12 冒険、行っちゃう?
危険地域と認定された【冒険】に行くには、まずどの国の危険地域を探索するかを選択しなければならない。
これにも人気不人気があり、国の敷地が広かったり、未開だったり、逆に最先端だったりと、極端な環境の方が人気が高い。そういうところは取得物の買取価格が高額らいいのだが、発見が難しく、エリア的にも難易度が高くなっている。
日本だと、こんな感じになっている。
【初級/草原】・【初級/森林】・【中級/山】・【中級/湖】・【上級/海】・【上級/街】・【特級/???】
上級エリアの二つは人気が高いが難しいので挑戦者は少なく、一番人が集まっているのは中級エリアの山だ。
山では肉類が、海では海産物が、街では鋼鉄が高価買取されているようだ。
結局は、自分たちで消費する分を養殖ではなく、狩りで取得しているに過ぎない気がする。
これらの取得物は全て国が自動で買い取る。それらを飲食店や工場に卸して、経済を回しているようだ。
結局のところ、絶対量が変わっていないので、貧富の差が大きくなる。
私にみたいに普通に暮らしている人は、まぁまぁ普通に生活が送れる。
【冒険】で勝ち組になれば、裕福な暮らしが保証されるが出費も多くなり、ギャンブル性も高くなる。
今や、ニュースで誰それが何処そこのエリアを踏破したとか、高額取得物をゲットしたとか、そんな話題ばかりだ。
中には、上級エリアに特攻して帰ってこないとか、姿を見せない誰それがいるとか言う話題も少なくない。
自ら危険地帯に赴き、帰ってこない人も居るようなのだ。
日常的に酷い扱いを受けるとして、職を変える『ロボット』たちも居る。
なのに。
うちの『家政執事』になったユウは、何故かそんな危険地帯に行きたいというし、ペットたちに関しては命の危険すらあるのに行く気満々なのだ。
何したいの?と、本気で思考を疑うレベルだ。
「行くのは初級エリアのみですし、私も付いていきます。人数も最大の五人で、一緒に行動します。是非、ご検討をお願いしたいのです。」
「出発地点はチーム毎にいくつかの中から選択出来て、帰宅時もチーム毎にいつでも任意で帰れるのよね?」
「えぇ、チームリーダーを一人決めて、その人に決定権が委ねられます。」
「他のチームとも出会うことがあって、場合によっては攻撃を受ける場合もあるんだよね??」
「はい。残念ながら、監視体制が整っておりませんので、事後調査が設けられる程度ですね。確定すれば厳罰されますが。」
うーん、いくらユウが付いていくと言っても、動物たちだけだと厳ししくない?
結構、人と出会った場合の問題も出て来てるし...。
採取物とかは取得した時点でシステムにプールされるみたいだから、荷物にはならないらしいけど。
「人気のないエリアは本当に人も居ませんし、居ても広大な敷地なので出会うことも滅多にないそうですよ。それに、隠れるのが上手な子達ばかりですから。」
うーん、うーん。
悩みに悩んで、結局押し切られる形で条件付きOKを出したのだった。
私も興味はあったので。
【日本 初級/草原 エリア6 南キャンプ 時刻:夜】
「何も、紗夜様まで参加されなくても...本当によろしいのですか?」
「みんなだけ危険な目に会わせられないでしょう?」
「ぃぇ、危ないのは紗夜様だけなのですが...。」
「ん?何か言った!?」
「いいえ、お守りさせて頂きます。」
一番よわっちぃ私が参戦いたします。
危険度を確認するという使命がありますので!
今回参加するのは、リーダー:私。メンバー:ユウ(家政執事)、タケ(猫)、ココ(犬)、リン(兎)だ。
夜に出発するのは、この時間帯が一番不人気だから。
昼間から出掛けている人は飼える時間帯だし、夜に出発する人はもっと遅い日付の変わる辺りの時間から増え始めるようなのだ。
「チーム組んだし、目的はお散歩!それじゃ、いっくよーっ!!」
「はい。お願いします。」
ぽちっ。と【冒険に出発】と書いてあるボタンを押下すると同時に、ユウに抱きかかえられるが、出発はそのまま行われる。
姿が半透明になっていき、視界一瞬真っ白になったと思ったら、優しい風が頬に当たる。
「マップはありますが、迷子にならないように。」
「わぉ!」
「にゃぁ。」
「きゅっ。」
ユウの言葉に同行した子たちが返答するが、その姿は見えない。
私の視界は、闇夜に照らされる明るい月と、月から注がれる光に照らされた揺れる草、草、草。
一面、草だらけ。
しかも、背丈が私の身長よりある育ち過ぎた草。
「何ここっ!?」
「草原ですね。」
「もう季節は秋だよ?なんで、こんなに青々としてるのよ!?」
「暖かいですね。南キャンプを選択したので、暖かい地方に来たのでしょう。」
「えぇ~。そういう区分けなの...。」
それにしても、放置した夏真っ盛りの草が一面って、相当よ!?
