22-7
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「キツかったです」
「歳かしら?」
「「「?!」」」
「わ、私はまだ三十よ!」
「嘘おっしゃい。去年もおととしも、その前も三十って言ってたじゃない」
「そういうアンタだって」
一触即発?大丈夫でしょ、大笑いしてエールを酌み交わしながらのバカ話だし。とりあえず二号店が開店して数日。今のところ、元の店の常連さんが四割、一号店のお客さんが三割。残りの三割は、常連さんの「新メニューがうまいぞ」という口コミでやってきたお客さん。そして来客数としては元のお店の二倍強。それをうまいことさばいた店員さんたちはすごいなと思う。これが経験値という奴なんだろうね。
そして開拓村の養ヨリト場はというと、なんとか軌道に乗り始め、現在二十羽が飼育されていて、順調に数を増やしつつ、出荷も続いている。
そして、神様のところへ話を聞きに行く日になっていた。
「次に開く穴だけど、あと二十日くらいで開くはず。場所はこの地図で。近くに大きな街があるから、わかりやすいと思うよ」
「ふむふむ」
「それと朗報が一つ、いや二つかな」
「何かしら?」
「まず、穴を開けているというか、開けるために色々動いている人物について」
「確か、空間魔術師ケンジだっけ」
「そう、そいつ。あちらの神に聞いてみたら「知らない」というので、上に報告。こちらからできることは何でもしていいという許可を取り付けた」
「なるほど」
「つまり、次に開く穴、思いっきり魔法を叩き込んでいいよ」
「今までもずいぶんな威力の魔法を撃ってるはずよ?」
「ほぼ全力で撃ち込んでいい、ってこと」
「ええ……」
確かに今まで全力で撃っていないよ。だって、全力で撃ったら、帰りというか脱出用の体力が残らないじゃない?それに、こちらの探知をかいくぐって忍び込んでる奴とかいるし。
「そろそろ魔力が増えてきて攻撃力が数段階上がるはずなんだよ」
「そっかぁ」
数段階ってどのくらいなんだろ。聞くのが怖いからやめて……いや、聞いておいた方がいいな。
「数段階ってどのくらい?」
「具体的に言おうとすると難しいね」
「試した方がいいと」
「うん。一応参考までに言っておくと、今までの感じで火魔法レベル三、火球を撃つと」
「撃つと?」
「半径五十メートルくらいが吹っ飛ぶかな」
「数段階ってレベルじゃないでしょ、それ」
と言っても、私が魔法で攻撃するのって、魔物が相手だからね。手加減とかいらないから気にしなくても……ダメだ、誰かを連れていたら、巻き込んでしまう。と言うか、私も服が燃え尽きちゃう。
「気をつけるわ」
「うん、それがいい」
「ということであと二十日くらいでここ、だそうです」
「ここ……商業都市オウローの近くね」
王城で報告がてら、オークションについての相談もするために集まっていただいた場で、ジェライザさん――色々フォローする能力に長けているので同席願った――が、思い当たるところがあるという。
「すまないな、私はわからなかった」
ゴードル王子はわからなかったと言うけど、北西部とのことで、知らないのも無理はないのかな。
「オウローは、例のドラゴン素材を出そうという話になっていた、オークションが開かれる都市ですわ」
「ほう」
「私たちも何度か参加しておりましたし、ボニーも同行したことがありますので、移動に関しては問題ないかと思います」
「それはありがたいですね」
そういうことなら、オークションへの出品も兼ねていこうかということで話はまとまった。なお、国王夫妻がオークションを見に行きたそうにしていたけど、誰からも許可は下りなかった。
そりゃそうでしょ。全く付き合いのない国へいきなり王様が乗り込んでいって、しかも目的がオークションとか、順序その他が色々おかしくなっちゃうからね。
ジェライザさんを連れて屋敷へ戻り、モーリスさんも交えてオークションについての相談をすることに。
と言っても、フェルナンド王国で行われるオークションよりもはるかに規模が大きいらしいからどうしたものか、というくらい。
ジェライザさんたちも、偶然手に入れた魔物素材を高く売却しようとオークションに乗り込んで……予想よりはるかに安く競り落とされて傷心の帰国をしたらしいので、ドラゴン素材といえど高く売れるかどうか。
「面倒なのが、オークションへの出品には条件があるということです」
「どんな条件ですか?」
「社会的信用があるか、オークションでの落札実績があること、です。ただ、どちらも基準は曖昧ですね」
「ジェライザさんたちの場合はロアの国王直々の出品だから認められた?」
「そうなります」
「今は無理か」
「そうですね」
国自体がなくなっちゃったもんなあ。元国王の「元」の意味合いが違うもんね。
「オークションの落札実績というのもよくわからない条件よね?」
「ええ。落札金額なのか、回数なのか。あるいは開始金額からある程度せり上げていないとダメなのか」
「落札方面で出品資格を取るのは難しそうね」
ぶっちゃけた話、私は貴族で、事業を始めたりしているので資金は潤沢。だけど、条件のわからない「落札実績」をクリアしようとしたら……下手をすると「いいカモが来た」と食い物にされかねない。
「社会的信用ってどういうレベルなのかしら?」
「うーん、私たちが見た限りではある程度の規模の商会や高い地位の貴族、高ランクだったり色々と噂になっていたりするハンター、ですかね」
なるほど、だいたい予想通り。
オークションというだけあって、出品されるものはどれもこれも高額なのだろう。そして、そう言うものには当然贋作、偽物もあるかもしれない。そしてそういったまがい物を扱ったら、オークションの主催にとってはイメージダウン。
出品に対し、「信用と実績のある者からの出品です」という箔付けは必要なんだろう。
「だとすると困りましたね」
「ええ」
既にジェライザさんたちは国王夫妻ではない。ロア自体も消滅してしまっているから、扱いは難民。社会的信用は……無いと言ってもいいかも。
一応、カイルさんがそれなりに名の売れたハンターだった。過去形だね。まあ、仕方ない。ジェライザさんと結婚してロアの王になってからはハンターとしての活動はほとんどロアに集中していたそうだから、知名度的にはイマイチになってもおかしくないとのこと。
そして私は貴族だけど、そもそも我が国、フェルナンドのことは向こうも知らないだろうから役に立たない。
「そろそろ仕事が一段落つきそうなので、一度オウローへ出向いて、次回のオークション日程や出品に関して確認してこようかと思います」
「お願いします……モーリスさんはどうします……か?」
「行きたいのは山々ですが、何しろ体が空きません」
「ですねえ」
「ロアの商業ギルドの者を連れていきますわ。以前、私たちが出品したときに同行してますから、勝手はわかるかと」
「お手数かけます」
そして二日後、ジェライザさんを中心とした数名でオウローへ出向いてもらった。
「よろしくお願いしますね」
「ええ、お任せください」
「道中気をつけて」
気をつけるも何もボニーさんが繋いだ先はオウローの門が見えるような街道沿い。こんなところで襲われても、すぐにオウローから衛兵がすっ飛んでくるだろうという位置。
「さて、吉報を待ちましょう」
「ええ」




