ニンマー
ニビルではエンリルが率いた艦隊の後発隊が出航しようとしていた。
エンキが設計した、新しい長期航行型宇宙船には、エンキとエンリルの異母妹、ニンマー率いる女性を中心とした、救助と治療、採掘のサポートを担う 50人が乗り込んだ。
ニンマーと一行は、小惑星帯を切り抜け、無事火星に辿り着いた。
着陸しようと試みると、火星の中継基地とは別に信号が発信されている事に気付いた。
信号の発信の元にはアンズーが控えていた。
寄っていき話を聞くと、アンズーは火星にある巨大な岩山にある洞窟を発見した報告してきた。
その中にアラルの遺体と、彼が乗ってきた宇宙船があったという。
ニンマーが中を確認すると、それは確かにアラルと、ニビル星の宇宙船であった。
ニンマーとアンズーは埋葬しようと、洞窟を塞ぎ、その1※巨大な岩山にアラルの頭部をレーザーで刻んだ。
「遠く故郷から離れた異星の地で没したかつての王アラルよ、せめて故郷を望みながら安らかに眠れますように」
ニンマーら一行は先代の王を敬意を持って弔った。
アヌから権限を与えられていたニンマーは、アンズーを火星の司令長官に任命した。
「王命により、中継基地の建設を本格的に始めてもらいます。ここ2※ラームに、地球から出荷される金の鉱石を運び、中継地としてここからニビルに運搬するのです。その為にさらに20人の先鋭を部下として与えます」
「偉大なる姫殿下、ありがたく拝命いたします」
跪き、感極まってアンズーは答えた。
火星からニンマーを乗せた宇宙船が、地球に向けて出発し、地球に向けて出発した。
エリドゥにほど近い海岸に宇宙船を停泊した彼らは、エンリルが建設した波止場に歩を進めた。
ニンマーを出迎えたエンリルとエンキは異母妹を抱擁し挨拶し、操縦士のヌンガルと彼らは腕を組み合わせた。
場所を移動して、一同が腰をかけると、ニンマーは採掘や運搬に必要であるだろう道具類、エンキが設計開発を進めていた機材や機器、地球での栽培を想定した作物や食料を運んできたことを告げ、ニビルからの指令を告げ、アラルの死と埋葬について告げた。
エンリルがニビルに提案した、火星の中継基地案に対する返答はそのままに進められとして、アンズーを長官にするという決定に関しては物議を醸した。
エンキは肯定し、エンリルは当惑し、反対した。
「それは王の決定であり、彼の言葉は絶対よ」
「――――」
ニンマーはエンリルに言った。
エンリルは反論せず目を瞑り思案の形相で頷いた。
横目でその姿を確認すると、一息置いて続けた。
「いい報告もあるわ。私たちは医療と生活を整備する為にチームを引き連れて来たわけだし、もう病気で困る心配はないわよ」
と、ニンマーは兄弟たちに言った。
ニンマーは二人の兄に特別な土産も準備してきた。
それは、自身が調合したニビルの薬草で作る万能薬、エリクサーだった。
2人が薬を口にしてみると、驚くべきことに彼らの身体にエネルギーが満ち溢れてきた。
2人は思わず顔を見合わせた。
そして背後にいた従者に目配せすると、お盆に乗せた小袋を持ってきた。
ニンマーは小袋を手に取り、中身をお盆に取り出した。
一同が覗き込むと、お盆の上には種らしき物が乗っていた。
「そしてこちらを。これは育てれば食べられる果実を実らせる木が育ちます。その果汁は万能薬となり、私たちにとってそれは良い飲み物にもなります。病気の予防にもなりますし、幸福な気分にもしてくれます。ただどこに撒くかはよく考えなくっちゃ。暑すぎても寒すぎても駄目なのです。温暖で土壌が豊かで綺麗な水が多く湧き出る場所。そんなとこが理想ですわ」
そうニンマーは兄弟たちに言った。
「丁度良い場所を見つけた」
とエンリルはニンマーに微笑みながら続けた。
「私がこの地球に見つけた楽園をあなたに是非見てほしい。そこはこの星内を移動する際に活用しようと船の着陸場所に適した場所を探している際に発見したところで、豊かな土壌、ミネラル溢れ湧き出る清らかな水、海で温められた豊かな風が吹くとても豊かな土地だ」
早速、エンリルの天磐舟に2人は乗り込んだ。微かに雪に覆われた山の頂き付近に、巨大な岩で整備された着陸箇所に舟を停めると、2人は眼下に広がる森と、川、木々が覆い繁る豊かな土地を見た。
