第十五節 みんなの絶望
片側二車線の広い道路を疾走する。
僕はシートベルトを締め直し、両手でハンドルを握って車を走らせているが距離が縮まらない。
白いファミリーカー、あんなデカいのに速いな。逆に僕の車が軽自動車だから遅いのか?
少しずつ距離が離されるが、前には赤信号が見える。
これで追いつける、追いついたら……どうしよう、前に停めて道を塞いでしまおうか。
ファミリーカーは赤く照らされながら、一切スピードを緩めず赤信号の元へ飛び出した。
そりゃ、女の子攫うくらいだから信号無視くらいするか!
僕も意を決するが、ただアクセルを踏んでいたままだ。
なにかに引っ張られるかのように、後ろから押されるかのように。
「なんなんだよ、アイツらァ!」
大江戸さんの声に誰も答えない。
僕は運転で手一杯だ、全神経を集中している。
信号無視も生まれて初めてだ、左右に視線を振りながら少しずつ距離を離されるファミリーカーに焦燥する。
預言者さんどこいった? なぜこんな時に限っていないんだ!
運悪くファミリーカーが通過した後に、信号が赤になった。
一度やっちまったんだ、二度目も三度目も変わらないだろ。
「長内、横から来てんぞォッ!」
「はいっ!」
真横に大型トラックがいた、あり得ないくらい巨大に見える。
視界が真っ黄色になるほどの光量に目を細めながら、息を止めて駆け抜けようとする。
音が二重になっているような重低音が耳から頭へ侵入した。
間一髪、ギリギリのところで僕たちは駆け抜けて事なきを得る。
「あッぶねぇ」
さっきのクラクションの音が頭から離れず、心臓の動悸も相まってうるさい。
ファミリーカーが曲がった、どんどん人通りの少ないほうへ向かっている。
支所の方面だ、この道は知っている。
僕は何度かブレーキを踏んで、スピードを調整しながら曲道へ侵入する。
緩やかなカーブを進んだ先に、踏切の遮断機が下りようとしていた。
一瞬の間に、もう向こうは踏切を渡って走っている。
息をつく暇もなく、踏切に踏みこむ。
わずかな浮遊感を覚え、すぐに衝撃が襲ってきた。
車はわずかに跳ねながら、遮断機の棒に当たるか当たらないかのギリギリで駆け抜けた。
雪の冠を身に着けた木々たちの間を車が走る。
直線だとスペック差なのか追いつけないし、僕は運転がそう上手くはない。
このままじゃ事故るのも時間の問題だ。
「お、おいおいッ!?」
一瞬、大江戸さんがなにに慌てているのかわからなかった。
だがすぐに思い知った。
眩いライトに車内が照られ、後方にビタビタにつけられている。
その光の奥から垣間見えるのは、青く古臭いスポーツクーペだ。
いつの間にくっつかれたんだ。
状況から考えて増援だろう。
不愉快な唸りが木霊している、マフラーの芯抜いてるのか?
ならばヤクザとかではなく暴走族か? たかがチンピラならやりようはありそうだ。
「ひっ!」
斜め後ろに移動したクーペが車体に小突いてきた。
一瞬グリップを失いかけ、制御を失いかける。
今度は大きく車幅を取ってから──ぶつかられた。
もうどうにもならない程にグリップを失い、ファミリーカーのテールランプが何度も右から左へと流れた。
スピンしてる、見える景色がもうなんなんだかわからない。
すぐには止まらず、何度も脳をシェイクされている気分に陥る。
「う──っ!?」
「クッ!」
音が飛んだ世界に、全身が吹き飛ばされるような感覚が走った。
真正面はなにも見えない、白いのに黒い。
「う、うばい、ますっ!」
全身の痛みに耐えながら、シートベルトを外して勢いよく鍵を引き抜く。
転がり落ちるように外に這い出ると、二人の男がスポーツクーペから出てきた。
タッパのある二人で、運転席から出てきたほうは短髪のいかつい顔をしていた。
滑りそうになりながら僕は立ち上がり、崩衝の構えを取った瞬間、横から黒い影が過ぎ去った。
僕は運転席の男だ。
「おまッ!」
なにかを言いかけた男だが、迫る僕に口を噤んで構えを取った。
振り下ろされる拳を掴もうとするが、腕を掴んでしまった。
あまりの力に体ごと持っていかれ、倒れ込む。
僕に引っ張られる形で男も倒れ込むが、崩衝を注ぎ込み続けた。
まずい、あまりに必死すぎて崩力量の調節をしていなかった、殺してしまうっ!
