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創世妄想記  作者: ホリ
19/28

人類創世

 時はさらに流れ、12万年前、この頃、地球上のルルアメル達の人口が大幅に増加していた。

 ついに、アブズでの肉体労働を課せられているアヌンナキはほぼいなくなり、暴動や不満の声少なくなったものの、”平穏”、それはまたつかの間の出来事であった。


 金の採掘、輸送も円滑に進み、ニビルの大気層は厚く地球の金によって保護され、アヌンナキの長かった重労働は終わりを迎えようとしていた。

 アヌンナキが地球に降り立ってから、30万年以上が経ち、地球生まれのアヌンナキも増えた。

 それを含むとニビル星人全員を一斉にニビル星に帰還させることは不可能であった。

 当然ながら王族や貴族が優先されることとなったが、当然のように反発の声が上がった。

 特に、現役で重労働を課されているアヌンナキの労働者達の不満は相当なもので、ニヌルタの管理下であるバドティビラで事件の発端となるある出来事が起きた。


 ニヌルタはエンリルに、


「父上、何故アブズだけにルルアメルが配給されるのですか? バドティビラではルルアメルを求める声が多数上がっており、もう抑えきれません」


 ニヌルタは自身も含めて長らく不満に思っていたことを口にした。

 アブズではルルアメルが採掘の仕事だけではなく、単純な身の回りの雑務をこなすという。

 それを聞いたエデン周辺の都市ではルルアメルを欲しがるアヌンナキが後を絶たなかった。

 しかしこの問題は、エンリルによる、ルルアメルのエデン追放という、根本を覆さねばならず、単純なようで複雑に絡み合い、解くのが困難な問題であった。

 しかしその事の重大さ等知る由もない若いアヌンナキ達には理解できるわけもなく、ただアブズのアヌンナキ達がルルアメルを使役して、裕福な生活をしているようにしか見えなかったのだ。


 しまいにはニビル星に帰ることも出来ず、帰星したところで、地位も、職も、家も保証されていない、不透明で不確定な状況がより彼らの不満を煽った。


 バドティビラは、金輸送の要てある都市であり、数ある都市のなかでも最も発展した地である。

 外から見るとアブズでは、金の採掘が終わり、上流階級から順にニビル星へ引き上げ始め、それ以下の階級の民衆も、重労働に課せられることはなく、ルルアメルを率い、ゆとりのある生活をしているように見えた。

 それに引き換えバドティビラでは未だに、重労働に勤しむアヌンナキが多数であったし、ルルアメルも供給されないままであった。


 そしてさらなる問題が起きていた。


 アブズでは、ルルアメルの人口増加により食料が足りなく逼迫してきていたのである。

 アヌンナキが精製、栽培した食物だけでは足りず、さらには食料栽培に従事する労働者不足が繋がり、地球上に実った食べ物だけでは全体を賄えなかった。


 軽く言葉を理解し、命令通り忠実に、採掘のような単純作業であればこなせるルルアメルであったが、狩猟や農耕等、複雑な知識や繊細さを求められる作業は理解出来なかった為、労働を課せられている間彼らは、与えられる食料じゃ足りない分を、野山で食料を漁りながら生活をしていた。


 そんな中唯一食料が豊富であった海洋も、ルルアメルの知能では漁など出来るはずもなく海の幸とはまだこの頃は無縁であり、耐性すらなかった為、陸地で食料を確保する他なかった。


 エンキは、そんなルルアメルの姿を観察しながら能力開発の必要性について考えていた。


 そんな最中にまた新たな事件が起きた。


 バドティビラでの、ルルアメルを巡る論争についてエンキとエンリルが話し合った。


 そもそもエンリルがエデンからルルアメルを追放したのにとエンキは内心この議題に対しては最初から否定的であった。


 しかしエンリルの許可なく陰ながらルルアメルの滅亡を防ぎ、人知れず助けた事実がある為、それをエンリルに悟られる訳にもいかず、エンキもルルアメルに関わる事象に関しては慎重に事を進めていた。


