19 二人目の...
「うちの純君が怪我しちゃってさー。今修理中で家に居ないのー。もう幸せ生活半減だよねー...。」
そんなことを言い出したのは、例によってイケメン三人を雇用している深井さんだ。
純君というのは、確か一番最後に雇用した『家政ロボット』ではなかっただろうか。
「【冒険】で?」
「そそ。三人でたまに行って貰ってるんだけど、上級エリアにチャレンジして貰った途端の怪我でさー。責任感じるよね。中級エリアが順調だったからお願いしたんだけど、止めとけば良かったよ。はぁぁぁ。」
「あら、家で治療出来ないって、怪我酷いの??」
どんより雰囲気の深井さんに、突っ込んで細かいことを聞いてみると、怪我の具合は伝聞だけで実際には見ていないのだとか。
他の二人が教えてくれるところによると、結構な重症で、修理にも時間が掛かりそうだという話しだったそうだ。
何処がどうなっているとかは、いくら聞いてもはぐらかされて一切教えて貰えていないらしい。
「そういうものなのかな??」
「どうなんだろう?もう、心配で心配でっ!!」
「そうは言っても、全損でも肉体変更すれば中身は変わらないとか言う話しだし、そのうち帰って来るんじゃない??」
「そうなんだけどさー。でも、頑張って作ったあの外見が変わるのもねぇ。何度リトライして良いの出るまで頑張ったことかっ!!」
そういえば、何時間も掛けて作ったとか言ってたなー...。
実際、『家政ロボット』を選ぼうとすると、いくつかの選択肢から【性別】【外見】【性能】【性格】などを選ぶ必要があるのだけど、選択肢が五つしか出てこない割には選べる内容が多岐にわたり、希望通りにしようと思えば、何度も何度も繰り返して目的のものが出るまで待たなければならないのだ。
私は三回目くらいでユウを引き当てたけど。
私が選択したのは、『【性別】男/【外見】執事/【性能】細マッチョ/【性格】温厚/【装飾】猫耳』と言ったものだったと思う。
この選択で確定した五人の等身大の写真がクローズアップされて、そこから一人選ぶシステムだ。
細マッチョといっているのに、筋肉ムキムキなのが出てきたときは、どうしてやろうかと思った...。
最後の選択は本当に好みによるのだけど、ユウで良かったと今では思っている。
深井さんの一人目は、『【性別】男/【外見】ビジュアル系/【性能】任意/【性格】ヤンチャ/【装飾】ピアス』だった気がする。
ロックバンド好きだからね~。三人とも、そっち系でまとめててんじゃなかったかな?うろ覚えだけど。
それでも好みとちょっと違えばリトライしていたので、それは時間掛かろうと言うものだ。
凄い気力だよねっ!
「それだと、暫く【冒険】は休みにするの?」
「うんにゃ。初級か中級行って貰ってる。怪我しないように言ってね。」
「あぁ、確か平日だけだっけ?」
「そそ。休日は一緒に過ごさなきゃ意味ないじゃないっ!!っていうか、意外と【冒険】の稼ぎが良くてさー。私仕事してなくても生活出来るんじゃないかと思い始めてきたのよねぇ。まっ、私がすぐポチッちゃうからお金なんていくらあっても足りないんだけどね!」
セールとかの言葉に弱いんだっけ...良くポチッたとか言ってるものね~。
今では買い物のすべてを【ステータス】の【購入】画面から行うから、更に消費が増えたとか。
店舗も今まで通り営業しているところもあるとはいえ、その数は大分減ってきているようだ。
かく言う私も、全然買い物に出かけていないのだけど。私の場合は全てユウに任せてしまっているし、自分の買い物も少ないので、そもそも【購入】画面を開くことさえ稀だ。
そして、ユウの場合、あれだけ家の周囲を囲ったり小屋と言うより結構立派な造りの家を建てたりしたのに、足りなくなったと言う話しは聞いていない。
むしろ、今後も温室とか建てるのだけど、お金がマイナスになることがない。遣り繰りが上手いのだろう。
「そういえば、年末どうするかなー。四人でライブにでも繰り出そうかと思ってたのにぃー。一枚余っちゃうんだよね。」
「ライブねぇ。電車で行くの?」
「そそ。帰りは【テレポート】楽だから、後のこと考えずに全力ではっちゃけられるっ!!」
毎年、好きなバンドのライブに応募して、当選したとか落選したとか賑やかだけど、今年は四人分当選したようなのだ。
いつも一緒にいく友人も当選していたらしく、お互いの『家政ロボット』共々全員で行く予定だったのだとか。
「今年から売れなくなっちゃったし、譲ることも出来ないんだよね。誰か行く人いるかなー?」
「出掛けても【テレポート】で一瞬で帰ってこられるのは魅力的だよね~。」
「うんうん。あの怠くて長い帰りの電車は、苦痛でしかなかったからね。」
うーん。私も今年は何処か出掛けるかなぁ~?
