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創世妄想記  作者: ホリ
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エンキメの宇宙旅行

 エデンでは、ナンナルやニヌルタ、ドゥムジによる指導の元、順調に人類の教育が進んでいた。


 エンシの子クニンに息子が産まれ、マラルと名付けられた。

  マラルは音楽に優れていたため、ニヌルタは美しい音を奏でる彼を気に入り、ハープとフルートを授けた。

 マラルは敬愛するニヌルタを讃える曲を演奏し、彼の娘達は共に、ニヌルタに讃美歌を捧げた。


 マラルにも息子が産まれ、イリドと名付けられた。

 ドゥムジが彼に井戸の掘り方を数え、水路を形成し、牧地に水を引いた。

 人類はこうしてアヌンナキから生活の知恵を授かり、人類は発展へと向かっていった。


 この頃、火星に配属されていたイギギは地球での出来事に関心を持ち、より近くで観察したいと望むようになった。

 彼らは宇宙を観測することを止め、頻繁に地球を訪れるようになった。

 エンキはマルドゥクに、火星にてイギギを統制するように強く求めたが、マルドゥクもイギギと同様、人類をすぐそばで観察したいと望むようになった。

 地球に配属された者達との格差や不公平さを日に日に恨みと妬みで膨れ揚げさせて行ったマルドゥクは、さらに自らに流れる王家の血への冒涜だとし、自尊心とともに野心を地の底を沸々と流れ堪る、噴火前のマグマのように野心をたぎらせていった。

 こうして必然的に小さな歯車は大きな歪みを生み出し、目に見えて狂い初めることとなる。

 マルドゥクはエンキの訴えを無視し、イギギを秘密裏に統制し、本格的な地球への介入をする準備を始めた。


 地球上ではそんなマルドゥクとイギギの策謀など誰も知る由もなく、彼らアヌンナキの体感時間からすると瞬く間に時は流れ、人類の子孫は順当に紡がれていった。

 マラルの子イリドに息子が産まれ、エンキメと名付けられた。

 エンキメはずば抜けて賢く、すぐに数を覚え、世界の事象が全て数字に基づいていることを理解した。

 そして、宇宙と世界の事象関するすべてに興味を抱いた。

 エンキは秀でた彼の頭脳を非常に気に入り、かつてエンキがアダパに明かした宇宙の秘密を教え込んだ。

 太陽系の星々の名前、位置や周期について、ニビル星での年の数え方であるシャルについて、夜空に無数に輝く星の海に形造られる12の星座について教えた。

 そんな父とエンキメのやり取りを見ていたマルドゥクは自身の宇宙船に乗せてやると彼をを誘い出した。


「どうだ? ここから見る景色はいいものだろう?」


 目の前の光景に驚き慄きながらも目を輝かせるエンキメにマルドゥクは言った。

 エンキメは宇宙船の内壁に張り付いて、透過して見える外を眺めていた。


「すごい…すごいです。あんなにも木や山が小さく見えて。まるで全て石ころや砂粒のようです。まさか私が空を飛び、雲を、天を突き抜けてしまうなんて。しかも私達の星はなんて美しいのでしょうか…」


「はっはっは。そうだろう? よく見ておくといい」


 エンキメは窓から遠ざかる青い球体を見つめ、自身の故郷である星の美しさを知った。


 エンキメはまたしばらくするとマルドゥクに連れられ2度目の宇宙旅行へと旅立った。

 マルドゥクと共にキングゥに降り立ったエンキメは、エンキから教わった星の話に想いを馳せ、目の前に広がる光景こそ頭の中で再三繰り広げた想像の世界、その事実があると再確認しその偉大さを知った。


 2度の宇宙船による飛行を経験したエンキメは、地球に戻ると異母妹であるエディンニと共に、ウツの下に送られることとなった。

 ウツは宮殿にエンキメ達を招き入れ、彼が習ったことを書き記し、後世に残すようにとタブレットを与えた。

 彼は記憶を頼りにタブレットで地球をトレースし、記憶を頼りに大まかな地球の地図を作成した。

 そしてエンキメにも息子が産まれ、マツシャルと名付けられた。


 それからしばらくして、エンキメの元にマルドゥクが訪れた。    

 エンキメはマルドゥクの誘いに乗り、再び3度目の宇宙旅行へと旅立つこととなった。


 エンキメは、ウツから授けられたタブレットに直前までの出来事を記録した。

 息子のマツシャルに、


「これは大切な記録だから大切にするんだ。ラギムとガイガドと共に学び、守るように」


 とタブレットを託した。


 エンキメを乗せた宇宙船は、挑むように太陽に向かい、周回軌道に乗り、重力場を利用してぐるりと大きく旋回、速度を上げ一気に火星へと向かった。


 火星へと着陸すると、イギギの代表、シャムガズがマルドゥクとエンキメを迎え入れるために待ち構えていた。



           .

           .

           .



