16 外敵、現る
一回ずつ初級エリアを体験して、それ程危なくないだろうということで、ユウ付き添いの下ペットたちで【冒険】することを許可した。
勿論、危ないことは駄目だし、怪我したらキチンと治療することを条件とした。
まぁ、私が同行したとしても何もしていないくらいだったので、問題があるとすれば人と出会った時だろうと思う。
そういう時は、ユウに対応を任せることにした。
そうして冬も師走に入り、寒さが一段と厳しくなってきた頃。
仕事から帰ると、いつもと違う雰囲気が感じられた。
しかも、いつも夕飯にお風呂は準備してあるのに、今まさに慌ただしく用意している。
珍しいこともあるものだと呑気に構えていたら、夕飯後にユウから話が合った。
「実は、本日の午後、紗夜様の敷地内に侵入したものがおりまして。早急に防衛対策を整えなければならないかと思います。許可頂けますか?」
「んっ!?えっ、ちょっと待って?侵入者って?確か、進入禁止の設定にしてあるから、勝手に入ってこられないんだよね?」
「本来であれば、そうです。例外もありますが、今回はその例外が適用されてしまったのかと。」
その例外とは、該当の敷地に住んでいる人たちの【ステータス】値と侵入を試みている人の【ステータス】値を比べて判定されるので、絶対に侵入されないということではないらしい。
しかも、その差というのが数値としてみれば、50以上の差があると可能性が増えてくるのだとか。
要は、今回の侵入者は平均して50以上の差がある、とても強い人だったと...。
そんな人が何の用なのかと詳しく聞いてみると、相手は熊だったらしい。
冬籠りの前の食料確保に走ったのかな?とも思ったけど、事はそう簡単なことではなくて。
誰かが【冒険】で服従させて連れ帰った子を何らかの理由で放ったのか、飼い主が亡くなって居場所を追われたかしたのではないかと言うことだった。
こういう子たちは元々住んでいた場所へ自動的に戻されるということはなく、その場で放逐されるので、最近こういった事件が増えてきているのだとか。
それでも、そうそう大きな問題になっていないのは、通いなれた場所には【テレポート】があるし、出掛けなくても買い物が可能なので、田舎のような場所では問題の発覚が遅れるらしい。
これが都会とかであれば注意喚起されて、何らかの対処がされることが多いらしい。都会の方は専門の部署とかなくても、【冒険】で鍛えている人が多くいるので、討伐に乗り出すか服従に挑戦するかして対処されることがあるのだとか。
私が住んでいるのは田舎も田舎。人口など少ない方だ。
しかも、恐らく私のように自宅と会社を【テレポート】で行き来しているだけとか、自宅と畑を【テレポート】で行き来しているだけの人が多いだろうから、敷地外に歩いて出るということは滅多にないだろう。
ユウのように調理が上手ければ自宅で食事を済ませるし、外食行くにも近くにはないしねっ!!
「今回は、侵入された敷地が畑の方でしたので、人的被害はありませんでしたが、作物が食い荒らされてしました。前回手に入った素材で防衛設備を整えようかと考えておりましたので、許可頂ければ進めていきたいと思っています。」
「うーん、その熊も被害者といえば被害者よね?熊って、草食だっけ??」
「いえ、雑食でしょうか?今回は作物を食べて去りましたが、食事が出来ると分かりましたので、再度現れる可能性が高いかと。」
公的機関への連絡は済ませてあるということだった。流石、仕事が早い。
ただ、猟友会とかそういったものは既に解体されており、【冒険】で活躍している人が多いようだ。
元々猟友会なども高齢化が進んでおり、中年世代の人達が少なかったというのもあるし、いくらここが田舎とはいえ山沿いではなかったので、そういった人たちが少なかったというのもある。
こういう場合は、近隣の高【ステータス】値の人達が搔き集められて討伐に挑むのだが、そもそもそんな人は少ない。
他から人が派遣されてくるとしても時間が掛かるので自衛は必須。
手っ取り早く、防衛機能を付けたいというユウの提案だった。
次案として、【ステータス】値を上げるというのがあるが、これは一朝一夕に出来ることではないので、落ち着いたら徐々に上げていきたいみたい。
「その防衛機能っていうのも、直ぐには無理でしょう?」
「残念ながら、数日は頂きたいかと。」
「そうしたら、それを進めつつ、屑野菜とかあるでしょう?捨てちゃう外側の葉っぱとか根っことか。それらを畑の一角に集めて山にしておいて、そこだけ他より入り易くしておいたら?そっち食べてくれないかな??」
「どうでしょう?試してみても良いかもしれませんね。少なくとも、自宅のあるこちらの敷地に入られることがない様にしたいですからね。最悪、畑の作物は全て諦めましょう。」
物騒な世の中になった物だ。というセリフが、意味を変えて再び襲い掛かっているようだ。
どんなに世界の在り方が変わろうとも、危険が身近に潜んでいることは変わらないらしい。嫌だねぇ。
許可を出したものの、ユウの言う防衛機能と言うものがどういうモノかちょっと気になったので詳しく聞いてみた。要塞化とかしたら嫌だから。
要塞のように頑強になる訳ではないけれど、どうやら敷地の外周を塀で取り囲むようだ。
それに加え、塀の上部の各所に遠隔操作も出来る自動反撃機能付きの兵器を取り付けるのだとか。
勿論、近くを通り掛かっただけで攻撃されるとか、そんな物騒な代物では決してない。
塀が何度かダメージを受けた時点で警告の意味を込めた小攻撃をしてから、それでも退かない場合に本格的な行動に移るらしい。
その間、手動に切り替えればその限りではないが、その場合もモニターでしっかり確認してからユウが対処するということで、こういった防衛機能を備え付けることは認められているらしい。いつの間にそんなものが出来たんだっ!?
