22-12
それと、今月のオークションは三日間開催され、その三日目、つまり目玉商品になるとのこと。今からオークション出品目録に載せるけど、どういう反響がでるか予想がつかないそうだ。
数十年前に、同じようなほぼ一頭丸ごとのドラゴンが出品されたときは国が傾くほどの落札額になりつつ、落札後も隙あらばドラゴンを盗もうとする者が多数で、大変だったとか。私たちが持ち込んだのはそれをはるかに超える逸品なので今から警備体制の強化を検討するとか。
まあ、好きにしてもらえばいいと思いますよ。
オークション会場を後にした私たちは聖女サマが用意した馬車に分乗して教会へ。教会に行く必要性はあまり無いんだけど、「レオナちゃん、いいわよね?」という聖女サマの圧に勝てる者はいなかったのよ。
それに、全く用がないというわけでもないし。用を済ませたらさっさと帰りましょ。
教会に着くと、既に私たちが泊まる部屋も用意されていた。オークションまでの間はこちらでどうぞ、ということで。
うん、私も含めてみんな、「こんなところに寝泊まりとか無理」という顔してる。
まあ、そこはあとで話をつけるとして、今は大事な話をしないとね。
「さ、レオナちゃん、大事なお話をしましょうね」
「大事な話をするのはやぶさかではないのですが」
「あら、気が合いますね。結婚しちゃいます?しちゃいましょう!こちらの紙のここにサインをしてもら、へぶっ」
唐突に私が立ち上がり頭突きアッパーを食らって舌をかんだらしい聖女サマがのたうち回る。
「どこの世界に話をしましょうって、膝の上に相手を乗せる人が……ここにいたわ」
ごく自然な流れで抱き上げてそのまま座るとか、手慣れてる感がすごい。
「シャノンさん、本当に私以外にこんな子としてるわけではないですよね?」
「孤児院の慰問ではたまにありますけど……」
「大丈夫だったのかしら?」
「うーん……時々鼻を押さえてましたね」
「鼻血でも出てたのかしら?」
「よくわかりますね」
「……」
「で、でも、こんな変態親父みたいな顔になるのはレオナ様相手のときだけ「なお悪いんですけど?!」
私は、「私以外にもいるのね?!」と嫉妬しているのではなく、聖女サマの毒牙にかかった子が過去にいたのではないかという心配をしているのよ。
「……」
「シャノンさん?」
「一応、内密にしていただきたいのですが」
「今更何が追加されても驚かないわ」
「そうですか。なら……実は前回は会う場を設けられなかったのですが、本部には「聖女親衛隊」というものが組織されております」
「それくらいなら、まあ、あってもいい……のかな?」
「聖女様が設立したというか、なし崩し的に設立されたというか……」
「まさかと思うけど、全員孤児院出身だったりしない?」
「……」
まさかのノーコメントか。そして一応は聖女という自分が仕える上司的な立場の人間を「アレ」呼びか。
「ま、まあ、その……全員、誇りと信念を胸に職務に就いておりますので」
「それ以上は聞かないでおくわ……で、そろそろ離れなさい!」
なんとか復活した聖女サマが床をズリズリ張ってきて足にまとわりついてきたので、蹴り飛ばすと「あん♪」とうれしそうに飛んで行った。マズい、おかしな扉を開いたかも。
「安心してレオナちゃん。私はレオナちゃん一筋だから!」
「はあ……どうでもいいわ。そろそろ本題に入ってもらえる?」
「いいわよ。まずその書類にサインを」
「焼却!」
「あぅ……」
聖女サマが用意した婚姻届の束、というか山を瞬時に焼き付くしてやったのでこれでまともに話ができる、はず。
「もう、ダメじゃないの。大事な書類を燃やしちゃあ、はい、これ」
「焼却」
「レオナちゃん?」
聖女サマがズイッと笑っているけど笑っていない顔で圧をかけてくるけど、ここで引いたら負け。私ではなく世界の負けだ。
「聖女サマ、そういう話は色々と片付いてからにしましょう?」
「ホントに?!いいわ、わかった。それまで我慢するわ」
色々の中にこのめんどくさい聖女サマの扱いにけりをつける、というのを含めておけば、話ができるときには色々片付いているということになる。つまり、聖女サマがこんな状態の間は色々片付かないから話をする必要が無いということ。
まあ、この聖女サマ、この言動で勘違いしそうになるけど地頭はいいので、多分気づいてるはず。そして、どうやって私を言いくるめようか、頭をフル回転させていると思う。
他のことにその能力を振り向けて欲しいところだけど、それは望むだけ無駄だと最近学習したのでよしとしておいて、もう一つの、というか本命の方を進めましょうか。
「ここの近くにダンジョンがあるはずなんですが」
「……もう、そっちの話なの?」
「私の本来の使命ですから」
「もうちょっと私とおしゃべりしない?」
うん、ここはもう……ね。
「聖女サマ、私のお仕事の邪魔するの?」
「え……」
「私に意地悪するの?」
「そ、そ……」
「意地悪する聖女サマなんて……嫌い」
「そそそそそそんなこ「大っ嫌い」
パキッと音がして聖女サマが固まった。
「レオナ様、こちらをどうぞ」
シャノンさんが書類を出してきたので少し警戒しながら受け取る。
「大丈夫です。レオナ様がサインする欄などはありませんので」
「そ、そう?」
書類を見ると、この近くの、私が行く予定のダンジョンについてこの街のハンターギルドと商業ギルド、領主が聖女サマと交わした覚書だった。
「ざっくり言うと、ダンジョンが崩壊することについての了解を取り付けた内容となっております」
「おおう。つまり説得する必要がない?」
「はい。聖女サマが懇切丁寧に、レオナ様が魔王軍を退けるためという内容を添えながら説得していました」
「うん、ちょっと待って」
「はい?」
「私が魔王軍を退ける」
「それが目的ですよね」
「うん。それはいいわ。問題は、それを添えながらってとこ」
「ええと……うーん。添えながら、でしたね」
シャノンさんが立ち会っていたその話し合いの内容を思い出しながら、「添えながら」だったと断言する。
「あの……本題は何だったんでしょうか?」
「聞きたいですか?」
「一応確認を。私のことを話題にしていたんでしょうか?」
「話題というか議題でしたね」
「議題?」
「はい。「これからこの街を救うことになるレオナちゃんの銅像建設について」でした」
「は?」
「ですから、ここに書かれてます通りで」
「うわ!」
ダンジョンに関する覚え書きは一枚だけ。シャノンさんが見やすいように一番上に持ってきてくれていただけで、残り十枚ほどは銅像の建設場所とか、彫刻家とか、元のイメージをどうするとかそういう内容で占められていた。
「これは……」
「本当は見せないと言うことも考えたのですが、誠実さに欠けるかと思いまして」
「……」
「ええと……その、オークション」
「オークション?」
「はい。オークションの参加、今回だけではないですよね?」
「そうですね。まだドラゴン素材がありますし」
「次に来たとき、銅像があったら、どうします?」
反射的に破壊すると思う。多分時間感覚を千倍にして誰にも気づかれないように。
「知らないでいるとびっくりしますよね?ですので事前に伝えておこうと思いまして」
「ここにサインしてる方、会えますか?できるだけ早く!」




