表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の鎖  作者: りさん
2/2

秘められた力

主人公は強くなります。

「こんにちは。」


 振り絞った涼しい声はよく響いた。


 必死に地面を掘る少年の肩がドクンと鼓動した。反射的に向けられた顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。


「ごんにぢわ!」

 

 ひどい声だ。


 その幼い体は未知なる恐怖、不安、悲しみに押しつぶされ、やっとのことで振り絞った一言だったのだろう。


 私は全て知っている。ここで泣いている少年のことも、もう起き上がることのない骸となっている女性も。そして、なぜこの村が虐殺されなくてはいけなくなったのかも。


 「ごめんなさい。」


 随分と乾いた声が出た。いや、漏れ出たというのが正しいだろうか。私ははこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。この惨状を生み出したのは自分なのか。母を殺されてなお誰とも知らぬ自分が挨拶をすると恐怖を噛み殺し挨拶を返してきた。まだ若いエルゼスにとってこの光景はあまりにも惨すぎた。


 一歩後ずさる。


 しかし、この惨状に蓋をし逃げ出すことはなかった。アイシャとの絆がこの不条理に抗う勇気を与えたのだ。


「手伝ってもいいかしら。」


そう言うと少年は青ざめた顔をしたまま頷いた。

 

「ママを埋めるのはここでいいの?」


 こくりと頷く。


「わかったわ、少し離れていて。」


 魔術を起動する。目視で大体の目星をつけ、土を除ける。そこにアイシャをゆっくりと下ろす。


「何か一緒に埋めるものはない?」


 そう聞いて答えを待っていると、少年の目尻から涙が再び滲み出す。何かを口に出そうとするが、溢れ出す感情に飲み込まれる。


「...ぁくて。」


 少年の傍にしゃがみ込み優しく肩に手を置く。


「大丈夫。ゆっくりでいいんだ。」

 

 こくりと頷く。


「父さんがいなくてッ。」


 ッ!、当たり前のことだ。こんな幼い子に父がいないはずがない。アイシャも言っていただろう。


 すると、少年の目からまた涙が溢れ出す。


 だが、狼狽えるわけにはいかないのだ。私が背負わなければ。この子がこの理不尽を、悲しみを、怒りを、乗り越えるまでは。



◼️◼️◼️


 しばらく二人で歩き回り、村の入り口付近で動かなくなっている少年の父を発見した。涙を残し、駆け出した少年の後に続く。


 この場所だと初めにやられたのはこの子の父親かもしれない。


 少年が落ち着くまだ待ち、エンチャントを起動して運んだ。アイシャの横にもう一人分のスペースを作りゆっくりと下す。

 すると、少年は震えるてで持っていた花を真ん中に置いた。白く綺麗な花だ。その花は魔族量にも咲いているのを見たことがあった。葉はなく茎に花だけが咲く。


 ラタム、花言葉は信頼。葉は花が咲くと役目を終えたように落ちてゆく。


 少年は知ってのことなのか道中他の花には目もくれずこの花だけを集めていた。


 

 愛車の亡骸まで戻ってきて、墓石を建てようと魔力を込めた。しかし少年の名も、父の名も聞いていなかったことに気づく。


「そういえば少年、名前はなんで言うんだい?」


 眠る二人を見つめていた目がくるりとこちらを向く。


「僕はユリール。父さんはグラダム」


 父の名までは聞いていなかったのだかな、聡明な子だ。魔力を集め砂を石に、石をさらに圧縮して結晶にしてゆく。


 私を中心に魔力波が波打つ。

魔力の波で周囲の軽いものがカタカタと揺れる。


「...。」


 この魔力の中少年は瞬きひとつせずに墓石の誕生を見つめていた。


 石が大きくなり、熱を持って赤く光っていたが温度が下がり緑と白の結晶となる。


 やがて四角い柱となり地面に突き立った。そこにアイシャ、グラダム眠る。と文字が浮かび上がる。


「ユリール、私の手を握れるかい。君の魔力も混ぜておこうと思うんだ。」


 こくりと頷くと右手を差し出した。


 私の手と少年の手が近づくにつれ周囲に風が吹き荒れ始めた。普通こんなことは起こらない。何かが起きている。


 異変を感じ手を引こうかと思ったその時。


(ゴウッ)


 少年の手と触れ合い、その瞬間一際大きい風が巻き起こる。


「なんて魔力量なんだ!」


 咄嗟に声が出た。少年の体からはほんのりと魔力を感じるだけなのだが流れ込んでくる魔力は異常だ。


 流れ込む魔力が私の体の限界に達するその時。


(ドゴンッ)


 赤黒い稲妻が目の前に降り注いだ。


 ...



...



 巻き上がった砂から目を守っていた手を離す。

 


 ふらりと握り合っていた手が離れる。


「大丈夫か!」


咄嗟に左手で抱き抱え、地に頭をつけることは無かった。


 「ラザルズ...。」


 二人の名の上にそう刻まれていた。


 私は知っている。


 それはかつて魔族を率いた英雄の名だ。

感想いただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