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昨日、地獄のような時間を過ごしていた第三部隊の騎士たちは己の不運を呪っていたが、今日は一生の運を使い果たしたのではないかという光景を見ていた。
騎士団団長レイモンド・オルステッドと最強侯爵ファーガス・オルステッドの親子二人による、獅子奮迅、疾風怒濤、縦横無尽、八面六臂……どのような言葉で語れば良いかわからない戦いを間近で見る。思わず、自分たちが演劇の乱闘シーンを見ているのではと錯覚させるほどの戦い振りには、豪腕で鳴らしたラッセルですらついていくのがやっとだ。
「右!」
「正面!」
「右!」
「左!」
短い言葉だけで、互いの武器を振るい、魔物を斬り飛ばす。
「どうだ?行けるか?」
「見くびるな!まだそんな歳じゃない!」
「ならもう少し進むぞ」
一歩、また一歩と魔物の中へ進んでいく。
どれだけ斬ったかわからないが、手を止めることは出来ない。数万の敵全てを倒さねば自分たちはもとより、王国どころかこの世界全体が滅ぼされてもおかしくないような相手と判断している。
「しかしキリがないな」
「全くだ」
体力には問題が無いが、あまりにも敵が多く、これでは武器が保たない。念のために予備を用意しているが、足りるだろうか。
「マズいな」
隊長が呟く。
「何だ?」
「奴ら、どんどん追加を喚び出しているようだ」
「そうか。なら予定の倍、斬り捨てればいい」
「簡単な話だな」
言うだけなら簡単だよね?!と突っ込みたかったがやめた。今は戦いに集中せねば。
ヴィジョンが外に出た。タチアナの無事を確認。王都まではすぐに着くだろう。一瞬ヴィジョンの感覚を共有して状況把握し、すぐに目の前に魔法を放つ。リリィさん、まだですか。そろそろ限界です……服が。
当たり前だが自分で自分の魔法のダメージを受けることはない。
ただし本人に限る。
両手は肩まで見えそうな程のノースリーブに。
踝の少し上まであったスカートは膝上十センチほどのミニスカートに。
背中は大きく開き、胸元もかなりひどい状況。
言うまでも無くヘソ出しです。
「これじゃ、タチアナに言われるでも無く露出狂一直線ね……」
全く、どこでどう道を間違えたのやら。
「クソ!キリが無いな!」
「全くだ!」
街壁の上に居並ぶ者たちが叫ぶ。
地上もひどいがここも負けじとひどい。エリーゼの展開した障壁にはびっしりと空を飛ぶ魔物が張り付いており、魔法と弓で撃ち落としているが、落としても落としても追加が来る。
「ですが!」
エリーゼが檄を飛ばす。
「守り抜くのです!」
「「「おう!」」」
だが、本当にキリが無い、とエリーゼは地上の騎士たちを見る。
レイモンドとファーガスを先頭に横に広く展開して戦いを始めて一時間。あれだけ斬っているというのに数が減ったように見えない。
根を上げるとか諦めるといったことをしない二人だし、あと二、三時間は今のペースでも戦えそうに見えるが、相手の魔物が軒並み上位種クラスでは万が一もあり得る。
最悪の場合、障壁を維持しつつ自分が出ることも考えているが、障壁の維持だけでもかなり消耗している現状を考えると、最後の手段だろう。
「マズい!」
一人が何かに気づき、思わずそちらを見ると、地上の騎士の一人が疲労からか足をもつれさせて転倒。すかさずそこに魔物が殺到すると、その一角が崩れはじめた。周りが必死にフォローして戦線を維持したが、今ので三人の騎士が命を落とした。
これはもう、時間の問題ね、と心の中で呟く。
そばに立てかけていた愛用の剣を手に、下へ降りる階段へ向かう。
「これより私は下に降ります。障壁は残しますが、油断なく護るように」
「ハッ!」
「お任せください!」
「騎士団の誇りにかけて!」
全く頼もしい連中だと、階段の前まで来たとき、
「アレは何だ?!」
え?
思わず振り返ると、先ほどのように騎士が倒れ戦線が崩れはじめた一角が見えるのだが……本当にアレは何?