2人はその美しい星に魅入り、愛を育んだ。
エンリルは妹であり、妻でもある彼女を抱き寄せ、深い情熱と共に接吻した。
「会いたかった」
エンリルは彼女に囁き、彼女の腰を抱き寄せた。
「私もです。ニヌルタも兄上に会いたがっていたわよ」
ニンマーは彼に優しく言った。
「あの子ったら活発で張り切っちゃって。地球の兄上の所に行くんだって聞かないんです」
「君も地球に来たことだし、我が息子も呼ぶとしようか」
エンリルは彼女に言った。
「公私混同しては駄目です兄上。ただでさえ私は罪を背負う身。エンキ兄様もいらっしゃいます。懸命にならなければ」
エンリルのニンマーへの思いは冷めたわけではなかった。
エンリルは、ニンマーのことが諦めきれず、未だに独身を貫いていたからだ。
むしろ、禁じられればされるほど燃え上がるのかまた恋というもの。
そんな彼の気持ちを知りながらもニンマーは自身の気持ちに抗えないでいた。
「せめてもニヌルタが地球に来れば、君の慰めにもなるだろう。君を幸せにしたいんだ。ニヌルタを君の元に送ることを約束するよ」
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話は過去に戻る。
エンリルとニンマーは若気の至りから恋に落ちた。
エンリルは、アヌンナキの中でも正当な王子というだけではなく、長身で顔立ちも良く、気品に溢れ、何より年端もゆかない乙女なニンマーには貴公子、恋に落ちるのは簡単だった。
エンリル自身も、可憐なニンマーに惹かれるのは時間と問題でまたたくまに2人は恋に落ちた。
若さ故の度重なる逢瀬を交え、ニンマーは身籠り、息子であるニヌルタが産まれた。
アヌは自身の一族であるアヌンナキの血脈を守り、優秀な血筋を残し、繁栄させる為にも、混血であるニンマーを、正当な妃との間に産まれた、純粋なアヌンナキの血を受け継ぐエンリルではなく、混血であるエンキと婚約させた。
エンリルとニンマーの関係は、アヌにとっては許されることではなく、エンリルはニンマーとの交際を禁じられ、ニンマーは配偶者を持つことを禁じられた。
ニヌルタはアンツに育てられることとなり、ニンマーは酷く落ち込んだ。
極めて重い罪を背負うこととなったニンマーだが、その頃から人が変わったように研究に没頭するようになった。
ニンマーの身体に流れるシリウス由来のアークチュール星人の血は、常に自然に冷静さを保っておくのに役立った。
しかし、ニンマーとエンリルが再開することになり、2人の恋はまた再燃してしまう。
エンリルが、後の生命の樹を植えるに適した場所を案内すると誘った際、ニンマーは一瞬それを拒否しようとしたが、嬉しさが上回りそれを受け入れた。
彼らへの処分を知っているエンキだったが、彼女が喜びを隠せないでいるのを見て、見て見ぬふりをした。
エンキが、アラルの娘ダムキナを娶ることに決まったのは、彼がニンマーと結ばれることを断念して間もなくのことだった。
父アヌの要望で、アンシャガル一族との友好関係を強めるための政略結婚であったが、幸いにもダムキナは、エンキに対して崇拝ともとれるほどの敬愛を示し、そして美しい容姿のダムキナに対してエンキ自身も一目惚れするほどだった。
こうしてダムキナはエンキの正式な妻として地球に迎え入れられ、エンキの妻として、地球の淑女、”ニンキ”と改名した。
1※ 火星には人面岩と呼ばれる岩山が発見されている。現在NASAは公式的に否定しているが、画像を加工した形跡が見つけられたり、不思議な逸話が多数存在している。火星の北緯40度、西経6度の地域に位置するこの人面岩はアラルの墓とさるる。
2※ ラームとはアヌンナキの言葉で火星の意
3※ この果実は後の禁断の果実、不老不死の薬、アムリタともされる物で、桃ともザクロともリンゴとも言われているが定かではない。一説には葡萄とも言われるが、エンリルがワインを愛飲したとされることから派生した話だとも考察出来る。察しが良い人はお分かりだと思うがこの豊かな土地、それこそ日本であり、ゼカリアシッチンや他の多くの研究者はメソポタミア地域のことだと考えているが私は一説として日本を推したい。




