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「だからそう言うことではなく!」
「じゃあ、何だと言うんだ?!」
会議は踊る、されど進まずとはこの事かと、レイモンドは手元に届いたばかりの資料に目を通す。
今回の騒動では第三部隊の被害が一番大きく、死者三十六名、重傷者四十六名。重傷者には復帰が絶望的な者も多く、第三部隊の人員は半分以下に減った状況。次いで、街壁で防衛戦を繰り広げた第四部隊もかなりの被害で死者八名、重傷者十五名。こちらは何とか復帰できる見込みという点が救いか。そして南東のダンジョンに挑んだ第一部隊は軽傷者数名。ちなみに「唾付けとけば治るだろ」とリリィが言ったところ、「それは副隊長がしていただけるんで?」と問い返した者がいて重傷者が増えたらしい。全く何をやっているんだか。
あの二人の魔族を倒した直後、どこで気付いて走ってきたのか、エリーゼが倒れるレオナを抱え、すぐに街へ駆け込んだ。そのすぐ後をファーガスが追いかけ始めた。
ファーガス自身はよく街にも出掛けるので、顔を知られている方だが、あの鬼の形相でエリーゼを追いかけるのはさすがに色々マズいので、何とか五人がかりで取り押さえた……ちなみに重傷者が二名追加されている。見舞金はオルステッド家が負担するべきだろう。
幸いレオナは疲れ切って眠っているだけと言うことで全員が落ち着いたのだが、タチアナに伝えられていた情報がまた色々とマズかった。
「ダンジョンの奥から魔王の手下が攻めてきた?馬鹿も休み休み言え」
「しかし、現に街に押し寄せてきていたではないか」
第三王子派の貴族の主張はこうだ。
魔王が攻めてくると言うデマを流し、騎士をいたずらに疲弊させつつ、守り抜いたという名目を立てるために第二王子派筆頭のオルステッド家が色々と裏工作をしたと。あの数万の魔物を派閥争いで優位に立つためだけに呼び寄せるとか、何のメリットがあるのだろうか?あの戦いで先頭に立っていた者が誰だったのか理解しているのだろうか?
それにそもそも、どうやって呼び寄せるのだろうか?小一時間問い詰めたい。
「それにあの小娘、一体何なんだ?」
「何とは?」
「王都南に広がる草原を荒れ地に変え、貴重なダンジョンを二つも潰したというではないか」
「むぐ……そ、それは……」
貴族同士の腹の探り合いでは百戦錬磨のファーガスもこれは答えに窮する。
「教会で神の啓示を受けた?それだって本当だかどうだか」
「ぐぬぬ……」
タチアナによると、レオナはダンジョンの最奥にあるダンジョンコアを二つとも破壊し、その結果ダンジョンが崩壊したという。
ダンジョンの最奥にコアと呼ばれる物があることは知られており、実際にいくつか発見されているが、それを破壊できたなんて話は聞いたことが無い。それを短時間で……何でもリリィの手紙が届いた直後に破壊したと言うから……何だろうな。考えるのが面倒になってきた。だが、魔物素材や、貴重な鉱石を産出するダンジョンを潰してしまったのは……それを残したために王都が滅んでしまっては本末転倒なのだが。
そして、王都南の戦場で見せた大規模……戦略級と言ってもいいほどの規模の魔法に、明らかに別格な強さの魔族を瞬時に倒す戦闘力。目の前で見ていたのに未だに信じられない。草原を荒れ地に変えてしまったが、それはまあいいだろう。これが農地だったら少々問題だが。
「全く……コンスタンス様もこれでは倒れられるのも仕方ない」
「そうだな、お気の毒に」
国王の第二王妃――実質、王妃であるが――コンスタンスは、ここ数日体調を崩して公の場には出てきていない。体調は戻っているが大事を取って療養中と言う奴だが、そもそも体調を崩したのはレオナが王都に来るより前から。なのに、第三王子派は魔王の配下がやって来た事による心労だとか言っている。全く、いい加減な連中だ。
チラリと隣のリリィを見ると、ブチ切れる寸前。仕方ない、この方法でうまく行くことを神に祈るしかないと、立ち上がり発言する。
「それなら……」
夕食後、のんびりと本を読んでいたら玄関がにぎやかになった。どうやら皆が帰ってきたようだ。
「出迎えに行った方がいいのかしら?」
そう呟くとドアの外から「ご自由に」と返事が返ってきた。
では少し顔を見せに行こうかとガウンを羽織ったら、
「レオナ、ちょっと良いか」
「うわ!びっくりした!」
リリィさんがノックと同時に入ってきた。
「驚かせてすまないが、今から教会へ行く。ついてきてくれ」
「は?」
いきなりとんでもないことを言われた。私が教会に行く?それって、つまり……
「リリィさん、教会に行くって、その……あの……」
「わかっている」
そう言って、タチアナに私の着替えを指示すると出ていった。
「私たちも仕度をする。階下で待っているから急いでくれ」
なんだかよくわからないが、居候の身では言われたことに従うしかないので、タチアナに言われるままに着替えることにする。
私のこっちに来て十年間の価値観では、今来ている服でも充分に高級品なのだが、今から出かける場ではダメらしいので、素直に応じる。タチアナはまた一段と高級そうな服を出してきたのだが、その辺は任せよう。プロだし。
「困りました」
「え?」
「この程度の服ではレオナ様の素晴らしさを愚鈍な貴族どもに一割も伝えられません。やはり今から王都中の仕立屋をたたき起こし「可哀想だからやめてあげて」
階下に降りると、全員揃って待っていた。
「レオナ、さっきも言ったように教会に行く」
「……光っちゃいますけど……」
「それでいい。むしろ光ってくれ」
「え?」
どゆこと?
「簡単な話だ。レオナに懐疑的な貴族が多くてな。黙らせるのに一番手っ取り早い手段を使う、それだけだ」
レイモンドさん、それでいいのでしょうか?
この場に並ぶ五人全員、顔に疲労の色が濃い。会議は相当面倒くさいことになっただろうと思うと、私が光るだけで解決するならいいか、と思えてくる。でもなぁ……この前光ったのって、某テーマパークのパレードみたいにチカチカ点滅してたりしたんだよ、木や石で造られた像が。アレ見せて大丈夫なのかな……




