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ははーっ→面を上げい、のような流れはなく、国王の隣に立つ男性から私たち一行の訪問を歓迎する言葉がかけられた。すっごく形式的に。国王はニコニコしながらうなずいているが……コレ、傀儡政権とかそう言うやつなのかしら?悪の宰相が国王を意のままに、とか。
「さて、フェルナンド王国よりはるばる訪問いただいたところ、恐縮ですが、ダンジョンの件について伺いたい」
いよいよ本題か、と思ったら後ろからタチアナがツンツンとつついてきた。何よ、ここから本題じゃないの、と思ったのだけれど、
「王都で騎士が動いています。数は三十ほど。城から少し離れていますが、貴族街の一角を目指しているようです」
「ええ……」
「あまり近づけないため、はっきりと確認出来ませんが……シェルビーさんの服に付いているディナルド家の紋章と同じ物が玄関先にある屋敷を目指しているかと」
「わかった……仕方ない、覚悟を決めるか」
宰相のグダグダとした長ったらしい話を聞きながらリリィさんがそっと返事を入れた。覚悟、かぁ……
「と言うことで、ダンジョンを潰した件について、何か言い分はありますか?」
「その件については、騎士団の隊長に伝えてある通り、特段の言い分はありませんが、『潰した』という表現はいかがなものかと。我々としては魔族の襲撃を防ぎ、これ以上の侵攻を防ぐためにやむを得なかったと伝えているのですが」
「しかし、事実としてダンジョンはあなた方によって潰されました。我が国の騎士団の手にかかれば、そうはならなかったのでは?」
「少なくとも数匹の魔物と魔族が二人、ダンジョンの外に出てきております。ダンジョンから魔物が出てくること自体、通常ならばあり得ないのではないでしょうか?」
「ダンジョンから魔物が出ない、というのは我々人間の勝手な思い込みではないかというのが我が国の見解です」
「そうですか。しかし、その出てきた魔物も魔族も、騎士の手には負えない強さだったという所感が出されているかと思いますが」
「それはその場にいた隊の所感でしょう。騎士団の全戦力ではない。それともあなたは我が国の騎士団の全戦力をご存じの上で、そのような話を?だとしたら、我が国に密かにスパイを送っていたと言うことでしょうか」
まあねぇ……実際問題としてフェルナンド王国では騎士団が大打撃を受けたわけだけど、ラガレット王国では騎士団の部隊ひとつで一部が損耗した程度。オマケに重傷者を私が全部治してしまっているので、戦力ダウンは回避されているというわけだ。治したの、失敗だったかな……でも、あのまま放置ってのも、後味が悪いし。
「騎士団長、あの報告書を読んだ上で……ダンジョンを潰すほどの相手だったと?」
「そうですな……」
アレが騎士団長さんか……うーん……リリィさんより弱いんじゃない?まあ、今のリリィさんは丸腰だから勝てないと思う……いや、素手でも勝ちそう、と言うくらいの実力かな。
「報告書によると、その魔族とやら……そこの少女によって討ち取られたとか。その程度の相手ならば、その後に出てくるという魔王とやらも大したことは無いでしょうな」
「ふむ……」
ま、宰相も騎士団長もマップ上は赤表示。明確に敵意を持っているというわけでは無く、私たちを胡散臭いと見ているだけなんだろうと信じたいなぁ。
「王、いかがされますか?」
「フム……そうだな……ダンジョンを失った事による損失はどのくらいになるのだ?」
「単純な魔物素材の価値ですと、年間でおおよそ金貨数十枚程度ですが、その素材の加工により得られるものは計り知れませんし、ダンジョン探索という騎士の鍛錬は金額で推し量ることは困難かと」
「ほう」
「あとは、国内ではあのダンジョンからしか産出しないものもいくつか。輸入に頼るとしてもなかなか難しい素材もあり、今後の外交では悩みの種となります」
「そうか」
ま、言いたいことはわかりますけどね。
「そうさな……そこにいるディナルド男爵家の娘はまあ……どうとでもなるな。そっちの五人は……相応の対価となってもらうというのはどうだ?」
「妙案ですな」
相応の対価って……体で支払えとかそういう系ね。国王のみならず、周囲の男たちからかなり下卑た視線を感じる。リリィさん、どう切り返すのかしら。
「相応の対価だと?!」
「ええ、そうですね。幸いなことに五人とも見目麗しく、それなりに教育もされているとお見受けします。結構な値がつくと思いますよ」
私はこっちでまともな教育を受けてない気がしますけど。あと仮面を着けたままなので見目麗しいかというと……うーん。
「冗談じゃない!そんな要求は飲めん!」
「だが、この状況で何が出来る?」
「くっ……」
周囲の騎士たちの半分くらいが剣に手をかけた。
うーん……これ、くっころ系女騎士の流れ?リリィさんはそう言うタイプじゃないよねぇ?
「これ以上ここにいても話にならない!一度帰国し、改めて協議させていただきたい!」
そう言ってリリィさんが振り返ろうとしたのだが、
「逃がすな」
その声と共に、周囲から何かが私たちに向けて放り投げられた。
「レオナ、スマン!」
「え?」
ひょいっとリリィさんに抱え上げられ……その放り投げられた何か――素材不明の小さな袋だった――からばら撒かれた液体が降り注いだ。
「うわっぷ!な、なんですかこれ!すっごく臭いっ!」
私にほとんどかかったのでリリィさんはごく僅かしか浴びず、その陰になった、シェルビーさんとソフィーさんも同様。だけど、マリアンナさんとタチアナが……え?
「クソ……やはり……か!」
「な、なんですかこれ!」
「コカトリスの毒腺だ……な」
「コカトリスの……?」
「くっ……」
ちょっと乱暴な感じで下ろされたが、その理由は……
「石になってる?」
「レオナ……すぐに……脱出……頼む……」
「リ、リリィさん!」
パキ、パキ……とリリィさんの両手足と顔の一部が石になっていく。ほとんど液体を浴びなかったシェルビーさんとソフィーさんは少し液体のかかった服の裾が石になっている程度だが、マリアンナさんとタチアナはというと、半身が石になりつつあった。
私?服が石になっててちょっとバランスが悪いくらいですよ?臭いのは……今は我慢しましょう。
「わかりました!」
エイヤとリリィさんを抱え上げるが、体格が違いすぎてなかなか大変。この場で治してもいいんだけど、多分それを見せない方がいいというのがリリィさんの判断だろうから、指示に従うことにする。
「コール!二人を抱えて!」
ヴィジョンにマリアンナさんとタチアナを抱えさせて、扉に向けて走り出す。オロオロしていたシェルビーさんとソフィーさんも何とか付いてきている。残っていたらどんな目に遭わされるか、容易に想像出来るもんね。
「逃がすな!」
扉の前に数人の騎士が立ち塞がるが。
「邪魔よ!風の魔法レベル二、風弾!」
レベル二にしては凶悪なサイズの空気の塊を射出して全員を吹き飛ばし、すぐにもう一発。扉をぶち抜いてやると、向こう側で構えていた騎士も吹き飛んでいった。そのまま部屋を飛び出して真っ直ぐ走り始める。
「追え!逃がすな!追い込め!」
その声にワラワラと追ってくる足音が聞こえる。まあ、普通に考えたら城内の構造を知り尽くした彼らの方に地の利があるけど、マップで脱出経路が確認出来る私にとってはあまり問題にならない。それに馬鹿正直に扉から外に出るつもりも無い。




