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復讐の鎖  作者: りさん
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別れと出会い

ゲーム制作のシナリオ作りです。

「ユリールお母さんちょっと用事あるから留守番お願いね。昼ごはんまでには戻るから、誰か来たらそう伝えておいて。」


 母はそう言ってバタバタと慌ただしく玄関から出ていった。


「わかったよー。」


 ここは田舎の村で母の仕事といえば家事や僕の世話、父の手伝いくらいしか思い浮かばないが、最近は朝になると慌ただしく何処かへ出掛けていく。それもおそらくお弁当を持って。

 父はすでに出掛けている時間なので、変だなぁと思っているのは僕だけなのだろう。母さんが悪いことしているはずもないので父に言ったりはしない。それに、決まって昼にはちゃんと帰ってくるのだ、なんら問題ない。

 誰もいない家で今日も僕は家に置いてある唯一の本を読む。『勇者の冒険章』この本は父が昔、魔物討伐の功を受けた時に、貰ってきたそうだ。この本のおかげで近所では一番文字の読み書きが上手だ。


 『勇者は様々な試練を乗り越えて仲間と共に悪き魔王を打ち倒す。そして世界は平和になり人々は豊かに暮らす。』

 

 いつか勇者みたいにみんなを助けられるそんな人になりたい。この本を読むたびに僕の胸の中は希望に膨らむ。

 本を一通り読み終えると日課にしている魔力トレーニングをする。これはまだ秘密にしていて誰にも言っていない。周りには魔力を使える人なんていないしバレると怒られてしまうかもしれない。下手したら貴族様を怒らせてしまうかもしれないからね。

 だって本にはこう書いてある。


『貴族は魔力を持ち人々を守るために立ち上がる。』


 魔物が襲ってき時も貴族様が助けに来てくれることになっている。父さんがそう言っていた。だから僕はこっそりと魔力を楽しむことにしたんだ。

 コップに水を汲んで、両手で包むようにコップを持つ。水の中に手のひらから魔力を流す。

 すると水がわずかに光る。これをすると少し疲れるけど最近は倒れなくなった。前はこれをしたら倒れてよく心配された。


 限界まで水に魔力を込めたら、その水を飲む。これが美味しいんだ。


◼️


「エルゼス起きてる?」


 ドアをノックしながら問いかける。


「起てるよ。アイシャさんいつもありがとうございます。」


 ドアを内側から開き美しい青髪の女が顔を出す。その頬には布が貼られており赤黒く乾いている。


「怪我の具合はどう?替えの包帯持ってきたから使ってね。」


「ありがとう。おかげさまでだいぶ良くなってきたよ。」


 そう言ってはにかむ彼女には人間にはついていない尖った歯が生えており。耳の裏からは可愛いツノが顔をのぞかせている。

 

「私みたいな魔族に優しくしていただいて、本当にありがとう。怪我も治ってきたことだし、そろそろここを出られるよ。お弁当は今日が最後にしてもらうよ。今まで本当にありがとう。」


 少し寂しそうな顔をしながら告げる。


「大丈夫よしばらくいても。まだ傷もあるんだし、村のことなら大丈夫よ。」


「私の魔力がわかる聖騎士がいるんだ。そいつからは逃げきれない。ここがバレるのも時間の問題なんだ。今日中には離れるよ。ここの人に迷惑はかけられないからね。」


 その時アイシャの背後で赤の狼煙が上った。エルゼスの視線がアイシャから逸れる。


「もう来たのか!」


 彼女の剣幕にアイシャは後ろに振り返った。赤の狼煙はまるで危険だと、そう告げているようだ。


「聖騎士が来てしまったのね!逃げなさい。」


「う、うん。本当に今までありがとうアイシャ。君のことは忘れないいつかお礼をしにまた来るから!」


「私も助けてもらった恩は忘れないは。さあ行きなさい!」


 バタバタと荷物をまとめアリシアは飛び出すように森へと駆けた。アイシャは後ろ姿を眺めることしかできない。ハッとした後慌てて村へと駆けるのだった。、


◼️



 村が騒がしい。何があったのか分からないが何処からともなく人が不安そうに話す声が聞こえる。まだ母さんは帰ってきていないし不安だ。


 父さんが言っていた。何かあった時、1人だったら家の隅の穴に隠れなさいと。昔そう言って父さんが地下室を掘っていた。人1人入れるくらい、というか僕用の穴だ。

 本を持ったまま穴の上にある床と同化した蓋を開けて身を隠す。上の蓋を閉めたその時、低いお腹に響くような笛の音が聞こえた。


◼️



「ゼグルド様この村でしょうか。」


「間違いない。ラザルズ村だったか、ここだ。魔力の残滓がここで濃くなっている。しばらく滞在していたのだろう。索敵部隊を集めろ。」


「はっ!」

 