むしろ、草以外見当たらないって、一体どこに来たのか。
日本に、こんな場所あったのねぇ。
「ここは、今ハーブや香草が取れるようですね。」
「近くにある川で、魚も釣れるのよね?」
「はい。釣りをしますか?」
「勿論っ!釣り竿も用意してきたからね!」
「では、そちらに向かいましょうか。」
危ないことはしない方向で考えたら、釣りしか思い浮かばなかったのだ。
リアルで釣りの趣味がある訳ではないが、ゲームでは釣りをやることもしばしば。
餌は、魚のすり身を丸めたもの。決して、虫とかは使わないっ!
最初からであるが、移動中もユウに抱っこされていたが、こんな草の中進めるわけないじゃないっ!
犬猫兎たちは、姿が見えないがマップ上には近くに居ることが分かっているので心配はしていない。
ココは犬らしく、私の周囲を駆け回ってみては戻って来ての繰り返し。
タケは基本後方に居ることが多いが、時々フラリと横道にそれては戻ってきている。
リンは、常にユウの側に居るようだ。歩く速度とか大丈夫なのだろうかとも思うが、付いてきているので大丈夫なのだろう。
「川だっ!」
草原の中に隠れている虫たちの大合唱で、近くまで来なければ水音が聞こえなかったけれど、月明かりを反射する水面はとても幻想的で綺麗なものだ。
丸太を渡して橋となっている中央付近で、早速釣りを始める。
システム貸し出し用の釣りを取り出して、持ってきた練り餌をセット。
ぽいっ。と放り投げて、待つ。
ただひたすら、待つ。
途中で立ち疲れたので、やっぱりシステム貸し出し用の椅子を取り出して座る。
虫の鳴き声と風が草を揺らす、何とも言えない懐かしさを覚える音を聞いていると、大自然を感じられる。
隣にユウが居てくれるので、孤独を感じることはないが、一人だったら世界に取り残されたような感覚に陥ったことだろう。
そんな感慨にふけっている間も、魚が釣れることはない。ただ、待つのみ。
ただし、視界の端の方でログが凄い勢いで流れている。
うちの子達、何やってるのかねぇ~?
恐らくハーブとかそういった類の名称だと思うのだけど、カタカナや見たことのあるようなないような漢字の羅列が、取得物としてログに表示されていくのだ。
その中に果物の名前も入っているのは、近くに生っていたのだろう。
あれ?魚っぽい名前のログも流れたようだけど、きっと気のせいよね?だって、私、一匹も釣ってないもの。隣に居るユウは釣りしてないし。
おかしいな??
「三匹とも、野生に返ったりしないよね?」
「しませんよ。最初だからはしゃいでいるのでしょう。」
「...私もはしゃいだ方が良いのかな?ん?えっ、今変なログ流れた。」
「変なログ、ですか?」
「取得物の中に『豚肉(変異種)』とか『豚足(変異種)』とかっ。」
「あぁ、ここの豚肉は最高級品らしいですよ。買戻しして、明日にでも食べましょうか。」
そういえば、豚肉として最高級レベルの美味しいお肉が出るとか書いてあったなぁ。あくまで豚肉なので、牛とかそっちの方が人気があるらしく、通う人は殆どいないらしいし、取引量もあまりないらしいのだけど。
って、ちっがーっう!
「豚を狩ったの!?戦ったの!?反撃とかされる??」
「それは、命掛かってますから反撃くらいしたいでしょうね。ただ、狩ったのがタケのようですので、恐らく暗闇から一撃ではないでしょうか。」
「そっか。忍んで一撃か。すごいね。タケ。危なくないなら良いんだけど、夜だから本能刺激されたかしら!?大きい獲物にチャレンジとか、度胸あるなぁ~。」
タケってば、猫だからね。
夜は元気出るのよね。夜行性だから。
前は夜遊びに出て、昼間はお家で寝てたものね。
そっか。猫って夜に狩猟本能が発揮されるのねぇ。
同じ猫でもアルトは、昼寝て、夜寝て、たまにハッスルするくらいなんだけどなぁ...。