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古の魔女  作者: 酒々井 陵
第一章:魔女狩りの国編
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魔導具と魔法陣①

何もない風景の中、のどかな道を行く少年カインと魔女ウィズ。

ウィズはひっきりなしにカインに質問をぶつけている。


「……で、どうして魔女は人間に負けることになったんだ?」

「さあね、俺だってちょっとした歴史程度の知識しかないし」

「その歴史っていうのは」

「魔女の誕生から、滅亡。この国の建国神話みたいなものかな」


カインは自分の村を出る際の劇を思い出す。

いかにも悪役である魔女を倒し、剣を掲げる英雄。


(あの劇の魔女とウィズはあまり似つかない印象だけど……)


「それには何か魔女の滅亡に関することはなかったかい?」

「ああ……英雄、ってやつか。英雄の誕生が魔女の滅亡に関わってたはず」

「英雄か……その英雄ってのは……」

「そこまで詳しくは知らないよ、ってか質問攻めしすぎ」

「ごめんごめん。……うーん、やはり王都まで行かないと分からないかなあ……」


そんな話をしている間に道の先に建物の群が見えて来た。


「っと、あれ町じゃないか少年?」

「ほんとだ、だいぶ歩いて疲れたし、今日はあそこに泊まるか。」

「そうと決まったら急ぐぞー!」


町を見つけたウィズは途端に元気になり、走り始めた。


「おい、いきなり走るなよ!」


おいて行かれたカインも追いかけるように走り出した。






町に入った二人はまず、今夜泊まれるところを探すことに。

が、探す最中ウィズが何やら気づいた。


「なあ、少年。何か変じゃないか?」

「変って、何が?」

「この町、大きさの割に外にいる人が少なすぎると思うんだ」

「……たしかに」


カインが町を見渡しても、人が全く見当たらない。

中には余所者が珍しいのか建物の中からこちらの様子を伺うものもいるが。


外にいる人をようやく見つけたと思っても、そそくさと中に消えて行ってしまう。


「やっぱり変だ……まるで、何かに怯えるような……」


ウィズがそこまで話した時、何やら喧しい音が響いて聞こえた。


「なんだ……あれ?」


町の大通りをバタバタと大きな音を立てて近づいてくるものがあった。

台車に乗った大男とそれを引いて走る小柄の男。


「今日も今日とてやってきてやったぜ!」

「今日の分の貢物をだしなあ!」


止まったと思った矢先、でかい声で叫ぶ男たち。

しかし町の者たちは全く反応しない。息をひそめているようである。


「少年、あれは何だい?」

「俺だって知らないよあんなの」


すると、男たちはカインとウィズの存在に気づいた。

近づいてきて、再び大きな声で叫ぶ。


「お前たち! 見ない顔だがとりあえず持ってるもん置いてってもらおうか!」

「ここは俺たちの縄張りだぜ!」


至近距離で大声を出されるものだから、たまらずウィズが文句を垂れる。


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえるよ」

「なんだって!?」

「まったく煩い奴らだな。どっか行ってくれないか」

「おい嬢ちゃんなめてんのか!?」

「ウィズ……あんまり刺激すると……」


カインが不安になるも、ウィズ毅然とした態度で二人の男に対する。


「君たちに一体なんの権限があって私たちの持ち物を奪える?」

「ここは俺たちの町だ!」

「俺たちがやりたいようにやるんだよ!」

「……の割には住民に避けられてるみたいだけど?」

「ええい、うるさい! おいへノック、やっちまえ!」

「おうよ! ヒノック!」


へノックと呼ばれた小柄の男は、町の民家に向かって走り出した。

そして、その勢いのまま民家に向かって蹴りを飛ばすと、


民家の壁は大きな音を立てて崩れた。

中からは悲鳴が聞こえる。


「おら! 隠れてんのは分かってんだよ!」

「きゃああああ!!」

「なっ!?」

「へへっ、まったく今日もいい蹴りだぜ!」


カインには信じがたい光景だった。

この大男がそれをするならまだしも、小柄の男の所業には思えなかったからだ。


だがカインが驚愕している最中、ウィズは怒りを露にした。


