1-7
「この子の世話を。風呂と薬、食事と睡眠だ」
「かしこまりました」
ひょいとメイドさんにそのまま渡される。
アレ?どゆこと?
リリィさんと別れ、スッスッと流れるように廊下を歩くマリアンナさん。
いかにもメイドです!って格好――ロングスカートのエプロンドレスにホワイトプリム――にキリッとした表情。リリィさんとはまた違ったタイプの黒髪ロングな美人。メガネがあれば完璧だった。こっちにあるのかな?あったら付けて欲しい。絶対似合うはず。そして……うーん、胸でっかいなあ……ちょっとだけこの感触を楽しんじゃえ。リリィさんもかなりスタイルが良かったけど、鎧のせいで固いだけだったので。
着いたのは脱衣所?あのドアの向こうはお風呂かな?さっきお風呂とか言ってたし。
戸惑っていると、スルッと服を脱がされました。
「きゃ」とか言う声が自然に出ちゃいましたよ。いきなり脱がすなんてひどいわ。一応レディなんですよ?色々見た目は残念ですけど。
「こちらへ」
手を引かれていった先は、予想通りお風呂でした。洗い場だけっぽいけど。
椅子に座らされると、目の前の蛇口についた石をポンと叩き……光った。あ、これでお湯が出るんだ、とびっくりしてマリアンナさんを見てしまう。あ、マリアンナさんは服着たままですよ。袖は濡れないように捲り上げてるけど。
「こう言う魔道具です。触れるだけでお湯が出るんですよ」
魔道具とか言う、ロマンあふれる単語が聞こえましたよ?
そして、なんか繊維の絡まったようなモノを手に取り、石鹸をこすりつけて泡立てる。石鹸、あるんだ。あと、アレは……ヘチマね。前世でも昔はタワシというかスポンジみたいに使ってました。結構丈夫だし、タワシと違って尖ってなくて柔らかくて使いやすいんですよね。
泡立てたそれを私の腕に……はい、泡が全部消えました。マリアンナさん、びっくりして固まってます。ええ、汚れがひどすぎると泡が立たないんですよ。そう言う経験が無いとびっくりするんだろうな。
「あの、何度か流せば泡立ちますから……多分」
「そうですか」
何度か石鹸をつけ直してようやく泡立つようになった。流れていく泡の色が黒いよ……見なかったことにしよう。
同じように頭もゴシゴシ。シャンプーもあるというのには驚いたけど、こちらも当然泡が立たなくて何度もゴシゴシ。
あちこちの吹き出物がしみるなぁ……ちょっと膿んでいたり、大きなかさぶたがあったり。改めて見ると酷いもんだ。一応しみた時に「う……」とか言うと、少しだけ手つきが柔らかくなるので、ちょっと嬉しい。
洗い終えたところでサバッと流して終了。ええ、湯船なんてありませんから。
体を拭いてもらって、服を……と思ったら白い何かを差し出されました。パンツ?
「まず、こちらを」
今まで黙ってましたけど、私、ノーパンでした。穿いてないって奴です。でも、これで文明レベル向上です。
パンツを穿くと、今度は何かの箱を持ってきました。
「少ししみると思いますが、我慢してください」
箱の中のそれを見て、固まる私。
ある薬草を煎じて煮詰めると黒いドロッとしたものになって、皮膚の炎症によく効く薬になるということは商人さんから聞いてました。試しに余りの薬草で作ってみたことがあるけど、量が少なすぎて気休めにしかならなかったのを覚えています。つまり、この量は銀貨が必要なほどの量の薬草が必要なはず。薬草で生計立ててた私が言うんだから間違いない。
それを躊躇うこと無く手足からお腹、背中に顔、頭まで。
そして塗ったところに布をあてがい、包帯でぐるぐる。頭から顔、手足の先まで。
はい、ミイラ娘の完成です。
そして服を着せてくれた。私が着ていたような、布を適当に縫った物では無く、何だかかわいい赤いワンピース。素材が明らかに違う。私が今まで着ていたのはかなり質の悪い麻っぽい素材だったけど、これは木綿だ。こっちではそこそこの金額だと聞いたことがあるのですが。
ここまでで一体いくらかかっているのか、聞くのが怖い。そんなお金払えませんよ?もしかして体で払えとでも?この貧相な体のどこに需要があるんですか?
「失礼します」
マリアンナさんに抱き上げられた。ええ、包帯のおかげで手足が曲がらなくてまともに歩けません。
そして十二畳ほどの広さの部屋に到着。ベッドとかテーブルがあります。客室?
小さなテーブルに着席。この次は何をされるのだろう。もうそろそろ頭が追いつかないので程々にして欲しいんだけど。
「少しお待ちください」と部屋を出て数秒で戻ってきたよ。両手でお盆を持って。どこから持ってきたの?
お盆の上にはパンと野菜の入ったスープ。おいしそうないい匂いです。思わず手が出ます。
「う……」
なんと言うことでしょう。包帯が固くて腕が肩より上に上がらないのです。これには匠も困り果てて……じゃないって。ついでに言うと手を口元に寄せることも出来ない。詰んだ。
「どうぞ」
そんな私の苦悩を余所に、マリアンナさんがパンを小さくちぎって口元に。
「あーん……はむっ」
モグモグ。おいひい。こっちに来てから食べたものの中で一番おいしいかも。でも、白いパンって、確か高級品ですよね?
「どうぞ」
今度はスープを掬ったスプーンが。コンソメっぽく見えるけど、何だろう?あと、具は豆と肉?
「あーん……ずずっ」
ああ、五臓六腑に染みわたる。音を立てて飲むなんて行儀が悪いって?そんな物、こっちに転生して三日目にあの小川に流しましたよ。
あれ?マリアンナさん、顔が赤いような……と思って見つめていたら、キリッとした顔に戻りました。うん?
結局最後まで、あーん、してもらいながら食べた。時々マリアンナさんの目尻が下がってたけど、見なかったことにしておきましょう。大人の対応って奴です。
食べ終えたら寝かしつけスタート。
……おかしい。ヴィジョンも顕現したから大人扱いされるべきなのに。
包帯グルグル巻きで動き回れないから寝るしか無いのかも知れませんが、ベッドの上に寝かされて頭をなでられてるって、おかしくな……い……?
毎日予約はここまでです。
後は他作品同様、週一ペースになります。