていた。


「あなたも、まだ子供ね……大丈夫だから」


 彼女は柔らかく微笑んで、僕の手に白い手を重ねた。

 暖かなその態度に、少し安心してしまう。

 ……よくないな、まだ信用する気にはなれない。だから安心してはいけない。


「事故の経験は私もあるわ、怖いわよね。私に弱音を吐いたって恥ずかしいことじゃないから」

「なんかお母さんみたいですね」


 壁を作るために、適当な軽口を叩く。

 冗談だというのに、手が軽く押し潰されそうなほどに握られた……怪我人には優しくしておくれよ。


「私まだ二十四歳だから……! お母さんは失礼すぎだから……!」


 覗き込むその瞳は真剣で、本気で物申したいという意思がたしかに伝わる。

 ごめん、ノンデリカシーすぎた、ごめん、怒りすぎ。

 コーニングスさんからは手越しに熱と怒りが沁み込んでくる。


「す、すみません」

「せめてお姉ちゃんだから!」


 彼女に怒られながら、僕は奥から歩いてきた看護師さんに呼ばれ立ち上がる。

 未だ手を握られている……手を握ったままついてくるのだけはやめてくれ。

 子供だと言っても小学生じゃないんだから。


「私はCT室の中には入れないから、もう一人で大丈夫よね」


 そう言って暖かな手が滑り良く離れた。

 いい感触だったな……ちょっと恐怖感もマシになった。


 人生初のCTは数分で終わり、結果も両名ともに異常なしであった。

 とくに大和さんは打撲すらなかった、さすがだ。


 コーニングスさんは支払いまでしてくれて、僕たちは車へと戻っていく。

 ようやく帰れる……。


「よかったなァ王雅、脳内出血してたら大変だったンだぜ? すぐに手術も出来ねぇし、結果的に後遺症が残る可能性がたけぇンだ。戦う時も気ぃつけろよ?」

「参加継続の意志あるじゃない……でも長内、その通りだからね? 気を付けるのよ」


 僕は末っ子のような気分で頷くことしかできなかった。

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