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「ちなみに、宰相のご長男はどんな方?」
「とても優秀な方と伺っています。あと数年も経験を積んで後を継ぐ予定ですが、その折には歴代最高の宰相になるとまで言われるほどで」
「で、次男は平凡……どころか三流以下の無能だったり?」
「あ……えっと……」
「無理に応えなくていいわ。あなたにも立場とかあるでしょうし」
「ところで」
リリィさんが口を挟んできた。
「はい、何でしょうか?」
「どこへ向かっているんだ?」
「王様の居室、になるのかな?」
「え、あの……」
さすがに聞きとがめたのか、ティリー隊長が寄ってきた。
「そ……その……場所がわかるので?」
「わかりますよ」
「え?」
「んー、説明すると長くなるのでその辺はパス。知りたかったらリリィさんに聞いて下さい」
「お、おい、レオナ!」
「倒れてた私が言うのもアレですけど、時間がないんです。えーとほら、追いついた」
私の指さす先には二人の侍女が何やら色々と乗ったワゴンを押していた。
「そこのお二人、止まって下さいな」
言われた二人はとりあえず立ち止まってこちらを振り向いたが……怪訝そうな顔は当然ですよね。マップ表示上は緑と赤の点滅。特段、敵意を持ってはいないけれど、どうしてこんなところにこんな連中が?というのはまあ当然ですよね。
んで……私の期待していた登場人物がこちらに向かってきている。
「おい!そこで何をしている!……って、ティリー隊長!あなたともあろう者がここに部外者の立ち入りを許しているとは何ごとだ!」
宰相の次男登場、と。本当は第三王子もセットが良かったけど……ま、いいか。
とりあえずうるさい次男はさておいて、侍女さんたちのしていたワゴンの前に。水差しにコップ、そして紙に包まれた粉末。すいと手を伸ばすと
「触れないで下さい。国王のための薬です」
「あ、そう。でも聞けないわ」
私の手を掴もうとしたのをスルリとかわしつつ、紙包みをつまんで……鑑定。
「ピピムの魔石粉末……ねえ?」
「ピピム?」
リリィさんの知らない魔物らしい。
「ティリー隊長はご存じで?」
「ええ。我が国ではあのダンジョンにのみ棲息する魔物です」
「ふーん」
どんな姿の魔物かは聞くまい。さてもう一回……詳細に鑑定……出来るもんだわ。成分としては大雑把に言うと、麻薬に近い成分と微量の鉛。
「ティリー隊長、確認なんですけど」
「はい」
「王様とかが体調を崩されている、それは確かなのね?」
「はい」
次の質問は侍女さんに。
「で、そこの貴女」
「は、はあ……」
「これはどちらから?」
「その……宮廷薬師の方が調合されたお薬です。気力を充実させ、体力を回復させる効果があると。実際飲まれた直後は目に見えて元気そうに」
「そうですか」
それ、麻薬の効果なんじゃないの?んで、知らずに長期間飲み続けると鉛中毒の完成。今までに飲んだ量がわからないからまだしばらく平気なのか、あと数日なのか。
「貴様!」
「何ですか、うるさいですよ」
「この小娘が!おい、コイツを引っ捕らえろ!」
宰相次男の後ろに着いてきていた騎士が数名取り囲もうとするが、一歩どころか数歩遅い。
「コール」
「んがっ!」
「お薬ですか……あなたにも飲んでもらいましょうか」
ヴィジョンが羽交い締めにして無理矢理口を開けさせているそこに紙包みを近づける。
「ふががががっ!ふがっ!」
「体にいい薬なら抵抗する必要、ないですよね?」
ジタバタと暴れるのでとりあえず飲ませるのは中止。粉をばら撒いてもアレだし。
「貴様、こんなことをしてタダですむと」
「ええそうね。その言葉、そっくりそのまま返すわ」
ヴィジョンにブンッと放り投げさせて先を急ぐ。ドシャッと言う音と悲鳴に続いて怒号が聞こえるが無視。とりあえず薬を飲ませようとする侍女さんには追いついたが、これを飲まされていた期間を考えると……結構深刻かもね、と歩みを進める。
