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ダンジョンの一層を駆けながら魔物は片っ端から吹き飛ばし、ピンチに陥っているハンターは魔法で治して追い出していく。おそらく明日には近くの街のハンターギルドで「怪しい仮面つけた女」の噂話が流れるんだろう。私がここをメインに活動することはまずないからいいけどね。
ダンジョンの一層を抜けて二層へ入ると……四箇所にハンターたちがいるみたい。明らかに少ないのは、多分そう言うことなんだろう。せめて間に合う限りは助けたいと走り出す。マップ内転移を使うにはちょっと、と言う魔物の密度が今は憎らしい。
「間に合え!ていっ!」
跳び蹴りで首を蹴り飛ばした。
「クソッ……なんでこんなところにハイオークが出るんだよ!」
「フェルマン!くそ……ダメだ!目を開けろ!フェルマン!」
パーティを組んで三年。互いの長所を活かし、短所を補い合える、最高の仲間たちだと胸を張って言える仲間が一人、また一人、先輩ハンターたちから名前を聞いた事があるかどうかと言うレベルの強敵の前に倒れていく。かろうじて息があるが、その程度。残る俺たち二人ももう……そう思ったとき。
「@#$%*!<>;!」
なんだかよくわからない言葉を叫ぶ少女に、首から上が蹴り飛ばされ、魔物がゆっくりと倒れていった。
「&#@*+>?¥&$#!」
見るからに怪しい仮面をつけた、その女は何かを口走ると俺たちに掌を向けた。何者かはわからないが、明らかに魔法を発動させる動作。おまけにこの少女は俺たちでは歯が立たなかったような魔物をいとも簡単に屠ってみせるほどの実力者。俺たちが殺される相手が魔物から少女に変わるだけか。せめて最後まで目を見開いて俺たちを殺した相手の顔を目に焼き付けて……と思ったら、俺とまだかろうじて立っていたコルネスに、倒れた仲間たちも淡い光に包まれ……
「え?傷が……治っていく?」
「う……な、何……が……」
「これ……え?」
全員の傷が治っていく。まさか、治癒魔法?そんな……瀕死の重傷も含めて六人もいたのに、一度にまとめて?しかも、疲れもなくなっている。
「き、君はいったい?」
誰なんだと問いかけようとしたが、何故かその少女の横にもう一人金髪の少女がフワフワと浮いている。仮面の少女が何かを伝え、金髪の少女が頷くのを確認すると、そのまま暗闇へ向けて駆けていった。
「え?何これ」
「置いてきぼり?」
「わからん」
「だが……お客さんが来たぜ」
仮面の少女が消えていったのとは別方向から複数の足音が聞こえてきた。一難去ってまた一難。なんだかよくわからないままに助かった命もここまでかと覚悟してそれぞれが武器を構えた瞬間、金髪の少女が足音のする方へ駆けた。そして、ドスンという打撃音が数回。そして何ごとも無かったかのように戻ってきた。
「へ?」
「ち、ちょっと様子を見てくる」
斥候のフェルマンが恐る恐るそちらへ向かうと、金髪の少女がビッと腕を出す。まるで「それ以上進むな」と制するかのように。仕方ないのでそこで足を止めて目を細めてその先を見たフェルマンが振り返ってこう言った。
「全部片付いてる」
「「「「「マジで?!」」」」」
全滅寸前の六人を助けたはいいけど、六人連れて他のパーティのところまで移動するのは時間がかかりすぎるので、ヴィジョンに護衛を頼むことにした。六人を中心に周囲を片付けてもらえば、ある程度は放置しても大丈夫。でもその間に……一箇所、ハンターの表示が消えてしまった。
「くっ……」
ハンターである彼らは、死の危険と隣り合わせになることを知りつつダンジョンへ来ている。だから、彼らの死を必要以上に嘆くのは間違いだろう。だけど、魔族が攻めてこなければ彼らが死ぬことはなかったはずだ。
「一人でも多く助ける!」
今できるのはそのくらいと自分に言い聞かせながら、今まさに棍棒を振り下ろそうとした魔物を蹴り飛ばして壁のシミに変える。
