少女の憧れ③
大昔の日記に描かれていた魔女と
今目の前にいる魔女が同じである。
それにを理解した母親は驚きを隠せないでいる。
「私たちはまた、あなたに助けられて……」
「いいんだ、もとはと言えば最初に助けてくれたのは君たちのご先祖だ。」
「魔女さん……あなたが、日記の魔女さん……!」
「確信を持てなくて言えなかったけど、どうやらそうみたいだ。」
最も憧れる魔女が現れた。
少女がウィズに抱き着くには十分すぎる理由だった。
「こ、こら。今は危ないから離れてくれっ」
「いやだっ、絶対離さないもん!」
ウィズは少女を剥がすのを諦め、そのまま魔法を魔獣に放つ。
「さてと、仕上げといこうか」
ウィズがそういうと、村の中にいる残った魔獣たちが風で持ち上げられる。
そして、魔法陣が黄色く光ると
電撃の球が魔獣たちを包んだ。
「”閃光雷”」
それがとどめとなった魔獣たちは煙のように消えた。
「これで終わりだね」
「ありがとうございました! また村の危機を救っていただきました!」
「やっぱり、魔女さんってすごい!」
キラキラとした目でウィズを見上げる少女。
これには思わずウィズも少し照れた。
「しかし、魔女って年取らないものなんでしょうか?」
「ああいや、私は長い間封印されてたから……」
少女の母親とウィズが話していると、カインとジャックも戻ってきた。
「お前ら、何の話してるんだ?」
「なに、他愛もない話だよ」
「こっちは大丈夫だったか?」
「私がいるんだぞ、無事に決まってるだろ」
「ほかの皆さんもほんとにありがとうございました!」
気が付けば村中の人が三人を囲んでいた。
ウィズは日記の内容を思い出す。
(もしかして、またまずいことになったか?)
しかし、三人に向けられたものは盛大な拍手と感謝の声だった。
皆三人をたたえてくれていた。
「いやあどうもどうも」
「まあ、悪い気はしねえよな」
呑気な二人は村人たちの賛辞を素直に受け取った。
少し緊張したウィズも一気に安堵する。
(よかった。魔女だってことはバレてなさそうだな……)
少しして、三人は村を出発することに。
「もう、行ってしまわれるのですか」
「まあね、私たちの目的地まだまだ遠い」
「オレはもうちょっといてもよかったけどな」
母親にくっついていた少女はウィズに駆け寄る。
そして服の裾を手で引っ張りながら言った。
「あ、あのっ、私を魔女にしてくれませんかっ!」
「ええっ?」
急な申し出にウィズは面食らってしまった。
「あれ、この親子に魔女だってバレてんの?」
カインがひそひそと小さな声で確認してくる。
「あ、ああ訳あってね。それはいいんだけど……」
「だめ、ですか……?」
「私からもお願いします。」
「えええっ、お母さんまで!?」
「困ったな……」
母親までウィズに申し出るものだから、カインとジャックは余計驚かされる。
が、ウィズの答えはこうだった。
「すまないが、それは無理だ。」
「えっ」
「私たちの旅は長い、その間君のお母さんは誰が守る?」
「そ、それは……」
「大丈夫、また会えるさ。その時は大きくなった君を弟子にしよう。」
「……わかった。約束だよ……?」
「約束だ」
納得した少女にウィズはしゃがんで額を合わせた。
少女の表情は明るくなった。
「……そういえば、君の名前を聞いていなかったね」
「私? 私は、アストル!」
「アストル……いい名前だね」
ウィズは優しく微笑み、立ち上がる。
「それじゃあ、また」
「またねー!」
「お気をつけて!」
三人に手を振って見送る親子。カイン達も手を振り返した。
「よかったのか? 魔女に憧れてるんだろ?あの子」
「魔女の血を引かないものが魔女になるのは果てしなく難しいことなんだ」
「そう、なのか?」
「ああ、理論上は可能だが、前例すら聞いたことがない。」
「おいおい、それなのに希望を持たせるのは酷じゃないか?」
ジャックがウィズを責めるようにいったが、ウィズは真剣に応えた。
「あの子なら、できる気がしたんだ。それに既に可能性は植えて来た。」
カインは少女とウィズが額を合わしたことを思い出す。
「あの時か……」
「ああ、魔力を彼女の体にね。素質があって、本当に上手くいけば、だが。」
「でもまあ、あの子なら出来そうな気がするよな。」
「なら、期待して待ってるか」
かかっ、とジャックが笑う。
しかし、ウィズはまた思案していた。
(それよりも、だ。なぜ、またあの村で魔獣が発生した?)
(しかもウルフェン……山岳に住む魔獣が平野まで降りてくるなんて……)
(まさか、な……)
所変わって山岳。
先ほどの村が見下ろせる。
「退けたか。しかも、住人に被害もなく……」
焚火を背にどっかりと腰を下ろしていた男は
前にウィズたちを追跡しに来た”アクセル”という鎧の男だった。
アクセルは球体状の魔導具を起動させる。
「陛下、ほんとにこのようなやり方でよかったのでしょうか。私が直接向かった方が……」
「口答えするな。まだ、お前を奴らに知られるわけにはいかない。」
「……失礼しました。」
「それに奴らは魔力に敏感だ。それではまた逃げられる。」
「仰る通りです。私が至らないばかりに……」
球体に向かって跪き、頭を垂れている。
するとまた球体から声がした。
「まあいい、戻って来い。次の策を講じる」
「了解しました。では。」
アクセルは山を下り、下に待機させていた馬に跨った。
「魔女風情が手こずらせおって……」
彼の乗った馬は闇夜を切り裂くように走り去っていった。