10-7
「水が湧いてきた?」
「はい。あちらです」
発見した作業員さんに案内された先では、私が切り拓いた壁面に開いた穴から水が湧いていた。
「この水、これから掘る先の方から湧いているみたいですね」
「そのようだね」
「穴の向きはほぼ真っ直ぐか」
私のマップでは、こういう水がどう湧いてくるかはわからないし、イヴァンさんのヴィジョンでもわからないらしい。
「まあ、こういう工事で水が湧いてくるのは珍しい事ではないし、この先の懸念が一つ解決したとも言える」
「懸念?」
「この先に作る検問所は、その周辺も整備して宿場町としての機能も持たせる予定なんだけど、水源をどうするかという問題が残っていたんだ」
「なるほど。うまく行けばこれが水源になると」
「そう言う事」
井戸掘りの手間が省けて良い、と言うことね。だけど、今湧き出していてダバダバと溢れているのはどうにかしないとならない。
「どうやらここまで切り拓いて固めてきたところからどこかへ流れていたようだけど」
「んーと……あ、ココみたいですね」
固めた地面を引っぺがしたところに亀裂があり、明らかに水が流れていたような痕跡がある。
「ココまで掘ってきた道の地下を通っているみたいですね」
「なるほど……では地上を通しておこう。水は何かと必要になるからね」
「じゃあ、一度戻って水路を作っちゃいますか?」
「頼んでも良いのかな?」
「お任せ下さい」
切り拓き始めたところの近くに川が流れていたのでそこへ流してしまう事にして水路を掘っていく。一気に掘って固めるだけなので私がちょいっと走って戻ればすぐに終わる簡単な作業です。
水路の幅は五メートル、深さ一メートル。ちょっとした堀の広さにしておけば大雨で氾濫する事もない……かな?まあ、細かいところは土木工事のプロの皆様にお任せしましょう。
戻ってきてから、懲りずに看板を立てていたタチアナを馬車に放り込み、「レオナの川」という看板も回収。油断も隙もあったものではないですね。
途中で昼食休憩を挟んだりしながら魔法で切り拓く事数時間、
「ちょうどこの辺りが中間地点になるね」
「水の湧いている穴も向きが変わりました。どうしましょうか」
「そうだね……滝のように流して、池のようにためようか」
「わかりました。えいっ」
ズイッと三十メートルほどの広さの穴を掘る。水がたまるまで一晩はかかるかな?これがこの宿場町の水源になるわけですね。懲りずに「レオナの池」という看板を設置しているタチアナから木槌を取り上げて看板を回収。宿場町の体を為すためにと、イヴァンさんの指示に従って周囲を削り取っていく。
「今日のところはこんなところかな……予想通りというか、予想以上に早く進んだな、うん」
「伯爵、あらかじめお伝えしたとおりでしょうに」
「そりゃ聞いていたけどね。実際に見ると、これはまた……ね?」
設営された中々立派なテントで一泊した翌朝、池の様子を見に行ってみると、なみなみと水がたまり、水路に流れていた。結構な水量がわいているみたいなので、井戸を掘ったりする必要もなさそうね。
ここまで着いてきた作業員の半分はこのまま残し、色々と建物を建てたりするそうなのでしばしお別れし、私たちは工事を再開する。
朝食前に「滝」と「池」の看板、朝食後は数カ所に設置された「村」の看板を全て回収してから出発。なんて言うか、タチアナって本当にマメね。
こうして順調に進んでいく途中、いくつかの場所で水が湧いているところが見つかった。水量はそれほど多くないけれど、水質は飲むのに全く問題がないので、周囲を掘って小さな池のようにしておく。行き来するときの水の心配はなくなるでしょう。
こうして進み続け日が傾き始め、回収した「レオナの泉」「レオナの湧き水」の看板が片手では足りなくなり始める頃に……
「あと一回で開通です」
「既に連絡は送ってある。向こう側に出迎えが待機していると思うから魔法のコントロールは慎重に、な」
「わかりました」
まあ、私のヴィジョンも連れてこられていますから、魔法の範囲の微調整は問題ありませんよ。
「山を切り拓く!セット魔法!」
ズドン、と山が崩れていき、無事に開通。フェルナンド王国という、地形的な理由で外交が行われてこなかった国の歴史が変わった瞬間だ。
向こう側で待っていたのは、ゴードン辺境伯に、シェルビーさん、そしてもちろんフェデリカさんとソフィーさんも。
「やっぱりレオナちゃんはすごいわぁ」
と、感激したフェデリカさんに抱きしめられている――締められている、のほうがいいのだろうか?――横で、ラガレット側の人たちは、目の前で起こった出来事にもかかわらず、「こんなことが」「信じられない」を繰り返している。目の前の事実くらいは受け入れてほしいものです。すごいことをやったという自覚はありますけどね。
さて、道は開通したけれど、街道としての整備はまだこれからなので、と辺境伯の連れてきた人員の手によってすぐに柵が作られた。言葉が通じるわけでもなく、法整備的な意味でも色々と違う国同士。気軽に行き来できるようにするのはまだ性急と言うことと、検問所兼宿場町が出来るまでは封鎖するんだって。
その辺の細かいところは偉い人たちに丸投げです。
フェデリカさんがひとしきり私を堪能して解放してくれたところでヴィジョンを回収する。
「お疲れ様」
コクリ。
これだけの距離と時間、離ればなれになっていたのはもちろん初めてだけれど、よく頑張ってくれたと思う。うん、周りの視線が痛い。わかってますよ、普通じゃないってことくらいは。
そして、まだラガレットとの話し合いは終わっていないと言うことで、辺境伯邸へ向かうことに。
「レオナの道」の看板を数本回収してから、タチアナの首根っこ捕まえて馬車に乗り込む。
「普通は逆だと思うのですが」
「それをタチアナが言うのも逆よね?」
普通は私がやらかして、タチアナにずるずる引きずられていくものよね?と言うか、そういうお約束ってこっちの世界にもあるのね……あるってコトで良いのよね?
辺境伯邸に着くと、応接間で難しいお話しタイム。と言っても、道路が開通するまでは半信半疑で進めていた内容を一気に固めていくだけらしく、「それではここは先ほど決めたとおりに」「ここは問題ないですね」という確認だけっぽい。
捕らぬ狸の、にならないように「最終確定!」にはしていなかった事項を決めていくだけ、と言う状態になるまで全ての調整を進めていたというだけでもフェデリカさんがどれだけ優秀か、よくわかるというものね。
とりあえず、最低でも半年程度は道路を行き来するのは外交官クラス。つまり、貴族が国家間の交渉事のために行き来するのがメイン。
これは検問所兼宿場町の整備が終わらないことには始まらないから、と言うことに。
そして、一般の通行を認めるようになっても、しばらくの間は行き来できるのはゴードン辺境伯か、イヴァン伯爵が許可証を発行した者のみ。許可証の発行にもかなりの手数料を徴収するし、通行料も結構な額。おまけに宿場町の宿代もかなり高級な宿の料金相当になる。
これはフェルナンド王国側の事情に配慮したものだ。ラガレットは他国と普通に行き来があるため、国家間の行き来が引き起こすアレコレに慣れているが……と言うこと。まあ、一番の理由は……フェルナンド側に通訳がソフィーさんしかいないってことかな。コレばっかりはどうにもならないのだけれどラガレットには通訳のヴィジョン持ちが数人いるので派遣することも検討中らしいし、ヴィジョンを介さない通訳――つまり、普通に地球にいたような通訳ね――の育成も検討していく、とのこと。