 マツシャルはエンキメの帰りを待ったが戻ってくる気配は一向に訪れなかった。

 風の噂で、エンキメは天に留まったと聞き、噂は現実となり、その後1※彼が家族の元に帰ることはなかった。


 エンキはエンキメが火星に留まったと聞き、少し訝しんだが宇宙に興味を抱いていた彼が星に魅せられて火星に留まったのは自然のことのように感じた。

 さらには地球にまたしても迫っていた異常事態も重なり対応に追われたエンキは、然程重大な事態になるとは考えず、すぐ頭の片隅にしまいこまれた。



           .

           .

           .



 マツシャルにも息子が産まれた。

 ルマクと名付けられ、父に似て優秀だった彼は成長すると労働監督長に任命された。

 ルマクの時代、増えた人口と環境の変化により状況は厳しくなっていた。

 それにより労働で課せられるノルマを強化し、分け前を削減することとなった。


 大気は乾燥し、薄くモヤがかかり、空は赤く、明らかな異常をきたしていた。

 エンリル、エンキ、ニンマーはこの状況を把握するための調査を始めた。


 エンキが北極と南極に設置した観測機によると異常の原因は過剰に放たれる太陽フレアだと分かった。


 エンキの息子ネルガルと、ナンナルの娘エレシュキガルが、太陽フレアにより降り注ぐ宇宙線の観測を任された。

 彼らは黒点の増減により、太陽フレアが起こる周期を見つけ出した。

 分析の結果、地球大気圏にシールドを張ることで防ぐ必要がある事が分かった。

 早速話し合いが行われ、北極、南極を軸とし、現在の日本、中東、エジプト、中南米の上空にシールドを張るための衛星を打ち上げることとなった。

 

 ニヌルタはカインが住む地へと向かい、天と地球を結ぶものとされる、宇宙船停泊用の反重力ポイントを山の中腹に設置し、新たな宇宙基地を建設した。


 エンリルとエンキ、ニンマーの3人は、一連の騒動が収束へ向かったことに一息つき、互いを見つめて思った。


 3人はしばらく無言のまま、それぞれの身身体にのしかかる疲労感を感じ、自らに積み重なった”時”を感じた。


 沈黙を破りエンキが口を開いた。


「私達は老けてしまったな」


 エンリルは、


「兄者の言う通り我々はこの星でだいぶ年老いてしまったようだ。しかも目に見えて分かる程度にもだ。だが地球で生まれた者達は、我々より更に早く年を取っている」


「寿命は縮まり、子が下手したら我々よりも先に逝く未来もあるかもしれない」


 エンキは自身の子孫である人類のことを想い、すでにそれが訪れているのを自覚し憂いていた。

 しかしエンリルの言う、子とはアヌンナキの子孫のことを言い、人類はその枠には入っていない。

 それを理解しながらも口に出したその言葉は空気中に放たれた瞬間、エンキの想いを重く沈めるのであった。


 場の空気を察したのかニンマーが言った。


「若い子達皆は私のことを年老いた羊と呼んでいるのを知っている?」


「はっはっは。皮肉なものだな。かつて君は他の誰よりも麗若く美しい女性だった」


「そう言う貴方もだいぶ御老体が目立つんじゃないかしら?」


 一同は束の間の間、かつての兄妹に戻り、しばらく交わしていなかったような冗談を言い合い、笑い合った。

 しかしそれもやはり束の間であり、それぞれの肩にのしかかった責任という名の重しは、長い年月の中で身体にまとわりつき、引き剥がしたくても、引き剥がせようもない呪縛として身を蝕んだ。


「他の者達が地球とニビルを往復している間も、私達はずっと地球に留まり続けた。もう去り時なのかもしれないな」


 とエンリルが言った。


「私はそのことについて不思議に思っていた。私達3人の内の1人でもニビルを訪問しようとすれば、いつも何か大きな弊害が起きた。まるで運命がこの地に止まらせようとしているとでもいうように」


 とエンキが言った。


「私もそれは不思議に思ったわ。ニビルのもたらす星の引力による因果関係の問題がほとんどではあると思うけど、星の宿命なのか、地球での問題なのか…。私達では覆せない何か大きな力を感じるのは間違いないわね」


 とニンマーが言った。


 彼ら3人は、この宇宙の意思がもたらす、彼ら自身に、アヌンナキに、人類に、地球に待ち受ける、“運命”、もしくは“宿命”を見守ることに決めた。






1※ 年代記では彼について、天空に旅立った、死めまでそこに留まったと記されている。エンキメは天空に出発する前に文書に記録を残し、マツシャルに託した。エンキメはエノクとされ、エンキとウツに認められた人類初の聖職者となり、アヌンナキを讃える宗教の元となったとも考えられている。アヌンナキ崇拝の儀式が始まったのはエンシからであると考えられ、エンシは聖書でエノシュ、エンキメはエノクであり、非常に似た名前であるのは、両者がアヌンナキから知恵を授かり、聖職の原型となった象徴であるともされる。またエノクが天空に旅立った逸話の元にもなったと考えられる。




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