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「こちらが、レオナ様の王都でのご自宅となります」
「はあ……」
馬車から見えてきた屋敷をタチアナが示してくれた……うん、事前に聞いてはいたけど、なるほどオルステッド家の屋敷に負けず劣らずの大きさねえ……
「さて、タチアナ」
「なんでしょうか」
「今までありがとうね。色々振り回しちゃった気もするけど、まあ、いい思い出と言う事で」
「はい?何を仰っているのかよくわかりませんが」
「何って、タチアナはここまでで、オルステッド家に戻るのでしょう?」
「えーと?」
え?何、この反応。
「あの、レオナ様……その……これを」
「ん?」
おずおずと、メイド服の胸に縫い付けられた紋章を見せ……え?クレメル家の紋章……?
「えーと……どういうことなのかしら?」
「あの……ロナルド様が……必要な人材は手配済み、と仰っていたかと思いますが」
「え?ああ、うん。そうね」
え?
「人材……」
馬車が玄関前に止まり、姿勢良く並んだ数名に出迎えられる。
「お帰りなさいませ、レオナ様」
「「「お帰りなさいませ」」」
見知った顔だらけの件。
「えーと、セインさん……ですよね?」
「はい。此度、レオナ様の執事を拝命致しました、セインです」
「そしてクラレッグさん」
「はい。料理長のクラレッグです」
他数名の、最近賑やかにやっていた料理人さんたち。
「シーナさん」
「はい、身の回りのお世話をさせていただきます。シーナです」
料理人さん同様、最近賑やかにやっていた方が数名。
「それから……騎士団の」
「屋敷の警備を担当します。ライルズと申します。よろしくお願いします」
私が騎士団で直接治療した方を筆頭に数名。
「それから……」
ドワーフ?
「鍛冶職人のエルンス。お目にかかれて光栄です」
初めて見るドワーフというファンタジーへの興味よりも疑問が先に立った。鍛冶職人って必要なのかしら?
そんな疑問がそのまま表情に出たのを読み取ってセインさんが答えてくれた。
「色々と道具を作る事になるだろうからと言う事で、特別に」
「道具って……あーそう言う事か」
油を絞る器具とか作りたいし、調理器具も色々と……ってことか。あとは……武器とか防具とか?
「数年前までオルステッド家専属の職人でしたが、引退して息子に代替わりしまして。悠々自適の暮らしも悪くなかったのですが、今回の話を聞いて是非にと」
「わかりました。よろしくお願いしますね」
さて、あとは……
「それで、タチアナは……?」
「はい。メイド長兼、側仕えとして」
「なるほど……って、オルステッド家に関わる方の率が高くないですか?!」
「それについては私から説明をしよう」
リリィさんが私の乗っていた馬車の後ろに付いていた馬車――色々荷物を積んできていた――から降りてきた。
「えっと?」
「レオナ……よく自覚しておいて欲しいのだが、レオナのアレコレは非常にデリケートな事情を抱えている」
「えーと……爵位がない、とか?」
「そうだ。その他にも色々と説明が面倒な事情が多いだろう?」
「そうですね」
私のとんでもない戦闘能力とか魔法とか……だよね?
「それらの説明を極力省略でき、かつ口の堅い者を選んだ結果だ」
「あの、でも、セインさんとかこちらに来ても大丈夫なんですか?」
「ご心配には及びません。息子が引き継いでおりますので」
「なるほど」
つまり、オルステッド家から人員を引っ張りつつ、後を引き継ぐ人員を手配していたと言う事なのね。まあ、私も全くの初対面と暮らすというのはハードル高いかなと思っていたからいいけど。
「さて、レオナ様。早速で申し訳ないのですが、領地の視察に行きませんか?」
「領地の視察?」
「ええ。もう少し正確に言いますと、領地に常駐する者たちとの顔合わせでございます」
「なるほど。領地と王都、それぞれに人が配置されるのですね」
「はい」
「分かりました。用意ができているのであれば今からでも」
「忙しなくて申し訳ありません」
ということでまた馬車に乗り、ガラガラと運ばれていく。
私の領地になったのは王都から馬車で半日ほど東に行ったところ。と、地図で説明されていたのだけれど……馬車の窓から見える景色はずっと森だねぇ。
「あの、ずーっと森しか見えないのですが」
「そうですね。レオナ様の領地として開拓を始めるところでございます」
「開拓?」
「はい」
「私、そのあたりのことが詳しくないのですが……開拓ってことは……村?」
「そうですね……」
セインさんが説明してくれた内容は、私が色々と異例ずくめだということだった。
貴族が領主としてどこかを治めるという場合、通常は領都、つまり街に赴任する。だが、今回は私が領地持ち貴族になったタイミングで、領主不在の街がなかった。
さらに、私の役割上、王都とのアクセスが悪い場所への赴任はマズいということで、王都近くの森を切り開き、新たな領地にしよう、となったのだとか。
これはまた色々と裏の意味を持っている。
まず、私の領地が開拓村扱いになる。これによって、領地を与えたという事実と、貴族の力としては小さいという建前が出来上がる。私を貴族にすることに異論がなくとも、歴史のある貴族家にしてみれば、ぽっと出の私がいきなり大きな街の領主というのは色々と厄介事の種になるからだそうだ。
そして開拓村は基本的に数年間は税を納めなくて良い、となっている。これはいきなり税を課しても、収穫できる畑すら無いのに……ということを避けるためだが……ぶっちゃけ「女神様の御使いに税の取り立てはまずかろう」というこれまた微妙な理由と、村の畑で栽培する物が原因。
「ダート豆、ラド麦、アブラナは決定。その他は……何これ?」
聞いたこともない名前だらけなので、何なのか聞いてみると、
「基本的に、国内でほぼ栽培されていないものか、家畜の飼料です」
「へ?」
どゆこと?
「まず、家畜の飼料は税が課せられません」
「へ?」
「その飼料で育てられた家畜には税が課せられますが」
なるほど。ラド麦を大量に栽培しても、それを税として納める必要はないが、それを食べて育った牛は税として納める必要がある、と。
ん?
「あの、家畜を育てる牧場が無いようなのですが」
「ええ。ありません」
「えーと……つまり、これは……ある程度の期間が経っても、税を納める必要のない村、ですか?」
「そのとおりです」
それでいいの?と思ってしまうけど、まあ……いいか。
「で、家畜の飼料ばかり育てるのはいいのですが……もしかして」
「はい。それらを使ってなにか新しい料理、すなわち産業を、と」
「やっぱり」
つまり、開拓村は開拓村でも……「新たな料理の開拓」をする村か。うーん、私のレパートリーってそんなにたくさん無いんだけどな。ああ、でもダート豆を使って味噌や醤油が作れたら色々と作れそうだねぇ。その辺、神様に相談したらなんとかなるかな?
やがて、馬車は街道を少しそれて細い道へ入る。
私の領地へ向かうために新たに敷かれた道で、切り開いたばかりですといった雰囲気があちこちに感じられる。
「この辺り、魔物は出ないのでしょうか?」
「ゴブリンやオークは出るでしょうが、その他はあまり聞きません。王都から近いということもあって、定期的に騎士団が巡回しますし」
「ふーん」
ゴブリンやオークはどこにでも湧いて出るらしいので仕方ないが、厄介な……つまり強い魔物が出るような場所ではないとのこと。




