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こうなったらもう、面倒な事を全部省略して、ダンジョンに行ってしまうのもありかな。一応詳細な場所はわかってるんだし……あ、待てよ。
「リリィさん、確認なんですけど」
「うん?」
「今までにあちらに伝えた情報って、フェルナンド王国で二つのダンジョンの奥に魔王の手下が現れた」
「それは伝えた」
「ラガレットでも同じ事が起きそうなダンジョンがある」
「それも伝えた」
「そのダンジョンの正確な位置は?」
「伝えていないな。街の名前もわからんから、どこそこの近くです、とも言いづらくて。国王からの手紙には場所を記載してあると聞いているがあの通りだからな」
王様からの手紙は封蝋を剥がされることもなく、領主の部下の隣に立っている使用人の持つトレイの上に置かれたまま。中身を見るつもりもなさそうだ。
「では、ダンジョンの正確な場所をこちらが知っていると伝えたらどうなるでしょうか?」
「ふむ……信憑性は高まるか……」
「これ、場所を描いた地図です」
場所を描いた紙を取り出してリリィさんに渡す。
「ソフィー、通訳頼む」
「は、はいっ!」
「ここに、ダンジョンの位置が描かれた地図がある。女神からの神託により得られたものを描き写した物だ。その位置にダンジョンがないというなら我々の早とちりとしていかなる処分も受けよう。だが、この位置にダンジョンがあるというなら、一度確認させて欲しい」
ソフィーさんの通訳に合わせて紙を手渡す。その紙を見た部下さんは……外交とかこう言う交渉ごととか、そう言う場面で表情を変えるのってNGじゃなかったっけ?と言うくらいに表情が変わった。
「少し待ってくれ、と言っています」
「なら待たせてもらおう」
衛兵たちは相変わらず警戒を解いてくれないが、部下さんは大慌てで屋敷へ走って行った。出来れば弓につがえた矢だけでも下ろしてほしいものなんだけど、仕方ないか。
「このダンジョンの地図についてだが……どこでこれを?」
「何度聞かれても答えは変わりませんが、女神からの神託を元に描かれた物です」
実際には私がアイテムボックスから出したんだけど、それを言うと面倒なのでそう言うことで通す。
「ううむ……」
領主、ゴードン・ブラマー伯爵の筆頭書記官と会うことが出来た。部下の中で一番偉い人なのだそうだが、領主とは会えないと言うことか。ハイ、私が悪いですね。反省します。
さて、地図を見せたことである程度信じてもらえているようになったみたいだけど、「ここにダンジョンがあるはずです」なんて言われて「はいそうです」なんて答えるわけが無いよね。だけど、「そのダンジョンから魔王が出てきます」なんて情報が付いてきたから慌てたのだろうか。その慌てっぷりから言えることは一つ。そのダンジョンの地図、正確だわ。
「ダンジョンの奥が魔族の世界につながり、魔王がこちらへ進軍してくる……にわかには信じがたいな」
「でしょうね。しかし、我が国でも同じ事があったばかり。それも神託によって知らされ、被害を最小限に抑えることが出来ました。そして新たに神託があり、その地図に書かれたダンジョンから魔王が攻め入る可能性が高いと」
「……と言ったことがこちらの書簡に書かれているのですな?」
「はい。こちらの言葉にどうにか翻訳しただけですので、読みづらい文章かも知れませんが」
「まあ、中身は見ておりません。仮にもフェルナンド王国の王からの書簡。私の権限で中を確認することは憚られると判断しております」
「そのあたりの判断はお任せします」
えーとなんだっけ……そうだ、辺境伯だ。国境付近でいろいろと権限を与えられている貴族。そう言うのだったらこの場で色々判断できるんだろうけど、たぶんそれはフェルナンド王国とは違う方角にある国に対してであって、ダンジョンの場所という、あまり外国に知られたくない情報の扱いとか、他国の王から届いた書簡の扱いとか、そういった物に対しての権限はないみたい。そりゃそうか。使者が行き来してちょこっと挨拶する程度の外交しかない国が相手じゃあね。つくづく私の生まれた国は地理的に恵まれない国だと思う。
