5-3
「コール!」
ヴィジョンがふわりと現れる。
「王都へ向かった魔物を追ってやっつけて!王都の皆を守って!」
ヴィジョンはゆっくりと、しかし力強く頷くとクルリと振り返り外へ向けて飛んでいった。
「今は信じるしかない。私のヴィジョンを」
私は、ダンジョンの最奥を目指そう!
レオナがダンジョンに入っておよそ一時間が経っていた。このダンジョンの規模が南のダンジョンと同等なら、あと一時間ほどでこのダンジョンは崩れ始めるだろうか?
ダンジョンというのは魔物を生み出す危険な場所ではあるが、ハンターなどが入り、魔物を狩ることによって様々な素材を算出する鉱山のような場所でもあるから、出来れば壊して欲しくないというのが本音ではある。だが、レオナの場合そのあたりの力加減は無理だろう。せめて服を全損せずに、少しはまともな格好で帰ってきてもらいたいものだ。そう思いながらダンジョン内に目を飛ばしていたのだが……
「騎士様」
「は、はい!」
「すぐに外に出て下さい」
「え?」
「早く。あとそちらの皆様もすぐに身を隠して」
「え?え?」
「死にたいのでしたらそのままでどうぞ」
入り口から少し入って警戒していた騎士、周囲を見張っていた騎士それぞれに警告を発し、自身もすぐに近くの茂みに身を隠す。
「い、一体……何が?」
「わかりません。でも……隠れて下さい。音も立てないで。息もできるだけ静かに。気配を消して下さい」
タチアナの真剣な様子に騎士たちも慌てて身を隠す。
「馬たちは……かわいそうですが……」
さすがにアレを隠せる場所はない。可哀想だが仕方ない。
「……来ます」
その声に騎士たちが息を殺し、じっと身を屈める。と同時に影が二つ、勢いよく飛び出し、二メートル近い身長のがっしりとした体格に鎧を着込んだ、大きな角の生えた男が二人、ドスンと着地する。
突然現れた二つの気配に馬たちが動揺、暴れ始めるものもいる。
「ほう……これがこっちの世界か」
「悪くないな。ん?アレは?」
「乗り物だな。フ……あんな動物に引かせる乗り物しかないとは」
「まあそう言うな。所詮その程度の世界だ」
「ホレ!」
一人がブンッと腕を振るうとズバッと音が走り、馬車と馬が細切れにされる。
「こっちだ。こっちにデカい街が見える」
「よし行くか」
ドンッと大地を蹴り、二人は王都に向けて飛び去った。
「なんだ……アレは……」
二人の姿が点より小さくなり見えなくなってから一人が呟いた。
「正体はわかりませんが……私たちの敵です」
タチアナは、王都の方角を向きながら答える。あんなバケモノ二人を相手に、どうやって王都を守ればいいのか。そして、レオナが中に入っていたにもかかわらず、どうして二人が出てきたのだろうか。
だが、彼女は待つしか無い。レオナを。
「第五層、到着!」
マップを確認すると、さっきのダンジョン同様に色のない点が見える。そして、まさに到着寸前の騎士団を示す緑色の点。だが、その真正面に赤い点が大量に。
「マズい!」
全力で走り出す。一刻の猶予もない。
立ちはだかる魔物を蹴散らしながら進んだ先に大きな空間が広がっており、数十の見たこともない姿の魔物と、明らかに桁違いの風格の二人。そして、その奥にあるなんとも表現しがたい球体。
「ここがダンジョン最奥か!」
「そのようだな!そして……奴らが……」
第一部隊隊長ウォーレン・ギルマンと副隊長ジャイル・ヒューリーが油断なく剣を構えるのに続き、リリィも剣を抜く。あの二人相手では一瞬の隙が命取り。さて、どう出るか。
「ほう……ここまで来たか」
「無駄なことだな」
「無駄だと?!」
「そうとも」
「六将のうち三人が既に外へ向かっている。お前らもここで死ぬ。どうだ、無駄なことだろう?」
「なっ!」
「外へ?!」
このダンジョンは通路が入り組んでいる。どこかに隠れていたら気付かずに通り過ぎてしまってもおかしくない。
「く……マズいな」
「……だが!こいつらだけでも!」
わずかに足を踏み出す。間合いの外だが、贅沢は言えない。一気に距離を詰め、数で押し切るか……
「無駄なこと、と言ったぞ?」
一人がピンッと右手の人差し指を立てると、その先に明らかにヤバいレベルで魔力が集まり、光の球を生成する。
「これで仕舞いだ」
トンッと光る弾が打ち出される。
速度は大したことは無い。避けるのも簡単だろう。だが、この後ろ……通路に居並ぶ騎士たち全員が避けることは不可能。では、アレを剣でどうこうできるかというと、おそらく無理だ。隊長含め、一割近くの騎士たちが魔法に対処できる装備を身につけているが、アレはそんなモンでどうこうできる次元を越えている。
どうにか辿り着いたというのに、ここまでか……
「リリィさん伏せて!」
声に思わず反応し身を屈めるとその上を何かが飛び越えていく。
「でぇぇい!」
右手に魔力を込め、魔力弾に殴りかかる。
ドゴンッと派手な音をさせて弾き返すと、さすがに魔族側も焦って避け、向こう側の壁に当たって爆発し、壁が少しえぐられた。
なんとか間に合っ……あ。
「レオナ!」
「は、ひゃいっ!」
思わず気をつけの姿勢になってしまい、恐る恐る後ろを振り返る。
「こっちに来てくれたのか」
「はい……」
「向こうのダンジョンは?」
「えっと……片付きました」
「そうか。助かった、ありがとう」
「いえ、その……あははは」
「ん?どうした?」
「その……これ」
今ので……私の体はなんともないのだけれど……右手がノースリーブになっちゃったんだよ。
「ご、ごめんなさい」
「気にするな。ケガがないならそれでいい」
「はい」
とりあえずお許しがもらえたので、魔族側を向く。
「貴様……何者だ?」
「リリィさん、すぐにここを出て下さい」
魔族の問いかけは無視して、リリィさんに指示を出す。
「は?」
「あの光っている球を破壊します。そうしたら多分このダンジョンは崩れます」
「何?!」
「あと……すみません。街に二人、向かってしまいました。一応手は打ってありますが」
「わかった!おい!」
「了解!撤退だ!急げ!」
「俺が先頭で道を切り開く!続け!」
わらわらと去って行く足音がする。
「レオナ」
「はい」
「大丈夫なんだな?」
「はい」
「……わかった」
「そうだ、リリィさん」
「何だ?」
「私、まだリリィさんとお茶してませんね」
「そうだな。帰ったらゆっくりしよう。とっておきの茶葉がある」
「期待してます」
「ああ。今から楽しみだ」
そう言い残し、最後の足音が去って行く。
「ほう?お前一人で我らと?」
「ええ」
「舐められたものだ」
「そうかしら?」
さあ、戦闘開始ですよ。
「失礼します!緊急事態が!」
第一部隊とレオナを送り出したあと、騎士団本部で待っていたレイモンドの元に南街門の衛兵から緊急の連絡が入った。
「聞こう……イヤ、待て」
ちょうどリリィの手紙が飛んできた。妹のことだ、簡潔に一文で済む内容で書いてきているはず。
『六将のうち二人が街へ向かった』
さらりととんでもないことを書いてきやがった。「了解した」と返事を返しておく。
「よし、聞こう」
「は。それが……」




