15 冒険、再始動
「ここが南キャンプですね。」
「さっむっ!!こんなに寒いのっ!?」
先程の気持ちの良い良い暖かさなどではなく、もう冬一直線といった寒さが体に纏わりつく。
抱き上げられているのを良いことに、片方の頬をユウの体に押し付けて少しでも暖を取る。
急な温度差が辛い。
「あぁ、少し人がいるようですね。全員『家政ロボット』のようなので、危険はないでしょうけど。」
「あ、本当だ。ペット連れている人っていないのね。」
「えぇ、『家政ロボット』の一人から三人のチームが多いようですね。おや?柊ではないですか。」
「ん?」
ユウの声が届いたのか、名を呼ばれたと気付いたらしい男性がこちらを振り返った。
うん。会社で顔を合わせている、従業員の柊さんだね。
「知り合いだったの?」
「はい。紗夜様の会社で働いているということで、接触しました。」
「はっ...?」
「矢野さん、友蒼さん、こんにちは。」
「こんにちは。顔を合わせるのは初めてですね。」
和やかな大人の会話が交わされているが、その前に怖いことを言わなかったかい?ユウよ。
わざわざ『接触した』って、どういうことだい!?
私の交友関係、把握しようとでもしているのかな??怖いよっ!?
私が想像上の恐怖に慄いている間も、会話は進む。
どうやら、柊さんがいつも一緒に【冒険】しているうちの一人が怪我をして修理中らしく、久しぶりに初心者エリアに来たのだとか。
今日は一人で散策する予定ということだった。
他にも、色々な情報を聞いているようだけど、何の躊躇もなくエリア情報をくれる柊さんて、良い人なんだろうな~と思う。
初級エリアは、不人気過ぎて情報があまり流れていないのだ。
一番情報があるのは中級エリアで、人気がある情報は上級者エリア。
特級エリアは誰も挑戦者が出ていないらしく、キャンプ地情報くらいしかない。
初級エリアは無料で【冒険】できるが、中級エリアより上は一回【冒険】に参加するだけで費用が取られる。難しくなればなるほど高額になっていくので、キャンプ地情報が出回った後は大した情報が出てきていない。
多分、中には挑戦している人も居るのだろうけど、公開していないようなのだ。
「では、楽しんでくださいね。」
「ありがとうございます。お気をつけて。」
周囲を見渡している間に会話は終了したようで、二人とも爽やかに別れの挨拶。イケメンって、何やっても絵になるよね~。
まぁ、今このキャンプ地には私たち以外は美形の『家政ロボット』しかいないのだけどね。
「今日は中級エリアが混んでいるようですね。それを嫌った独立した『家政ロボット』たちが初級エリアに流れているようです。」
「あぁ、カレンダー的に休み取れば四連休になる並びだからかな?少し散策したら帰ろうか?」
「お好きなように。でも、一度はキャンプ地から出てみましょう。」
「おーけぃ!」
改めて足を踏み入れた初級エリアの森林は、その名の通り周囲が木々に覆われていて、辛うじて獣道があるといった有様だった。
三匹は草を掻き分け木々の間を走り出して行ってしまったが、マップで見る限りでは近くに居るらしい。
元気なことで。きっと、良い運動になっているのだろう。
「どちらに向かいますか?」
ユウが動かないなぁと思っていたら、私の指示待ちだったらしい。
太い樹木に見とれている短時間の間にも、取得物のログは留まるところを知らない。
「えっと、適当に?森林ていうと、洞窟とかあったりするのかな??」
「あるようですが、それ程奥行きはないみたいですよ。行かれますか?」
「うんっ。」
「では、こちらの方角ですね。詳しい場所は分かりませんが、マップは開きますので行ってみましょう。」
色々と事前に情報を仕入れているらしく、質問すると即座に返してくれる。
そんなに【冒険】に参加することが楽しみだったのだろうか?
