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創世妄想記  作者: ホリ
24/28

息子たちを祝福するアダパ

 時は流れた。

 

 半分アヌンナキの血を引いているとはいえ、いつかは生命にも終わりが訪れる。

 自身の生涯に終わりが近づいていることを悟ったアダパは、息子や娘達、その子孫全員に集まるよう招集をかけた。

 アダパは追放されたカインのことも心残りだった。

 そんな父の想いを感じ取ったサティは、エンキに願いを申し出た。

 サティの想いを聞き入れたエンキは、ニヌルタを呼び寄せ、カインを連れてくるよう命じた。

 ニヌルタは飛行舟を飛ばし、カインを見つけると、アダパの下に届けた。

 カインとサティがアダパの元にやって来る頃には、アダパの視力はほとんど衰えていた。

 カインとサティが挟むように横になるアダパと並ぶと、彼は優しく2人の頬に触れた。


「サティか。いずれお前の子孫で世界が満たされるであろう。そして、1※3本の技を持つ大樹として、種子なる子達は、困難をも生き残るであろう」


 サティは涙ながらに父の手を握り頷いた。


「カインよ、お前はその犯してはならぬ罪のために、生きる権利を剥奪された。だが、偉大なるエンキ様の恩赦により生かされた。感謝を忘れぬように。お前の種子からは、7つの国が現れ、そして遠く離れた地に至るまで繁栄するであろう。しかしお前自身は石で犯した罪により石にまつわる因果によって終わりを迎えるであろう」


 アダパは2人に言葉を告げ終わると、ティティと息子、娘達を呼ぶように言った。

 部屋は啜り泣く声と悲しみで満たされていたが、家族に囲まれたアダパは、もはや盲目で見えない眼で周囲を見回し、幸福の笑みを浮かべた。


「いいか、私の魂が身体から離れたら、私が産まれた川の辺りへ運んでおくれ。アベルと同じ方法で、そして私の顔は昇り来る太陽へ向けて埋葬しておくれ」


 と言い終えると共にアダパの魂はこの世を去った。


 ティティはその場に泣き崩れた。カインとサティはアダパの体を布で包み込み、遺言に習い埋葬した。


 アダパの埋葬が済むと、カインは母と弟達に別れを告げ、ニヌルタに護送され元の土地へと戻された。


 アダパの死を悼むエンキは、悲しみとともに、人類のあまりの短命さに悲観した。アヌンナキの寿命からすると15年、地球時間でおよそ2※5万4千年しか生きられなかったのだから。



          ・

          ・

          ・




 マルドゥクがエンキの下に訪れた。


「エンリル様の息子達は地球で配者を選びました。ネルガルは、あろうことかエンリルの孫娘、エレシュキガルを妻にしました。本来であれば、長男である私の結婚を待つべきなのに、ネルガルは待たなかった。他の 4 人は私に敬意を表して待っているというのに」


 マルドゥクは一息吐くと、続けて話し始めた。


「そこで、私は配偶者を得たいと思います。サルパニトという娘を妻として迎え入れることにします」


 その話を聞くとエンキは激怒した。


「ニビルの王子が、地球人と結婚するだと!?」


 マルドゥクが結婚相手に選んだ相手。その相手がアヌンナキではなく、地球人、エンキ・メの娘サルパニトであることが判り、エンキは強く反対した。


「単なる地球人ではなく、あなた自身の子様ですよ? 長い寿命以外は、彼らは我々自身と何ら変わりない」


 エンキが激怒するのを予想していたマルドゥクは、あえて彼が反論できない点を突いた。


 エンキ・メと共に過ごしていたマルドゥクは彼の娘を大層気に入った。


「それに私は彼女を気に入ったのです。私は彼女と結婚したいし、彼女意外と一緒になるつもりはない」


 とマルドゥクは申し立てた。


 エンキはマルドゥクに事の重大さを伝えた。


「そんなのもってのほかだ。そんなことをしたら、配偶者共々、2度とニビルに行くことができなくなる。ニビルでの権利を、永久に諦めることになるのだぞ!」


 とエンキは怒鳴った。


 マルドゥクは苦笑して答えた。


「そんな権利なんて、私には当にありませんよ。任務に就いてからいうもの、持つべき権利は踏みにじられてきました。これが私の決断です」


 マルドゥクは思っていた。ニビルなどもはやどうでもいいと。


『私は地球の王となる。この星を支配するのはこの私だ』


「そうか。それなら、それで良い。好きにしなさい」

 

