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04 自宅の変容2

「おはようございます。」


 休日の朝は遅い。

 何故なら、目覚ましを掛けないからだ。

 ただ、アルトが朝のトイレで騒ぐので、自然と似たような時間に目が覚めてしまう。

 それでも、休日は目を覚ましながらも結構な時間ゴロゴロして、ゆっくりめな時間に起床する。


 いつもと違う小さな体で、いつものベットから這い出る。

 ぼけーっとしながら思うのだ。

 昨日は疲れていた。

 何やら訳の分からないことが沢山あって、頭も混乱していたのだろう、と。


「ぉはよぉ~ござぁすぅ。」


 頭は多少起きていても、体は言うことを聞かないので思うように口が開かないので、朝はまともな挨拶は無理だ。

 うん...そうだね。

 夢ではなかったことは分かっていたさ。

 ベットの上でゴロゴロしながら、半透明の【ステータス】を眺めていたんだもの。

 昨日も寝る前に思いついたままを【質疑応答】で答えて貰っていたしで、ちょっと寝不足気味でもあるのだけど。

 ついでに、今朝は携帯でネットサーフィンして情報収集も行った。

 分かった事柄も多かったので得たものはあったのだけど、コレが現実であるという事実に直面しただけだったとも言える。

 ただ、世間ではこの謎現象を既に受け入れており、様々な検証を行っていることには驚いだけれど。


 眠気眼で自室のドアを開けると、そこには私が昨日名付けを行った直後に愛称として『ユウ』呼びにした家政ロボットが待機していた。

 優しそうで物静かそうな雰囲気を醸し出している風貌、さらりっと揺れる髪は艶々で瑞々しく、男にしては勿体ないくらいキメ細かい肌、繊細とは程遠いがっしりとした手指に、今はゆったりな服を着ているので隠れてしまっているが肉体を覆う細身なのにキッチリ存在している筋肉。

 現実にこんな人いたら、キャーキャー言われるだろう確実な人物。絶対に跳ね飛ばされて近付けもしないだろう。

 そんな人が、目の前に居る。


 他の人の家政ロボットも、こんな感じなのかしら?と現実逃避してみる。何を考えてこんな外見にしたんだろう?ぅん?いや、選択肢は殆どなかったのだけど。

 はぁ~。他の人はもっと現実離れした綺麗さを持ち合わせていたりするのかな...?

 怖いなぁ~、色々が。


「お食事は、用意しますか?」


 床に膝をつき、首を少し傾げながら聞いてくる。

 恐らく、わざわざ目線を合わせてくれているのだろう。

 コレ、本当にロボットなのかしら??っていう、あ執事ってこういうモノなのかな?

 つい頬に手が伸びて、その肌触りを確かめるが、人のソレにしか思えない。


「う、ん。食パンが残ってたでしょう?マーガリン付けてからトースターで溶けるくらいまで温めて?」


 問われるままに記憶を探って答えるが、確か食べきっていない賞味期限間近の食パンが残っていたはずだ。

 私しか食べる人がいないので、処分しなくてはならない。

 『家政ロボット』であるユウも食事は必要らしいのだけど、ちょっと偏食らしく、私たち人間とは食べるものが違うらしい。当面は国から支給されるということなので、とりあえず放置しておく。

 今はこれ以上の不要な情報はシャットアウトしておかないと、既にパンクしている脳が再起不能に陥る。


「分かりました。ご用意いたします。」

「ありがとう。顔洗ったら行くね。」

「はい。」


 なかなか開かない口を頑張って開けて喋っている内に目も覚めてきた。

 用意すると言っているのに動かないのは、私が頬を弄っているからか。いや、思いのほか触り心地が良かったので。

 私が手を離すと、ゆっくりと立ち上がって階下へ去って行く。

 照れとかの感情ないのかな~?私はちょっと自分の行動が理解不能だけども。寝ぼけてたってことで許してくれるかな?はぁ。


 顔を洗うのに、椅子...踏み台を用意しないと洗面台を使えないとか、小さい頃はこんなに大変だったのだろうかと、遠い記憶を漁ってみるがさっぱり覚えていない。

 この年なら化粧水はいらないだろう。化粧も必要ないよね?

 髪型も適当に顔に掛からないようにまとめて終わりにする。

 洗顔と髪の毛を整えるだけで準備が終わるって素晴らしいっ!!


