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「知ってる天井だ」
気付いたら、そこは王都のオルステッド邸。私の寝泊まりしている部屋だった。力が入らない体を無理矢理起こすと部屋の中を見回す。うん、見てるね。すぐに来るでしょう。
「朝か……」
コンコンとノックの音。
「どうぞ」
「失礼します。おはようございます、レオナ様」
「おはよう、タチアナ」
「お加減はいかがですか?」
「はは……心配させちゃった?」
「それはもう、奥様とお嬢様の取り乱しようときたら……それを上回る旦那様を取り押さえるのにどれほど苦労したか、二時間ほど語ってお聞かせしましょうか?」
それは大変だったろうねぇ……
「色々ご迷惑をおかけしました」
「いえ」
グー
「お食事をお持ちします」
「えと……」
「お持ちします」
「はい」
HPもMPも問題なかったのだが、疲労……つまりスタミナ切れで私は倒れた。
私がリリィさんに拾われてまだひと月程。栄養状態は改善されているが、すぐに体力が付くなんてことはない。一応ヴィジョンの顕現により、成人したと言うことになって、神様の与えた力が発揮され、いわばターボをかけて動いていたようなもの。燃料タンクのサイズが変わっていないのを無理して動いたのだから倒れて当然か。
戦っている間は緊張感で無理矢理保っていたようなモンだったと自己分析しておく。
「今後の課題は多いわね」
スタミナ回復の魔法って無かったっけ?あとで確認しよう。
パンとサラダにスープで人心地つけると、タチアナから状況を教えてもらう。
意識を失って倒れる私を走り込んで支えてくれたのは、何とエリーゼさん。「後は任せます!」と、その場を全部レイモンドさんたちに丸投げしてそのままオルステッド邸へ。ついでに医者もありったけ呼ぼうとしたらしいが、私がすやすや寝ているだけだったのでセインさんたちが必死に思いとどまらせたと言う。
「心配かけてしまったんですね」
「あれほど取り乱した奥様は初めてでした」
「はあ……」
ご心配かけてしまってすみませんって、謝らないとね。
「ところで、皆は?」
「はい」
レイモンドさんとリリィさんは勿論、ファーガスさんもエリーゼさんもすぐに王城へ。夜が明けてもまだ帰ってきていないという。
「えっと、どういう状況なの?」
「推測ですが、レオナ様についてだと思います」
「私?」
「はい」
タチアナの推測だが、あの戦いで「ダンジョンを二つ崩壊させたのは誰だ?」「突如現れた金髪の少女は誰だ?」「大規模な魔法で魔物を一掃したのは誰だ?」となっている。金髪の少女に関しても、「多分レオナ関係」と言うことで、事情を一番詳しく知っているのはオルステッド家の人だけ。
「おそらく、他の貴族たちから相当な突き上げを受けているのではないかと」
「うわぁ……」
頭を抱えてしまう。
「私も城に行って話をした方がいいのかしら?」
「いえ、絶対にやめて下さい」
「え?」
「しばらく外出は禁止です」
「え?」
「万一外に出そうになったら、何があっても止めるように言われております」
「わかりました。大人しくしてます」
「お願いします。まだもう少し生きていたいので」
あなたは私を何だと思ってるのかしら?
「……庭に出るくらいはいいかしら?」
「裏庭でしたら」
「ありがと」
マーガレットさんも城に同行してしまっていたので、子供たち二人と裏庭で過ごすことにした。こっちの世界の、ましてや貴族の子供が何して遊ぶのかとも思ったが、普通にボール遊びだった。ただ単にお互いに投げて追いかけて拾ってまた投げて。綺麗に整えられた芝生のおかげで転んでもケガしたりしないので、思わず私も童心に帰って夢中で遊んでしまった。今世での私がこの子たちの頃は生きるのに必死だったから、今くらい遊び回ってもいいよね?
夜になっても誰も帰ってこないので、仕方なくそのまま休むことにした……んだけど、
「あの、タチアナさん?」
「何でしょうか?」
「その……それは?」
「はい、今夜はここで寝ます」
タチアナが床に布団を敷いている。
「えっと……」
「監視です」
「監視?」
「また夜中にこっそり出歩かれては困りますので」
「はい」
前科二犯ですからね。文句も言えません。
床に布団というのは寒いだろうしとベッドで寝ることを提案したのだが「貞操の危険を感じますので、遠慮します」と断られた。なんでやねん。
なお、夜中のうちに一度全員が帰ってきたらしいが、朝早く出てしまったために話をすることも出来なかったことを付け加えておく。貴族って大変だな。
区切りが微妙で今回短いです……




