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第二十四節 これは恋か

 崩術指南の動画を完成させ、三日前に朝に大和さんへ送信した。

 追加で、今回の対戦相手が李国燕さんであり恩師であることを大和さんに相談しようと今日メッセージを送った。

 すると、またこの喫茶店に呼び出された。


 大和さんの行きつけの喫茶店。

 もう名前すら覚えた、喫茶クラブだ。

 看板には三つ葉のマークがあったから、倶楽部ではなくスートのクラブだろう。


 レンガ調の外観には、昼間の明かりに照らされるショーケースがくっついている。

 食品サンプルがいくつか並べられていて、全てが劣化して原型がわからぬほど溶けかかっているものもある。


 老朽化した木製ドアは開くにも閉じるにも苦労しそうだが割とスムーズな記憶だ。

 深い茶色は所々剥げ、黒ずんでいた。

 

 なんだって、大和さんはここを好んでいるのだろう。

 彼のような年齢ならもっと、チェーン店のカフェとか好きそうなものだが。


 彼との約束した時間よりも、二時間も早く着いてしまった。

 テンスさんが居なくなってからというもの、時間が長く感じる。

 独りぼっちはやっぱり寂しいものだ。

 一週間足らずで、僕はすっかり彼のいる生活に慣れていた……にしても早すぎたな、いてもたってもいられなかった。


 二時間、ずっと飲み食いするのもきつい。

 後でまた来るか。


 車のドアに手を伸ばした時、喫茶クラブの重そうな扉が開いた。

 私服姿の女の子が出てきた、お客さんだろう。


 落ち着いたちょっと明るい黒髪に、大きいが気弱そうな目。

 大和さんと年齢が近そうな、防寒具を羽織ったマフラー姿の女の子だ。


「あっ」


 目が合ってしまった、ああこの子、前にここに来た時に僕が見惚れてしまった店員ちゃんか。

 気まずいな、店に入らずに帰ろうとしている姿を見られるとは。

 不審者ではないぞ。


 彼女は驚いた表情から、すぐになにか思い立ったように小走りで近づいてきた。

 なんか走り方が独特でかわいい。


 いや待て、見惚れている場合ではない。

 不審者扱いされているかもしれない、本当に違うから。

 以前君のことは好色の目で見ていたが、見るのは犯罪じゃないだろ?


「いらっしゃいませ、あの何回か来てくれた方ですよね?」


 オフであろうに、いらっしゃいませか。

 真面目な子だ、かわいい。

 違う、ストーカー扱いされているかもしれない。


「え、はい……長内王雅と申します」


 僕はテンパってなぜだか自己紹介してしまった。

 これでは余計に不審者だ、まずいって。


「あ、長内さん、ご丁寧にありがとうございます。頼成(らんじょう)蘭世(らんぜ)と申します」


 彼女もなぜだか慌てながら自己紹介を返して頭を下げてきた。

 あまり怪しまれてはいないのだろうか、ただのご挨拶か?

 常連というほどは通っていないのだが、丁寧な子だなぁ。


「えっと、今日はお一人でいらっしゃったんですか?」


 弁明チャンスが来た。


「いえ、この後待ち合わせなんですけど早く着きすぎてしまって」

「あ、そうなんですね……待ち合わせ相手って……?」


 もしかして。

 もしかして僕のことが好きなのだろうか。

 こんな上目遣いで、緊張したように何度もまばたきをしながら。

 僕が女の子連れかをどうかを聞いた。

 これはもう。


「大和さんですよ、たぶん常連ですよね。あのやんちゃそうな少年です」

「そうなんですね! よかったぁ……」


 もう間違いない。

 絶対に僕のことが好きだ。

 真っ白な雪が降り積もっているのに、唐突に春が来た。

 僕の春だ。


「フッ……心配かけましたね」

「……? そうなんです、ちょっと心配してて」

「大丈夫ですよ、僕も常連になりますから」

「えっと? そうなんですか? ありがとうございます……?」


 僕は体を逸らして、頭に手を当てアンニュイな表情を作る。

 キュンとさせるにはどんな台詞がいいだろうか、困った子猫ちゃんですね、とかか?

 古臭すぎるだろうか。

 なにか、かっこよく機転の利いた台詞に使えるアイテムとかないか……? 車は相変わらず軽自動車だから格好よくないしな。


 悩んでいると、歩道になにかが小走りで通っていた。


 野良犬だろうか、いやなんか鼻が長いような……毛並みも犬といった感じではない。

 狸でもないし、アナグマか?