でも、車で出かけると【テレポート】で帰ってこられないし。電車の旅って、ちょっと拒否感があるんだよね~。
ペットたちも一泊くらいなら大丈夫だろうけど、カラス問題解決してないしなぁ~...。
そんな悩みを雑談交じりにユウに話してから数日。
何故か、柊さんをうちの『家政ロボット』に迎え入れないかと言う提案を受けた。何故っ!?
ユウは、同僚とするのに問題がないとか、色々利点を喋っていたけれど...。
新しい人が増えるのも気を遣うけど、既に知り合いになっている、しかも会社の同僚を『家政ロボット』として迎え入れるって、どうなのっ!?私の気持ち的にっっっ!!
その場は保留にして、数日考えさせて欲しいと言って逃げたけれども。
柊さんの場合、知り合いと言っても仕事での接触はあまりない。深井さんとの会話が聞こえてくるだけで、他は挨拶の類しかしてないのだけども。
『家政ロボット』ならではの礼儀正しさとか真面目さとかは窺い知れるけれど、他はあまり知らないのよね~。
だから、なんだ?という話しなのだけど。
『家政ロボット』として生まれて独り立ちしたロボットたちは、独立したままでいることも出来るのだけど、全体的には少ないそうだ。
基本的には、誰かの『家政ロボット』として再度雇われるか、【国主】の運営する企業で雇われるか、公的機関で働くかするらしい。
うちの会社も、一応【国主】の運営する一般企業という位置づけなのだけど、ロボットよりは人の方が多く働いている。
「私と同じで最初の三か月は試用期間となります。そこでどちらか一方でも『合わない』と思えば解消すれば良いだけですよ?」
とはユウの言だ。
更に、今同じ会社に勤めている訳だけど、そのままでも辞めて貰ってもどちらでも、そこは『ご主人様』の意向に従うそうだ。
うーん。来て貰ってからお別れするとなると、同じ会社に居ても辞めて貰っていたとしても、どっちにしろ気まずいと思うのよねぇ。
ということで、本人と話をする機会を設けて貰った。
ユウが推薦しているだけなのか、本人が希望しているのかさえ定かではないので。
ただ、会社でするような話ではないので、休日に時間を作って貰ったのだ。ユウ経由の連絡で。
「休日にわざわざ時間を取って貰って、すみません。」
「いえ、私の方もどう話を切り出そうか迷っておりましたので、ありがたい事です。」
場所は自宅、にしようと思ったら、柊さんの自宅にお邪魔することになった。
なんでも、今の柊さんの生活風景を見ておくのも本人を判断する材料になるとかで、そういうことになったのだ。
アパート暮らしをしている柊さんのお宅は、必要最低限の家具類がある他は、これと言った雑貨類も転がっておらず、実にシンプルなお部屋だった。
とはいっても、暮らし始めてまだ数か月。職種も遠距離運転手なので、家での滞在時間はとても少ないと思うので、これは妥当なところだろう。
「えっと、今回は私の家の『家政ロボット』働きたいのかどうかの意向とかを直接確認したくてですね。他にもいくつか聞きたくてお時間を頂いたのです。」
「はい。伺っております。会社でするような話でもなかったので、今まで直接お話しできなくて申し訳ありませんでした。」
「いやいや、それはお互い様だから。それで、実際どうなんでしょう?希望してるの?今の仕事は嫌??」
「嫌と言うか、少し困った事態に陥っておりまして。」
そういって話し始めた柊さんの困った事態というのは、なんでも仕事先の事務員さん(女性)に『家政ロボット』雇いたいとしつこく勧誘されているそうなのだ。
その都度断っているし、上司(ここでは【社長】であり【国主】になるのだけど)に相談してその得意先に割り振らないようにお願いはしているらしいのだけど、他の人が行くと目も当てられないような対応をされたり、何故柊さんが来ないのかとケチ付けられるらしく、うちの他の運転手たちもちょっと困ったことになっているらしい。
知らなかったよ...。あれ?こういう情報って、私の所じゃなくても、深井さんの所に来てても良いんだけどなぁ?なんで来てないんだろう??
