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02 現状確認

 一気に喋りまくっていた爆音が止んで暫く待ったが、再度響き渡ることはなかった。

 茫然と事の次第を見守っていたが、ふと我に返って周囲に視線を走らせると、周りの全てが大きい。いや、先程の説明からすると、私が小さくなっているのだろう。

 自分の手を目の前に持ち上げてその大きさを確認すると、確かに小さくなっているのが分かる。


「えっ?えぇぇぇぇ!?ナニコレぇぇぇっ!?」


 今はパソコンで見えなくなってしまっているが、対面の机に座っていた同僚の女性が驚きの悲鳴を上げる。

 事務所の外でも、わーわー騒ぎ出した声が木霊する。

 いつもなら怒鳴り声の様な低く大きな声が聞こえる構内では、今は子供の甲高い声が響いている。そう、まるで小学校の校庭の様な。


「おいっ!なんだコレはっ!?って、ちぃせぇし、ほっせぇなぁあ?」


 ここ『株式会社荷物を運送』で、運転手のまとめ役をやっている下之城さんが事務所に入ってきた。

 子供の甲高い声で、いつもの口調で喋るものだから違和感しかない。ただ、その声音には、それまでの経験が生きており、威厳の様なものは損なわれていないように感じる。


「子供の頃は細かったって言ってたじゃない!って、下之城さんも、ちいさっ!!そんなに可愛らしかったのっ!?」

「うっるせぇよっ!!」


 いつものじゃれあいが始まってしまった。声の高さが違っても、そんな何気ない日常が今は恋しい。

 少し気持ちがほっとしたところで、ひょっこりと好奇心に負けて顔を覗かせる。確かに可愛らしい二人が和気あいあいと言い合いを続けていた。

 その姿に癒されながらも、懸案事項を問うために口を挟む。


「ねぇ?今遠距離行っている人って何人くらいいるの?運転大丈夫かな??」

「そういえば、どうやって運転するの!?えっと、週末だから少ないね。一、二、三、、、七人か。内四人は今日帰りだから近場までは来てるかな?三人は明日帰りだからぁ、どうだろう?ちょっと下之城さんっ、六号と二十七号連絡取ってみてよ?私は、三十三号電話掛けてみるから。」


 車の動きをある程度把握している同僚の深井さんが、早速動いてくれる。

 即座に配車表を片手に携帯に手を伸ばしているのが証拠だ。


「あ”ぁ!?そんなの配車係の仕事だろぉ?なんで俺がやんなきゃならねぇんだよ!?まぁ、六号には掛けてやらぁ。」


 文句を言いながらも、何とか動いてくれる下之城さん。

 私は窓から見える構内をじっくりと観察して、数名の従業員がこちらに歩いてくるのを確認した。


 子供の姿になっているので個の判別は難しい。何故従業員だと分かったかと言うと、来ていた服がそのまま縮んで着用されていたからだ。要は作業着を着ているので、従業員だと判別出来ただけという。

 でも、先程の説明では六十歳以上のベテラン勢とは分けられてしまったらしいのだけど。うん。誰が居るのかすら分からないや。


 私はと言うと、目の前にあるパソコンと個人の携帯を弄って、即座にリアルタイムで議論されるであろうサイトをいくつか開いていく。

 すると、既に書き込みが見受けられる。

 殆どの書き込みに、先程の現象に関する混乱が見て取れる。いくつかは、現状打開を図るために色々試している人たちもいるようだ。


 そう。先程言っていた【ステータスオープン】という単語。

 主に、ゲームやラノベなどで見受けられる単語だ。

 携帯で遠距離に出ている人たちしている会話を聞きながら、私もお試しに頭の中で唱えてみる。


 すると、驚くことに目の前の空間に半透明のウィンドウが出現した。

 そこには、ゲームでよく見かける体力やら知力などが数値化された一覧と共に、スキルやパッシブアビリティなどと言った項目も存在していた。

 その中で注目するのは、スキル欄にある【運転】の項目。

 この十歳児の体でも運転可能と言うことだろうか?と疑問に思っていると、ウィンドウが横に広がって質疑応答の項目が追加された。

 そこには。


 Q.運転可能?⇒A.可能。所有車に乗車し、行き先を指定してください。自動で動きます。


 という文言が表示されていた。

 疑問に答えてくれるという親切設計らしい。流石、中年世代の世界。

 若者の移り変わりの激しい流行についていけない世代の為に用意されているらしい。

 ここぞとばかりに疑問を投げつけることにした。


 Q.会社は存続するの?⇒A.社長不在の為、会社の存続は従業員の意志に委ねられます。存続の場合は国営となり、国主が指示出しを行います。在籍の継続を希望しますか? Yes/No


 これは一旦保留かな。現状が分からないまま答えるのは怖い気がする。


 Q.生活はどう変わるの?⇒A.変化予定はありません。必要と思われる失われた人材の役割は国主が代行いたします。仕事をして生活費を稼ぐも、自由に遊びまくるもご自由にしてください。


 うわぁ。人口減っただけで生活基盤は変わらないのか~。

 略奪やら何やらに走る人も居そうだけど、そこら辺は気にせず生きて行けってことかな~?


 Q.略奪などの違法行為は?⇒A.処罰対象です。国主が法律に基づき取り締まりの決定を行います。


 あ、そこら辺はキチンと法国家としての態を貫くのね。

 安心しても良いのかな?