「初めて見たっ!」

「えっ?」


 彼女の反応に僕はハッとする。

 アンニュイでミステリアスなキャラ作りを忘れてはしゃいでしまった。

 でも、アナグマだかハクビシンだかわからないが初めて見た。

 この土地にそもそもいるんだかもわからない。

 レアすぎる。


 と思っていると、僕の声に気づいたのかアナグマは歩みを止めてこちらに視線を投げかけてきた。

 小走りでトタトタとこちらに向かってくる。


「な、なにを見ているんですか?」

「アナグマですよほら、珍しくないですか?」


 僕はアナグマを指差すと、彼女はその地点をジーッと見ていた。

 だが驚いたり好奇心の表情ではない、目を凝らすように見ている。

 目が悪いのだろうか、そんなところもかわいいよ。


「えっと……なにかいますか?」

「へ? ここにいるじゃないですか」


 アナグマは僕たちの足元にまで来て、こちらを見上げていた。

 これが見えないのはさすがに重度だ。


「小僧、ワシが見えるのか?」


 ……アナグマが喋った。

 こいつ、妖怪かよ。

 じゃあ頼成さんには見えなくて当然だ。


 ここで返事をすると彼女に怪しまれる。

 頭のおかしい奴だと思われる、せっかく初めての恋人ができそうだというのに。


「ア、アハハ、気のせいでした」

「ですよね、びっくりしました」


 妖怪は器用に二足歩行となり立ち、なにやら手を合わせている。

 な、なんだよ、もう行けよ。

 野良妖怪なんて日妖の捕獲対象だぞ。


「助けてくださいじゃ~!」


 なにを言い出すか思えば、助けてくれと来た。

 す、少なくとも今は無理だ。

 勘弁してくれ、そう思って気づかれないように手を振りながら、ウィンクを何度かした。


「助けてくださる!? 素晴らしいお人ですじゃ!」


 ち、違う、無理、無理だって。

 とにかくその場で待ってろ、頼成さんが帰ったら詳しい話を聞いてやるから。

 そう思って頭も痙攣させたように細かく振る。


「どうしたんですか?」

「あ、いや、ちょっと寒くて。すみませんね、また改めて来ますので」

「あ、そうですよね、呼び止めてごめんなさい」


 僕は逃げるように車に乗り込んで、ドアを閉めようとする。


「ひぃぃ! 来たですじゃ!」


 アナグマ妖怪はそう言うと、頼成さんの影がある場所に飛び込んだ。

 雪狐のように頭から地面に埋まったのかと思うが違う、影が波紋のように揺れて……頼成さんの影に入り込んだ。


 その瞬間、凄まじい暴風に刹那の吹雪が生まれる。

 車のドアがちぎれそうなほど反対側へ引っ張られる。


「ひゃあ!?」


 霧のような雪埃の中で、毛むくじゃらの大きな手が頼成さんを握り込んでいた。

 同じ毛むくじゃらの丸っこい胴体に、異様にでかいハゲ頭。三メートルは越していそうな巨人。


「ニオイ」


 悲鳴を上げた頼成さんをそいつは見つめたかと思うと、意味のわからない言葉で口元を歪ませながらその妖怪は跳躍し屋根に飛び乗った。

 足を滑りそうになりながら、少し軽い金属音を鳴らし登っていく。


 頼成さんが突然、攫われてしまった。


 あっちの妖怪は、知っている。

 キムナイヌ、という名だったはずだ。

 こっちの世界にいる場合は山奥に籠っている、煙草を好む妖怪だったな……どういう状況だこれは?


 僕は急いで車から降りて、開力の循環速度を上げる。

 体から透明な湯気のような揺らめきが生まれ、獣術を発動させる。


 とにかく追わなければ、よくわからんがその人は僕の恋人になる人だ。

 なにか、心の奥に芽生えたなにかをなぞるようにそう思った。


 僕も下半身に力を溜めて、バネのように跳躍する。

 ま、まずい高度が足りてない……!