 エンリルも、自身が降した決定を覆すのはプライドが許さなかった為、ニヌルタとバドティビラの要望を容認するつもりはなかった。


 それでもアブズでのルルアメルの従順な働きぶりの噂は、エデンをはじめ、各地で抑えきれないほど広まっており、ルルアメルを求める声は日に日に高まっていた。


 エンリルの決定をニヌルタ自身も黙ってはいられなかった。


 ニヌルタは労働者階級の不満を募らせる者達を扇動して暴動を企てた。

 ニヌルタが中心となり、配下を連れアブズに赴き、ルルアメルの集落を襲撃し、彼らを捕獲してエデンに連れて来たのだった。


 これにはエンキもエンリルも激怒した。


「私がアダムとティアマトをエデンから追放した! それをよりにもよってお前が!!!」


 エンリルはニヌルタに罵声を飛ばした。


「しかし父上…奴らを連れてこねばまた再び暴動が起きかねない状況でした…」


 ニヌルタは跪き必死で弁明したが、エンリルが納得することはなかった。


「勝手にするがいい。私は一切お前のしたことに責任は持たない。今後一切の援助はないと思え」


 ニヌルタは、かつてアブズで発生した暴動を懸念して強行的に今回の暴挙に踏み切った。

 エンリルは心の内ではそれが事実なのは分かっていた。


 ニヌルタは、エンリルから見放されながらも、捕獲したルルアメルをバドティビラにて飼育し始めた。

 ニヌルタは、ルルアメルがバドティビラの住人に従事出来るよう、あらゆる雑用をこなせる召使として訓練した。

 連れてこられたルルアメルは衣服を着用しておらず、ほぼ裸同然で使役されられ、奴隷のような待遇にもめげずに、従順に従事する傍ら、着々と日に日に数を増やしていった。


 エンキはこのルルアメルを道具として、家畜として、奴隷としか見ていない一連の所業を憤慨しながら見ていたが、今後のルルアメルの地位向上の為ならと、固唾を飲んで見守った。


 こうしてアブズ以外の5つの都市でもルルアメルが増え続けていった。

 地位の高い家庭に必ず1人は、ルルの奴隷がいたが、増えすぎてあぶれた大半のルルアメルは、専用の寄宿舎で家畜同然の扱いを受けた。しかも男女共にまとめて入れられていたため、絶えず交尾を繰り返し、さらに繁殖していった。

 

 ついにはニヌルタの都、バドティビラにも食糧危機が襲ってきた。

 エンキとエンリルは、またもやこの緊急事態に対して緊急会議を開いた。

 会議ではまずエンリルが珍しく公然とエンキを厳しく責めた。


「そもそも兄者のせいでこんな事態になってしまったのだ。奴らだけではなく、我々の食糧まで不足するとは…。この解決策は兄者が考えるべきだ」


「確かに、私に責任があるかもしれない…。しかし、彼らの誕生によって我々の労働が救われたのも事実だ」


 結局その日は大きな進展のないまま会議は解散となった。


 しかし、実はエンキには密かに練り続けていた策があった。

 以前、人類が絶滅しかけた時から構想を練り続け、研究を続けてきた。

 エンキは、ルルアメルの知能を向上させ、社会を形成させ、文明化を図らせようと考えていた。

 しかしこれをするにはきっかけが必要であり、明らかな理由が必要であった為、その機会をずっと窺っていたのだった。

 ルルアメル自身に作物を育てさせ、農耕、狩猟をさせ、衣服を作らせ、住居を建てさせ、自分達で生きる術を持たせる。


 “進化”を促す。


 ただそれは最初は人類への、自らの作品への愛着、いや、興味だろうか。

 エンキの科学者としての探究心であろうか。

 どちらにせよそれは後に、爆発的な時代のうねりを生むこととなる。


 エンキはずっとルルアメルをよく観察して研究していた。

 そして長い間懸念していたことがあった。

 それは時が進むのと並行して着々と進んでおり、外部からの干渉でしか解決出来ないレベルにまで陥っていた。

 それは、長い間、ルルアメル同士で繰り返される交配によって、彼らは野生へとどんどん退化していたのだった。

 ルルアメルの知能を創造時よりも向上させる。

 それは遺伝子操作の範疇を超えていた為、エンキは秘密裏にある計画を立てた。

 単純に興味本位もあったのかもしれない。

 もしくは生殖本能、もしくはまた別の、性欲からきたものなのか、純粋に結果への興味からかは分からないが、結果としてそれは、世界を大きく前進させることとなる。


 とある日、エンキは考えていた実験を実行に移そうと、高官のイシムドと共に、川のほとりで水浴びして戯れる 2 人の美しいルルアメルの若い娘を見つけ、観察していた。

 エンキはその純粋な野性美に目を奪われてしまった。

 

