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結論から言えば、ダメでした。
オークションの日程は狙ったかのように二十日後、ダンジョンコアが異界と接続する前後くらい。これはまあいい。ご都合主義っぽいけど私の手間が省けそうだし。
出品申し込みの期限は三日前まで。これも問題ない。ボニーさんのおかげで、移動はほぼ一瞬だから、日帰りでもいける。ついでに言うなら今回向かうべきダンジョンはオウローから徒歩で一日ほどなので、ダンジョン攻略的にも楽な場所。
問題はやはり出品の資格だった。念のため確認してみたけど、ロアの消滅は当然伝わっていた。それもおかしな尾ひれがついていた。
曰く、圧政に耐えかねた民衆の暴動があり、王族がすべて処刑された。
曰く、醜い後継者争いの末、国家として存続できなくなった。
曰く、隣国からの暗殺者になめてかかっていた王があっけなく殺された。
等々。
つまり、ジェライザさんが本当に王妃だったことを証明する術がない上、ロアで何が起こったあと言う説明をしても信憑性が欠けるとして、取り合ってもらえず。結果、信用してもらえないという流れ。
「ラガレットの王子殿下の名ではどうでしょうか?現役の王族ですし」
という、ジェライザさんの提案があったけど、弱いのよね。ラガレットはオウローと徒歩で二ヶ月以上かかるくらいの距離があるのと、関係を持つメリットが薄いこともあって、大使の派遣などもしていないという。ということで、王族としてはオークションへの出品も入札、落札の実績が無いし、「ラガレットの国王です」といっても、「ラガレット?よく知らない国だな」となってしまう。もしかしたら大きな商会が参加実績があるかも知れないけど、今から調べても間に合うかどうか、という感じなんだけど、ゴードル殿下は、
「恐らくきっと多分あるはず!」
と、調査の指示を出していた。あまり、というか全然期待してません。
一応、持って行ったドラゴンの牙も見せた。一応、カイル隊長も、
「こんなにでかいのか」
と、ドン引きするサイズだったからいけるかな、と期待して。案の定、周囲はざわついたし、オークションの受付も一瞬うろたえたみたいだけど、偽物の可能性があるとして鑑定もしてもらえなかったという。あんなでっかいの、偽物を作る手間を考えたらドラゴンを狩った方が早いでしょうと思うんだけどなと思っていたら、リリィさんも同意見だったらしい。
「こんな精巧な偽物、作るよりドラゴン狩った方が早いだろ?」
「待て、このサイズのドラゴンを探す手間のほうがすごい」
「む、そう言えばそうか」
妙なところでカイル隊長と意見が一致するようなんだけど、ファーガスさんたちは違った。
「リリィ、領都の北の方の山であのサイズのドラゴンの目撃情報がある」
「本当かっ?!」
いやいや、目の色変えて行こうとしないでください。
仕方ない、頭を切り替えよう。
「次は私も同行します。信じてもらえる可能性はほぼゼロですけど、現役の貴族ですからね。それと現物も見せた方が早いでしょうし」
「そう……そうですね。ではすぐにでも」
「うーん、少し準備をします」
「準備?」
「ええ。念のため」
あまり使いたくない手だけど、こういうときに使わないと。
……結果が容易に予想できるので、今からちょっと気が重いわ。
準備は恙なく進んだ。というか、荷物らしい荷物なんて私のアイテムボックスに入ってるドラゴンくらい。なので、出発するだけならすぐにでもできるけど、私の「念のため」の準備の内容が内容だけに少し時間がかかり、五日ほど経ってから私たちは出発した。うん、すぐにつくから「出発した」なんて大げさなものではないんだけどね。
到着してすぐに見えた街壁はフェルナンドの王都よりも大きく見えた。これでオウローの属している国、ペリアンの王都ではないという。
「おお、あれがオウロー。でっかい街ですね」
「そうですね……」
「ジェライザさん?」
「いえ、また門前払いを食らったらどうしようかと気が重くて」
「大丈夫ですって」
むしろ気が重いのは私ですと言いたいのをぐっと堪えて門へ向かう。
出入りのチェックの長い行列をクリアして、いざ私たちの番。
「おや、懲りずにまた来たのか」
「人数増えてるな」
「このちっこいのは誰だ?」
「見たことない紋章だな」
「まさか、このちんまいのが貴族?」
「変な仮面だな」
「ま、せいぜい恥をかかないようにな」
そんなことを言われたと、コーディが訳してくれた。
「国交がないとは言え、他国の貴族に対しての物言いではありませんね。衛兵の教育はどうなってるのか、問い質したいところです」
「まあ、この見た目ですからね。それよりも、前に来たときのことを知ってるというか、出品が断られたことを知ってるみたいでしたけど」
「この街はそういう街なんです!オークションの出品者の情報が色々と筒抜けになるのですよ!」
「それ、大丈夫なの?」
色々問題があるわよね。普通、出品者の情報って極力秘密にするものじゃないの?もちろん、本人が公開している場合もあるだろうけど、基本的には秘密にするはずだ。オークションに出すような高価な品を持ち歩いているとか、高額で競り落とされたあとだから大金持ってるだろうとか、襲われる要素しかないよね。
「私たちのように門前払い食らった者の情報はあっという間に広まるんですのよ!」
「ああ……「また馬鹿がやってきたぞ」みたいな?」
「そうです!」
なるほど、門前払いしたイコール偽物を持ってきたか、出品資格も知らない素人のどちらか、という判断。つまり、この街のルールもろくに知らない馬鹿か田舎者。こき下ろせるだけこき下ろしてやろうという風土。
なんとも性格の悪い街だこと。
「ということはオークション出品の話をもう一度持っていったりしたら」
「さらにひどいことを言われそうですね……って、どうするんですか?こう言っては何ですが、レオナ様が来たところで何も変わりそうにないんですが」
「まあまあ。大丈夫ですから」
多分。
あ、いや、オークションへの出品に関しては実は心配していないのです。出発までに時間をかけてやっておいた準備がありますからね。どちらかというと、これから「ざまあ」的な展開になると思うんだけど、現時点でここまでひどい扱いを受けているとね、その反動が怖い。
「ところでレオナ様、これからこのままオークションの出品申し込みに?」
「いいえ。その前にちょっと人に会うことになってます」
「人?その方が協力してくださるんですの?」
「ええ」
「その方、オークション出品の後ろ盾としては十分なのですか?」
「もちろん」
「協力してくださるって返事が届いたという話は伺っていないのですが」
「うーん、多分返事を出すより前にオウローに向かったと思う。んで、返事を出し忘れていることに気づいてないと思う」
「その方、大丈夫なんですの?!」
心配性なジェライザさんをなだめながらコーディに指示を出す。
「ええと……あ、あの子なら良さそうですね。行ってきます」
そう言って近くで遊んでいた子供の元へ行き、手紙と小銭を渡すと、思ったより多くもらえるお小遣いに大喜びして走って行った。
「すぐに届くと思います」
「いや、普通そこはコーディが手紙を持って行くところでは?」
「ご冗談を。土地勘のない私が向かったところで迷子になるのが落ちです」
「まあいいか」
最悪、あの手紙が届かなかったとしても、解決策はあるからね。




