1-5
「大丈夫か?」
「む、村の中にゴブリン。みんなが……」
なんて言えば良いのかよくわからないので思いついた言葉をそのまま口に。
「中にって……全部燃えちゃってるじゃん」
「ゴブリンも燃えてんじゃね?」
皆が馬を下りてきた。全部で四人。全員が剣を持っていると言うことは魔法使いとかそういうのはいないのかな。ま、私が気にしてどうするんだって話だけど。
「生き残ったのは君だけか?」
「多分……なんとか逃げたんですけど……もう動け……」
「そうか」
リーダーっぽいその人は立ち上がり、四人で何か話をしている。ここからだとよく聞こえないや。
「じゃ、おまえたちはここでこの子を」
二人を残して、リーダーともう一人が村へ入っていった。念のための確認かな。あ、大きい奴がいるって伝えてない。大丈夫かな?
ん?残ったうちの一人がこちらを見てニヤニヤしている。イヤな予感しかしないよ!
「ひでえ格好だし、汚れてるけど、顔はまあまあ悪くねえな」
「おい、よせよ」
「いいだろ、どうせ俺ら以外いないんだぜ?」
「そういうことを言ってるんじゃ無い。わきまえろと言ってるんだ」
「……あっちでやるからよ」
「はあ……」
腕をがしっと捕まれて引きずられる。え?何、どういうこと?痛い痛い、離してよ!そっちの人、止めてよ!ダメだ、こっちを見ようともしない。アレなの?!いつもの事だからって事なの?!
引きずられて乱暴にドサッと草むらの上に放り出された。
そしてあろうことか、この男、ズボンのベルトをカチャカチャと外してる!
ちょ、ちょっと?!
これでも前世では子供を産んでますからね。何をどうするとかは知ってますよ、ええ。だから転生したときに女の子だったから、いずれはって思ってました。でも、これは無いんじゃない?剣と魔法とか、王様とか貴族とかそう言う世界だから、「白馬に乗った王子様が」なんて贅沢は言いませんが、せめてこう……お互いに好き合ってというのを希望してるんですけど?!
っていうか、もう一人の人、何してるの!おまわりさーん!犯罪がここで行われようとしてますよ!あ、おまわりさん、いないや。
「い、いや……」
ズリズリと後ずさりするが、男は既にズボンを脱いでいる。そんな汚い物を自慢げに見せるな。お前のなんか……ってそうじゃない!そう言う問題じゃ無いのよこれは!
「すぐに良くなるからよ」
なりません。絶対に。
「へへっ」
男の腕が伸びてきたと同時に叫び声が。
「何だあれは!」
見ると、村の中からあのでかいのが出てきたところ。後ろにゴブリンを引き連れて。
見た目は周りにうろちょろしてるゴブリンと同じ感じなんだけど、身長三メートルくらいありそう。これ、上位種って奴かな。
片手に何かをぶら下げて……!あのリーダーの人……だったモノか。もう一人はどうしたのだろうか……それをポイと投げ捨てると、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
「く……おい、こっちに来い!」
もう一人が剣を構えてるけど、声が震えてる。
「ちっ、何だよアレは!」
こちらに迫っていた男が面倒くさそうに立ち上がり、剣に手をかける。下半身丸出しで。せめて何かで隠せよ。汚い物を乙女(一応)に見せるな。
「うおりゃあああ!」
かけ声と共に斬りかかるも、ズンッと振り下ろされた棍棒でグシャッと。
「じ、冗談じゃねえ!」
それが丸出し男の最期の言葉。横なぎに振るわれた棍棒で首が飛んでいった。人間ってあんなに脆いんだね。
残るは私だけ。あ、馬が四頭い……ない。全部逃げてるし。
あのハンターがどのくらい強かったのかわからないけど、あの巨大ゴブリンはおそらく彼らの想定よりはるかに強いのだろう。
仕方ない。生き延びるため、かなり分の悪い賭けに出よう。
「コール!」
あの少女が目の前に現れる。少しは回復……してるといいな……
一瞬、化け物の動きが止まった。目の前にいきなり現れたらびっくりするよね。
「そいつをやっつけて!」
自分でも無茶を言ったモノだと思うけど、少女は健気にも化け物に向かい走り出し、振り下ろされた棍棒をギリギリで躱すと、低い位置に降りてきていた化け物の顎に右のアッパーパンチを食らわせた。
……化け物が後ろに吹き飛んでいったんですけど。
でも、全身の力がぞぞぞ、と吸い出されるような感じがする。これが限界か。まだゴブリンがたくさんいるんだけど。あのデカいのも倒れただけだろうし。……ま、ここまでだったと諦めますかね。死んだらあの神様に文句言わないと。
「バック」
ヴィジョンを戻したところで、力尽きた。
後ろからたくさんの馬の蹄の音と、「かかれ!」という号令を聞いた気がする。
気のせいだよ、多分。