慌てて僕は手を引いて、力なくのしかかっている男を避ける。
「長内、大丈夫か!?」
大江戸さんのほうは片付いていたようだ、こういうの本当に敵わない。
僕は返事をしながら、力いっぱい男をひっくり返して懐を弄る。
あった、スマホだ。
「大江戸さん、倒した男からスマホは奪っておいてください!」
遠隔で僕の車をドアロックし、アイドリングしているスポーツクーペに乗り込む。
車高の低さに驚きながらも、シートベルトを締めてシフトレバーを手探りで探した。
これか? 恐らくそうだ。
見つけると同時にドライブに入れ、大江戸さんが乗り込んできた。
ここら辺は一本道だ、まだ追いつけるはずだ。
アクセルを踏むと、とてつもない違和感を覚えた。
なんとも形容しがたい感覚だ、軽自動車しか運転してこなかったから感覚が変だ。
滑り出しはスムーズだがペダルの位置が遠い。
「オメェ、冴えてンな」
「でしょう」
「にしても、こんなんばっかだよなァ俺ら」
その言葉に僕は苦笑を漏らしそうになりながら、集中しアクセルを吹かせる。
あまりの騒音に眉間に力が入りつつも進むとファミリーカーが見えた。
こちらがバックミラーで見えたであろう頃、急にファミリーカーはスピードを落とした。
止まるかと一瞬思ったが、止まらない。
仲間が僕たちを片づけたと誤解したか?
こういう事態になった時、連絡され車が奪われたと気づかれない為にスマホを奪っておいたんだ。
よし、こうなればいつでも仕掛けられる。
「どうしますか、タックルでもして止めますか?」
「中にいる陽葵が危ねぇ、あいつらが停まるまで追いかけンぞ」
「了解」
つかず離れずの距離で走行する。
すると赤信号が見えた。
また無視するかと思ったが今度は停まっている。
あ、バックミラーで顔を見られるかも。
咄嗟に僕はハイビームを焚きながら、車間距離を開けて停まる。
リアガラスから、手が伸びた。
もがくように陽葵さんの姿がハイビームに照らされる、そして男たちに抑え込まれてまた見えなくなった。
「アイツらァ……殺してやる……!」
落ち着けと言う気にもなれない。
僕も腸が煮えくり返ってきた。
今すぐ飛び出して殴り込みたいが、それで逃げられたら。
もどかしい、あいつらは畜生だ。
信号が切り替わり、ゆっくり車は走り出す。
距離を取ったまま追うが、何度か暴れる陽葵さんが見える度に胸が張り裂けそうになる。
このままでは手遅れになりはしないか、能力の発動が起こるのではないか。
はやく、今すぐ助け出したい。そうは思うが具体案が思い浮かばない。
正直、キレる寸前だった。
ハンドルが軋むほど、力が入っている。
白いファミリーカーが行きついたのは、高い塀に囲われた一軒家だった。
端には黒い車がいくつも並んでいる。
奴らが玄関の前で停車したのを見て、僕はシートベルトを外しながら車を停めた。
「行きます」
「あァ!」
同時に駆け出すと、運転席からさっき見た面の男が降りてきた。
何度も、何度も練習してきた崩衝の構えを取ってそのまま駆け寄る。
「な、なんでお前らがっ!? その光は!?」
陳腐な言葉を吐き出す男は仰け反っていた。
無抵抗? 隙を見せてる、罠か?
