11-3
「三層到着!……さて、どこに……って、奥にいる!」
正確に言うと、奥に向かって移動中。数は……七、八人かな?重なってるからもっといるかもね。
彼らも奥へ進む危険性は認識しているだろうけど、魔物に追われて仕方なく、と言うような動きね。
「とにかく急がないとね!」
パンッと両手で頬を叩いて走り出そうとしたところへリリィさんの手紙が飛んできた。
「えーと……現在交渉難航中。ダンジョン破壊はもう少し待て……さすがにまだコアまで辿り着いてないんだけどねぇ」
走りながら「了解しました」と返信する。奥へ奥へと逃げているハンターたちは……動きが止まった。囲まれてるか……全力で行っても十分はかかりそうな感じか。なんとか生き延びていて欲しいところ。そしてヴィジョンの方は……もうすぐ一層に着くか。まあ、任せておけば大丈夫かな。
「うおおりゃああ!どけどけえええ!」
私の足音やら何やらに反応したらしい魔物がわらわらと寄ってくるが、片っ端から吹き飛ばして行く。可能な限り転移が使えるところは転移を使うけど、これは間に合うかどうか微妙だわ。
「やっと一層についた」
「はあっはあっ」
「頑張れ、あと少しだぞ」
「っておい!一層にオークが出るとか、やっぱりおかしいぞ」
そして全員が一斉に武器を構えて戦闘態勢へ。なぜなら、ここまでずっと魔物を叩きのめしてきていた少女が棒立ちになって……なんだ、オークに殴られ放題になってるからだ。殴られても倒れるわけでもなく、それどころか殴ったオークの棍棒が折れたり、拳が折れたりしているようだが。
「俺たちだけで外に出られるか、確認しようとしてるのかもな……行くぞ!」
「おう!」
俺たちだけで外に出られると判断したら、あの変な仮面の少女のところへ戻るのだろう。となると、少しでも早く判断出来た方がいい、と全員が持てるものをすべて出して戦いながら進む。幸いなことに、傷を治してもらうのと同時に体力が全快していて、ここまで来てもそれほど疲労はないし、武器も予備を融通し合ってどうにかなっている。
「よっしゃあ!行くぞ!」
「君、俺たちだけでも外に出られるから」
「早くあの子のところへ戻ってやってくれ」
声をかけても表情に変化はないが、理解はしているらしく、手を振って見送られた。なんか変な感じだな。
「よし、彼らだけで外に出られそうね……念のため、もう少し様子を見てあげて」
ヴィジョンに指示を出しながら転移、ダッシュ、転移。そして、
「どりゃああああ!」
間一髪のところで間に合い、魔物が振り下ろした、どう見ても私の身長よりも大きな剣を蹴り折り、その場で一回転。裏拳で魔物の頭を吹っ飛ばした。
「全部で十二人もいたのね……ヒール!」
「俺はこの先の様子を見てくる。どうもダンジョンの奥で何かおかしな事が起きてる気がするんだ」
「俺たちも一緒に」
「いや、俺だけで十分だ。お前らは今すぐ戻れ」
「でも!」
「言っとくが、お前らが束になってかかっても俺には勝てないぞ?そのくらいの実力差があるのについてくると、正直足手まといになる」
「うぐ……」
「それでも」
「良いから戻れ。そして、ギルドにこの状況を詳細に伝えろ。下手するとダンジョンから魔物があふれ出す」
「え?」
「前代未聞の出来事だ。近くの村や街はあっという間に蹂躙されるぞ」
「……」
「外へ向かい、情報を伝えるのも立派な役割だ。行け!」
このダンジョンの探索では有名人で、誰からも一目置かれるベテランハンター、ライアンがそう言って奥へ向かい、俺たちにはどうにか外へ出ようとしたのだが、予想以上に強い魔物が増えてきていて、外へ向かうどころか奥へ奥へと追いやられてしまい、さらに奥から来た魔物と挟み撃ちに。異常事態に気付いて他のパーティと合流し、戦力を増強したはずだが歯が立たず、一人また一人と倒れていき、あと二人も倒れたら一気に崩されると思った瞬間、少女が飛び込んできて魔物を吹き飛ばした。
「た、助かった……のか?」
ホッとする俺たちの目の前で、変な仮面を被った少女はあっという間に周りにいた魔物を倒してしまった。それが逆に……怖かった。これ、実は魔物を率いているナニモノかで、言うことを聞かない魔物を粛正しているだけで、直接俺たちを殺そうとしているとか、ないよな?