 そう言い馬から降りた騎士は馬に括り付けられた荷物から一枚の紙を取り出し魔力を注いだ。


 空には一筋の赤い煙が架かる。


「集まり次第出撃だ。村人には容赦するなこの村は魔族を匿った。重罪だ。」


「子供も、ですか。」


「当然だ。1人たりとも逃すな。魔族と友好であることは許されない。芽は摘み切らねばならない。」


「はっ!」


 そして森から笛が鳴らされ騎兵が集う。そして二度目の笛の音、これは出撃の合図。そこからは一方的な蹂躙が始まった。


◼️


 悲鳴が聞こえる。大人の声だ。金属がぶつかる音がする。魔物が襲ってきたのだろうか。


 涙が流れた。恐怖でうまく息ができない。


 まだ母さんは帰ってきていない。父さんも仕事ででている。暗闇の中外から聞こえる声に耳を澄ます。


(やめろ!)


(なんで!)


 そんなふうに聞こえた気がした。

 僕はあごを引いて声を殺し。穴に潜む。助けは呼べない。そう心に決めて恐怖と戦う。


 やがて静かになった。

 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。涙は枯れたがいまだに呼吸はままならない。


 父さん、母さん怖いよ。


◼️


「報告しろ。」


「村人は全滅。近辺に生命反応は見られません。魔族も見当たりませんでした。」


「そうか、。」


「申し訳ありません!」


「いや、いい。移動するぞゼルダの街まで行く。そこでもう一度反応を見よう。」


 そう言い、馬を走らせた。


 村は血に塗れ静寂が包む。


◼️


「嗚呼、なんてことだ!人間はなんで酷いことをするんだ!」


 アリシアは吠えた。森にある木の上で村を見ていた彼女は絶望した。


「...すまないッ。」


 元々この騎士団に敗れこの村に頼ることとなった身だ。1人で立ち向かったとて骸が一つ増えるだけ。不甲斐なさが込み上げ握った拳が震える。


 やがて戦闘は終わったのか村の中心に騎士が集まり始める。村人を殺し尽くし森の方に来るかと思われたが、騎士たちはあさっての方向へ歩みを進めていった。


 私を探る力も万能ではないのだな。前の襲撃から考えると30日ほどは来ないと見て良い。大きな犠牲と心の傷を残し敵の索敵能力を知った。


 結論を出した後すぐに彼女は村へと駆ける。


 世話になった小屋に着いた。村から吹き抜ける風からはひどい血の匂いがする。


 (アイシャどこにいるんだい。)


 歩きながら涙が込み上げる。


 静かな村の中を歩いていくと、あちこちに血の跡と死体が転がっている。


 これは私のせいだ。


 足早に村中を駆けた。


 家のドアの前で切り裂かれている死体。広場に集められた死体の山。

 一際大きな家の中に入ると入ってすぐに3人の死体がある。しかし、彼女の求める姿は何処にもない。いや、このまま見つからないでいてほしい。そう願ってドアを閉め家から出る。


 すると離れたところにある一軒の家の前に子供を見つけた。咄嗟に姿を隠し周囲の探知に魔力を使った。


 (はっ)


 一瞬その子供がこっちを見た。しかしまた元の方に向き直し歩いていく。その足取りは弱々しく今にも膝が地面についてしまいそうなほど震えている。


 (なんで子供が。)


 その少年の向かう先には誰かが倒れていた。


「母さん。」


 そう聞こえた。


「母さん、ねぇ、母さん...。」


 少年が語りかける先を見ると不意に背筋が凍った。少年に目を奪われ、ぼやけていた視界が澄み始める。


(アイシャだ。)

(私はなんてことを。)


 彼女の頭の中は後悔と懺悔に塗れる。アイシャの優しさに甘えて長居しすぎた。


 いつかアイシャは言っていた。1人子供がいてとっても可愛いんだって。昼になるとその子とお世話をしないといけないと足早に小屋を離れる彼女の後ろ姿を何度も見てきた。


 また、涙が溢れた。


 少年は、手に持ったスコップで地面を掘り始めた。土葬するつもりなのだろう。


 自然と体が少年の方に向かって歩み始めた。



 





 









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