 とエンキは言った。エンキにとっても思うところがあり、言い返すに言い返せなかった。彼自身、地球人に手を出しているのは事実であり、自身の血を引く種族を愛おしく思っていた。


 エンキはサルパニトの兄、マツシャルを呼び、マルドゥクの望みを伝えた。


 それを聞いたマツシャルは、妹が創造主に嫁ぐことを素直に喜びを見せた。


 しかし、当然の如く、エンリルはこの知らせに激怒した。


「地球人と交わる分にはいいだろう。だが、地球人と結婚することは別問題だ。我々と同等とも言わずもがな、同列となり得る地位を授けることになるのだ!」


 エンリルは憤慨し、このことをアヌに知らせた。アヌは顧問を招集し、この問題について協議した。議会は、事の重大さと、そして制裁も兼ねて、マルドゥクの結婚は認めるが、ニビルの王子の地位を剥奪、ニビルへは2度と足を踏み入れられないことを告げた。


 エンリルは、マルドゥクとサルパニトの結婚自体は認められたことに、憤りを隠せずにいたが、エンキとマルドゥクが、議会の決定を素直に従ったため、エンリルも従わざる終えなかった。


「ただし、マルドゥクと地球人の妻は、エディンに留まることを許さぬ」


 とエンリルは告げた。


 エンキは、その代わり3※アブズの北海付近の領域を彼らに与えることをエンリルに提案し、彼も渋々それに同意した。


 エリドゥでは、ニンキが彼らの結婚式を手配し、大勢の地球人が祝福に訪れた。それと共に、配下であるイギギも大挙して地球に降りて来た。




1※ 3本の枝を持つ樹とは、後の大洪水を乗り越えたジウスドラの 3 人の息子セム、ハム、ヤペテのことであり、これが生命の樹の3柱に繋がる。


2※ アダパは15シャル〜16シャル=5万4千年〜約5万8千年生きたとされる。このアダパの死の場面は、聖書でのイスラエルの死の場面の原型になったとも考えられている。

 レンブラント作の『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』(1656年)の場面でも有名。


創世記48:13-20

“それからヨセフはふたりを、エフライムは自分の右手に取ってイスラエルの左手に向かわせ、マナセは自分の左手に取ってイスラエルの右手に向かわせて、彼に近寄らせた。


 すると、イスラエルは、右手を伸ばして、弟であるエフライムの頭の上に置き、左手をマナセの頭の上に置いた。マナセが長子であるのに、彼は手を交差して置いたのである。


 そして、ヨセフを祝福して言った。「私の先祖アブラハムとイサクが、その御前に歩んだ神。私の生涯を今日まで導かれた牧者なる神よ。


 すべてのわざわいから私を贖われた御使いよ。どうか、この子どもたちを祝福をお与え下さい。私の名と、先祖アブラハムとイサクの名とともに、彼らのうちにとなえ続けられますように。また彼らがこの地上に豊かにふえますように」


 ヨセフは、父が右手をエフライムの頭の上に置いているのを見て不満に思い、父の手を取りエフライムの頭からマナセの頭へ移そうとした。


 ヨセフは父に言った。

「父上。そうではありません。こちらが長子なのですから、あなたの右手を、こちらの頭に置いてください」


 しかし、父はそれを拒んで言った。

「わかっている。わが子よ。私にはわかっている。彼もまた一つの民となり、また大いなる者となるであろう。しかし弟は彼よりも大きくなり、その子孫は国々を満たすほど多くなるであろう」

 


 そして彼はその日、彼らを祝福して言った。

「あなたがたによって、イスラエルは人を祝福した言葉を述べる。『神があなたをエフライムやマナセのようにして下さるように』」こうして、エフライムをマナセの上に立てたのである。”


 似たような場面に、イサクが 2 人の息子エサウ(兄)とヤコブ(第)に祝福を与える際、ヤコブがエサウとイサクを,まして祝福を得た場面がある。その後、エサウは父イサクがヤコブを祝福したことを根に持って、ヤコブを憎むようになった。この場面はアダパの死の場面ではなく、あくまでもが兄よりも優先された、ということの象徴である。つまり、ニビルにかける王位継承争い、何よりも、兄であるエンキよりも、エンリル及びその子孫に継承権が与えられたことを、悪く象徴した形であるとも捉えられる。エンキ自身というよりも、マルドゥクの王権に対する妬みは凄まじいものがあった。彼はさらに権力に貪欲となっていく。この記述は、核戦争後に、エンキがエンドゥブサルに記録させたタブレットに起こった事実を基にして書かれている。


3※アブズの北海付近とは、現在の地中海沿岸地域とも考えられる。


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