表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古の魔女  作者: 酒々井 陵
第一章:魔女狩りの国編
4/36

魔導具と魔法陣②

カインとウィズによって撃破された二人の男は

町の住民によって縛り上げられ、引き渡す王国騎士の到着を待つことになった。


「本当にありがとうございます!」

「そんな、俺たち町を……」


カインは戦った後のボロボロになってしまった町を見渡す。


「いいんです! あいつらをやっつけていただきましたから」

「そういうことだよ少年、今はこの感謝を素直に受け取っておこうじゃないか」

「ま、まあそれもそうか……」

「今夜は宴にしましょう! あなた方もぜひ!」

「いいね、楽しませてもらうよ」


盛り上がった町の住民たちは、早速宴の準備に取り掛かるべく動き始めた。

騒がしい町の中、ウィズはカインが背負う剣に目が留まった。


「少年、君そんな剣持ってたか?」

「ああ、これは母さんの形見なんだよ」

「形見?」

「うん、何で剣なんだって感じだけどさ。さっきはこれのおかげで助かったんだよ」

「そっか……」


ウィズには何か気になることがあるらしく、良ければ私によく見せてくれないか?と申し出た。


「いいけど……なんかあるのか?この剣」


カインの言葉が届いていないのか、ウィズは真剣にカインの母の形見を見定める。

そして


「……やっぱりだ。この剣も”魔導具”だ。」

「魔導具?」

「さっきの男たち、やけに力が強いと思わなかったか?」

「そういや、やたらパワーのある奴らだったな」

「あいつらも魔導具を使ってたんだ。」


ウィズは例の二人から取り上げた魔導具をカインに見せた。

一つは靴、もう一つは腕輪の形をしている。


「魔導具は本来魔力を持たない人間に魔力をもたらすものだ。」

「だから、あの時」


カインは剣を握った途端、体がよく動くようになったことを思い出した。


「そう、単純に身体能力も上がるし、特定の魔法だって使えるようになる。」

「魔法も……」

「こいつらの魔導具は身体能力そのものが魔力みたいだけど、君は何か不思議な現象とかなかったかい?」

「そういえば……あった、相手の動きとか考えとか色々読めるように分かったんだ」

「なるほど、おそらくそれがこの剣のもつ魔力なんだろう」


ウィズはカインに短剣を返した。

その鞘と柄は夕日を映して美しく光っている。


「その魔導具っての、やけに詳しいんだな」

「当り前さ、魔導具は魔女が生み出した力。そして、魔女を殺した力だ。」

「えっ……」

「魔女狩りの主力武器として使われたんだ、詳しくもなるさ」

「それは……悪いことを聞いたな……」

「いいんだ」


それより、とウィズはにこやかな表情で優しくカインにいった。


「そろそろ楽しい宴の時間だ、行こう少年」

「ああ」


(魔導具、母さんの形見……ちゃんと使えるようにならないとな)






夜の町は昼間と打って変わって騒がしいほど賑わっていた。

住民たちは酒と豪華な料理を手に歌い、踊り、騒ぐ。


「どうだい少年、酒の味は?」

「あんまりおいしくないな……、料理はめちゃくちゃうまいけど」

「はは、まだまだ子供だな」

「ウィズだって封印されてた年月が長いだけで、俺と年変わらないじゃないか」


カインがそういうとウィズはニヤリと表情を変える。

嫌に不気味で魅力的な表情にカインはたじろいだ。


「それはどうかな、私は魔女だぞ?」

「魔女は年取らないってか?」

「だとしたら?」

「……マジで?」

「フフッ、女性に軽々しく年齢のことを聞くんじゃないよ少年」


ウィズは笑いながら次の酒を注ぎに席を立っていった。


「冗談かよ……酔ってんなアイツ」


一人になると、町の男がやってきてカインに話しかける。

身長が高いがやせ細っていて、顔色もなんだか悪い。


宴だというのに酒も飲んでいないようだ。


「兄ちゃん、今夜うちの宿に泊まっていけよ。タダにするからさ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ。兄ちゃんたちは町の英雄みたいなもんだ。泊まってほしいくらいさ」