 手を伸ばし、なんとか屋根に手だけを乗せてぶらんと僕は垂れる。

 全力で屋根に指を突き立て始めると、薄い物が割れるような感触を覚えた。


 指が屋根に突き刺さった。


「喫茶店のマスターさんごめんなさい!」


 言葉の勢いと共に僕は這い上がる。

 這いつくばったまま、天辺に登ってようやく立ち上がる。


 遠くに、屋根々を飛び跳ねて渡っていくキムナイヌさんが見えた。

 僕はもう一度、足を踏ん張って助走もなしに屋根へと飛ぶ。


 重力をあまり感じさせず、ふわりと僕の体は浮かんだ。

 月面をスキップしているようだ、その景色と感覚は感動的だった。

 だが、それよりも恐怖が勝った。


 冗談抜きに怖い、屋根に着地した瞬間に滑り落ちないように次の跳躍へと移る。

 恐怖に身が竦みながらも、目を閉じたくなる反射を抑えながらも、僕は飛ぶ。

 こんなぶっ飛んだパルクール、誰もやらねえよ!


「テンスさんっ!」


 ま、間違えた。頼成さんを助けにきたのに……いや、今はそれどころじゃない。

 歯を噛み締めて、何度も飛びながらキムナイヌさんを追った。

 民家と民家の距離感覚が段々と空いてきて、開けた空き地にキムナイヌさんは着地した。


 僕は一瞬立ち竦み、意を決して地面目掛けて落ちる。

 雪のクッションに沈み込んだ、すぐに出ようと手をつき藻掻くが、手が逆に沈む。

 支えを失っていて、下半身がずっぽりと埋まったまま出られない。


「ドコ、カクレタァ!」


 キムナイヌさんは頼成さんを上下に振った。

 逆さまにしたり服を千切ったりして、なにかを必死に探している。

 彼女はもう、意識はないようにただ為されるがままになっていた。


 人間をそんな風に扱ったら死んじゃうって!


