『だれか』
グロ注意
特定の人への恐怖等の可能性があるので無理な方は必ず途中で読むのを辞めてください
どこだろう。
辺り一面、美しい柔らかなピンクの空が広がっている。
ピーッ、ピーッという鳴き声も聞こえるし、すごく長閑な場所だ。ずっと寝ていたいが、目を覚ましてしまったからには動くしかないだろう。
怠い手足を勢いよく動かして立ち上がる。ふわふわとした地面を踏み締めて歩いて行く。
一体自分は何のためにここに居るのだろうか。よく分からないが取り敢えず探索をしてみる。
自分が寝ていたベッド以外には謎のボタンがあるのみで、他には何も無い。
仕方がないのでボタンを押す事にした。
「…何も鳴らないな?」
意味深にあるボタンなくせして何も起こらないとはどういう事だろう。
***
自分がいる場所はどうやらひとつの部屋のようで、ガラスの様な透明な天井からは鮮やかなピンクの空が見える。
室内は空と同じくピンクっぽい壁紙と、白い可愛らしいベッド。それから、気が付かなかったのだが自分の腰に鎖が繋がれており、ベッドからの一定範囲内のみ動ける仕様になっていた。
つまり、自分はこの腰の鎖を外して逃げる必要があるという事だ。
この部屋自体は天井がガラス張りのおかげで暖かく、近くに水場があるらしいのか柔らかな水の音がする。兎に角居心地が良い。
変なボタンと腰の鎖さえなければずっと居てもいいくらいだ。
ついでに付け加えると、ピンクの柔らかなカーペットもありこの部屋の創造主はピンクが好きなのだろうと察する。いっそ異常だ。全てがピンクで揃えられているのだから。
まあ色々探索したがこれといった目星は立っていない。ボタンの反応もないままだ。
***
あれから数時間が経った。いい加減動くのも疲れたし、一度休もうと思う。
最初に寝ていた白いベッドに横たわる。柔らかで鮮やかなピンクが目に優しい。
『起きなさい』
ビクッと跳ねた身体に抵抗せず、無意識のままに臨戦体制をとる。どこから聞こえた?部屋全体に響いたぞ。誰だ。
『起きなさい』
「起きてますが?」
『ボタンを押しなさい』
こちらの呼び掛けには一切反応を示さない声の主は自分を完全に無視して指示を出してくる。
「生憎ですが見ず知らずの姿すら見せないやつの指示に従う謂れはありません」
『腰の鎖を解く方法を教えてあげてるのです。私は味方ですが、少々複雑な事情のためここからの指示になっているんですよ』
「なぜ味方なのですか」
『自由にしてあげたいからです』
「自由とはなんですか?」
『腰の鎖を外す事です』
埒が開かない。が、腰の鎖のせいで行動が制限されているのも事実。
この声の主は誰なのかもさっぱり分からないし、信用も出来ない。何だか自分にとって良くないモノの気はするが…。
「あなたは誰ですか?」
『味方です』
「自分の腰の鎖は何のためにされてるんですか?」
『行動を制限するためです』
まあそれ以外に鎖の理由はないか。
ならば本格的に鎖を解くしかない様なので、信用も信頼もしていない声の主を利用する方に頭を切り替えよう。
「ボタンを押せば、良いんですね?」
『そうです』
気持ちの悪い声、と心の中で毒付くが取り敢えず先程押して何も無かったボタンを押した。
すると、ガリガリガリッッという耳に耐え難い音と共に床の真ん中が割れて光が刺してくる。
『ボタンを押してくれたので、今からひとつ目のお助け道具を用意します。離れててください』
先程より饒舌に喋る声の主の言葉通り、銀色の棒によって床の割れ目が大きくなっていく。
案外簡単に出れるのではないだろうか。
そう思ったが現実はそんなに優しくないらしい。銀色の棒は確かに自分が頑張れば通れるくらいの割れ目は作ってくれたが、肝心の腰の鎖を解くことはしてくれなかった。
「ふたつ目のお助け道具は何をすれば出してくれる?」
『お疲れ様でした。次のお助け道具は24時間後です』
嘘だろう?この声の主は本当に味方なのだろうか。中途半端だし全然助けてくれないし、何より声だけだし。
その後、何をいっても声の主は反応を示さなかった。24時間ごと言われたので取り敢えず寝るとしよう。
***
目を覚ましたら昨日と同じピンクの空が見える天井があった。
違うところで言えば、その天井から何やら縄の様なものが吊るされていた事だろうか。
「なんだこれ?」
『引っ張らないでください』
縄に触ろうとした自分を咎める様に、昨日の声の主が話しかけてきた。相変わらず冷淡な喋り方だ。
昨日の床の割れ目はまだそのままになっており、天井からも割れ目からも光が差すため眩しくて仕方がない。
声の主も反応が無いし、暇な自分はもう一度ベッドに寝転がった。目の前にある縄が気になって気になって、あまりにも落ち着かない。
***
『起きてください』
どれだけ時間が経ったのだろうか。あれからもう一度眠ってしまったらしいが声の主に叩き起こされる。眠っていたところを起こされるのは酷く不愉快だった。
『縄を引いてください』
