アンズーの反乱
時は流れ今から30万年前、アヌンナキたちの間では、変わり映えのしない食事や際限なく続く重労働、早すぎる地球の周期に不満が高まっていた。
採掘は尋常じゃないほどの人手がいるうえに、過酷な重労働である。
従事するアヌンナキたちの中から不満が生まれるのは時間の問題だった。
しかし星を救う為には少しでも早く、多くの金を母星に送り届ける必要があった。
ニンマーの持参した万能薬、エリクサーは充分な量はなく、一般にまで支給されることはなかった。
3600年ごとに、労働者の入れ替えが行われたが、より労働環境の悪い火星に配属する者からの不満が途絶えることなかった。
そこでエンリルとエンキは、火星司令官であるアンズーを呼び寄せ、話し合いを行った。
アンズーは地球にやってくると、久方ぶりの空気と、清々しさ、暖かさを堪能した。
堪能したと共に沸々と怒りが込み上がった。
自分たちが火星という環境化において、淡々と業務に励む間、この美しい星で子孫を増やしたり、川で水浴びや、生い茂る木々の下を散歩するこの目の前の男に憎しみが膨れ上がった。
アンズーの身体には王族の血が流れていた。
アヌとは系譜を分けたアンシャガル、前王ラーマの血統、追放され、亡き者にされた前々王アラルとは親戚関係にあり、それゆえにアンズーは火星にてアラルの痕跡を探していたのだった。
己に流れる血が高貴だと自負する故に、一族への対応が許せなかった。
そんなアンズーの感情を露程も感じ取れなかったエンリルとエンキは、アブズを案内し、金の採掘現場を見せ、ニップールからの輸送までの流れ、管制塔のシステムを見せ、火星で従事するアヌンナキとイギギの待遇を補償すると提案した。
だが時はすでに遅く、当初のアンズーの目論見通りに事は進んでいた。
火星ではイギギたちが反乱の狼煙を上げる準備を進め、アンズーは地球を掌握するために必要だった情報と、目を盗み管制塔に組み込まれていた天命の書版を奪うことに成功した。
書版を手にしたアンズーが火星に戻ると、地球と火星の王として讃えるべく準備をしていたイギギたちが謀反を起こした。
その頃地球では、本来光を放ち、稼働していた管制塔が光を失い、静寂さで事態の異常さを放っていた。
エンリルは書版が盗まれた頃、呑気にも水浴びをしていた。
報告が入った頃にはすでに、書版は持ち去られ、火星で謀反が起こった後であった。
エンリルは激怒し、緊急招集をかけた。
「皆耳には入ったと思うが、謀反が起きた。あの忌まわしき1※アンシャガルの血族の者など最初から信用すべきではなかった」
「彼に役職を与えたのは我が王です。それは王への反逆罪に繋がりますよ?」
ニンマーは淡々とエンリルを粛正すると、
「どちらにせよ、書版は取り返さなければならない。奴に使いこなせるとは思わないが、向こうに書版がある以上、油断は禁物だ」
エンキは自身が何より書版の危険性を理解していた。
単なるスーパーコンピューターではなく、自立学習型のAIでもあり、素材さえあれば兵器を作成することも容易であったし、こちらの情報も筒抜けであった。
その為、正面から迎え撃つ以外に撃退する方法はなく、対峙するのも容易ではなかった。
「全勢力を持って静粛するのみ」
エンリルはそう言い放つと、軍に召集をかけた。
その中にはエンリルの息子であるニヌルタもいた。
ニヌルタは極めて優秀なパイロットであり、その勇猛果敢な性格は父親譲りであった。
こうして火星と地球との全面戦争が始まったのだった。
アンズーは天命の書版を手にした自身に過信していた。
イギギたちの乗る戦闘機にリンクさせ、自動迎撃システムを稼働し、シールドを展開させた。
しかし戦いが始まってみると、エンキが開発した新兵器が火星軍を圧倒した。
超強烈な電磁砲に加え、ニヌルタの超絶な操縦技術により撹乱され、端から崩れた火星軍は一気に総崩れとなった。
火星基地は焼き払われ、火の海となり、次々と反乱軍は投降した。
ただアンズーの乗る戦闘機だけは、新兵器である超高速の光の矢のようなレーザーを巧みに交わし、一切当てることが出来なかった。
戦いは膠着状態となり、長引くかと思われた。
だがしかし勝ち目がないと判断したアンズーは、あらかじめ設定しておいた宇宙間ワープを発動させ、逃亡しようと試みた。
だがエンキは、対策としてまた新たな武器を仕込んでいた。
「これで風を支配する」
そう言い放ち、兵器を稼働させると、風が荒れ狂い、粉塵が巻き起こった。
視界と風により操縦を奪われたところを好機と判断したエンキが2※ディルルを撃てとニヌルタに指示を出した。
ディルルは見事に命中し、アンズーの乗る戦闘機の撃墜に成功した。
撃墜された戦闘機から脱出したアンズーはすぐさま捕らえられ、天命の書版も回収された。
アンズーが捕まったのを聞くと、元々劣勢であったイギギたちも降伏をした。
裁定の7名が選出され、裁判が開かれた。
エンリル、エンキ、ニンマー、ダムキナ、ニヌルタ、マルドゥクと、アヌンナキでも位の高い者が集められた。
「アンズーは、自身の野心を周囲に蔓延させ、そして愚かにも、イギギを盾に逃亡しようとした卑怯者だ。そんな奴は一族として許してはおけない」
と、ニヌルタが発言した。
「まぁまぁ、彼やイギギが不当な扱いを受けていたのも事実。イギギが賛同したのも頷ける話。不当な差別のせいじゃありませんかね」
一同がニヌルタに賛同する中らマルドゥクが挟むように言った。
「しかし事を起こしたのは事実裁かれねばなりません」
ニンマーは制するように答えた。
マルドゥクは笑顔を取り繕うと、内面恨めしい気持ちを抑えこんだ。
「アンズーが我々を、そしてイギギを犠牲にしようとした事実は変わらない。よって死刑とする。異議あるものはいるか?」
エンリルが周りに同意を求めると、満場一致でアンズーの処刑が決まった。
刑が執行され、司令によってエンキの息子であるマルドゥクにより、アンズーの遺体は火星のアラルの横に埋葬された。
火星に赴く前、
「火星の司令官をお前に委ねたい」
エンキはマルドゥクの肩に手を置き言った。
「私なんかで務まるでしょうか…」
「大丈夫だ。お前は優秀だし、そして何より私の息子だ」
マルドゥクは頷くと、母であるダムキナに挨拶をし、身を翻して部屋を出た。
マルドゥクは思った通りにことが進みほくそ笑んだ。
「あのエンリルとニヌルタのクソ野郎。偉そうに俺を、父上を、母上を見下しやがって。あいつらを絶対引きずり降ろしてやる」
そしてそのまま火星の司令官はマルドゥクが務めることとなったのだった。
1※ アヌ一族とはまた違う系譜を辿ったアヌンナキの王族。アラル、ダムキナはこの系譜。
2※ ディルル、シュメール神話、ヘブライ語でチルルム、高性能ミサイルのこと。