まぁ、そういう訳で、転職を考えているところなのだとか。
特に今の仕事に拘りはないらしく、たまたまこの会社に当たっただけとは本人談だ。
ただ、そうなってくると、次の転職先でも同じようなことが起こる可能性がある訳で。こういったことは元『家政ロボット』としては、結構あるあるなのだとか。
それが嫌なら、公的機関での仕事になるのだけど、これは審査が厳しいらしく適性がないと落とされるのだとか。
【国主】直下の仕事だと、完全寮生活で、外出はままならないらしい。
【冒険】のキャンプ常駐員だと、何より戦闘力が求められるとか。
他の仕事でも、その殆どは戦闘力や鎮圧力といったものが求められる場合が多く、柊さんの場合、そこまで【ステータス】も【スキル】もないのだとか。
今鍛えてはいるものの、そう簡単に上がるものではなく、長い時間を掛けて上げて行こうと思っていた矢先にコレと。
どうしようかと悩んでいた矢先に、ユウが相談に乗って、一先ずうちの『家政ロボット』する?みたいな軽いノリになったそうな。
私、結構真剣に悩んだんですがっ!?
そんな軽いノリで良いなら、OKだよ!?
「勿論、問題がなければ『家政ロボット』としてお仕えすることに問題はありません。独立して一人で居たいという願望もありませんし、むしろご主人様に恵まれるならお仕えしたいという気持ちはありますので。」
「えぇ...。いや、そこでハードル上げないで?」
「紗夜様は、良いご主人様ですよ。自信を持ってください!」
「それはユウの個人的な感想でしょう?まぁ、そう言われれば嬉しいけどさぁ...。」
「うーん、そういう事情ならとりあえず三か月試用期間として派遣されてくる??ユウと同じで国からの派遣になるんでしょう??」
「はい。人にお仕えするには必ず【国主】からの派遣という形態をとります。」
「それなら、そうしようか。」
「ありがとうございます。手続きが終わり次第お邪魔させて頂きますので、宜しくお願い致します。」
柊さんも綺麗なお辞儀をするなぁ~と眺めていた訳だけど、その後も大変だった。ユウと柊さんが。
人が増えるので色々な取り決めが必要らしい。まぁ、あれば安心はできるよね?
仕事は継続するけど、勤務時間を今の半分に減らすそうだ。人員が増えれば辞めても良いし、人手が足りない時の臨時社員になっても良いと言っていた。
私としても、家での仕事がそんなにある訳でもないので、家の仕事に関してはユウの意見を優先させた。
これだけ荷物が少なければ引っ越しは大変ではないだろうし、申請が通れば派遣も直ぐに出来るということだったのだけど、まさかその日に許可が下りるとは思わなかったよ...。
実際は翌日にお引越しということになったけども。
いつも思うけど、【国主】って仕事って早いのよね~。本人が一人で全てやっているとは思わないけどね?