もうだめだ、止まらない。
男の痩せた胸に手が当たる。
ぐっと押す力と同時に崩力が注がれていき、手から暖かさが移動していくのを感じる。
悲鳴を上げる男だが、徐々にその声は弱まっていき、膝から倒れた。
大丈夫だ、反発する前に止めたから死ぬほどではないだろう。
助手席側からは鈍い音が連続して聞こえる。
一人の男が宙を舞って、吹き飛ばされていく。
車のフロントを伝って大江戸さんへ加勢しようと動くが、玄関の重々しいドアが開いたのが見えた。
ワイシャツ姿の男が二人と目が合う。
なにかを話した後、うち一人が引っ込んで消える。
また反社かよ、いい加減うんざりだな。
この戦いが終わったら、反社ハンターでも名乗ろうか。
「大江戸さん、敵の加勢が来ます!」
「おォ! 陽葵ちょっと待ってろよォ!」
静かな夜空に溶ける声、すぐに粉を押し潰したような足音を鳴らしながら大江戸さんが並んだ。
ジャンパーを羽織った男たちがぞろぞろと出てくる。
六人ほどだ。
うち五人はドスを持っているが、一人だけ刀を持っている。
その中央に、スーツを着た男が居た。
中年の男だ、神経質そうな面をしている。
「どこの組のもんだお前ら、ここがどこだかわかっとんのか!?」
こういう奴をヤクザ用語でなんというのだろうか、組長か?
お誂え向きにポケットに手を突っ込んだ組長が吠える。
「ゴミ掃除しに来てやったんだよォ、文句あンのかァ!?」
ヤクザ相手に大江戸さんは凄む。
僕も大概興奮状態だが、そこまでは言えない。
「あぁ!? よくうちの下っ端かわいがってくれたなぁ!?」
「ハッ、本当にかわいいもんだったぜェ?」
「ナメてんじゃねぇぞガキがァ!」
挑発の応酬。
相手は獲物持ちだ、しかも数が多い。
油断は出来ない、途中で銃が出てくることは予め想定しておく。
一人倒したら、銃を奪おう。
「殺れ!」
組長の声に手下であろう男たちがじりじりと近寄ったかと思うと、突然走ってきた。
三人が大江戸さんへ、僕のほうにはドス男の一人と刀を持った男が来た。
ドスを持った男が、突進するように先行してくる。
接触する前に崩衝を完成させ、右手に温存したまま僕は迎え撃つ。
輝くことすらない雪景色と同化するドスが振り下ろされ、僕は数歩後ろに引きながら避ける。
手をひねりながら今度は上へ、避けるので手一杯だ。懐に入り込めない。
だというのに。愚かにも腰だめにドスを構えて、体当たりをしにきた。
僕は両手を突き立てて、前傾姿勢になりながら男の肩を掴んで後ずさる。
このまま僕が転ぶか、壁にでもぶつかれば行けると思っているんだろう。
勝利を確信したようなうすら笑いに釣られて、僕の口もチェシャ猫のように裂けていく。
突進力が消えていき、僕にもたれかかるように倒れていく。
僕は手元からドスを引き抜いて、男を横になぎ倒した。
崩衝の威力もだいぶ高まってきた。即効性もあるしさっき撃った運転手もまだ起き上がってこない。
当たれば必殺だが、当てるまでが難しい。
奥からゆっくりと刀の男が歩いてくる。懐から銃を探す暇はなさそうだ。
今度はドス男のような自らリーチを殺すような真似もしないだろう、というか刀ではしようがない。
だが策はある。
僕は左手にドスを構えたまま、奴が距離を詰めた分だけ距離を引く。
眉を潜めた男は刀を上段に構えたまま走ってくるが、僕も振り返って走った。
ギュムギュムという雪を踏む音が重なる、それがズレた瞬間僕は体をねじって後ろを見る。
奴は歩みを止めて大江戸さんの方向に行こうとした、その瞬間に距離をじりじりと寄せる。
わざと足音を大きくならして気づかせ、こちらに振り向いたら僕は歩みを止める。