 着替えて準備を整えると、猫のアルトと連れ立って、洗濯物を両手に持ちながら階下へと降りていく。

 食パンの焼ける匂いと珈琲の独特の香りが鼻孔をくすぐる。なんてことはあるのだけど、決してそんなに優雅な表現が合うような室内ではない。


「本日洗うものですか?預かりますね。」

「ありがとう。洗濯は、二日に一回くらいで大丈夫だよ。ゆうの洗濯を一緒に洗っても、それ程大量にはならないでしょう?」

「...はい。そうさせて頂きますね。」


 私から追加の洗濯物を受け取ると、脱衣所にある洗濯機の方へと向かうユウ。

 アルトは一緒に降りてきたものの、自由に室内を散策しているので、放置。

 用意されている朝食を頂くために居間へ向かうと、昨日の夜に用意した子供用の椅子がそのままになっているので、私専用として使っていく所存だ。ここは恥より実利を優先させて貰う。

 弟の子供用の椅子がそのまま残っていて良かったわ~。


 って、あれ?そういえば、弟家族はどうなったんだろう??

 年齢的に弟夫婦は私と同じ中年世代に入る。しかし、その子供たちは若者世代だ。もしかしなくても、別々になってしまっているのでは!?

 昨日は他のことまで気が回らなかったけれど、両親とも会えていないので、弟夫婦も子供たちと会えていない可能性が高い。

 とはいえ、連絡もないので、まぁ何とかなっているのかな?後で連絡を取ってみなければ。


 私は私で最優先で、室内の環境作りと整理をしなければ。あ、外もどうにかしないとだ。この小さな体で活動しやすい様に整えなければやりにくいので。

 悲しいことに、折角の休みなのにやるべきことは沢山ある。

 会社の方の心配は、来週出勤したときで良いだろう。そこまで頭が回らないよ!?


 ぱくっぱくっと用意された食事を食べ進めるも、流石に量が多いっ。これは、半分、いや四分の一で十分だろう。

 減らして貰わないと、残す量の方が多くなってしまう。

 なるべく時間を掛けずにさくっと食事を終わらせて一息ついたら、家の整理だ。


 ユウに手伝ってもらって、お父さんの布団を全て剥いでから使っていない布団一式を洗ってユウ専用にする。

 それが終わったら、お父さんとお母さんが使っていた布団を仕舞えるように一式洗って干して貰う。

 今日が良い天気で良かったわ~。ついでに、季節も夏だから、乾く乾く。もう洗濯日和っ!!

 ユウは体力が相当あるようで疲れ知らずみたいなので、これも助かる。


 洗ったものが渇くまでの間に、私の使わないものを仕舞って、この体での生活で必要そうなものを引っ張り出してくる。

 家中を行ったり来たりしながらなので疲れるけれど、口だけの私と違って、肉体労働をしているユウは汗びっしょりになっている。

 熱中症にならないように水分をこまめに取って貰って、休憩も多めに取るが、喋ってるだけの私の方が先にバテそうだ。なんて理不尽。


 そうそう。途中で犬たちを放って運動させたのだけど、二匹とも【ステータス】を見せてくれましたよ。

 特にこれと言って特筆すべきところはなかったかな?平均が分からないので何とも言えないけれど。

 ただ、二匹とも外敵に対する行動の指針を求めたのは、何故かな?

 一応、設定で許可なく敷地内に入れないようにはなっているのだけど、まぁ、来客があったらいつものように吠えて貰えたら良いのよ?別に、攻撃とかする必要はないからね?今は運動のために敷地内を自由に走り回って貰っているだけで、普段は鎖に繋がってるでしょ?

 なんで、こんな質問されたのだろうね?


 あ、兎は相変わらず自分たちの自宅内で、自由に過ごして貰っています。

 残念ながら、兎との交流は今までなかったので、これからになるけど、多分懐かないんじゃないかな~?と思っていたり。姿を見たこともあまりないしね~。

 それでも、野菜くずを入れておく。出来るときくらい私がやっておいた方が良いだろう。

 普段はユウに任せてしまう予定だけど。


 外猫のタケは何処かに出かけているのか隠れているのか、姿を現さなかった。


「大体、方針が分かってきました。分からないことがあったら都度聞かせて貰いますが、残りは後日私がやっておきますよ。」


 職業執事とは、何事も呑み込みが早いものなのだろうか?

 半日も作業をしていないけれど、一通り室内を弄り倒したことによって、把握してしまったらしい。

 まぁ、お願いできるならお願いしたいところなので、ここは甘えさせて貰いますけどね!?


