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  作者: ひじきとコロッケ
そろそろお金を稼いでもいいと思うんです
278/283

22-9

 面倒なことはさっさと片付けるに限ると、そのままオークション会場にある出品受付へ向かう。

 道すがら街の様子を見てみると、今までに訪れたことのあるどの街とも違う、独特の活気に満ちていた。

 通常の店舗、屋台、露天商など、様々な形態の店が道幅が半分以下になっているのではと思うくらいに商品を並べ、道行く人々に声をかけては商品を売りつけようとしている。

 そう、売ろうとしているのではなく、売りつけようとしているのよ。

 例えば、ちょうど今、私たちのところにやってきた串焼き屋台の店員がわかりやすいか。


「もう人数分火にかけちゃったから!買って!むしろ買ってくれないとこっちは大損なのよ!それにほら、そっちのお嬢さんなんかすごくお腹すいてそうな顔してるし!絶対気に入るから!今なら安くしとくよ!一本、銅貨五枚のところ、十本で銅貨六十枚!」


 この街に何度か訪れたことのあるロアの商人、イアムさんによると、相手をしてはいけないとのこと。

 うっかり、「何で十本になると値が上がるんだよ!」などと突っ込もうものなら「お、さすがお目が高い!実は十本なら銅貨四十五枚が正解!でも、お客さん賢いから四十三枚に負けちゃうよ!」というのが始まる。

 イアムさんも若い頃に引っかかり、どうにか逃げ出そうとしたものの一時間近く粘られ、五本銅貨二十三枚までどうにか押さえたそう。

 ちなみに串焼き自体はとてもおいしいらしいので買ってもいいかなと思ったんだけど、串焼きを買わせるのはあくまでも序の口らしい。

 そう、熱々の串焼きを食べながら歩いていたりしたら「いいカモ」認定され、十メートルも歩いて交差点の少し開けたところにたどり着くまでの間に金貨数枚分の買い物をさせられてしまうこともあるんだとか。

 オウロー怖い。


「じゃあ、こう言うのはどうなりますか?」

「え……うーん、それは彼らも想定外でしょうねえ」

「なら試してみましょうか」


 イアムさんも相手がどう動くかわからない、そんな対応をしてみましょうか。

 ズイッと、ここにいる中では一番身なりがいいイコール一番偉いと思われてロックオンされているジェライザさんの横からひょいと顔を出して問いかける。


「二百本ならいくらにしてくれます?」

「え?に、二百?!」

「はい」

「えっと……」

「おいくらですか?」


 通訳のセシルさんもこの展開は予想外でちょっとうろたえているけどお構いなしに訳してもらいつつ価格交渉開始。


「銅貨七百七十でどうでしょう?これ以上はまかりません」

「いいわ。すぐ用意して」

「え?」

「買うって言ったのよ。ほら、すぐに用意して。コーディ、支払いを」

「あ、はい」

「ええと……」


 店員がジェライザさんの方に視線をやると、苦笑いして返した。


「私たちの中で一番偉いのはこちらのレオナ様です。私はただの使用人という位置づけでして」

「え……えと……あの……?」


 商人だから人を見る目には自信があったと思う。

 だからジェライザさんに話をした。

 確かに、王妃だったわけだから私たち一行の中では一番身分は上だったこともあって、立ち居振る舞いは王族のそれ。屋台の店主が王族のことは知らないだろうけど、かなり上位の貴族っぽい、という判断はしていたはず。だからジェライザさんを説得できれば、と考えたんだろう。

 ロアがなくなり、私の開拓村で色々と雑務をしていただいている過程で王族っぽさが薄れ、立場は上だけど話しやすい方、という印象が強くなったというのもあると思う。

 だけど、この一行の中で一番偉いのは私なのよね。それっぽい気品とかオーラとか出てないだろうけどね。

 そして一応お金はこの通りの商品すべて買い上げるくらいできそうなくらいは持ってるし、ドラゴン十頭丸々運んでも余裕のあるアイテムボックスもある。串焼きの百や二百どころか千本でもは余裕。常に熱々でお持ち帰りできます。


