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「フン!」
ドガッとヴィジョンの腹が蹴られ、小柄な体がすぐ後ろにいるリリィの元に突き飛ばされてくる。どうにか受け止めたが、勢いを殺し切れず、ヴィジョンを抱き止めたまま倒れてしまった。
「ぐ……」
起き上がろうにも手足に力が入らない。
それでも、健気にもこちらをチラリと気にしてから立ち上がるヴィジョン。だが、その両腕には半ば程まで斬りつけられ、今にもちぎれてしまいそうなほど。だが、それでも一歩ずつ前に進んでいく。
「そっちに比べるとコイツは頑丈だな」
「ああ。だが、そろそろ限界のようだぜ」
「ふはははは!」
「穴は塞がれてしまったようだが、我らの王ならば幾らも経たずに再び穴を開くだろう。それまでの間に少しばかりこちらの世界を蹂躙しておくとしよう」
「おう、そうしよう。と言うことで、お前たちの抵抗もここまでだな」
そう言うと、拳を振りかぶり、ヴィジョンの顔面に向けて放つ。
そしてその横で、もう一人がリリィに剣を振り下ろす。
「時間感覚操作、千倍」
少し距離があるが、これ以上は無理。私のヴィジョン、結構強いはずなんだけど、ここまでやられるとは思わなかった。……ヴィジョンがこれ以上ダメージ受けたらどうなっちゃうんだろうねと気になるけれど、実験するわけにはいかない。
「バック……そしてコール!」
私のすぐ真横にヴィジョンが出現。うん、ダメージ全快してる。本当に不思議な子だね。ま、その辺はおいおい確認するとして、呼び戻したのはこの子の飛行速度の方が私の魔法より速いから!
「急いで!」
千倍に引き延ばされた時間の中を一気に飛び抜け、リリィさんに向けて振り下ろされた剣の前へ。
「解除っと」
同時に私の頭に叩き付けられる大剣。すぐ隣では空振りした拳が地面を大きく抉る。リリィさんごめんなさい、飛び散る小石は防ぎきれません。後で治すから許して下さいね。そして頭の上でガキン!という乙女的にはして欲しくない音がして、振り下ろされていた大剣が半ば程で折れて飛んだ。結構な勢いで騎士さんたちの方へ飛んでいったけど、ヴィジョンに空中で受け止めてもらえば周りへの被害はない。
「「何っ?!」」
思ったよりも渋くてカッコいい声の二重奏にちょっと惚れかけた。ダメダメ、こいつらは敵よ。
「レオ……ナ……」
「はい、レオナです。お待たせして済みません」
「イヤ、その……頭は平気か?」
「何か、失礼なことを言われてる気がします」
とりあえず、リリィさんに治癒魔法っと。
「……任せても大丈夫……そうだな」
「はい」
仮面をつけたままだが、安心してくれるといいなと軽く微笑んでから魔族たちへ向き直る。
「貴様、一体どこから来た」
「ああ、えーと……そうか。そうですよね」
彼らにしてみれば、突然現れたようにしか見えないわけでしすから。
ツイと指を一本立てて、
「ダンジョンコアを破壊して何とか這い出してきて、飛んできました」
「「は?」」
理解が悪い二人だこと。きっとアレね、魔王の配下の中でも頭脳派じゃない二人なんでしょう。
「さてと、お二人にはここで退場願いますね」
「何っ?!」
私の煽りに、いとも簡単に激情し、先ほど散々私のヴィジョンを殴りつけてきた方が拳を固めて飛びかかってきた。拳と拳で語り合うつもりかしら?別に付き合ってもいいけど、あなたに耐えられるかしらとこちらも拳を突き出す。
バガン!
「ぐあっ!」
右肩から先が吹き飛んでいった。腕の形のまま飛んでいくとはなかなか頑丈ね。でも、悲鳴を上げてるのを見ていても仕方がないので、そのままの勢いで体を回転させて左後ろ回し蹴りで首を刈り取る。
「あと一人」
「クソッ」
先ほどよりも一回り小さいが、刀身がなんか黒……というか濃い紫の剣を構えて斬りかかってくる。これも魔剣かしら?中二っぽいけど。
体の回転そのままに左の裏拳を剣に当ててたたき折り、そのまま右拳を振り抜いて首から上を吹き飛ばす。折れた剣先?ヴィジョンがちゃんと空中キャッチ。呼吸はバッチリね。
「ふう……討伐完了です」
クルリとリリィさんに向き直る。
「助かった……」
「い、今ので最後なのか?」
「お……おお!」
周囲の騎士さんたちが、ようやく安堵の声を上げる。
「済みません、遅くなってしまって。思ったよりもダンジョンが複雑「良かった!」
「はい?」
リリィさんに抱きつかれた。
「レオナも……皆も無事で本当に良かった」
「リ、リリィさん?」
「本当に……本当に……」
震えてる。そうだよね、怖かったもんね。
血と汗にまみれているリリィさんにこちらからも抱きつき返し、何となくヨシヨシと頭をポンポンしてあげる。前世から加算すると私の方が年上だもんね。甘えてもいいんですよとばかりに。
「リリィお嬢様、レオナ様」
マリアンナさんがこちらに来た。
「一度小屋の中へ」
「あ、ああ。そうしよう」
私もリリィさんも身につけている物がボロボロですからね。騎士さんたちの目の保養にはいいのかも知れませんけど。
リリィさんは私を抱いたまま立ち上がるとマリアンナさんに促されるままに小屋へ向かう。いやあ、役得ですわぁ……リリィさんの鎧が半壊しているおかげで、全身が柔らかくて幸せですわぁ……何故だろう。タチアナからのジト目を感じる。
小屋に入ると手早く着替えさせられた。そして、色々と話すこともあるだろうと思ったのだが、リリィさんに止められた。
「レオナ……だいぶ疲れているようだぞ」
「わ、わかります……か?」
「何となくだがな。ここは私が」
「でも、リリィさんもお疲れでは?」
「レオナの治癒魔法のおかげで疲れが吹き飛んでる」
うわ、私の治癒魔法、すごすぎ……どうして私には効果が無いのかしら?
「それにな」
「はい?」
「オルステッド家の者はこの程度では音を上げないんだ」
「そうですか」
実に体育会系な台詞ですね。まあ、いいか。この場はリリィさんに任せようと思ったら意外なことを言われた。
「レオナのヴィジョンを出してもらえるか?」
「へ?」
「色々と説明が必要になりそうだ」
「説明?」
「ああ」
「はあ……」
あの子、しゃべれないんだけど……いいのかな?
「わかりました。コール」
ふわりと現れるヴィジョンに、リリィさんに着いていくように伝えると、一緒に出ていった。何だろう、仲良し姉妹に見える。嫉妬ね、これは。
「タチアナ、申し訳ないですけど私は少し休みますが……その前に、ソフィーさんを呼んで来てください」
そしてタチアナに連れてこられたソフィーさんに治癒魔法。お腹、お大事に。
「通訳、頑張って下さいね」
そう言って目を閉じたのだが、その直前に見たなんだか絶望したような顔は……まあ、なんとかなるでしょう。