「そう?お願いできると助かるかな。」

「はい。お任せください。」

「そうしたら、シャワー浴びて来て?汗凄いでしょう??」

「は...っ!?入らせて頂きますが、紗夜が先にお入りください。」


 初めて一瞬返答に躊躇したような、そんな間があった。

 ロボットの思考を惑わすようなことを言った覚えはないのだけど!?

 私も汗掻いて気持ち悪いので、後で入るつもりだったけどね。体が小さくなった影響で、お風呂入るだけでも結構な時間が掛かるのよね~。

 先に良いって言うなら、先に入らせて貰うけども。


 シャワーを浴びてスッキリしたはいいけれど、出た直後に暑くて汗を掻いてたら意味ないと思うのだけどね。はぁ、だから夏は嫌なのよ~。

 髪の毛を今の私にとっては重いドライヤーで乾かしてから、また体を拭いて、それでも湿った肌がどうにもならなくて。


「あっついな~。」

「居間のエアコンを稼働させました。こちらで涼んでください。」

「っ!?」


 待って!?今、私、全裸っ!!

 ロボットとはいえ、男性タイプだよねっ!?


 咄嗟のことに言葉が出ないが、驚きつつも体を隠そうとして今まで体を拭いていたびっしょりのタオルを体の前に垂らす。

 そういった行動が視界に入っている筈なのに、平然と脱衣所に入ってきて私がこれから着ようとしていた衣服の入った籠を持って出てしまう。


「だから、待って!!私、まだ着替えてないっ!!」

「えぇ、こちらの方が涼しいので、こちらにいらしてください。外から見えないように全て閉めましたので大丈夫ですよ。」

「いや、それ、セクハラっ!!私、一応女性っ!!」

「おや?大丈夫ですよ。お気にせずに。」

「気にするよ!?ねぇ、待って!?もしかして、男性タイプってだけで、ロボットだから性別なかったりするの??」


 うん。基本的なことを確認してなかったね!私ったら早とちりかしらね?

 家政ロボットとは、見た目の性別を分けているだけで、中身はきっとプログラミングだものね?そうだよね?性別なんていう個は存在しないのよね!?

 お願いだから、そう言って!!


「いえ、私たちにも先天性の個は設定されていますし、性別による差異も存在します。更に、ご主人様とのコミュニケーションによって確固たる個が形成されるのです。この先天性の個は、選択されたタイプによって偏りはありますが、ランダムで付与されています。私は、身も心も成人男性ですよ。ですから、幼女に欲情したり致しませんので、ご安心ください。私たち家政ロボットとて法に準拠しますので、幼女虐待で逮捕されることもあります。私たちが法を犯すことはないように設定されていますが、絶対ではありませんので。余所の家政ロボットにはお気を付けください。私はご主人様の家政ロボットであり執事でもありますから、安全です。そもそもが、本来であればお風呂にご一緒して、お身体を洗いながら体調管理をするという私たちにとって大切な仕事があるのです。それを拒否されましたので、希望に沿うようにお一人でお入り頂いているのですよ。入浴後のマッサージくらいはお受けください。なお、以前の肩こりや血流の滞りが今もなお残っているように見受けられます。そのまま放置すれば、いずれ以前よりも酷い形で異変として表面化することでしょう。そうはなりたくありませんよね?私も可能な限り務めさせて頂きますが、ご主人様の協力も不可欠でございます。何卒、こちらで入浴後のマッサージをお受けくださいませ。」


 丁寧な四十五度のお辞儀と共にお願いされた。

 えっ、そこまですることなの!?

 ここまでの長文を聞いたのは初めてだけど、もしかして一日でここまでストレス溜まったとかなのっ!?

 だとしたら、性格的に合わないんじゃないかな!?

 それとも、たった一日で働かせすぎた!?確かにゆっくりやっても良いことを『休みの内に』とか思って、お願いしちゃったけどさ。


「えっと、ごめんなさい?」

「いえ、謝って頂くことではございません。私の方こそ、差し出がましい真似を致しました。謹んで謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした。」


 一度持ち上がった頭が、再度目の前に下がってくる。

 高さ的に、後頭部が目の高さになるのね。あ、旋毛がある。これ、今ここで突いたら怒られるんだろうな~。


「あの、マッサージは受けるけど、先にシャワー浴びて来てね?汗掻いたでしょ?私は居間に行くから、ね?入ってきてね!」

「...畏まりました。」


 なんとか納得を引き出せたのか、了承を頂けたようだ。

 ここまで個があるロボットになると、普通に他人と同居するようなものじゃないか。これでは慣れるまで時間掛かるだろうな~。

 とりあえず、私室は入室禁止にしておこう!








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