「やめてください!」


 僕は藻掻いたまま声を荒げた。

 興奮気味に、デテコイ! と何度も叫ぶ彼の耳には入っていないようだった。

 僕は冷たい冷気を吸い込んで、喉の痛みを感じつつも腹に力を溜める。


「やめなさい! ハゲーッ!」


 その言葉に、ようやく毛に覆われた巨人は振り返った。

 覚えていてよかった、キムナイヌという妖怪はハゲ頭を揶揄されるのが一番嫌いだと。

 つぶらで真っ黒な瞳は僕に釘付けとなり、興味を失ったかのように頼成さんをポトリと落とした。


 巨人は鼓膜が震えるほどの咆哮をあげ、四足歩行をするかのように巨大な腕を叩きつけながらこちらに迫った。

 僕は抜け出すことも出来ないまま、頭を隠すように腕を構える。

 それしかできなかった。


 猛スピードで走る車に撥ねられたと思うほどの衝撃に体が吹っ飛ばされる。

 体は意志とは無関係に着地し、雪玉のように転がる。


 だというのに、痛みがあまりない。

 ただ衝撃があったな、と思うくらいだ。

 パワードスーツで戦っていた時を思い出すような感覚。


 すぐに僕は手をついて立ち上がり、崩衝(ほうしょう)の構えを取った。


「かかってきなさい、ハゲ頭!」


 注意を引き続けられるよう、挑発する。

 巨人は叫びながら、再び僕へ迫りくる。


 殴るつもりなのか、掴むつもりなのかもわからない腕が眼前に迫る。

 僕は地面を蹴って、空中で縦回転をしながら彼の背後に着地した。

 毛玉の塊のような背中に目掛けて、崩衝(ほうしょう)を放つ。


 その途中で視界に入った右手は、眩いばかりの緑色の輝きを放っていた。

 とんでもない量の崩力が手から引き出されていくのを感じる、日妖で暴れた時と同じ感覚だ。


 僕はそのまま、手を叩きつけて一瞬で手を引いた。


 なぜ崩力の出力がこんなに上がっているんだ。

 循環速度を上げているから、外へ流れ出す勢いが強すぎるのか。

 戦いづらい、殺さずに済ませたいというのに。


 それに、人間に崩衝(ほうしょう)を撃ち込んだ時と感覚が違った。

 一瞬とはいえ、ハッキリとわかるほどに。

 妖怪はどうやら特殊らしい、崩力が浸透しすぎる。

 からからのスポンジに水を流し込んだら、こうなるだろうという感覚だった。


 その刹那、毛玉がブレた。


「グッ……!?」


 違和感に動きを止めてしまっていた僕の体は音を立てて曲がる。

 回転際に腕を振り回され、それが当たってしまった。


 衝撃を吸収するように、振り抜ける瞬間に腕の進行方向へ自ら飛ぶ。

 全身スリッピング・アウェーだ、ギリギリ無事で済んだ。


 しかし距離が生まれてしまう。

 腕のリーチ差が圧倒的に違う、距離を取ると不利だ。


 裏拳のせいでよたよたと後ずさる足を止めて、僕はキムナイヌさんの動きに備える。


「オオォッ!」


 腕の横払い、それが来る。

 ちょうど最大射程で、拳が僕に当たるように。

 僕は敢えて懐へ飛び込む、インパクトの瞬間を早めて衝撃を殺す。

 なんとか肘の辺りまで体を潜り込ませ、腕と同じ方向に逃げながら横を取った。


 腰を捻って、上体を回転させる。

 右腕、肩、右胸、腰、足、全てを順番に、しかしほぼ同時に動かして渾身のパンチを叩き込む。


 吹っ飛ぶかと思われたが、奴は踏ん張りを効かせて持ち堪えた。

 振り切ったばかりの拳を引っ込める間もなく、僕は掴まれた。


 上へと持ち上げられ、さっき屋根から見た景色のように地面が遠くなって、急に迫った。


「カハ……ッ!」


 背中から地面に激突した。

 いくらなんでもダメージはあった、背中から伝わる衝撃で体中の臓器が圧迫された感覚に陥る。

 続けざまに、ハンマーを振り下ろすように拳が迫った。


 ぺしゃんこになった、そう思うしかない攻撃に悪寒が走る。

 体が地面に埋め込まれ、目玉が引っ込んでしまったような感触を覚えてしまう。


 それでも、癖のように、僕は仰向けに倒れたまま崩衝(ほうしょう)の構えを取った。


 また、元々巨大だった拳がさらに眼前で巨大化していく。

 迫る腕を避けようもなく、僕は押しつぶされる。

 しかし、毛むくじゃらの腕を僕は掴んだ。


「ほ、う……」


 言い切れもせずに、崩力を流し込んでいく。

 ありったけの崩力を、満ちた瞬間に中断できるように、痛みを意識から追い出して集中しながら。

 凄まじい勢いで満ちていく、氾濫した川の流れを思わせるように。


 満ち、反発した瞬間に手を引いた。


「……ッ!」


 どうだ、効いたのか?

 奴の動きは止まっている、だがゆっくりと動き始めた。

 力が抜けたように、倒れるように全身が迫りくる。


 これ以上は僕の体が持たない、一瞬でその思考が脳内を巡って僕は必死に横へ転がる。


 地雷でも埋まっていたかのような爆発が真横で起きる。


 たお、せた……。


 ゆっくりと立ち上がり、僕は動かないかを確認する。

 死んだかもわからない、妖怪は心臓や呼吸器官があるのかもわからない。

 大事なのはそれよりも頼成さんだ。


 僕は飛び込むように彼女の元へ駆け込んだ。

 目を瞑って仰向けに倒れている。


 着ていたボタン式の防寒具は真ん中から破けていて、胸元とお腹が見えていた。

 胸は持ち上げられるように上下に動いてはいる、つまり生きてはいる。


 ど、どうする?