睡眠を妨げておいて指示を出すとはいい度胸をしている。不機嫌な自分は素直に言うことを聞く気持ちになれず、指示を無視してもう一度ベッドに寝転がる。
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
うるさい。同じ言葉を繰り返す声の主に苛立ちが隠せない。無視を決め込もうと耳を塞いだ途端だった。
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください…』
『縄を引いてください』
『縄を引いてください
引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引けひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけひけヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケヒケ』
今までに無いほどの声量で「引け」と繰り返してきた。
恐怖を感じた自分は飛び上がり、今度は素直に縄を引いた。
『お疲れ様でした』
「何なんだ一体…」
縄を引いた瞬間、先ほどの声量が嘘の様に声の主は静かに労ってきた。
縄を引いてから声の主が「お疲れ様」というまでおおよそ47秒。
部屋が急に狭くなった。
何の前触れもなく、狭くなって広くなってを繰り返す。
立っていられなくなった自分はしゃがみ込み、腰の鎖にしがみつく。
段々部屋の動きが大きくなっていく。
床の割れ目が大きくなっていき、飲み込まれそうになるのを耐え続ける。
「おい!!!味方なんだろう!?何なんだこれは!!!!どうなっている!!!!」
『助けるためです』
「この割れ目の下はどうなっている!?本当に助ける気があるのか!?」
『味方です』
***
どれほどの時間が経ったのだろうか。部屋の動きが無くなった。
安堵の溜息と、恐ろしい思いをした事による心臓の動きを落ち着かせる。
『割れ目に近付いて下さい』
これではっきりとした。
声の主は、敵だ。
自分じゃない【誰か】の【味方】で、その【誰か】を【助ける】ための声だ。
自分はその【誰か】の敵であり、声の主は異物を排除しようとしている。
声の主の指示に逆らって、割れ目からできるだけ遠ざかった。
そういえば、水の音が聞こえない。
***
その瞬間に、銀色の棒が割れ目から出てきた。
昨日のモノとは違う。
先端の丸い部分が割れ目から中に入ってきて、ずっと何かを探すように動き続けている。
探されているのは自分だと、直感で感じた。
逃げなければならない。
どこに?
どこに?
どこに?
どこに?
どこに?
どこに?
どこに?
どこに?
ハッと上を向く。そうだ、天井を割って逃げればいいんだ。
銀色の棒が反対側を探り始めた瞬間、走った。
何か割れそうなモノを探して、探して。
見つからない。
「あの銀色の棒に、」
割らせよう。そう考えて、腰の鎖をわざとしならせて音を出した。その瞬間、銀色の棒はこちらを向いて動き出した。
近づいて来る。
あと10cm
9cm
5cm
2cm
まだ、まだだ。
1cm
ベッドに立っていた自分は、銀色の棒が目前まで迫った瞬間に上に向かって飛んだ。
パシャンッ
「よし!!!」
目論見通りに天井が割れた。逃げれる。助かる。これで助かるんだ。ざまぁみろ。
カポッ、ガポガポガポッ
「…え?」
天井から水が流れてくる。
まずい。まずいまずいまずい。
そうだ、腰の鎖。鎖を切らないと。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!!!!!!」
銀色の棒にやられた。
持っていかれた右足から血が止まらない。尋常じゃない熱さと痛みでうずくまる。
「やめろ…」
銀色の棒が右足を掴んで、割れ目からどこかに戻る。このままではまずい。
そう考えた瞬間、いなくなったはずの銀色の棒が割れ目から再び現れる。
右足の付け根からは血が止まらない。
「やめろ」
「やめてくれ」
「痛い」
「やだ」
『銀色の棒に鎖を当てて下さい』
声がした。
敵だと確信した声の主のはずなのに、縋るものがない自分からしたら救いかのように思えてしまった。
敵だ。救いだ。敵だ。救いだ。敵だ。救いだ。
頭に響く。他に方法はない。痛む右足を押さえて、根性だけで動いた。
銀色の棒に当たった鎖は最も簡単に千切れて、銀色の棒は鎖のみを持って割れ目からどこかに戻っていった。
頭がくらくらする。
身体が自由だ。鎖がないから身体が軽い。
頭がくらくらする。苦しい。目が見えない。
うっすらと、何かが迫ってくるのだけが見えた。
***
ゴキャッッッッッッ
バキッ、ブチブチブチッッッッッッ
「あっ、」
さむい
***
「手術はこれで終了です。お疲れ様でした」
なんでこんなものをかいたんだろう
後日好評かつ読む人も多ければ解説出します。恐らく意味不明なので。