 エンキは、彼女達に挨拶がしたいとイムシドに頼んだ。 


「はっ! もちろんでございます。舟を寄せましょう」


 イシムドは船を下降させ、娘達のいる岸辺の側に寄せた。

 エンキはアヌンナキの中でも性に奔放であり、調査、実験という任務を担いながらも、2人の娘に夢中になっていた。


 エンキは舟から飛び降り、その2人の娘に近付いた。

 エンキに気付いた娘達は驚き、目を丸くしてその場に立ち尽くした。

 エンキは、娘達に声をかけると、懐から出した箱の中から美しい首飾りを取り出し、1人の娘の首にかけてあげた。

 するとその子は喜び、エンキの後について森の中へと消えていった。


 エンキが足を止めると、その娘は近くの木になっていた果実をもいで差し出した。

 エンキはその所作に居ても立っても居られず、思わず娘を抱きよせらキスした。

 触れる唇は甘く、成熟した身体はエンキを満足させた。

 もう一人の娘は、この様子を興味深そうに覗いていた。

 娘との事が済むと、エンキはそのもう1人の娘も呼んだ。

 すると、その娘も野原から摘んできたベリーを純粋で屈託のない笑顔で彼に差し出した。

 エンキはその娘にも首飾りをかけてあげ、抱きしめた。


 その後、エンキはイシムドが待っていた舟に戻ると、彼に言った。


「この場に留まり、2人を観察するように」


と命じた。


 2人は妊娠し、幾月か後、1人は夜明けに男児を産み、同じ日の夕暮れ時に、もう1人が女児を産んだ。

 イシムドはそれをエンキに報告した。


『誰がこのようなことを想像したであろうか。我々とルルアメルの間で子が成せるとは。私は自身の血で新しい種族を創ったのだ!!』


 とエンキは有頂天に喜んだ。


「この行いは、皆には秘密にしておく。彼女達が無事新生児を産み、授乳させ、育てるのをサポートしてくれ。いずれ、そうだな…家族に迎え入れようではないか。突然変異にて知的進化したルルアメルの子が1※パピルスの茂みの中で、花の籠に入っているのを見つけた。とそう言う事にでもしておこう…」


 イシムドはエンキの指示、その通りに離乳するタイミングを見計らい、2人の赤子をエリドゥのエンキの待つ屋敷へ届けた。


「あら可愛いわ。誰の子なの?」


「これはこれはダムキナ様。今日もまた大変麗しゅうございます。実はこの二人、ルルアメルでございまして…、パピルスの茂みの中、花籠に入れられているところを発見しました…。放置しておくわけにもいかず…どうしたものかと……」


 イシムドは、エンキとの口裏合わせ通りに説明した。


「あら、可哀想に…。捨てられていたのかしら。でも大丈夫。私が育ててあげますからね」


 ダムキナは2人に触れ、優しく話しかけた。

 ダムキナは2人の子を大層気に入り、名をアダパ、ティティと名付け、自身の子であるように愛情を持って可愛がった。


 実際、人類はティアマトの遺伝子を持ち、ティアマトはダムキナが産んだのだから愛情を抱くのも必然だったのかもしれない。

 そして精子はエンキのDNAを掛け合わせた物、つまり遠い先祖がまた祖先である創造主と混じり合って産まれた存在、それが”アダパとティティ”なのである。

 エンキは自身のDNAを間接的ではなく、より色濃く直接子孫へと反映させることに成功したのだ。


 アダパとティティの2人は明らかに他のルルアメルの子と違っていた。

 2人は普通のルルアメルの子とはかなり違い、アヌンナキのように幼少期はすぐ終わり、青年期に達すると、そこから老化することはなく、長寿の兆しを見せていた。

 そして、高い知性を持ち、言葉を理解し、学習し、喋ることも覚えた。

 

 ティティは、日毎に美しさが増し、手先が器用だった。

 そんなティティにダムキナは手芸を教えた。

 ティティは教えた通りに、パピルスで籠を編み、アヌンナキと同じように工芸に親しみ、賢く美しい乙女に育った。

 そんなティティをダムキナは実の娘のように可愛いがった。


 アダパはエンキが直接教育した。

 文字の読み書きに留まらず、天体の観察や、様々な物理や科学の知識などを教え込んだ。

 エンキは、教養が身についたアダパを自身の助手として育てることにした。


 エンキはイシムドを屋敷に呼んで、2人の成長具合を報告することにした。

 イシムドが屋敷に訪れる、腰をかけるとちょうどその時、ティティがハーブティーを運んできた。


「なんと優雅な手捌き。見事でございます」


「まだまだこれだけではない。さぁティティ、得意の歌を披露しなさい」


 ティティは少し恥ずかしそうにして畏まると、


「では母様が好きな歌を一曲…」


 ティティは丁寧なお辞儀をし、歌を披露した。


「なんと…。美しい歌声で…。殿下、私イシムドは驚きました! そして殿下の成すこと、それは全てに意味がある、私等の下賤な者の想像を絶する先まで見越してらっしゃる。まさに奇跡! 私はようやく理解できた気がします」


