少女の憧れ②
「この子、その、魔女に憧れているみたいなんです」
少女の母親はうつむきながら言った。
確かにこの魔女狩りの国において、あろうことか魔女に憧れるなど忌み嫌われてもおかしくはない。
「憧れ……また何でそんなことに?」
「そうだよな。魔女なんて、無いものも同然だろ?」
ウィズとジャックの疑問に、これまた母親は気まずそうに答える。
「恐らく、私たちの家に伝わる話の影響なんです……」
母親は本棚からやけに古臭い日記を取り出してカイン達に見せた。
そこにはこんなことが記されていた。
今日、この家に二人の魔女が来た。
どちらもひどい怪我をしていた。
私は悩んだが、助けることにした。
苦しむ者を見殺しには出来なかった。
魔女たちが目を覚ました。
私が助けたことに納得がいっていないみたいだったが。
それでも感謝はしていた。
国から聞いていた魔女の印象とは違って、とても悪い奴らだとは思えない。
「こんなことが……」
「でもよ、これがどう魔女に憧れることに繋がるんだよ?」
「それは、ここからのページを読んでいただければわかると思います。」
村に大量の魔獣が現れた。
こんなこと今までなかったのに。
でも、村は無事だった。
あの魔女たちが助けてくれた。
彼女らの使う魔法は圧倒的で、魔獣たちを一網打尽にした。
結局、魔女たちはこの村を出ていった。
でも私は彼女たちが優しく、強かったことを忘れない。忘れたくない。
そのために、この日記は後世にも残していこうと思う。
ウィズがぱたんと日記を閉じる。
ジャックは伸びをした。植物に伸びとかあるんだろうか。
そしてはははと笑みを見せながら納得したようにしている。
「村の英雄じゃねえか、こりゃ憧れるな」
「ああ、この子が憧れるのもまあ分るよな」
気が付くと感心しているカインの足元に、先ほどの少女いた。
「起きてたの……怪我は大丈夫?」
「うんっ 元気だよ!」
少女は体の心配する母親のもとへ駆けよる。
そんな穏和な雰囲気の中、ウィズだけは表情が曇っていた。
いや、何か思案しているようであった。
しかし、ジャックとカインはそれに気づくこともなく、少女と遊んでいる。
「カボチャさん! すごい! 喋ってる!」
「喋れるどころか。魔法すらお手の物だぞ?」
いい気になったジャックは指先に炎を灯して見せる。
「おい、ジャックここでやると危ないだろ」
「そうだったな、すまんすまん」
「カボチャさん魔法が使えるの!?」
「俺は魔導人形だからな、これくらいは朝飯前だ」
他にも、とジャックは少女を抱えて身長を伸ばす。
「こんなこともできるんだぜ~?」
「すごいすご~い!」
微笑ましい光景を見ていたカインにウィズが何やら話かけた。
カインはウィズの表情が重いことに初めて気づいた。
「……どうしたんだ」
「いや、ちょっとこの日記に思うところがあってね」
「まさか、お前……」
カインが言いかけたとき、村の中心の方から悲鳴が聞こえた。
慌てて外へ出る三人と親子。
その目の前には大量の魔力を持った獣たち、魔獣が発生していた。
「ウソだろ……さっきまで何もいなかったのに、なんで!?」
「ウルフェン。狼のように群れで狩りをする魔獣だ。」
驚愕するカインに対して、ウィズは冷静に魔獣の分析をする。
「あいつらの目は透視ができる。隠れるのは無駄だ。」
「君たちは私たちの後ろにいてくれ」
ウィズは少女と母親にそういった。
二人とも怯えていたが、すぐにカイン達の後ろに移動する。
ジャックは既に臨戦態勢だった。
ウィズも本を開き、カインは短剣を抜いた。
「じゃあ、やるしかねえよな!」
カインは数匹のウルフェンが次々と襲ってくるのを見切ってよける。
そして、避ける際にその足を切り裂いていく。
まともに歩けなくなったウルフェンたちは引きずるようにしてその場から逃げる。
ジャックも炎が民家に引火しないようにしながらも、
高火力の一撃で大量のウルフェンを始末した。
二人がどんどんと魔獣を刈り取っている中、
ウィズは親子の近くでこぼれた魔獣から二人を守っていた。
「す、すみません、ありがとうございます!」
「いいんだこれくらい。それにこれは私のやるべきことだから」
「やるべき、こと……?」
「お母さん、あの日記にはいくつかページが切り取られた形跡があった。古かったし、随分と分かりにくかったけどね。」
「……!」
「娘さんには見せたくなかったんだろう? 憧れの魔女が忌み嫌われているところなんか」
「お母さん……どういうこと?」
母親は家を飛び出した時に持っていた写真立てを抱きしめる。
「一人その写真立てを取ってから出て来た。それに切り取った部分が入ってるのかい?」
「よく、分かりましたね。」ま
「私は本に詳しくてね」
すると、少女の母親は寂しそうに語った。
切り取っていた日記のことを。
「昔の魔獣襲来のあと、魔女たちは村の人々に魔女であることがバレました。」
「村人たちはそれを許してはくれなかったと」
「はい、ひどい仕打ちを受けたと……」
「なんで、魔女さんたちは村を救ったんだよ……?」
「そして、その被害は魔女を匿っていた私たちの家にも及びました。」
「なるほど、その魔女たちはそれで村を出ることを決心したわけだ」
親子の表情は暗くなってしまった。
少女に至っては泣きそうにまでなっている。
そんな時、ウィズは大きく息を吐いた。
「よかった、それなら私の記憶と相違ないな。」
「……え?」
「既視感があったから、記憶を探ってみたけど日記と一致しなくてね。」
「そ、そんな……うそ……」
「ほんとに迷惑をかけた」
母親の写真立ての中から出て来た紙の中に、一枚
肖像画のようなものがあった。
そこには茶髪で八重歯の魔女と
翡翠の髪をした魔女が描かれていた。