「ほら、何ぼけっとしてるのよ。さっさと焼いて」

「……あ、あの」

「ん?」

「も、申し訳ありませんでした!」


 土下座された。

 結局串焼きは五本――銅貨十五枚だった――しか買えなかった。さすがに二百本は在庫がなくて用意できないとのことと、そもそも彼女の役割はイアムさんの予想通り、「いいカモ」マークをつけること。スパイスは絶品だし、肉も大きくて同行した面々に言わせると一本当たり銅貨三枚はかなり安いのだそうだ。

 そうして歩くこと十分ほど。


「さて、いよいよ本番ね」


 オークション会場に到着した。




「ダメですな」


 オークションの出品受付を担当、ザンダレルという丸眼鏡をかけた丸顔で太った男が淡々と告げた。

 私がジェライザさんの上司に当たる貴族で、フェルナンド王国では王族と並ぶ地位であるということも伝えたけどダメ。国交がないだけでなく、どういう国かという情報もほとんどないので私が貴族ということも信用できないということ。

 まあ、ここまでは想定内。


「では確認ですが、社会的地位の確かで信用できる方の推薦があればよいのですね?」

「ええ勿論」


 そう言いながらも表情は「ま、無理だろ」と語っていた。まあ、そうでしょうね。


「少しお待ちを」


 そう告げて、背を向けるとマップを確認。先ほどコーディが小遣い渡して手紙を持たせた少年は……うん、目的地に無事到着したようね。で、目当ての人物……慌てて建物の外に飛び出してきたっぽい。

 多分大丈夫(・・・・・)でしょう。


「聖女様助けてください。私はここにいます」


 直後、私は両脇を抱えられ、目を閉じ唇を少し突き出した聖女様の顔面アップを見ていた。


「ちょ!」


 慌てて両手を伸ばして頬を押しやると、


「ふぎゅぅぅ……これはこれで……いい」


 逆効果、いや、私の唇は守られたからいいか。


「聖女様、少し落ち着いてください」


 シャノンさんがザンダレルさんとの間に立って、視線を遮りながら私を抱き上げた。うん、一応私成人しているはずなんだけど、どうして子供扱いされるんだろう。


「聖女様?」

「はい、ルミナ聖王国よりお忍びで訪れておりますので、どうか内密に願います」

「は、ははっ!」


 平身低頭。どうしてこんなに態度が変わるのかしら?




「本当に聖女様のお知り合いなのですね」

「ええ。見ての通りです」


 見ず知らずで信用ならない人物を抱き上げるなんてこと、聖女様ならしないでしょう?

 え?どうやって聖女様がここに来たかって?ヴィジョンの力を全力で使って、私の声を拾い、ここに転移してきただけよ。さすが聖女様ね。


「そうですか……ええと、何を出品でしたっけ?」

「ドラゴンです」


 聖女様、頬ずりはしないでください。シャノンさんが目隠しになるのにも限界があるんですよ?


「ドラゴン……どのような状態でしょうか?」

「一頭まるまるです」


 聖女様、抱え上げて私のおなかに顔を埋めてすーはーすーはーしないでください。シャノンさんはともかく、私と一緒に来た人たちがドン引きしてますよ?


「……その、見せていただけますか?」

「いいですよ」


 聖女様、私のスカートをめくり上げようとしないでください。さすがに犯罪です。


「あの……見せていただきたいのですが」

「ここで?」

「ええ。何か問題が?」


 うーん、聖女様という後ろ盾があってもまだ信用できていないのね。あと、どうやってドラゴンをまるごと持ってきたんだという突っ込みかしら?

 すると、色々と気の利くシャノンさんがスッとそばに寄ってきた。


「聖女様」

「何かしら?」

「話が進みませんので……失礼します」


 ゴッ

 シャノンさんが取り出した金槌を聖女様の頭に振り抜くと、ゴキッとエグい音がして聖女様の首がカクンと折れ、私を抱えていた腕の力が抜けた。

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