 Q.両親は六十歳以上だったけど、家の所有権は?⇒A.現在保留中。所有権を主張しますか? Yes/No


 うん。これは【Yes】だね。

 お家なくなったら住むところなくなっちゃうから。

 というか、こういうの全部設定するの!?


 Q.権利の主張は必要か?⇒A.主張は本日深夜零時までに行ってください。未設定の場合、国の所有物になります。


 はぁ!?待って待って。何その横暴!?相続とかないの!?


 Q.相続の権利は?⇒A.ありますが、本日深夜零時までに権利の主張を行わないと無効となります。


 似たような説明だけど、違うニュアンスになってるから、ちょっと違う説明が返ってくるのね。

 あぁ、これは時間を掛けてゆっくり見ないとダメだね。

 それより、運転可能ということは分かった。


 事務所内に意識を向けると、構内に居た人たちも何人か集まって来ていて雑談に興じている。

 その中に、スキル【運転】に関する話も出ているので、差し当たって必要な情報は共有されているようだ。

 既に帰宅した人たちもいるのだけど、多分そちらにもそのうち情報が回るだろうから大丈夫だろう。


 情報の回り方に関しては、驚くほど速いから。

 一時間前に聞いた話が、殆どの従業員に知れ渡っているとかザラだ。どういう伝達方法を使っているのかは謎だけど、これだけの人数がいながら意外と仲が良いのだ。


「あ、もう定時だね。」

「ほんとだっ!帰る準備しなきゃ。」

「うん。急げっ!」

「おいぃ!?何事もなかったかのように、かえんのかよっ!?」

「そりゃ帰るよね?」

「うん。帰るよ?時間だものね?」

「そ、そうか...。残業代でねぇものなっ。おいっ!帰るぞっ!」

「「「っかれーっすっ!」」」


 ささっと帰宅準備を行って、会社を出る。

 まだ帰ってくる人がいるので待っていなければならない人も居るけれど、私たちは関係ないので、さくさく帰る。

 とはいっても、駐車場で同僚の深井さんと雑談と言う名の情報共有を行うことを忘れない。

 何といっても、本日中に会社への在籍の有無を決定しなければならないので。まぁ、生活費は稼がなければならないわけで、在籍しない理由はないので駐車場で二人して在籍希望に設定しておく。


「それじゃ、また来週。」

「うん。良い週末を。お疲れ様でした~。」

「お疲れ様でした~。」


 目の前にある車に乗ったら【ステータス】を表示して、【運転】から【自宅】の目的地を設定して自動でエンジンを掛けて動き出すのを待つ。

 暫くして問題なく走っていることを確認してから、【質疑応答】のところで先程中断していた様々な設定を行っていく。


 Q.他に相続関連で行っていない設定はある?⇒A.あります。下記一覧が未設定です。


  ⇒下記地図にある父、矢野健吾が所有していた全ての土地の相続を主張しますか? Yes

  ⇒下記地図にある父、矢野健吾が所有していた全ての建物・家財等の相続を主張しますか? Yes

  ⇒父、矢野健吾が所有していた全ての保険の相続を主張しますか? Yes 家、家財、車関係の保険のみ

  ⇒父、矢野健吾が所有していた全ての預金・現金の相続を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していた全ての預金・現金の相続を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していたペット犬、ルルの所有を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していたペット犬、ココの所有を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していたペット猫、タケの所有を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していたペット兎一、(無名)の所有を主張しますか? Yes

  ⇒母、矢野優が所有していたペット兎二、(無名)の所有を主張しますか? Yes


 A.全ての主張が受理されましたので、所有権が移りました。


 Q.両親に借金はあった?⇒A.ありません。

 Q.相続税はいくらかかる?⇒A.今回に限りましてのみ掛かりません。

 Q.兄弟と相続の主張が被った場合はどうなる?⇒A.今回のみ同居の有無、生まれ順が優先されます。

 Q.他に設定することはある?⇒A.あります。下記一覧が未設定です。


  ⇒所有している土地への侵入を許可しますか? No 許可制

  ⇒家政ロボットの希望性能は? 男性細マッチョタイプ/執事服着用(着替え有)/猫耳着用(脱着可)


 Q.家政ロボットとは?⇒A.ご自宅にて生活の補助を指示通りに行うロボットです。防水耐火機能付き。指示がない場合、待機します。


 Q.他に今日中にやるべきことは?⇒A.帰宅後、家政ロボットへの指示出しをしてください。


 Q.ありがとう。また、お願いします。⇒A.いつでも【質疑応答】をご利用ください。


「終わった~!」


 これで多分、大丈夫かな?

 なんとなく実感がない。なんだかゲームをしている感覚だ。

 帰宅すれば両親が居ないので否応なく実感せざるを得ないのだろうけど、それはまだ少し先のことだから。


「寝て起きたら夢でした~ってならないかな??」


ーーー 【ステータス】 ーーー

名前:矢野やの 紗夜さや

性別:女

年齢:十歳


体力:10

腕力:7

敏捷:3

知力:30

持久:10

耐久:70

魅力:13


所持金額:2,039,921円 ⇒ 17,398,372円 (相続分込)

所有物:土地・建物・家財・保険・家政ロボット


所有スキル

 【運転/上級】・【ピアノ/初級】・【書道/初級】・【PC操作/上級】・【情報収集/中級】


パッシブ

 【天然ボケ】・【おっちょこちょい】・【何もない所で転ぶ】・【統率者】


称号

 【情報を収集する者】・【統率する者】









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