大洪水
地球の磁場は乱れ、1※自転は不安定となり、大気圏にはところどころ穴が空いた。宇宙線が降り注ぎ、気温は世界中で上昇し、嵐や竜巻、火山の噴火に地震と災害に見舞われた。作物は育たず、地域によっては水の確保もままならない状況となり、人類にはさらなる疫病が蔓延した。アヌンナキは艦隊に篭り、胸を痛めながらもルルの行く末を傍観していた。大雨が降り始めると、三日三晩と降り注ぎ、雨足がその間も弱まることはなかった。次第に川沿い、沿岸部が水没し、人類は懇願するように天に助けを求めた。しかしその後長い間大雨は降り続き、全ては水に飲まれ流された。
山頂に築かれたシェルターに避難した、マルドゥクやイギギたちは水没する世界を目の当たりにしながら、エンリルの人類に対する仕打ちに恨みを募らせた。
「いつか、自分の身へと降り注ぐがいい」
マルドゥクは不信感と憎しみを蔓延させるように、避難したイギギ、ルルにエンリルへの反抗心を植え付けていった。そして言った。
「奴らは我々を見捨てた。私はお前たちを決して見捨てない。私こそが真の統治者。私こそが王だ!」
歓声とともに民主に受け入れられたマルドゥクは名実ともにイギギとルルの王となった。
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雨が止んだ。
世界の音は波と風の音のみで、まるで時から切り離されたようであった。
大雨が止み数週間経った。
凪に包まれた一面の大海原に1隻の大きな樽のような舟が漂っていた。行き先も分からぬまま目的もなく孤立したように浮かぶ舟は、まるで誰も乗ってはいないかのように静寂に包まれていた。
更に数日が経ち、1羽の鳥が放たれた。また1羽、また一羽と放たれては舟へと戻ってきた。さらに1匹の鳥が放たれると、鳥は嘴に枝をくわえて帰還した。
(陸地は近い)
さらに波に揺られること数日。舟底が何か硬い物にぶつかった。1人の男がハッチを開け外に出た。男は碧眼の瞳で辺りを見回した。青い空と青い海、外は晴れて穏やかだった。舟は双頭の山の岩場に乗り上げたようだった。碧眼の男、ジウスドラは舟内に戻り、皆に安全を伝えると、乗船していた人々は待ち侘びたように我先にと舟を降りた。
「どうやら我々は助かったようだ」
とニナガルは言った。
ジウスドラは天を仰ぎ、
「主、エンキ様を褒め称えよ。主に感謝せよ!」
と叫んだ。
ジウスドラは息子たちと石を集め、エンキに捧げる祭壇を作り、空から目印となるよう火を焚いた。昼夜を問わず煙が立ち上り、それはまるで一本の柱のようだった。
地上の状況を確認をするため、エンリルとエンキが空から2※輸送機に乗って降りて来た。エンリルは、焚き火と立ち上る煙を見て困惑した。エンキと共にその方角に行くと、船、ジウスドラとその家族、焚き火と祭壇、そしてニナガルの姿が見え驚愕した。
「なぜルルがこんなにも生き残っている?」
エンリルはニナガルに詰め寄った。
「ルルは全て滅ぼす筈だった! 何故生きている!??」
エンリルはエンキにも詰め寄った。血走った目と、胸ぐらを掴んだ手は怒りでわなわなと震え、今にも殴りかかってきそうな様子だった。
「彼はルルではない。私の息子だ」
とエンキは告白した。
「どちらにせよ誓いを破ったな!」
「私は彼にではなく、葦の壁に向かって喋ったのだ。決して誓いは破っていない」
と言い、エンキはエンリルにガルズの夢の話をした。
ニナガルは、激昂したエンリルを収めようとニヌルタとニンマーを呼んだ。
「ルルの生存は、万物の創造主によるご意思でしょう」
とニヌルタが言った。決して多くはないが、人類は生き残っていた。表立っては語られないが、ニヌルタ自身もカイン族を生存に導いた。カインと交流し、彼の一族に知恵を授けた彼は、少なからず父であるエンリル以上に人類に対して特別な感情を抱いていた。ニヌルタだけではなく、エンキ、ニンギシュジッタ、ドゥムジたちの指示により人類が生き残るための対策が秘密裏に講じられた。山上でのシェルター建設、舟の建設、動植物、農作物の確保、しかし、人類全てが大災害を乗り越えられるほどではなかった。
ニヌルタの話を聞いたニンマーはアヌからの贈り物である水晶のネックレスに誓いを封じ込めた。
「ルルの絶滅を2度と企てたりしません」
ガルズの意向、創造主の意思、アヌンナキそれぞれの想いを汲み取ったエンリルは徐々に態度が柔らいでいった。
エンリルはジウスドラと彼の妻、エムザラの手を取り、祝福を施した。
「実り、豊かに繁栄せよ。そして、再びこの星を満たすのだ」
こうして、1つの時代は終わりを告げた。
1※ 現在において、ポールシフトの要因は明らかとなってはいないが、少なからず、惑星直列や外部からの磁場の影響も少なからず考えられる。シュメール神話ではニビル星の接近がきっかけで起こっており、最後に大規模な大洪水発生したと考えられるのは、1万2千年前程という説が存在しており、その後のヤンガードリアス、氷河期との関連性も指摘されている。地層学ではチバニアンからも、ポールシフトの痕跡が伺える。パン大陸、ムー大陸の残骸とされる、イースター島(南緯27度:西経109度)と、ギザの三大ピラミッド、ナスカ、アンコールワット、モヘンジョダロ等世界各地の遺跡、日本はグレートサークルで一直線上で並んでおり、空から地上を管理するには効率的であったことも伺える。グレートサークルは現在の赤道から30度傾いており、現在と地軸の位置が違うことも可能性として存在する。チャールズ•ハプグット博士による、『移動する地殻』でも提唱されま、グレートサークルは過去の赤道であり、北極方面に直線を辿ると、現在のカナダ、ハドソン湾の付近に到達し、過去の磁北極位置を示すという見解もある。ハプグッド博士によると過去7万年の間に3度、ポールシフトを経験したされる。現在、地軸は23.4度傾いており、25920年周期で歳差運動が一周する。南極大陸がかつて豊穣な土地であったように、かつて海だった場所が陸となり、陸である箇所が海に沈み、氷に包まれる可能性は過去の事例から否定するには早計で、懸念すべき事象であると考えられる。エドガー•ケイシー、日付神事の三千世界の大洪水と、近々ポールシフトが発生する日は近いかもしれない。
2※ 輸送機とはヘリコプターのこと。つむじ風とも訳される場合がある。セティ一世が埋葬されたアビドスの壁画でも残されているように、古代より存在したとも考えられる。シュメール神話で他にも空の二輪戦車、神々の戦車等、独特な言い回しで乗り物が登場する。
エンリルの赦し、改心は矛盾を感じるが、真相は定かではない。日本では風の神として祀られており、畏怖すべき存在として認識されている。