ん?でも、そうなると私たちはここで足止め?うーん、いきなり王都へ行くべきだったかな。と、リリィさんにこっそり伝えてみたら、リリィさんの表情が消えた。はい、ごめんなさい。余計なことは言いません。大人しくしてます……早く帰りたい。
とりあえず、王都へ至急の連絡を入れてもらえることになり、私たちは客間へ通された。今から王都へ行くには遅い時間か。私が飛んでもいいけど、場所がよくわからないからね。
「客……間……?」
「うーむ」
五人ひとまとめに一つの部屋に押し込んだのは、屋根裏部屋としか表現のしようがない部屋。仮にも隣国から来た外交官の泊まる部屋じゃないだろうとも思ったが、「ま、地下牢でないだけマシか」というリリィさんの一言が重い。
確かに、犯罪スレスレどころか、普通ならアウト!になっているところをお目こぼしいただいているような物ですから仕方ないですね。
「リリィさん」
「なんだ?」
「食事とか、どうなるんでしょう?」
「さあな……何も言われないと言うことは、無し、だろうな」
「ごめんなさい」
私が全面的に悪い、と言うことでしょうねと全員に頭を下げたのだが、
「レオナは悪くないと思うぞ」
「へ?」
「多少というか、かなり強引なやり方ではあるが、正規の手順通りに門の衛兵に説明していたら、何日も待たされただろうからな」
「それじゃあ」
「だが、それはそれ、これはこれだ」
「え?」
「もう少し相談をして欲しいところだ」
「はあ……」
「こう言うときのやり方というのは色々あるんだ、色々とな」
「色々……ですか」
多分、袖の下とかそういうことかな。
「これからは気をつけます」
「頼む」
そんな会話をしていたら、グーッとお腹の鳴る音が。
「私じゃないですよ?」
先に言っておこう。そして、その音は……
「はう……ホッとしたらお腹が空いてしまって」
ソフィーさんですよ。
「マリアンナ、さすがに……」
「申し訳ありません」
「だよな」
さすがに「メイドですから」も万能では無いと言うことですね。仕方ない、アレを出すか。
「口に合うかどうかわかりませんが、こんな物でよければ」
前置きしながらアイテムボックスから串焼きを人数分取り出す。焼きたてアツアツのいい香りが室内に漂い始める。
「色々言いたいところだが、いただこう」
リリィさんが何か諦めたようにいいながら受け取ると、残り三人もそれぞれ手を伸ばしてきた。
「あと、野菜のスープもありますよ」
「ほう」
「器がありませんけどね」
器を返すシステムだったので、中身だけアイテムボックスに放り込んであります。
「このようなものであれば、人数分ありますが」
マリアンナさんがスープ皿を出してきた。うん、それをどこから出したか問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい。
結局その後、部屋に誰かが来ることもなく、就寝。そのまま朝を迎えた。
うーん、歓迎されてないのはわかるけど、せめて軽食くらいは用意して欲しい……よね?
という感じで、朝食も私のアイテムボックスから取り出したサンドイッチっぽい物とこれまた別のお店のスープで済ませた。アレコレ気になっちゃって後でこっそり夜食にでもしようかと買い込んだのが功を奏したんだけど……何だかなぁ。
だが、その後が困った。何もすることがないというか、どう動くべきか何とも判断に困る状況だ。
あまり歓迎されていない客が屋敷の中をうろつくのは色々マズい。
ではドア近くにあるベルを鳴らして使用人を呼んで……というのもちょっと憚られるし。
このままこの部屋に足止めされるくらいならさっさと出てダンジョンへ向かった方がよいかも知れない。そんなふうに考え始めたところで、ドアがノックされた。