一生これを繰り返してやるよ、大江戸さんのほうが片付くまでな。
大江戸さんはまず負けない、ゲノム強化剤同士の戦いの経験者だ。
武器を持った一般人くらいなら余裕だろう、僕は二体一になるまでこいつの足止めをすればいい。
しかし、銃声の一つも聞こえず男の低い悲鳴と拳の音しか聞こえてこない。
なぜ銃を使わない? 反社なのに。
また男が近寄ってきた分だけ僕は逃げる。
「やっちゃってください!」
「なにっ!?」
奴の後ろに視線を移し、真剣な表情で僕は言う。
当然奴は振り返るが、なにも居やしない。
僕はその瞬間に駆け出して、さっき手に入れたスマホを投げつける。
どうだ僕のスパイスは、もどかしくてイライラするだろ。
まともに戦うもんか、僕は大江戸さんのような治癒力はないんだ。
刀で斬られたら終わりだ、やってられるかパワードスーツもなしで。
異世界の騎士よりもこいつは何倍も弱い、だからといって僕が無事で済む保証にはならない。
頃合いだと、思った。
「大江戸さん!」
僕は崩衝の構えを取りながら、また男から視線を後ろに背けてその名を呼ぶ。
もう奴は振り返りすらしなかった。
しかし後ろに大江戸さんは居た。
「どりゃァ!」
勢いよく跳躍し、ドロップキックをかました。
男は刀から手を離して、こちらに吹き飛んでくる。
滑り込むように僕は受け止めて、崩衝を撃ち込みながら倒れる。
男の筋肉が和らいでいくのを感じる、よし。
「全部やりましたか!?」
「あァ、出てきた分は全員やったはずだァ! 俺ァ家の中見てくるから陽葵を頼む!」
「了解です!」
僕は立ち上がって、ファミリーカーへと走った。
後ろのドアは開きっぱなしになっていた。
「……っ!」
陽葵さんは、頭を抱えて蹲っていた。
腕の隙間から覗く顔は赤と紫色が滲んでいて、片目が開いていない。
服装もぐちゃぐちゃに乱れていて、声にもならない泣き声を発している。
「助けにきました、もう大丈夫です」
そう声を掛けるが、真っ赤に充血した瞳は震えている。
「こ、来ないでぇ! ごめんなさいぃっ!」
悲鳴を上げるように更に身を縮こまらせる。
僕は近づくことも躊躇するが、せめて上着くらいは貸してあげたい。
ジャンパーを渡そうと思って、脱ごうとする。
「きゃああああああああぁぁっ!」
襲われると思ったのか、彼女は劈く悲鳴を上げた。
軽率だった、怖がらせてしまった。
ショックと申し訳なさで凍り付いたように体が固まると、急に肩を強い力で握られた。
そのまま、振るい落とされるように引っ張られて僕はよろめく。
預言者さんだ、彼女が車内にするりと入り込んだ。
やられた、ここまでやったのに陽葵さんが殺される。
騙された、ふざけるな、そう思って僕は手を伸ばした。
しかし、イメージしていた映像と見えていた視点は異なっていた。
預言者さんは、優しく陽葵さんを抱きしめていた。
まるで母親のように、姉のように。
「大丈夫だよ、もう大丈夫」
何度も優しげに声をかけ、背中をさする。
陽葵さんの震えが、次第に収まっていく。
「危なかったねぇ王雅くん、もう少しでボンッ。だったよ?」
伝送爆弾が発動しかけていたのか……。
でも、いいところだけ取られた。
こいつ、なんもしてない癖に。
「ちょっとは助けてくれてもよかったんじゃないですか?」
「預言者の名に誓ったろう? なに一つ手出ししない、ってさ」
そうとはいえ……こいつがもっとはやく動いていたら、陽葵さんはここまで暴力を振るわれなかったはずだ。
優しく見えるが違う。
それに発動の兆候があったら殺すと言っていたのに、殺していない。
