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「う……あ……」
壁をぶち抜き廊下を抜けて反対側の壁にめり込んだところで止まったが、建物に与えたダメージも大きく、天井が崩れ落ちてきた。確かここは二階まであったはずだが……どうやら誰もいなかったみたいで何より。正直なところ、この国の、というよりこの城にいる人間には良い感情がないのだけれど、それでも目の前で怪我をしたり命を落としたりされるのはちょっとね。
そして半壊した建物の瓦礫に埋もれる私を見ながら、分体があきれたように呟く。
「まだ死なぬか。頑丈を通り越して、なにかこう……まあいいか」
「お褒めに預かり恐悦至極ね」
減らず口をたたく私を見て、腕組みしながら余裕の表情。何だろうか、この強者の風格は。でも、その位置、距離感。これが良いのよ。
「土魔法レベル五、硬化」
「ん?」
「コール」
分体のすぐ後ろの地面をアダマンタイト並みに硬くして、さらに分体の腰にヴィジョンが背後から組み付き、ぐいと持ち上げて後ろにのけ反る。
「プロレス技、バックドロップよ」
ドガン!とバックドロップの際に聞こえてはいけない音をさせながら分体の頭が叩き付けられる。
「ぐ……あ……」
私の魔法で極限まで固められた地面にヒビが入るほどに叩き付けたというのに生きてる。実にしぶといが、意外な攻撃だったせいか、結構効いたよう。何となくだけどこいつら、殴る蹴るが素手戦闘の基本っぽくて、こう言う投げ技は全く考えてなかったのね。受け身の一つも取らないから、衝撃を逃がすことも出来ず。で、ピクピクと痙攣している……まだイマイチのようね。どうにかヴィジョンに押さえ込ませておいて次の行動へ。
「土魔法レベル六、ゴーレム生成」
周囲の瓦礫をガチガチと組み合わせて、高さ五メートルほどの円柱状にして、先端付近に開けた穴に私が右手を突っ込んで、巨大な右前腕の完成。ぐいと持ち上げて、うん、いい感じ。
「土魔法レベル五、硬化」
全体を固め、芯まで固まるのを確認しつつ、分体の下の地面もさらに深くまで固める。
「ぬ……なに……を?」
ようやく意識が回復したらしいが、いちいち答えるつもりも義理も無い。軽くジャンプして巨腕を振り上げて、振り下ろす。
「馬鹿な……仲間が……い……」
そう。逃げられないようにヴィジョンが全力で押さえつけているのだが、分体の視点で見れば仲間もろとも押しつぶすつもりのように見えるのだろう。と言うか、このまま叩き付けたときにどうなるかなんて、どういう結果が出るか怖いのでそんな実験はしません。
「ギリギリ……間に合ったわ」
時間感覚操作、百倍。
腕の落下をゆっくりに感じる中、そのまま振り下ろしていき、当たる直前でヴィジョンを戻して、時間感覚も解除。こうすれば、
ドガッ!……グチャリ
そして叩き付けた腕の上部からヴィジョンが追撃とばかりに蹴りを叩き込むので、私も参戦。アダマンタイトの腕と地面が砕けるほどの威力を叩き込む。
「はあっ……はあっ……これなら……どう?」
分体がどういう存在なのかよくわからないが、血のようなものが流れているし、ずいぶんと厚さもなくなったようだし、と思っていたが
「ガァッ!」
「え?」
わずかにのぞいていた指先がこちらを向き、閃光が私の体を貫いた。
「く……か……は……」
腹部、ちょうど胃のあたりを撃たれ、貫通して血が噴き出してきた。一瞬遅れて激痛。さすがに耐えきれず血を吐きながら地面に崩れ落ちる。
「まだ……生きてん……のね……」
「タダでは……死なぬ」
そんな呟きと共に分体の体が光り始めた。まさかと思うけど……自爆?!
冗談じゃない、こんな場所でそんなことをされたら……街が吹き飛んでしまうでしょ!
「う……く……土魔法レベル四、ストーンウォール。そしてレベル五、硬化……風魔法レベル四、結界」
厚さ数メートル、高さ数十メートルの壁で四方を覆い、その全体と地面を硬化。さらに周囲を風の結界で覆う。これで足りるかどうか……
ドムッ!
すさまじい爆音と共に大地震のような揺れ。ミシミシバキバキと硬度を上げたはずの分厚い壁が悲鳴を上げ、上から吹き出している爆圧から生まれた周囲への衝撃波が風の結界をきしませる。光と音と振動は人間の感覚の限界を超えてしまい、むしろ何も感じなくなるほど。
そんな衝撃が数十秒続き……静寂が訪れた。
「ふう……どう……かな……」
私を庇うように覆い被さっていたヴィジョンを立たせ、ヴィジョンの視界で周囲を確認。どうやら被害はなさそう。まあ、上空が大変なことになってるけどね。大気が全部吹き飛んで空の上、宇宙空間の濃紺が見えてるし。って、ちょっとマズいか。
「風魔法レベル四……結界」
さすがにキツいんだけど頑張ってこの王都の周囲数キロを結界で覆った直後、大気が吹き飛んで真空になった部分に一気に空気が流れ込み、暴風が吹き荒れた。どうにか地上への被害はゼロ……だといいな。
「ふう……」
仮面を取り出して着ける。これ無しで気絶すると色々面倒くさそうなので。
HP 001721/049771
MP 001041/036572
うわ、ギリギリだった。
「あとは……ヒール……え?」
まさかと思ったけど、私には全くヒールが効かないのね……まあ、自己治癒とかあるらしいから良いか。
「よいしょ、と……」
ヴィジョンの肩を借りて立ち上がると、周囲をずらりと騎士たちに囲まれていた。マップ表示は赤と緑が半々か。アレを見てどう感じたか、の違いかしら?仮面を着けてない姿を見たら緑になってそうだけど、仮面を着けると怪しさ満点ですからねぇ。
まあ、フラフラの状態だけど、ここから脱出するくらいなら何とか、と思っていたら城門に近い方が何やら騒がしくなり、人垣を押しのけて……リリィさんが馬にまたがってやって来た。その後ろに相変わらず青ざめた顔のソフィーさんを乗せながら。そしてその後ろにシェルビーさんとマリアンナさん、タチアナに数名の騎士が続いて到着。この騎士さんたち、ダンジョンの前にいた人たちだわ。謁見の間にはいなかったけど、どういうこと?でも、なんとかなりそうだと安心したところで、私の意識は途切れた。
「う……く……」
ゆっくりと目を開けると……城の貴賓室だった。ついでにタチアナの監視付き。
「レオナっ!」
飛び込んでくるのはリリィさん。
「大丈夫か?」
「え……と……多分、はい」
ゆっくりと体を起こすと、なかなかすごい姿になっているのがわかる。体中に包帯が巻かれていて……
「なんだか……会ったばかりの頃の姿ですね」
「……そう……だな」
包帯を少しずらしてみるが、血の汚れは残っているものの、傷跡一つ残っていない。すごい回復力だこと。
「リリィお嬢様、着替えをさせますので」
「ん……そうだな。頼む」
タチアナがいそいそと着替えの仕度を始めたのでベッドから下りる。あ、一言先に言っておかないと。
「タチアナ」
「何でしょうか」
「包帯は捨てるわよ。売らないからね」
「えっ?!」
そんなご無体な、って顔をされてもね。