もう少し頻度を上げても良いとも思うけど、悩むなぁ~。
ここまで安全だと、アトラクションに参加している感覚になっては来るけど、危険なことには変わりないからね。
あるかないか分からないような獣道を(ユウが)掻き分けて進んでいく。
ガサガサ音がしているのは、三匹が元気に走り回っている証拠だろう。
鳥に虫の鳴き声が聞こえてくるが、時たま獣の遠吠えの様なものも聞こえてくる。遠くに居るか、襲ってこない子だと良いなぁ~。
因みに、ユウはどうやって戦うのかと疑問に思って聞いてみたら、普通にサイレンサー付きの銃を取り出して見せてくれましたよ。
おいっ。日本では銃刀法違反になるんじゃっ!?と思ったら、【冒険】中のみ許可されているのだとか。
お家に持って帰れないけど、【冒険】システムに個人の持ち物が登録されていて預けておけるのだとか。何とも便利なシステムなことで。
他にも、色々戦うすべは持っているというのだから恐れ入る。
「少し拓けたところに出ましたね。」
言われて前方を見ると、確かに小さな広場になっている。
地面は踏みしめられたように固められ、中央に焚火の後の様な炭が放置されていた。
「野営場所??」
「そのようですね。一応、ここはセーフティーエリアです。襲われませんし、戦闘も禁止されています。初級エリアでなければ、出た直後が一番危険ですね。」
苦笑しながら説明してくれることには、誰かが入っていれば必ず出てくると分かっているので、待ち伏せされることもあるのだとか。
このセーフティーエリアに入ってから【帰還】する人もいるので絶対ではないが、待ち伏せするには絶好の場所なのだとか。
だから、余程のことがない限り、無暗にセーフティーエリアに入る人はいないそうだよ。勉強になるねっ!
「今回は失敗しましたね。あぁ、ほら、ルルが蛇を仕留めてくれました。丁度エリアとの境に居たのでしょう。」
ユウが指し示す方向を見ると、ルルが小さなお口にそこそこの大きさの蛇の首を加えていた。
全体が茶色なので、地面に居たら保護色になるから、私では見つけられなかっただろう。
「後で生け捕り用の補助具を用意しておきましょう。モノによっては、意外と良い値で売れるのですよね。」
うきうきと言った感じでユウが喜んでいるが、ソレ、お酒に漬けるとかそういう用途じゃなくて!?
あとは蛇の使い道何てあったかしら?愛好家はペットにするそうだけど、私は無理だなぁ...。
暫くすると完全に息絶えたのか、突如としてその姿を消した。その後取得物としてログに載ることになるのだった。
なんだか、諸行無常とか言いたくなるよね...。使い方間違ってたかな??あは。
一緒にセーフティーエリアに入らなかった子たちが安全確保に努めてくれて、直ぐにその場を後にする。
使い方によってはとても便利だけど、危険と隣り合わせな場所なのね。覚えておかないと。
「おや?あそこに見えるのが、洞窟じゃないですか?」
「ん?どれどれ?...って、なんだか洞穴みたいだね~。熊とか隠れてないよね??」
「初級エリアに熊は居ませんよ。別の動物が雨宿りか何かに使用しているのでしょう。」
ちょっと小ぶりの、ユウだったら背を屈めないと入れないくらいの大きさの穴が、ポッカリと開いていた。
斜面になっている一角で、少し急な坂になっているので丘か何かの地形なのだろう。
そこに、真横に真っ直ぐ続く穴が開いている。雨宿り用なのであれば、下に掘り進んだら水が入ってきてしまうので、横に掘ったのだろうか。
「へぇ~。洞窟って、こういう風に作られているのね。」
何せ、洞窟何て普通に生活していれば見ることのないものだ。
やっぱりゲームで見かけるものとは違って居る。というか、ゲームの様に突如として小山が現れたりする訳ではないらしい。
切り立った崖でもあれば別だろうけど、ここのコンセプトは森林だしね!
「中に入ってみますか?タケが安全確認を終わらせたようですし。」
言われてログを見ると、蝙蝠が狩られたと思われる取得物が流れていた。
ユウの足元にはフウがぴったりとくっ付いている。怖かったのかな?
「そう、だね。折角だし、ちょこっと入ってみようか。奥行きないのよね??」
「えぇ、では行きますか。」
ゆっくりと少しずつ入っていきたかったのだけど、ユウがスタスタと長い脚でいつものように歩いて行ってしまうので、心の準備がっ!!
実際に入ってみると、真っ暗で何も見渡せませんでしたよ。
背後を振り返ってみると、外の明かりで周囲の壁も見ることが出来るのだけど、前方、洞窟の奥の方を向くと真っ暗で何も見えない。
念のため、しっかりとユウに抱き着いて、離れないようにする。
そして、最奥まで行き、そのままUターンして帰って来る。真っ暗なまま。
...えっと、何だったのだろう?私には何も見えなかったのだけど、普通に歩いていたろ所を見ると、ユウは暗闇でも目が利くのかしら?
とりあえず、何も言わずに洞窟を後にして、少し散策したところで帰還。
まぁ、前半ピクニックで、後半森林浴と思えば良い休日だったのではないだろうか。