 とにかく生きているにしても、このままでは体温が下がりすぎてしまう。


 彼女の肌なんて見ちゃいけないものだが、今はそれどころじゃない。

 僕は彼女の防寒具だけを動揺に震える手で脱がして、自分の使い込んだジャンパーを脱ぎ、もたつきながらもそれを着させた。


 彼女が元々着ていた防寒具を被せて、持ち上げる。

 キムナイヌさんが生きていたら、さっさと逃げないとまずい。


 考えなしに僕は走った。

 彼女を抱えたまま、歩道を全力で走った。


「ど、ど、どうしよう……」


 軽く頭がパニックを起こしている自覚はある、でもまったく落ち着けない。

 安全な場所で目を覚ましたとしても、これじゃ僕が襲ったとしか思えないだろう。

 そもそも、今呼吸をしていても重症な可能性だってある。


「救急車を呼んだらどうですじゃ!?」


 抱えた頼成さんの影から、アナグマ妖怪が顔だけ出していた。

 こ、こいつのせいでとんでもないことになってしまった。

 でも救急車か、そうだよな、それしかないよな。


 僕は歩道脇の雪山に彼女を優しく立てかけて、スマホを取り出す。

 手が、手が震えてうまく打ち込めない。

 はやく、はやくしないと。


 深呼吸しながら僕は救急に電話する。

 道端で倒れている人がいたと嘘をつき、道路情報板を見て場所を言った。

 年齢を聞かれ、おそらく十六歳くらいと伝える。


 すると、電話対応の人はすぐに向かうと言ってくれた。


 いたほうがいいのか、逃げたほうがいいのか。

 でも救急隊が来る前に誰かに彼女を見られたら、緊急通報が重複するかもしれない。

 悪い人だったら連れ去ってしまうかもしれない。

 そ、そうだ、物陰から隠れて見ておこう。


 僕は民家の側面に隠れると、アナグマ妖怪もついてきた。


「巻き込んでしまってすみませんじゃ」

「な、なんで彼女を巻き込んだんです!?」


 ほぼ全部お前のせいだぞ!?


「キ、キムナイヌから逃げておる途中で、もうあの女子(おなご)の影に隠れるしかなかったんですじゃ!」

「車の影とかでいいでしょう!?」

「やり過ごせると思ったんですじゃ! まさかバレるとは!」


 言い訳にならねえよそれは!

 一般人を人質に取るのとなにが違うんだ。

 ……とは思うが、僕が日妖でしたことを思えばそう糾弾する資格はない。

 結果的に意図して無関係の人間を傷つけた僕に言えることではない、な。


「にしたって、でも、大体なんで追われてたんです」

「ワシは山奥に住んでおって、この冬ですじゃ、なにも食べるものがなくて……」


 アナグマ妖怪は、動物だというのに存在しない眉を落としてショボショボと落ち込む。

 じゃあ冬眠しろよ。

 そうやって過ごすんだよ、動物の冬は。


「そこでようやく木の実の山を見つけたですじゃ……リスが隠したものかと思っていたのに、キムナイヌの食料だったのですじゃ」


 まあ、まあ……わからない話でもない。

 こんなことになるとは思わなかったと、人は過ちを犯すことがある。

 僕が典型だ。

 でも、だからといって過ちは過ちだ。

 僕はしょうがないからと言って、自分が許されるとは思っていない。


「でも、日妖に相談すればよかったんじゃないですか? 捕獲はされても悪いことしてなかったら殺されはしないでしょう? ましてや自首に近い形ですし」

「最近なにやら日妖で暴れた傑物がおったらしく、その対応で忙しいと断られ門前払いされたんですじゃ!」


 ……僕のことじゃないか、それ。

 じゃあ、巡り巡って、僕の責任でもあるということ?

 最近、こんなのばっかだ。

 なにもしないほうがみんなの為なのではないだろうか、とすら思う。


 自己嫌悪に沈み込みそうになっていると、救急車のサイレン音が聞こえてきた。

 すぐに近くで救急車は止まり、頼成さんを発見した。

 なにかやり取りをしている様子だ、起こしたのか? 頼成さんは意識を取り戻せたのだろうか。

 救急隊員が彼女を担架へと乗せ、救急車へと運んだ。


 去り行く救急車を見届け、僕は一息つく。


 あ……大和さん。

 彼との待ち合わせ時間に遅れるかもしれない。

 そう思い、僕は通りへ出た。


「待ってくださいですじゃ!」

「なんですか? これ以上なんか用事があるんですか?」

「なにかお礼をさせてほしいですじゃ!」


 いや、僕のせいでもある問題を解決するのは当然の義務だろう。

 お礼なんていらない、でも彼の責任がないわけでもないから微妙なところすぎる。


「その日妖で暴れたっての、僕なんです。それはごめんなさい! じゃ!」


 頭を下げて、謝り僕は走り出した。


 上着を頼成さんに着させてしまった上に、びっしょりと汗をかいてしまっていた。

 突き刺さるほどの寒さに身が凍えた。もう一度走って体を温めるしかない。


 喫茶店を目指しながら走っていると、後ろからサクサクという足音が追従している。

 絶対アナグマ妖怪だ、これ以上なんの用なんだ。


「なんで追いかけてくるんですか!?」

「日妖に一泡吹かせた御仁、ここで放っておくのは勿体ないですじゃ!」


 なんなんだよ、もう!

 僕は獣術をさせ、開力と走力の速度を上げる。

 すると、僕の影に飛び込みやがった。


 僕はもう、諦めて笑うしかなかった。

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