「@#!?*¥@/%&&!」
何言ってるかわからないが、敵意はなさそうに感じる。そして、手のひらをこちらに向けて……これは治癒魔法か!
さて、ヴィジョンの方は……どうやら外に出るくらいは何とかなりそうね。戻してもいいでしょう。
「バック……そしてコール」
ふわりと出現したヴィジョンに十二人全員が「おおっ」と驚きの声を上げた。うん、そろそろ慣れてきたよ、私も。
「さて、またお願いね」
コクリ。
「道はわかる?」
コクリ。
「じゃ、お願いね」
トントンッとヴィジョンが数歩外へ向けて進み振り返る。そして私の方はと言うと、全員に向けて「ほら、あっちへ行くの!ハリーハリー!」と指さして指示。言葉が通じないって本当に面倒だわ。
最初は戸惑っていた彼らも、私が地面をダン!と踏みならしながら指さした結果、意図が伝わったらしくヴィジョンのあとをついて行った。
距離が長いけど頑張って。見えなくなるまで見送ってから奥へ向けて進み始める。
あと少しで四層だ。
「どうしても聞いてもらえませんか」
「にわかには信じがたいですからな」
ラガレット王都ではリンガラの大使との交渉が続いていた。
先だっての魔王分体出現の折、ちょうど王都から離れていた大使にはダンジョンから魔王が攻めて来るという危険性が今ひとつ伝わらず、本国への報告も中断したまま。
「我が国もダンジョンを一つ失いましたが……騎士団が全く刃が立たない魔物の群れがダンジョンの外まであふれるという事態は、国家の存亡の危機だったのですぞ」
「しかし、私はそのようなことがあったという報告を受けておりません」
大使が王都を離れていたと言っても大使館の留守を預かる者はいる。だが、彼らはレオナと魔王の分体の戦いについて詳細を知らない。国として詳細な情報の公開を控えているから仕方が無い。
では、その詳細を今ここで話したところで、後出しじゃんけんのようなもの。信憑性に欠けると言われればそれまでだ。
「いやはや、フェルナンド王国と正式に国交とか言う話も荒唐無稽ですが、ダンジョンの奥から異界の魔王などと……全くもって……はあ」
あきれたようにため息をつく大使になんと言えばいいのだろうかと、王も宰相も悩む。あのとき、およそ人間が到達し得ないであろう化け物に対して全力で立ち向かい、さらに国王をはじめとする王族や宰相一家などに治療を施したあの少女。
いくら礼をしてもし尽くせないほどの恩がある少女からもたらされた隣国の危機についての情報。現実味が感じられないそれに対して「荒唐無稽」と返すのも無理は無い。
「一度だけ」
「ふむ?」
「一度だけ、現地と連絡を取っていただきたい」
「現地と?どのような?」
「ダンジョンに異変が起こっているはずです」
「異変ねえ……」
「およそ普段では考えられないほどの魔物であふれているはずです」
「はあ……まあ、一度だけなら」
そう言って大使は側に立つ秘書官に本国への連絡を指示する。
「ま、何も起きていないと思いますがね」
返事が来るまでの間、会議は一時休憩となった。
四層に到着。すぐにマップを確認。うわ……魔物の数が多すぎる。転移できそうな場所が見当たらないな……って、一人だけハンターがいる!
場所は動いていない……周囲に魔物がいる様子も無い。マップではわからないけど、何らかの方法で隠れているとかかな?何にしても急ぐしか無い。
「なんとか間に合ってよ……あと、リリィさん!交渉はどんな感じなの?!」
リリィさんが交渉してるわけじゃ無いけどね。




