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そんな私の心配を余所に馬車は教会に向けて走る。さすがに貴族ばかりが集まるのでタチアナは留守番だ。
光るのはまあ仕方ないとしよう。問題はそのあとだ。光ったら、何かしら神の啓示とかそう言うのを求められるんじゃ無いかな?神様の調査が進んでいることを期待したいんだけど、「間隔短すぎ」とか言われそう。どうしようか。イヤイヤ、私一人で考えてどうするんだ。それこそ、「何て言えばいいですか?」と神様に丸投もとい、相談すればいい。
そう考えると少しだけ気が楽になった。
あ、でもなぁ……うん、ちょっと気になることを聞いておこう。
「あの、レイモンドさん」
「何だ?」
「その……私に対して懐疑的って、どういう?」
「簡単だ。レオナは声を聞いて慌ててあのメモに書き取ったんだろう?」
「あ、はい」
そう言う設定にしておいたっけ。
「だが、『本当に声なんて聞こえたのか?』という意見が出てきてな」
「さすがにそう言われると、何も言えん」
「勿論私たちはレオナちゃんを信じてるわ。嘘なんて言わないって」
「だが、連中は納得しないんだ」
「はあ……」
「そこで、その声がレオナにしか聞こえないとしても、神の啓示の一つであると言うことを示しておきたい、そう考えた結論が」
「私を教会に、ですか」
「そう言うことだ」
「色々と面倒なことに巻き込んでしまってスマンな」
ファーガスさんが頭を下げると、四人も揃って頭を下げてくる。仮にも国内トップクラスの貴族が頭を下げているのだ。断れるわけがない、というか
「い、いえ……あの……色々お世話になりっぱなしですし。私が教会に行くだけで解決するならお安い御用です」
「レオナ……言っておくが私たちもレオナにどれだけ感謝すれば良いのか見当が付いてないんだぞ?」
「へ?」
リリィさんの言葉に思わず呆けた声が出た。
「……この街を守り抜いたのは、表向きは騎士団と言うことになっているが、騎士たちの大半が謎の少女に助けられたと証言しているし、私もレオナがいたからこうしてここにいられるんだ」
「まして、最終的にあの大軍を潰し、率いていた将を倒したのもレオナだ」
「えーと……」
「今のところ、その情報を知っているのは貴族でもごく一部。私が会議に忙殺されて報告書の作成が出来ていないということにしているからな」
「だが、下らん会議が終わったら報告書が提出され、レオナのことはある程度公表され、全ての貴族が知るところになる」
「はあ……あ、そうなれば一安心なんですね」
「逆だ」
「え?」
教会に着いてしまったので、話はここまで。
「大丈夫。レオナのことは私たちが守る」
皆がそう言ってくれた言葉を信じて、まずは目の前の問題を片付けようか。
礼拝堂に入ると、壁際にずらりと並ぶ、人、人、人。何人か見覚えのある顔もあるし……って王様もいるよ!「お、来た来た!」とか談笑してるよ!
「あの……これ……は?」
「見せて納得させると言っただろう?」
「手っ取り早い手段としか聞いてません!」
「なら、今言った」
「えええ……」
普段から貴族相手にやり合ってるようなオルステッド家の人に、口で勝てるわけが無い。
「はあ……」
何だろう、この見世物感……って、王様!こっち見てにこやかに手を振らないで!
思わず振り返しちゃったじゃないの!「手を振ってくれたぞ」って嬉しそうに隣の宰相さんに報告しないで!
脱力感を覚えながらも礼拝堂を進み、女神像の真正面へ。
「あの……どうすれば?」
「光ってくれ」
「直球来ちゃった!!」
一応色々と考えてきたけど、神様との相談次第な部分もある。まあ、やりますか。
「やっぱり間隔短くない?」
「私の様子を見てるんでしょ?仕方ないと納得して下さい」
「でもさぁ、もうすこしこう……」
「……」
「サーセンッした!」
神様、土下座してるし。モヤモヤのままでよくわからないけど。
「まず最初に確認。魔王は?」
「えーと、南と南東のダンジョンに繋がっていた先の魔王は死んでないよ。さすがに向こうの入り口って言うのかな、そう言うのの近くにはいなかったみたいだね」
「チッ」
「えっと……続けても?」
「はい」
「ただ、向こう側、半径五キロくらいが更地になってるからね。有能な部下とか巻き込まれたみたいだから少しは大人しくなるかな」
「なるほど。他の魔王は?」
「今確認できているのが他に四人」
「全部で何人いるのやら……」
「さあ……そこはまだもう少しかかりそう」
ん?ちょっと待て、何かおかしい。
「ねえ、ちょっと確認」
「ん?」
「魔王って、世界の壁に穴開けてこっちに来ようとしてるんだよね?」
「そうだよ」
「世界の壁に穴開ける能力者がそんなにたくさんいるって事?」
「良いとこに気付いたね」
「さすがにね。でも、私でも世界の壁に穴なんて開けられないんでしょ?どういうこと?」
「詳細はまだ不明だから推測なんだけど、能力者は一人。その一人が向こうの魔王に片っ端から接触してこっちの世界に繋いで回っている。そう考えるのが自然だね」
「うへえ……」
「穴を開けるのは、それなりに魔力とか触媒とか必要になるみたいでね。魔王が国内の資源をかき集めるレベルらしいから気軽にホイホイ開けられないのが救いかな」
「そこまでしてこっちに来たがる理由って何?」
「さすがにそこはわからないな」
一つ二つ穴を開けたらそこで満足して欲しいんだけどな。
「じゃ、次の質問」
「はい」
「次の穴はどこに?」
「南」
「南?」
「そう。国境の山脈を越えた向こう側」
「マジか……」
「しかも、あとひと月程度、って感じかな?」
「うわぁ」
「場所も特定できてる。これに描いておいたから後で見てね」
紙を渡されたので受け取っておく。アイテムボックスに入るんだろう。
「この国、外交がほぼゼロなんだけど」
「そうなんだよね」
「あなたが作った世界でしょう?」
「地形はランダムなんだよね」
ゲームか?!
「そうすると……山を切り拓くとか?」
「そうだね。それ以外には無さそうだね」
「はあ……」
このパターンは一応想定していたけどね。じゃ、ここからは丸投げタイムと行こう。
「とりあえず状況はわかったけど、どうやって伝えれば良いと思う?」
「どう、って?」
「私の周りに王族貴族がずらりと並んでるんですけど」
「ああ、そう言う事ね。確かに君が『次の魔王は南から来ます!』って言っても、状況的に説得力は無いね」
「と言うことで、どうすれば良い?」
「そうだね、今できる範囲でなら……」
こうして見てはどうか、と一つの案が示された。
「良いんだけど……すっごい恥ずかしいと思う」
「今更だよ」
「え?」
「今回の光、前回の二割増し!」
「何てこった」
「注目されてるから、ちょっとサービスを」
「出来ればしないで欲しいんだけど」
「あははは……」
腹を括るしか無いか。あ、そうだ。
「ところで」
「ん?そろそろ時間が厳しいと思うんだけど」
「簡潔に。私が神様から力をもらっていることとか、喋っても平気?」
「特にペナルティはないよ。だけど」
「だけど?」
「『私、神様から力をもらってるんです』って話したら心配されると思うよ?主に頭」
「ですよねー」