「よし、なんとか生きてるわね」
ここは五人。三人はなんとか立っているが一人は座り込んでいて、もう一人は虫の息。
「ヒール!そしてウォール!」
治療してすぐに五人の周囲を岩で囲む。
「少し待ってて!」
伝わるといいなぁ……
「クソッ!何だこれ!」
「固い!全然歯が立たん!」
ハイオークというオークの上位種数匹に囲まれ、全滅を覚悟していたら、いきなり現れた仮面をつけた少女が蹴り一発で吹き飛ばした。何を言ってるのかわからないだろう?俺もわからん。しかもその直後に治癒魔法で全員を治療。これはもしやこの異常事態にハンターギルドが上級ハンターを派遣してくれたのかと思いきや、いきなり足元から生えてきた岩壁に囲まれて身動きが取れなくなった。
「あれ……魔物の統率者とか?」
「いやいや、まさか」
「でもな、現に俺たち閉じ込められてるんだぜ?」
幸い上の方に隙間があるので空気の心配はなさそうだが、このままじゃ餓死確定。ハハ……ハンターとしては結構順調にやって来たけど、まさか最期は餓死とはね。
「よし、いた!」
ダダンッと駆け寄って、伸び上がってアッパー。背景に「KO!」って出そうな感じに弧を描いてハイオークが吹き飛んでいく。そして着地する前に空中でクルリと回転して、両隣にいた二匹を蹴り飛ばす。そして、着地すると振り向いて、
「火の魔法レベル一、火矢!」
十数本の炎の矢が少し離れた位置にいたのをすべて貫いて……じゃない、上半身を吹き飛ばす。周囲が片付いたら次は、
「ヒール」
六人いた内の二人は既に事切れているが、さすがにそれは無理。この場に放置するのも連れ帰るのも好きにすればいいが、とにかく脱出を優先。手招きしてついてくるように促して小走りに。うん、ついてきてるね。
岩壁で囲んだグループのところへ到着したら壁を崩すと、互いに顔見知りなのだろうか、互いに抱き合って喜んでいた。多分「お前、生きていたのか?」「お前こそ!」みたいな感じかしら?まあ、生きていたのを喜び合うのはいいけど、脱出しないとね。パンパンと手を叩いてこちらに注目させ、すぐに走り出す。もちろん彼らはここで捨てられちゃたまらんとついてくる。
しばらく走ってヴィジョンに護らせていたパーティの元へ。面識はあるらしく、「お前、生きてたのか?」みたいな感じでワイワイやっているけど、そんなにのんびりも出来ないんだよね。
「道はわかる?」
コクリ
「じゃ、頼むわよ」
コクリ、とヴィジョンが頷いたので、任せることにしよう。
「はい、注目!」
パンパン!と手を叩いてこちらに注意を向けさせる。まあ、言葉は通じなくてもこっちの意図が伝わればいいのよ。
「今からこの子についていって。ダンジョンから出るのよ!」
こちらの言ってることは当然伝わらず、まごまごしているので、一人の背中をぐいと押し、その隣の腕を引くとようやく意図が伝わったようで、ゾロゾロとヴィジョンについていった。では、私は三層を目指しましょう。
どこの国の言葉か全くわからない、聞いたことも無い言葉を話す、仮面をつけた変な少女と、一切言葉を発しない美少女。
その美少女について行けという雰囲気を出していたので、全員が後をついて行くのだが、このまま行けばまた魔物が現れるのは間違いない。全員が十五人いても勝てる相手ではなかったと認識している一方で、最後に合流した六人は「あの子がいるなら何となく大丈夫な気がする」と言っているが、本当だろうか?
そんな風に訝しんでいたところ、前方から複数の足跡。そしてすぐに見えてきた三体のオーガ。同時に少女が加速してオーガの手前でポンとジャンプして、クルリと回し蹴りをすると、その高さでオーガの体が切断された。
「「「「は?」」」」
全員が足を止めてしまったが、少女はこちらを少し見てすぐに走り出した。
「お、おい」
「うん……とりあえず行こう」
色々疑問は尽きないが、今はついていくのがベスト。そう判断して全員が走り出した。




