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怒りの涙  作者: 高村聡
第3章「殺人犯の娘」
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第21話 捨てた名前

 ――君は永田楓(ながたかえで)だな。

 相馬は捨てた名前を口にした。永田、それは母親の旧姓だ。彼の一声にようやく目が覚める。


「私は、北山楓です」咄嗟な事に、驚きつつも平静に答える。


「もう一度聞く。君は永田楓で間違い無いな?」刑事たちは確信を得ているようだった。楓は少し間を置き、黙ってうなずいた。


「それに針谷雅(はりやみやび)江藤晃(えとうあきら)、二人とも間違い無いな?」

「ええ」雅たちはすんなりと白状した。


「三人はどうして、あそこにいた?」

「偶然、進と出会って。血の繋がらない人たちと1つ屋根の下で楽しく暮らしていたんです。いわばシェアハウスようなもの」


「楽しく? シェアハウス? どうして犯人を庇うんだ。あそこの家主、北山進に拉致されて脅されていたんだろ?」


「いいえ。彼はとても優しく、私たちに唯一の居場所を与えてくれたのです」相馬は呆れたように首を振った。


「何を言ってるんだ。真面目に話をしようじゃないか」 刑事たちは、話を信用してくれなかった。雅は机を叩き、立ち上がった。


「家族が一緒にただ暮らせば、幸せだと思ってるの? あなたたちは何も分かってない!」感情的になりながらも懸命に訴えかける雅の姿を見た刑事たちは圧倒された様子だった。


「ワシらだって、それぐらい分かってるつもりだよ」真剣さを理解したのか、沈黙を置いた後、相馬はボソリと答えた。


「だったら、どうして……」

「どんな理由であれ、未成年は犯罪なんだ。見逃す訳にはいかないんだよ」相馬は淡々と言う。楓たちは、犯罪という言葉の重さに何も言い返すことはできなかった。



 雅はゆっくりと腰を下ろした。

「優希という人物について聞く。彼も君たちと同じか?」 相馬はそれを待っていたかのように話を続けた。


「ええ、そうよ」

「じゃあ、彼の本当の名前は?」

「私は分からない。楓なら知っているでしょ?」

「優希の本名?」楓は初めて会った日のことを思い出す。


「確か……奥仲優希だったと思う」

「なるほど、奥仲優希……か。彼の当日の服装は?」


「白いTシャツに、ジーパンだったかしら」

「なるほど、他に彼の情報はあるか? 例えば出身地、生年月日や兄弟がいる、家出をした理由、何でもいいんだ」


「東京出身で今日十九歳になったばかりよ」

「十九歳……他には何も無いか?」

「無いよ、それぐらいしか聞いてないから」


「どうして聞いてないんだ? 話はあまりしなかったのか?」

「それはルールだから。過去について、詮索してはいけない。だから私は晃の過去も、楓の過去も、何も知らないの」 刑事は困惑した表情になる。はあ、と溜息を吐いた。


「じゃあ、彼と出会ったのはいつだ」

「確か……三週間前よ」

「ずいぶん最近だな」


「ええ、そうね。さっきから気になっているんだけど、彼のことを調べてどうするつもり? もしかして疑ってるの?」


「いや、これは行方不明の彼を捜索するために、情報を集めてるだけさ」答えた相馬はボールペンをカチッと鳴らす。


「火災の原因は何?」雅は刑事から聞き出す。

「詳しくは調査中だが、おそらく放火だと判断している」


「放火? 家を燃やした犯人がいるってこと?」

「ああ、そうだ」


「その犯人は誰?」

「それはまだ調査中だ。二人組の男が、現場から逃走したという目撃情報がある」


「二人組の男?」

「ああ。一人は十代から二十代の小柄な男性。服装は、白いTシャツに濃紺のジーンズ。もう一人は年齢は分からないが、グレーのTシャツに、ベージュのパンツを履いていた」


「え?」楓は犯人の特徴を聞いて、ピンときてしまった。優希のことじゃないか。雅や晃も同じことを考えただろう。でもどうして彼が……。どうしても、信じたくなかった。



「放火される心当たりはあるか? 例えば、最近人間トラブルがあったとか」

「ないわ。晃と楓は思い当たる?」


「……いないよ」楓はドキドキしながら答える。晃は静かに首を振った。

「そうか、分かった」刑事は書類をまとめて、立ち上がった。



「あの!」雅は呼び止める。

「ニュースでやってた連続強盗犯は捕まったんですか?」何を思ったのか、雅は刑事に問いかけた。


「ちょっと、雅!」楓は思わず、声を発した。

「楓は黙ってて」雅の様子はいつもと違っていた。


「どうして、そんなことを聞くんだい?」

「個人的に気になるもので」


「そうかい。悪いが、捜査のことは教えられないな。ただ、捕まったか、捕まってないかと言われれば、捕まってない」


「そうなんですね」雅は目線を逸らし、俯いた。

「何か、知ってるのか?」

「……」雅も楓も黙っているだけだった。どうするべきか、迷っている。


「知ってるんだな」

「ええ。嫌な予感がするんです、彼を止めてください」雅は必死に訴えかけた。


「犯人は奥仲優希か?」

「いえ。彼は渉……坂田渉」楓は雅が発した名前に違和感を覚えながらも、意見せずじっと話を聞いた。刑事は、名前をメモした。


「なるほど、君とはどうゆう関係だ?」

「ただの友人よ」


「そうか。住所や電話番号は知っているか?」

「住所は分からないけど、電話番号なら……」


「教えてくれ」雅は坂田渉について知っていることをペラペラと話した。


 しばらく、刑事の質問に答えると三人は解放された。


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