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怒りの涙  作者: 高村聡
第1章「見慣れない光景」
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第7話 衝撃の告白

 汗だくで両手に荷物を抱え、北山家に帰宅する。

「ただいま」玄関扉を開け、廊下に荷物を下ろした。


 ――ダッダッ……

 誰かが急いで階段を降りる音が聞こえる。居間に繋がるドアが開いた。ドアの向こうにいたのは、晃だった。


「楓、どこに行ってたんだ?」娘の外出を心配する過保護な父親のように晃は言う。


「デート」楓は慣れたようにあっさりと告げ、自分の荷物を持って部屋に戻る。


「デ、デートだと!?」晃は絵にかいたような驚いた顔をする。逃げる楓を追いかけようとするが、嫌われるのが嫌なのか追いかけなかった。

 代わりに優希を鋭い目つきで睨みつける。優希は急ぎ、走って部屋に戻った。



 昨日と同じように、進と薫が帰宅して、夕食が始まる。

 昨日と違うのは、雅がいることだ。北山一家が全員揃い、テーブルを囲んで食事をする。


 夕食中、ずっと視線を感じる。――晃の視線だ。雅はそれに気づいたのか、クスクスと笑った。


 食事を終え、昨日と同じようにシャワーを浴びる。そして部屋に戻った。今日は疲れているのか、あくびをしながらベッドに横になった。


 ――ゴソゴソ。

 突然の物音に目を開けた。どうやら、眠っていたようだ。部屋の中に誰かが入ってきた。


「誰?」思わず、声にした。

「ごめん、寝てた?」耳元で楓の声がする。優希はホッと一安心する。

「うん、寝てた」

「昨日みたいに寝れてないんじゃないかなって心配になってね」

「もう大丈夫」優希は楓の方向に寝返った。


 楓は枕元にちょこんと座っている。

 ――え? 近っ。

 楓の顔は目と鼻の先にあった。


 寝ボケから少し覚め、この状況を理解すると、急激にドキドキして胸が爆発しそうになる。

 だんだんと身体が熱くなり、楓の顔が見れなくなった。


「どうしたの?」急に何も話さなくなった優希の様子を楓は伺う。

 どうもこうもない。楓が横にいるから、緊張して固まっているのだ。

「ど、どうもしてないよ?」平静を装いながら、答える。


「そう? ならいいけど」しかし、楓は一向に部屋から出ていこうとしない。


 それどころか、何かを期待しているかのようにこちらを見つめてくる。

 その目は潤んでいるように見える。

 まるで恋人同士のようなシチュエーションに心拍数が上がりっぱなしだ。


「優希に話したいことがあって」沈黙の後に口を開いた。

「何の話かな……」内心の動揺を隠すように答えたが、上手く言葉を発することができなかった。


「私たち、家族を見て思う事ない?」真剣な表情で問いかけてきた。質問の意図が全く分からなかった。


「家族? 仲が良いとは思うけど」戸惑いながらも正直に答える。

 それがどうかしたんだろうか。そんなことを考えながら首を傾げる。


「実は、うちの家族は誰も血が繋がってないの」衝撃の告白だった、優希は言葉を失う。


「本当は私、北山楓じゃないの。晃も、雅もそう」開いた口が塞がらなかった。

 あんなに仲の良い家族が、名ばかりの集まりだとは考えもしなかった。

 驚きすぎて息をするのを忘れていた。慌てて深呼吸をした。


 彼女の顔を見ると悲しそうな顔をしている。冗談ではなさそうだ。

「信じられないと思うけど、本当なの」

「どういうこと……?」やっと出た言葉がこれだった。


 優希の混乱ぶりとは対照的に、落ち着いた様子で楓が語り始める。

「私たちは皆、家出してきたの。元の生活に居場所が無くて、逃げ出してきたんだ。あなたと一緒。路頭に迷った時、進に助けられたの」


「気づかなかった? おかしな話でしょ? 家族なのに誰も顔が似てないんだから」

「気づかなかったよ、本当の家族みたいだったから」外から見れば、理想的で羨ましかった。だからこそ、作られた幻影だったのかもしれない。


 楓の目から涙が溢れる。綺麗な涙だった。

「本当の家族か……。初めて言われた。凄く嬉しい」彼女は泣きながら笑う。すごく眩しい。優希はこの輝きを守りたいと思った。


「ってことはさ、昨日の友人の話は、楓の事だよね」


「うん、そう。言いづらかったから嘘ついてごめんなさい。でもここで暮らすなら知ってた方がいいかなって思って」


「そうゆうことだったんだ。話してくれてありがとう」優希の中にあった心もモヤモヤが解消された。話した楓も、スッキリとした表情になっていた。


 個々の苦しみは違えど、北山家には悩みの抱えた人間たちが集まっている。

 窮地に立たされた人間を救済し、助けられた人間は同じように苦しむ人に手を差し伸べる。

 ここに来た時から、初めて会ったとは思えないほど居心地が良いのはそのせいなのだろう。


「私たちはあなたを家族のように思う。だから、気を使わなくてもいい。優希が元の家に帰りたかったら帰ってもいいし、ここに居続けたかったら住んでもいい。一旦家に戻って、またここに戻ってきてもいいの。それはあなたの自由。私たちは誰も無理強いしないよ」


「ここに残るなら一つだけ守って欲しいことがあるの。家族の過去については、詮索しないこと。皆忘れたいの。だからそれだけは守って欲しい」

「分かった」優希はゆっくりと頷いた。


「優希はどうしたい?」

「ここには居たいけど、もう少し、考える時間が欲しいかな」

「そうだよね、急に言われても混乱するよね」

「うん。楓はどうして欲しいの」

「え? 私? そうだなあ」楓は一瞬考える素振りを見せて答える。


「優希とは、もっと一緒にいたいと思うよ」

「そっか。ありがとう、色々教えてくれて」

「どう? 眠れそう?」

「うん、ありがとう」

「良かった」楓は床から立ち上がり、扉に歩みを進めた。


「待って、楓」

「何?」彼女の足が止まる。優希はベッドから起き上がった。


「楓、好きだよ」

「ありがとう、私も好きよ」楓は振り返り、優希の目を見ながら気持ちを伝えた。そして彼女は何事も無かったかのように部屋を出て行った。


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