「あの、ちょっと!」
「そ、そちらはっ!」
「ええい、もうどうにでもなれ!レオナ!好きにしろ!」
色々な声を背に進み、正面に国王の寝室。当然ながら扉の前には近衛騎士が数名待ち構えていた。色々と説明してもいいが、現在の状況がわからないので少し急ごう。事は国王だけではないのだし。そう決めて仮面に手をかける。
「お前ら!そこで止まれ!一体何「黙れ!道を開けよ!」
一瞬耐えたけど、後ろに下がった。さすが、神の使徒の威光ね。そして、バンッと扉を開けようと……開かない。まさかカギが?えーと、鍵開けの魔法が確かあったはず。
「……その……レオナさん……それ、引っ張るんです」
「うん……今気付いた」
蝶番がこっちに見えてるし……ティリー隊長の気遣いが苦しいです。
「失礼します」
王様の部屋に入るときの礼儀作法なんて知らないけど、とりあえず一礼してから入る。
「何者だ……」
ベッドの上で起き上がり、警戒して、剣も抜いている王様に、「剣なんて気にしませんよ」という空気を醸し出しながら、ツカツカと歩いて行く。鑑定してみると……鉛中毒と麻薬依存症って出てる。うん、顔色も酷い。よくもまあこれで体を起こして抜剣したものだと感心する。
「フェルナンド王国から来ました、レオナと申します。えーと、色々説明が面倒なので詳細は……ティリー隊長から聞いて下さいね。とりあえずヒール!」
ソフィーさんの通訳を終えると同時に日本のサラリーマンの飲み会一発目風の治癒魔法、そして鑑定……よし、鉛中毒も麻薬依存症も消えた。だけど、長いこと寝たきりだったせいで筋肉が衰えてるね。それはさすがに治せない。
「悪いところはなくなりましたが、長いこと体調を崩していたようですので、しっかり栄養を取って下さい。それでは」
まだあと……王様一家だけで五人?宰相さんは城内にはいない……別棟か、王都内の自宅か……もしかしたら長男も同じ状態かも?ああ、忙しい。
「次はこっちですね」
「なぜわかるんだ?」
「そう言うものだからです」
「なるほど」
リリィさんの理解が早くて助かります。
「ああ、待ってくれないか」
「はい?」
王様、私は出来ればこういう、緊張感あふれる場所から一刻も早く去りたい庶民なんですが。
「ティリー、コレをその娘に」
「ははっ」
なんかメダルのようなものを渡され、ティリー隊長が説明してくれた。
「これを持っていれば、王宮内のどこを歩いても咎められることはない、という証です」
「そうですか……ご丁寧にどうも」
首から提げて歩けばいいんですかね……うん、やめよう。普通に手に持って掲げながら歩こう。
こうして王宮内をグルグル回り……その後、別棟にいる宰相さんたちも治して回った。なお、宰相さんが一番高齢で一番ヤバい状態だったことを書き添えておこう。
「と言うことで、治療は終わり、かな?」
「そうですね、一応薬師を締め上げたところ、誰に処方していたかはすぐに吐きましたので間違いはないかと」
「ティリー隊長……薬師さんは第三王子と宰相次男に唆されただけなのでお手柔らかに。どの程度の関わりかをキチンと調査してから罰して下さいね」
「はあ……しかし、実際に薬を調合したのは薬師ですし」
「家族などを人質に取られて脅されていたりしたら?」
「む……しかし、それでも……」
「脅されていたりしたら周りに相談も出来なかったのではないでしょうか?」
「それは……そうですが」
「罪は罪ですが、何でもかんでも重罪にして思い罰を与えるのが正解ではない、と思いますよ?」
「わかりました。その旨、しかと伝えるようにいたします」
何だろう……隊長さんの態度が……越えちゃいけない一線を越えているような気がする。ま、いいか。私はこの国の国民じゃないし。