日々鍛錬してきた騎士といえども、これほど長時間戦い続けるというのは厳しく、一人また一人と倒れ、戦線が少しずつ下がっていく。できるだけそちらをフォローしたいのだが、魔物の数が多すぎて簡単には動けず、レイモンドたちはただひたすら持ちこたえてくれと祈りながら剣を振るう。
だが、すぐ近くで騎士が倒れ、一気にこちらにもなだれ込み、さすがに少し覚悟を決めたとき、空からそれが振ってきた。
着地と同時に数匹の魔物を地面の染みに変えたのは、ここ数日何かと騒動の中心にいたレオナと同じくらいの背丈の少女。
違いといえば少し体格が良いのと髪が長い金髪と言うこと。
顔立ちは、そもそもレオナが仮面を付けたままなのでよくわからないが、雰囲気は似ているのかも知れない。
少女は立ち上がると軽くジャンプしてすぐ近くの魔物の元へ。殴る、蹴る、殴る、蹴る……一撃で片っ端から倒していき、あっという間に周囲数メートルが片付いた。レイモンド並み、いや全て素手だと言うことを考えるとそれ以上の戦闘能力だ。
「助けに来てくれたのか?」
すぐそばに来たときに思わず問いかけると、コクリと頷いた。これで敵対でもされたらどうしようかと思ったが、味方として助けてくれるらしい。
「頼む」
思わず言葉がこぼれたが、少女は任せろ、と言わんばかりに強く頷くとクルリと振り返り、走り出す。魔物の群れを蹴散らしに。
「あれは……何かしら?」
思わずエリーゼは足を止めてしまったが、本当にアレは何だろうか。遠目ではっきりと確認できたわけではないが、まだ年端もいかない少女のようだが、魔物の中を突っ切るように走り抜けていく。ただ走るのではなく、当たるを幸いとばかりに魔物が次々と吹き飛んでいく。あれでは暴風雨の方がまだ大人しいと言うくらいに。
戦線が押され気味の所を端から端まで駆け抜けるとすぐに反転して再び端まで。往復するだけで軽く百を越える魔物が倒されているその勢いは、苦しい状況にあった騎士たちに希望をもたらし、少しずつ戦線を押し戻し始めた。
だが、不意に少女が立ち止まった。
突然のことに一瞬魔物たちも動きを止めたが、「さすがに疲れたのだろう」と判断しすぐに襲いかかる。が、その魔物たちを一蹴し、ドンッと言う音と共に街壁へ向けて飛び立った。
「クソッ!相変わらず数が多い!」
「諦めるな!ここが踏ん張りどころだ!」
「当たり前だ!こっちは先月娘が生まれたばかりなんだ!」
「先週、パン屋のミランダに告白OKもらったばかりだ、死んでたまるか!」
「お前は死ね!今すぐ死ね!」
下に降りず、街壁に残ったエリーゼの指揮の下、そんなやりとりで互いを激励し、必死に魔物と戦う弓兵と魔術師たち。だが、そこに絶望が訪れる。
「ド、ドラゴンだ!」
「何ですって?!」
エリーゼの目がドラゴンを捉えた。
「何よ、アレは?!」
元騎士団団長という経歴の彼女はドラゴンの討伐に参加したこともある。だが、その時に見たドラゴンとは全く違う。全身が黒く、大きさは小山が動いているかと錯覚するほど大きく、牙も爪も長く鋭い。まさに格が違う。
「総員警戒!可能な限りあのドラゴンへの攻撃を優先せよ!」
指示を出すものの、この状況でドラゴンに攻撃をする余裕は無い。それに、矢を射かけ、魔法を放ったところで、あの禍々しい輝きを放つ鱗を打ち破れるのだろうか。
そして、ドラゴンが空中で止まり、大きく息を吸い込む動作をする。竜の息吹だ。障壁に取り付いている魔物すら巻き込んで街を吹き飛ばすつもりだろう。あのサイズのドラゴンが放つ息吹の前ではこんな障壁などひとたまりも無い。
「万事休すか」
誰もがそう思ったとき、唐突にドラゴンの頭が吹き飛んだ。
「「「え?」」」
そして、その頭を吹き飛ばした金髪の少女は空中で姿勢を変えると、尻尾を抱え上げ……街と反対方向へぶん投げる。さすがに飛距離は出ないものの、魔物の群れの中央に落下し、多くの魔物が下敷きになる。
「……ハッ!そ、総員、戦闘を継続!」
「あ……」
「は、ハイッ!」
思わず呆けてしまったが、まだ戦いは続いているのだ。