「やめないか!」

「俺らはこうして町の奴らから税を徴収してんだよ」

「っ!」


見ているのが耐えられなかったウィズは、民家を攻撃するへノックのもとへ駆けた。


「お、おい! ウィズ!」


気を取り戻したカインがウィズについていこうとするが

ヒノックと呼ばれていた大男がそれを止める。


「お前の相手は俺だ」

「な、なんだよ……」

「フンっ!」


大男は躊躇なくカインの腹部に拳を入れた。

その威力はただ殴られているとは思えない威力だった。


カインは後方に飛ばされてしまった。


「ガハッ!?」

「先に喧嘩売ってきたのはお前たちだぜ?」

「……っ俺何も言ってないんだけど……?」






一方でへノックを止めに来たウィズ。


「おい君!やめないか! 中には人がいるんだぞ!」

「ああ? んなこと知ってんだよ。てかお前何者だよ!?」

「私はウィズ。しがない魔……じゃなかった、旅人だ。」

「おいおい、旅人風情がなにしゃしゃり出てきてんだぁ!?」


へノックは破壊行為をやめてウィズのもとへとやってくる。


「嬢ちゃんあんま舐めてると痛い目見るぞ?」


近づいてきたへノックの足元を見てウィズは気づいた。


(やっぱりか、この男……)


「オラァッ!!」


へノックはいきなりウィズの頭部に向かって蹴りかかった。

が。


「まったく、君は少し落ち着いたらどうなんだ?」


ウィズの頭部に足は届かなかった。

空中で何かにぶつかったように阻まれていたのである。


「っなんだぁ!? なんで届かねえ!?」

「さて、今度はこっちのターンかな」


ウィズの手元には既に一冊の本があり、それを開くとウィズ足元に大きな魔法陣が現れた。


「お、おい……なんだよこれ……!?」

「しばらくじっとしててもらうよ」


そして、ウィズがパチンと指を鳴らすとへノックは一瞬にして氷漬けになった。

氷の塊の中に閉じ込められたへノックは、倒れるように地面に伏した。


「これで良し。少年を手助けしにい行かないとね」






腹部を殴られ、まともに立てないカインに向かって大男ヒノックは豪快に蹴りを入れた。


「おらよっ!」

「ガアアッ!!」


蹴りが再び腹部に入り、さらに後方へと飛ばされ建物の壁にぶつかる。

その衝撃でカインの持ち物は派手に散乱した。


「喧嘩売ってきた割に弱ェなあお前」

「だから……俺は何も言ってないんだって……」

「次で終わりにしてやるよ、お前の命ごとな!」


全身に痛みが走る中、カインは散乱した荷物の中に見慣れないものがあるのを見つけた。


(なんだこれ……? 剣か?)


真っ黒い刃を持つ短剣である。

カインはこのようなものを持ち歩いていた記憶はなかったが、

その近くに壊れた箱があることに気づき、剣の正体を察した。


「はは、なんだよこれ。なんでこんなもんが形見なんだよ……」

「なぁにブツブツ言ってんだ?」

「何とか……ならねえかな、これで」


カインは藁にも縋る想いで短剣を手に取り、立ち上がる。

しかし、その瞬間にめまいのようなものに襲われ、カインは再び膝をついた。


「はっははは! もう立ち上がる力もないのか!? 弱すぎだぜ!」

「な、なんだ……?」


この時、カインに絶望はなかった。

むしろこの状況を打破する光が差したように感じていた。


(全身に力が溢れる感覚……この短剣の影響か……?)


「じゃあこれでとどめにしてやるよ!」


轟音と共にヒノックの拳が地面を揺らした。

その攻撃はカインに直撃、しなかった。


「っな!?」

「やっぱりだ……体がすっげ―軽い、それに……」

「あ、ありえねえ、もう一度だ!」


攻撃を躱したカインに向かって二度目の拳を叩き込むヒノック。

しかし、この攻撃もさらりと躱された。


「なんで急にそんな動きができる!?」


動揺を隠しきれないヒノックは、がむしゃらに突進し始めた。

しかし、まるで動きがすべて読まれているように当たらない。


(この剣を持ってからだ、やつの動きが読める!)


そしてヒノックが疲れ果てたのを見計らい、カインは腹部に一発拳を叩き込み、

蹴りで追い打ちを決めた。


「やられた分はやり返させてもらったからな」

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