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古の魔女  作者: 酒々井 陵
第一章:魔女狩りの国編
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廃墟の化け物①

カイン達が町の宿から脱出して早数日。

王都ルーカスでは、例の鎧の男が王に謁見していた。


「……して、アクセル卿。通報の正体は魔女だったのか?」

「はい、私の見立てでは間違いないかと」

「そうか……」

「しかし私が現場に向かったのは正解でした。一般の騎士では証拠にすら気づかなかったかと」

「ああ」


アクセル、と呼ばれた鎧の男は王に頭を挙げることなく話す。


「国中に指名手配等の策を講じますか?」

「いや、まだその必要はない。今は国民を混乱させるだけだ。」

「……失礼いたしました。では秘密裏に。」

「ああ、引き続き捜索と捕獲を頼む。」

「仰せのままに」











所変わって、王都から離れた田舎の道。見渡す限り草原が続いている。

が、そんな長閑な道の最中、カイン達はとにかく先を急いだ。


ウィズが魔女であるとバレたかもしれないのがまずかったからだ。

とにかく町から離れる必要があった。


「もうここまで来ればいいんじゃないか?」

「そうだな……追ってきていたら、とっくに見つかってるか」

「すこし休もうぜ……」


カイン達は夜中から現在、昼間まで歩き続けていた。

その疲れからカインは道端に座り込んでしまった。


「まったく、軟弱ものだな」

「うるせえ、途中途中浮いてるウィズに言われたくねえよ」

「こういう時のために魔法を会得してるんだ、正しい使い道じゃないか」


すると、言い合っている二人のもとに一台の馬車が止まった。

御者が下りて、二人に話しかける。


「どうしたんだぁ? 旅のお人かぁ?」

「ああ、ちょっと連れが疲れたみたいで」

「そうかぁ、よかったら俺の馬車乗ってくかぁ?」


なんだか気の抜けた話し方をする御者だったが、

どうやら親切心から馬車を止めてまで気にかけてくれたようである。


「ほ、ほんとか!?」

「こら少年。そんなにがっつかない。」

「いいよいいよぉ、俺も馬車に乗ってる間は退屈してんだぁ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


ウィズとカインは少量の荷物が載せられた荷台へ乗った。

いざ馬車が進みだすと揺れや風が心地よい。


馬車は止まることなく次の町へと向かって行った。






「ここまででいいよ。ありがとう」

「いやぁ、俺も楽しかったさぁ」

「ほんとに助かった、命の恩人だ!」

「なんだぁ? 大げさな人だなぁ」


御者はカインに朗らかな笑顔をむける。


「君は先を行くのかい?」

「あぁ、荷物届けなきゃいかねえからさぁ」

「そっか、じゃあまたいつか、だな」

「またいつかぁ」


馬車はさらに先の町へと向かって出発した。

それを見送るカイン達。馬車が見えなくなったあたりでカインの腹が鳴った。


「ということで腹ごしらえに行こう」

「ほんとに君ってやつは……」


苦笑いするウィズに背を向けてカインは町の繁華街へと歩いた。

ウィズもその後ろに続く。


しばらく店を探していると、カインの目に”肉”の文字が止まった。


「おい、ウィズ。肉だ、肉があるぞっ」

「わかったわかった、あそこにしようか」


カインは空腹のあまりか、店へ吸い込まれるように入っていった。

二人が入った店はランチタイムなこともあり、繁盛していた。


早速席について店員を呼ぶ。


「一番うまい肉をくれっ」

「私はそれの半分程度で構わない」

「かしこまりました~!」


店員は元気に応えると厨房へと消えていく。

カインは既にナイフとフォークを構えている。


ウィズが本を読もうと取り出した時、

先ほどの店員が既に料理をもってきていた。


「お待たせいたしました~!」

「マジでうまそう!」

「えっ、早くないかい?」

「いっただきまーす!」


がぶりと肉に食いつくカインを尻目にウィズは店員をチラリと見る。

ニコニコとした表情を一切変えない。


驚きを隠せないままウィズはもう一度肉に目を落とした。


「ま、まあいいか。……いただきます。」






料理を食べ終え、カインとウィズはその余韻に浸っていた。


「いやあ、ほんとに美味かったなあ」

「そうだね、私も思わず感動してしまったよ」


他愛もない会話の途中、店の扉がバンッと大きな音を立てて開かれた。


「だ、誰かっ、誰か助けてくれ!」


入ってきたのは中年で小太りの男性。

しかし、その表情はあまりにも深刻そうであった。


店内の客もざわざわと騒いでいる。


「何事だろうな……」


カインがそうウィズに話しかけたが、返事がない。

否、ウィズがいなかった。


「どうしたんだい、そんなに慌てて」


(いつの間に……!?)


カインが気づかぬうちにウィズは既にその男に話しかけていた。


「あ、アンタは……?」

「旅のものさ、私でよければ話を聞くが」

「こ、この際誰でもいいっ 力を貸してくれ!」


ウィズが話しかけたことで、カイン達二人は男の家に案内された。

その一室のベッドに、17,8ほどの青年が横たわっている。


その体には包帯がぐるぐると巻かれていて、顔もろくに見えなかった。

かろうじて見える皮膚は焼けただれているようだった。


「ご主人、これは一体……?」

「私の、息子なんだ……」

「どうして、こんなことに」

「”怪物”だ……」

「”怪物”? なんだよそれ」

「町の外れに古い建物があってな、誰も住んじゃいないんだが」

「そこにその、怪物が住んでんのか?」

「そういわれてる。今までも興味本位で近づいた奴らが、息子のような姿になって、既に……」


その先を想像してしまったのか男は次第に涙をこぼし、へたり込んでしまった。

旅を始めたばかりで世間知らずのカインには、父親の泣く姿も、息子の火傷した体も見れなかった。


うつむいているカインの横で、ウィズが前に出る。


「あれだけ近づくなと言っていたのに……」

「失礼ご主人、少しどいてくれるかな」


ウィズは真剣な表情で青年の体に手を向けた。

その手には本を持っていた。


そして魔法陣が現れ、光輝き始めた。

すると、見る見るうちに青年の火傷が治る。


「これで、大丈夫だろう」


男はまるで信じられないような顔でウィズを見上げる。

が、我に返り、青年の包帯を慌てて外し始めた。


青年の体には少しの火傷も残っていなかった。


「なんとお礼をしたら……!」

「そうだね、その怪物とやらの住む建物の場所を教えてほしい。それが礼だ。」

「まさか、行くおつもりですか!?」

「ちょっと思う所があってね……」

「恩人を死なせるわけには……!」

「大丈夫さ、信じてくれたまえ。ご主人。」

「……。」






どんどん進むウィズの後ろでカインが文句を垂れる。


「なあ、ほんとに行くのかよ?」

「なんだい? そんなに怖いのかい」

「当たり前だろ! 俺はお前と違ってただの人間なんだっ」

「君には母の形見がついてるじゃないか、魔導具の。」

「自分から危険に飛び込むためのものじゃねえ!」


カインの制止も聞かず更に目的地へと足を進めるウィズ。


「なんでそんなに行きたいんだよ、怪物んとこ……」

「さっきの青年、見ただろ?」

「見たからこそだ」

「人一人をあそこまでに出来るなんて魔法以外に考えられない。」

「……まさか」


ウィズはまたニヤリとして答えた。




「もしかしたら、私以外にも魔女がいるかもしれない」




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