知らない間に、色々変更されているなぁ...。大々的なお知らせとかあったのかしら??
最近、変更点が多くてニュースとかでもさらっと流されて終わるから、頭に入っていないや。
とにかく、敷地外に出歩かないように再度注意しつつ、侵入されるなら畑の方の敷地へという何ともいい加減な方針が決まったのだった。
それから数日間、自宅の方では急ピッチで工事が行われたし、その音に驚いたのか、熊が再び侵入してくることはなかった。
外壁が完成して自宅のある敷地の方への対策は出来た訳だけど、畑の方は廃棄場所が作られたくらいで他は何も変わっていない。
「畑の方の防衛ですが、紗夜様の弟様と相談して、全体的に外壁で覆う事に致しました。そのうえで、お互い使用している畑の中央辺りに作業兼休憩小屋を建てて、そこを境界と致します。」
私は弟と連絡を取り合ってはいなかったけれど、ユウとはやり取りしていたようだ。
畑を覆う外壁は私持ちで建設するけど、中央に建設する作業兼休憩小屋は折半にするそうだ。
なんでも、南北に細長い建物を建てて、完全に畑を分けてしまうのだとか。
建物も外観は一つの建物に見えるけれど、中央に渡り廊下的な東屋を作って共有の休憩所とする。弟は南側の建物を、ユウというか私は北側の建物を所有。
届け出的には全て私の敷地のままではあるけど、使用に関してはこのようにキッチリ区分けするみたい。
まぁ、揉めてなければ私としては問題ないので許可出しておいたけれど。
どちらにしても、熊騒動が集結するか、防衛機能が完成するまでは畑仕事はお休みとなる。
ユウは自宅で何枚も何枚も設計図を描いていたので、楽しんでいるのかな?
思えば、ゆったり休憩している姿を見たことがないのだけど、常に動いていたほうが安心できるタイプなのだろうか。
まぁ、無理してないのであれば良いのだけどね。気持ちは分かるから。
自分で何か作るのって楽しいよね。私も一時期家の図面とか構想を練ったことがあったよ...実現できなかったけどねっ!?
さて。
自宅の外壁工事に続き、畑の外壁工事で、すっかり熊の姿を見掛けなくなったようだ。
念のため、野菜の捨て場は外壁で覆わずに、敷地の一角に設置する形にしてある。
ちなみに、そういった外壁工事には専用のロボットたちが担当している。普通の建設業者では【冒険】で取得した鉱物を使うので、技術的に難しいのだとか。自動迎撃用の武器まで設置するし、専門外だよね。うんうん。
そのうち、今まで生きてきた地球とは全く姿を変えてそうだよね~。あはは。
「紗夜様。また問題が発生してしまいました。」
自宅と畑の外壁が完成して一息ついたと思った矢先に、非常に残念そうな表情でユウが報告してくれたところによると、熊は依然近くに潜んでいるようで、野菜捨て場の野菜が減っているそうだ。
これに関しては、畑の方に手出ししていないようなので、危なくないのであれば私的には問題ない。むしろ処分すべき捨てる野菜を食べてくれるので歓迎する。
新たに浮上した問題というのも動物関係で、今度はカラスが大量に屯っているようなのだ。
畑の方は一旦仕切り直しで作物が熟成し過ぎて全て捨て場行きになったようなのだが、それに味を占めたカラスたちは自宅敷地の方で小規模で作っている作物の方まで手を出してきたのだとか。
今回建てた外壁はあくまで地上を歩く動物用なので、空を飛ばれると空を打ち落とすことは可能でも精度が落ちるのであまり使いたくないらしい。
うん。そうね。誤射とかないと思いたいけど、あまり危ないことは止めようね。
「カラスか~。カラスも何か進化してたりするの?攻撃力高くなったとか、知恵がさらについたとか。」
「どうでしょう?個体によっても変わってきますから何とも言えませんね。」
うーん、カラス撃退法と言うと案山子が真っ先に思いつくけど、効果ないんだろうな~。
「自宅敷地内の作物を荒らしているところをタケとルルが発見して追い払おうとしたそうなんですが、巧妙に食べ散らした挙句、攻撃を加えようとしたらリンやフウの方へ反撃を試みたそうです。」
「うわぁ。犬猫放置で兎に行くとか、タチ悪いね。野菜捨て場の方なら、何も言わないんだけどなぁ。」
なお、山羊のメルは出産間近の為、小屋で休憩中だったとか。
子山羊が生まれたら、更に警戒しないといけないね。