どう捉えればいいんだ、まるで蜃気楼だ。
「だけどまだ──登場が早すぎたかもしれないね」
彼女はそう言いながら、陽葵さんの目を塞いだ。
預言者さんのその視線。
その刹那。
僕は勢いよく後ろを振り返った瞬間、刀が振りかぶられていた。
思わず右手を掲げて防御するが、冷たく薄い刃がするりと侵入し。
僕の腕の中にある硬いなにかを断ち切ったのを感じた。
上半身も斜めに刃が入り込み、いとも簡単に僕は切り裂かれた。
ファミリーカーの運転手の男だ……崩衝が甘かったのか。
息が漏れたような、中途半端な喘ぎが喉から洩れる。
手袋でも落としたかのように、簡単に腕が地面に転がった。
次の瞬間、痺れ。なぜだか痛みはまったくない。
ただジーンっと微振動するような痺れしか感じない。
次にまた刀がまた持ち上がった。
あ、死ぬんだ。
ぽつりとそう思った。
「お、長内ィィィ!」
声が近づいてくる。
刀を構えた男と大江戸さんが入れ替わった。
殴り飛ばしたのか。
「お、おい! 長内!」
いや、この出血じゃどっちみち死ぬのか。
なんだか喉が渇いた。
「長内、こっちを見ろ! 長内! 王雅ァ!」
「あ、ああ……大江戸さん」
なぜだろう、悲しくもなければむなしくもない。
少しばかりの恐怖だけ、それ以外はなにも感じない。
ただ、右腕と体が痺れ、喉が渇いただけだ。
「ま、もう大体終わったからいっか」
バチンと空虚な音が後ろから響く。
あっという間に視界が真っ白に染まった。
「な、ンだァ!?」
すぐにいつものリビングが見えた。
ああ? 死んだのか?
いつものリビングなのに、なぜだか懐かしい。
お父さんが、居るのか?
そう思ったが、黒いローブに仮面を身にまとった人が現れた。
なんでこいつなんだ?
「王雅くんが先で、この子は次」
「わかりました」
二人とも平坦な抑揚のない声で会話をしている。
テンスさんが僕の前で膝をつき、両手を掲げた。
僕は、天国に来てしまった。
死んでしまったんだ。
そう思うしかなかった。
テンスさんの背には、光り輝く翼が現れていた。
光だけで構築されたような、星々が連なる、あるいは基盤模様にも見える大きな翼が。
彼は天使だったのだ。
すぐに全身が光に包まれた。
安らかな感覚だ、死ぬとはこんな感じなのか。
まるで全身が暖かい湯に浸かっているようで痺れも消えた。
彼は立ち上がり、僕の後ろを歩いていった。
「お、オメェ……腕治ってんじゃねぇか」
「へ?」
斜め上から大江戸さんがこちらを覗き込んでいた。
僕は死んだのだから、そりゃ腕は治っていても当たり前だろう。
「はァァ……どうなるかと思ったぜ」
というか、なぜ彼らが天国にいるのだろう。
もしかしてここは現実なのか?
立ち上がってみると、預言者さんに抱えられた陽葵さんは光に包まれていた。
テンスさんが手を掲げている、眩い翼を羽ばたかせたままに。
「あの、大江戸さん」
「なんだ?」
「僕、生きてます?」
「あァ、俺もワケがわからねぇけどなァ」
そう言って大江戸さんは僕の隣へと座った。
そ、そっか、生きてるのか。
「大して関係もねぇのに、こんなに手ぇ貸してくれて……あンがとな、王雅」
「ふふ……ついにダチ認定ですか?」
僕は夢か現かもはっきりとわからないまま、笑ってみた。
そうするとなぜだか、ここは現実なのだと思えてくる。
「たりめぇだろ、俺のことも大和って呼べよなァ。あとその寒みぃ敬語もそろそろやめろや」
「敬語はやめませんよ、大和さん」
右手をグーパーさせながら、僕はそう呼んでみる。
あ、僕の車。
放置しっぱなしだ。




