少女の憧れ①
カボチャ頭のジャックを新たに仲間に加えたカイン達は
王都に向かってさらに旅を続けている。
「しっかしジャックは一体何者なんだ?」
「俺も良く分かってねぇんだよな」
出会ったときにはカボチャの頭だけで見つかった。
その頭に水をかけると体が生えて来るという、何とも奇妙な生態をしている。
すると、前尾を歩くウィズが背中越しに話す。
「私が思うに、ジャック君は魔導人形なんじゃないかな」
「魔導人形?オレが?」
「なんだそれ?魔導人形って」
カインが聞きなれない単語に反応する。
それにウィズに代わってジャックが答えた。
「魔導人形ってのは、いわば自立する魔導具みたいなもんだ。」
「魔導具が自立?」
「ああ、与えられた命令や役割を自らこなす魔導具って言ったら分かりやすいか。」
「そんなものがあるのか」
「珍しい物ではあるな。技術的にも量産できるようなものではないだろうし」
確かに、そんなものがあるとするならばジャックは魔導人形だと思える。
ウィズがそういうのも納得がいった。
ジャックについての考察をしていると、道の先に小さな村が見えて来た。
だが日はまだ高く、三人は村を抜けて次の町へと向かうことにした。
村に入り、真っすぐと出ようと歩く。
しかし、その途中に子供たちが何かに群がっている様子が見えた。
カインはそれが気になっていると、子供たちの足元に人の手があるのが見えた。
思わず走って寄っていく。
「ん? おいカインどこ行くんだよ」
ジャックの声に反応することもなく子供たちをかき分けると
そこには傷だらけになった幼い少女が倒れていた。
「おいっ大丈夫か!?」
少女の反応はない。
ただ事ではない様子のカインのもとにウィズとジャックも来ていた。
「これは……」
「また随分とひどいけがだな」
三人が少女の心配をしていると、さっきまで囲んでいた子供たちが文句を言った。
「お前ら、邪魔すんなよな!」
「せっかくそいつを成敗してたのによ!」
「あとちょっとでトドメなんだから!」
数人の子供たちは口々にそういった。
どうやらこの少女にここまでの怪我をさせたのはこの子供たちのようである。
「なに……? お前たちがこの子にこんなことを?」
カインは怒りと驚愕の入り混じった感情を抱いていた。
しかし、子供たちは臆することなく言い放った。
「当たり前だろ!そいつ、魔女の子供なんだからよ!」
数人いる子供たちのうちの一人がそういった。
「なんだって……? この子が魔女の……?」
「少年、この子の中に魔力が眠っているか見れるかい?」
「あ、ああ。見てみる。」
カインは背中の短剣の柄を握った。
視界に変化が現れるが、少女には何も見ることができなかった。
「いや、特に何もないが……」
「なら、魔女の血が流れてる可能性はほぼ皆無だろうね」
「なんでそんなことわかんだ?」
カインとウィズのやり取りにジャックが困惑する。
「少年は”魔力を視る”っていう魔導具を持ってるんだよ」
「ははぁ、なるほどな。それ、結構すごい魔力じゃないか?」
ジャックが話していると、子供たちが不気味そうな表情になった。
カボチャがしゃべっているので無理もないが。
「か、カボチャ頭……」
「なんだぁ?ガキンチョども」
「ひっ……」
ビビり散らかしている子どもたちを見てウィズは悪い顔になる。
そして、ジャックに耳打ちをした。
するとジャックはニタニタしながら、ぬらりと植物で出来た身長を伸ばし、
顔から火を噴いて声を上げた。
「うぅばぁああああああああ!!」
「「ぎゃああああああああああああああっ!!」」
ジャックの脅しに子供たちは走って逃げていった。
なぜか満足気なウィズにカインは苦笑いをする。
「ウィズ……お前結構悪いこと考えるな……」
「私は魔女だぞ?あの子たちにとってはイメージ通りだろうに」
「はっはっは、いやあ面白かったぞオレは」
子どもたちがいなくなったところでウィズは少女を抱きかかえる。
「さてと、村の大人を呼ばれる前に家に送っておこう。」
しばらく村を巡ると、この少女を見つけて駆けてくる女性がいた。
「あなたたち、その子になにしたんですかっ」
慌てている女性を収めるようにウィズは答える。
「助けたんだよ、村の子たちにいじめられていたみたいで」
「そ、そうでしたか……すみません。ありがとうございました。」
話を聞いて一気に女性は安堵した。
カインはその様子からあることを察する。
「もしかして、この子のお母さんですか?」
「は、はい。」
「やっぱり。怪我の治療は済んでますから、あとはお家で休ませてあげてください」
「ありがとうございますっ。」
少女の母親はなんどもお辞儀をして感謝した。
さらに、三人を家に招待までしてくれた。
「ここが私たちの家です。」
「お邪魔します。」
「いい家だね」
「木造とか、火気厳禁だろ?オレ入っていいのかよ」
「どんな方でも娘の恩人ですから」
少女の母親は三人を喜んで迎える。
質素な家ではあったが、二人で住むには十分な広さだった。
「して、一つ伺いたいことがあるのだが」
ウィズは椅子に腰かけるなり質問を投げかけた。
「はい、なんでしょう?」
「この子をいじめていた子供たちが言っていたのだが……、この子が魔女の子だと」
「えっ、そんなことありません!」
母親は取り乱して否定する。
「まあ、それはわかっているんだ。あなたから魔力を感じることもない。」
(俺の魔導具でも魔力を視れないしな……)
カインは剣の柄から手を離す。
「そ、そうでしたか」
「でも気になるのはなんでそんな風に言われてたかってことだよ」
ウィズが淡々とした言葉で聞くと、少女の母親は気まずそうにしている。
「ははっ分かりやすいな。心当たり、あるみたいだが?」
「ジャック、お母さんビビってるじゃんか」
「悪い悪い。ただ、その心当たり教えてくれないか?母親さんよ。もしかしたら力になれるかもしれねえぞ?」
「え、ええ」
少女の母親は一瞬ためらったが、すぐに口を開いて教えた。
「うちの子、その、魔女に憧れているみたいなんです」