第1話「となりの澪」
登場人物
•山田 透:主人公。内向的で少し不器用。空気を読むのがうまく、周囲と衝突せずに距離をとるタイプ。中学時代にある出来事で友人関係に悩んでいた。
•吉岡 澪:ヒロイン。感情をあまり表に出さず、周囲とも壁を作っている。家庭の事情を抱えており、常に「居場所」を探しているような雰囲気。
•三井 拓海:透の唯一の友達。明るくムードメーカー気質。透が他人と関わる勇気を出すきっかけをくれる存在。
四月。桜の花びらが風に流れて、グラウンドの隅に集まっている。
入学式が終わり、俺は新しい教室の窓際の席に腰を下ろしていた。
名前は山田透。中学のころ、色々あってあまり人と関わるのが得意じゃない。
高校では静かにやっていこうと思っていた。無理して誰かと話すこともない。ただ時間が流れてくれればそれでいい。そう思っていた——
「……吉岡 澪さん、次、ここね」
担任の声とともに、俺の隣の席にひとりの女子が座った。
髪は長めで、前髪がやや目にかかっている。
制服はちゃんと着ているけど、どこか無造作。
俺の方を見ないまま、静かに椅子を引いた。
最初に感じたのは、“壁”だった。
話しかけるな、と言われているような、無言のバリア。
でもなぜか、気になった。
いや、気にしないふりをする方が、難しかった。
***
ホームルームが終わり、教室がざわついている。
周囲のやつらは早速グループを作って、話して、笑ってる。
俺はノートを取り出して予定を整理していた。
すると、ふと隣の席から紙の音が聞こえた。
ちら、と視線を向けると、澪が何かを折っている。
(……折り紙?)
いや、ただのルーズリーフだった。
くしゃくしゃになりかけた紙を、丁寧に正方形に折り直している。
やがてそれは、小さな鶴の形になった。
「……上手だね」
自分でも驚いた。声をかけるつもりはなかったのに。
でも澪は顔を上げず、小さく「……ありがとう」とだけ言った。
それだけの会話だった。でも、俺の中では何かが確かに動いた。
静かな春の午後、机の上に並ぶ教科書の隣に、
小さな鶴が、一羽、羽を休めていた。
最後までありがとうございました。