ノート
路地を抜けた先に、小さな児童公園があった。
かつて子どもたちの笑い声で賑わっていたはずの場所。
だが今は雑草が伸び放題で、遊具は錆び、砂場には雨水がたまっている。
その片隅に、色あせたノートが落ちていた。
表紙にはシールが貼られている。
――ウサギと花のシール。
翔太の心臓が跳ねた。
「これ……結菜の……」
手に取ると、幼い文字で名前が書かれていた。
「さとう ゆいな」
指先が震え、ページをめくる。
そこには、たどたどしいひらがなで綴られた言葉が並んでいた。
――「きょうは ママとパンをたべた」
――「パパに あいたい」
ページの最後には、滲んだインクが残っている。
雨に濡れたのか、それとも涙の跡か。
翔太は膝から崩れ落ちた。
胸ポケットからスマホを取り出し、待受画面に映る笑顔と、ノートの文字を見比べる。
同じ笑顔。同じ名前。
だが、ここにあるのは“過去の断片”だった。
「結菜……お前……」
声が掠れ、言葉にならない。
冷たい風が頬を撫でる。
まるで誰かが背後で囁いたかのように。
その時、再び視界の端で影が揺れた。
翔太は顔を上げた。
公園の出口に、人影が立っていた。
それは、じっとこちらを見ている。
逃げるでもなく、近づくでもなく。
ただ無言で。
翔太は思わず叫んだ。
「待ってくれ! 俺の家族を……知ってるのか!?」
しかし返事はない。
影はすぐに踵を返し、路地の奥へ消えていった。
翔太は追おうとしたが、足がすくんで動けなかった。
膝の上には、結菜のノートが握りしめられている。