 イシムドはエンキの前に跪き敬服した。


「まさしく、私が目指していたのはこれだ。ついに私は完成させたのだ。私自らが生み出したのだ。傑作に違いない。いずれ彼ら自身が繁栄する未来が見える。その時は訪れる。ニビルから届いた家畜もこの星に合わせて改良した。彼らに自らの手で家畜を育てさせ、毛を刈らせ、乳を搾らせる。そして作物を育てさせ、収穫させ、自給自足をさせる。そして社会を形成させ、繁栄させる。これからが本格的なルルアメルの実験なのだ。彼らには知性があり、やがてそれは文明となり、私の意思を継いでいくであろう」


 イシムドは、偉大なる主君に深く感銘し、敬服した。


「話は変わるがイシムド、あの秘密はしっかりと守ってくれるな? あの件に関しては口外禁止だ」


「はっ! もちろんでございます」


「あと、弟に一度見学に来るように誘ってくれ」


「かしこまりました」


 イシムドは一礼すると踵を返し、エンリルの元へ舟を飛ばした。

 彼はエンリルに会うなりエンキからの言付けを報告した。

 エンリルはイシムドの話を黙って聞いていたが、その驚愕なる内容には疑心暗鬼だった。

 事の重大なさを感じ、エンリルはエンキの屋敷を早々に訪れた。


「驚くべきことに、荒野で新しい種類のルルアメルが生まれた。彼らには高い知能があり、言葉を理解し、知識を教えることが可能なのだ。彼らに学習させ、自ら食料を自給させ、社会を形成させてみてはいかがだろうか? それにより今ある問題も解消されるはずだ。私の手元にはニビルから持参した種を地球の環境に適応するよう改良した作物がある。彼らに育て方を教え育てさせよう。そして我々とルルアメル、共に食には困らなくなるであろう」


 とエンキは言った。

 報告を聞いた後、エンリルはどこか引っ掛かりを感じた。


「実に妙だ。不思議でならない。どうしてこのような突然変異が起きた? 彼らは我々にとても似ている。それがあの種から自然に生まれるとは…」


 訝しんだエンリルはイシムドを呼び出したが、イシムドはエンキに忠実であり、言われた通りに説明した。 

 イシムドはうまく切り抜けようとしたが、エンリルは決して彼を信用しようとはしなかった。


「どちらにしてもこの件はまだ伏せておくように。王には私から直接知らせておく。兄にその旨を伝えてくれ」


 エンリルはそう言うとイシムドを帰した。


 エンリルの知らせを聞いたアヌは心底驚愕した。

 

「長い宇宙の歴史の中でもこんなことは前代未聞だ。しかし驚愕な出来事が起きた。まるで地球自身が進化を促しているかのようだ。まさに奇跡としか言いようがない」


 アヌは側にいた家臣の高官イラブラトに言った。


「生み出した1つの種族からもう1つ新たな種族な生み出されるなど。しかもこんな短時間で進化を引き起こすとは前代未聞ではないか? まったく聞いたことがない。その生き物は繁殖も可能なのか?」


 そんな風にニビルで議論している間にも、エリドゥで重大な出来事が起きた。


 アダパの子をティティが孕ったのである。

 そしてティティは無事アダパとの子を産んだ。産まれたのは双子の男の子だった。


 その知らせをさらに聞いたアヌは異例の命令を下した。


『アダパをニビルに連れてくるのだ』


 


 

1※ アダパには捨て子という意味があるとされる。対象的にティティには命ある者という意味があると考えられている。人類は祖先を辿ると、誰もがエンキ、ニンマー、ダムキナの遺伝子を継いでおり、”神は自分に似せて人を作った”、”人は神の子”ということになる。そして、“パピルスの茂みの中で、華の籠に入っているのを見つけた” の話はモーセ誕生場面の原型となっているという説がある。

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