「じゃあお言葉に甘えて……」

「そこの角曲がったとこにあるから、休みたくなったら勝手に使ってくれ」

「助かるよ」


男はそれだけ言うとカインに部屋の鍵を渡し、騒いでいる人だかりに消えていった。

カインは早速戻ってきたウィズにそのことを話す。


「やったな、少年。私は疲れたからもう行きたいぐらいなんだが……」

「俺も疲れたよ……まさか旅を始めてこんな戦闘する羽目になるとは思ってなかったし」

「町の人には悪いが、もう休ませてもらおうか」


ウィズとカインは男が言っていた宿に向かった。

鍵の番号が示す二階の部屋には大きなベッドが一つ。カインは少し体が強張った。


「あれ……ベッド、一つか……」

「ん? なんだ少年、私に手を出そうと?」

「ンなわけあるかっ」


あっははは!とウィズは愉快そうに笑う。


「悪い悪い、そもそも君じゃ私をどうにかすることすら出来ないだろうしね」

「うるさい、俺はもう寝るからな」

「ああ、おやすみ。私ももう寝るとしよう」


ウィズの冗談にうんざりしながらも、

カインは既に逆らえないほど迫ってきていた睡魔に意識を落とした。






夜中、カインの眠りを何者かが邪魔した。

気持ちよく眠っていたところにこれだと、嫌でも機嫌が悪くなる。


「少年、少年。起きてくれ」

「なんだよ,まだ夜中じゃないか」

「それどころじゃない、大変なんだ」

「大変?」


カインはようやく目を覚まし、ウィズが慌てていることを認識した。

魔女ともあろうものが取り乱していることに嫌な予感がする。


「なにかあったのか」

「ああ、なにやら大きい魔力がこちらに向かっているんだが……」

「大きい魔力?」

「魔女ではないはず……とすれば、相当強力な魔導具を持った何者か、だ」


ならず者の引き渡しに来る王国騎士は明日に到着すると聞いている。

少なくとも、この時間帯に向かっていることはない。


「私が魔女だということがばれていて、通報された可能性は」

「そんなことは……」


カインにこの宿を開けてくれた男を思い出す。

よく思い出してみれば、やけに顔色が悪かったし、おかしな表情をしていた。


まるで、この世のものとは思えない”何か”を見ているような……


「ある、かもしれない」

「まずいことになったな……」


まさかこんなに早くバレることがあるだろうか。

しかし、悠長にしている暇もない。背に腹は代えられなかった。


「ウィズ、やっぱりここをもう出るしか……」

「……そうなるよね」


カインは窓を静かに開ける。冷たい夜風が頬を伝った。

開いた窓からウィズは魔法で氷の滑り台を作る。


「これで下まで降りよう」

「助かる。やっぱすげえな魔法。」

「感心してる場合か?少年。急ぐよ」


カインが下りたのを見て、ウィズは滑り台を消す。

宿の外に出た二人は、昼間のならず者を監視する住民に見つからないように町の外に向かった。


「もうここまで来ればとりあえずは大丈夫だろう」

「しっかしなんでウィズが魔女だとバレたんだ?」

「恐らく、だが……私が魔法を使う瞬間が見えたんだろう。」

「でも、普通まずは魔導具だと思うんじゃないか?」


この国の国民にとって魔女なんてものの存在は迷信である。

魔導具の存在もあり、ただ魔法を使ったからと言って疑われるようなものでもなかったはずだ。


「いや、魔法についての知識があれば……」







ウィズたちが宿を脱出してから数分後。


「それで、魔女はここにいるんだな?」

「はいっ、この二階に……」


カインに鍵を渡した男はへこへこと頭を下げる。

その相手は、鎧を身にまとった若い男だった。


「態々、五宝聖(ごほうせい)の私が来たのだ……まさか悪戯などということは……」

「めめめ、滅相もございませんっ! 確かにあの女、()()()を……!」

「魔法陣……確かに魔女にしか扱えない代物だが。よく知っていたな」

「こう見えて、魔法には明るい方でして。」


目当ての部屋の前につくと、鎧の男はドアを足で破壊した。

が、部屋はすでにもぬけの殻。


「あ、あれ!? なんでっ」

「ほう……やはり、悪戯だったか?」

「そ、そんな」


鎧の男が問い詰めようとするが、あることに気が付いて止まった。


「いや、まて。窓が開いている……。」


(さらに、慌てて魔法を消した形跡もある)


「は、はあ」

「相当急いだようだな、こんな簡単な証拠を残して逃げるとは」


鎧の男は窓から下に飛び降りた。


「情報提供感謝する。魔女は必ず捕まえて見せよう」


「我々、王国騎士団が」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