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  作者: ひじきとコロッケ
そろそろお金を稼いでもいいと思うんです
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22-6

 見ると、あちこちでヨリトがフッと姿を消し、突風と土埃とともに数十メートル離れた位置に現れるという現象が起きていた。それを見ている他のヨリトが落ち着いているということは、彼らにとってはごく当たり前のことなんだろう。この広さが必要な理由、よくわかったわ。


「レオナ様」

「え?あ、はい」

「服、ちょっと破れてます」

「え?あ、えっと……すぐに着替えてきます!」


 私自身は音速のヨリトが駆け抜けたところで傷一つつかないけど、服はね。ダンジョン探索用の丈夫な服じゃないからしょうがないよね。

 近くに停めていた馬車の中で着替えながら、服の破れた部分を見てゾッとした。これ、ヨリトが触れたとかではないわ。スパッと切れてる感じだし。

 多分、ヨリトが速すぎて、真空が発生。つまりカマイタチ、多分。違ってても誰も困らないから確認しないけどね。

 さて、そうなると一つの疑問が。

 あんなの、どうやって捕まえるのかしら。

 私の脱いだ服を見て、ニヤニヤしているタチアナに聞いても多分知らないだろうから聞かない。というか、何なのよそのニヤニヤは。


「売れば、それなりの額になるかと」

「そうね、生地は高級だし」

「いえ、そういう嗜好(・・・・・・)の人々なら金貨の十枚は出すのではないかと」


 取り上げた。後で、シーナさんに託すことにしよう。

 で、改めて養ヨリト場に戻ってみると、これから何羽か絞めるというかバラすらしいので、見せてもらうことにした。


「いいんですかい?結構グロいですよ」

「平気よ」


 ダンジョンで魔物を吹っ飛ばしてるのに比べれば大分マイルドなはずよ。


「わかりました。ただ、少しばかり離れてください。そう、その辺でお願いします」


 丸く大きく囲った柵から伸びた通路上の柵のそば。ただし、十メートルくらい離れていて欲しいとのことで、おとなしく従って見ていると、数人がいろいろな道具を持ってきて準備を始めた。


「ふーむ……よし、アイツだな」

「そうだな。場所(・・)もちょうどいい」


 場所?と思ったけど、その疑問はすぐに解消された。

 狙いをつけた一羽のすぐ後ろにするすると柵が伸びていったのよ。よく見ると地面にレールのようなものが敷かれていて、その内側にヨリトがいる状態で柵を滑らせ、こちらの細い通路のようなところへ誘い込むらしい。

 でもどうやって?

 あんな姿を見失うほどの速度で移動する動物、後ろに回り込んで追い立てようとしても逆に襲われそうだ。そう思っていたら通路の端の方に男性が一人たち、手を軽く振るとその手の中に三十センチほどの角笛が現れた。アレが彼のヴィジョンなのだろう。

 一方、細い通路の途中には櫛のように細かい切り込みを入れた板があり、男たちがヨリトを見ながら、「この辺だな」と金属の板を渡して、切り込みに差し入れて固定した。よく見ると、ヨリトのいる方向が鋭いような……

まさか……ねえ?


「よーし、こっちはいいぞ!」

「こっちもだ!」

「じゃあ、行きますよ!」

「「「おー!」」」


 声を掛け合うと、通路の向こう側の男性が角笛を吹き、ピーッと甲高い音が響く。同時に、ヨリトがピクと反応し、「ピィッ!ピィッ!」と短く鳴き、姿が消えた。

 直後、ズバン!とすごい音がして、ズザーッとヨリトが倒れて数メートル滑っていった。


「えーと……」

「レオナ様、上に気をつけてください」

「へ?わわっ!」


 一応避けたけど、数メートル先にヨリトの頭がポーンと飛んできた。


「おーし、そっち持ったか?」

「せーの!」

「「「よいっしょぉ!」」」


 通路の方では男たちが、首のなくなったヨリトを担ぎ上げて運んでいく。


「次行けるか?」

「こっちは大丈夫っす」

「よーし、行くぞ」


 ピーッ!


「ピィッ!ピィッ!」


 ズバン!


 ポーン!


「えっほ!えっほ!」


 ピーッ!


「ピィッ!ピィッ!」


 ズバン!


 ポーン!


「えっほ!えっほ!」


 そんな感じであっという間に十羽のヨリトが首を落とされて、食肉にすべく運ばれていった。


「領主様?」

「え?」

「大丈夫ですかい?」

「ああ、うん。ちょっとなんて言うかびっくりしただけ」


 確かに頭の高さが三メートルなんて巨大な鳥――誰がなんと言おうと、鳥だ――なわけだし、あの動きの速さだから飛びついて動きを押さえようとか、命がけの仕事になっちゃうよね。んで、教えてもらったんだけど、この方法、かなり昔からの方法なんだってさ。そして、この方法に至るまで、色々と試行錯誤が繰り返されていたとかなんとか。先人たちの苦労が偲ばれるわ。

 ちなみにヨリト一羽からは大皿に山盛りの唐揚げが二十皿は作れるそうだから、お店で出してる唐揚げ定食だと百食分と言ったところかしら。そして十羽絞めたといっても半分は開拓村で消費するので、お店で使える分は五百食分。二日もたないなと養ヨリト場を見る。まだできたばかりということもあって、中を歩いているのはあと五羽。遠目に見てるから正確ではないと思うけど、まだ体高一メートルと少し。出荷できるまではまだかかるだろう。


「うーん、やっぱり他の仕入れ先も考えないとダメかも」

「領主様、大丈夫でさ」

「え?」

「ヨリトは成長が早いですからね。今あそこにいるのも二日もすれば、立派になります」

「え……ええええ?!」


 ヨリトは、卵から二、三日で孵化し、五日で成鳥になるという。そして、広い養ヨリト場に隣接している小屋には卵が十数個。明日には全部孵化するという。


「まだ設備が足りないんで、すぐに数は増やせませんが、あとひと月もしたら、百羽は飼えますぜ」

「狭くない?」


 あの運動量でこのサイズ鳥だ。陸上競技場くらいの広さでは狭いのではないだろうかと思ったが逆。密集しているくらいの方が落ち着いてストレスなく育つんだって。そして、こんなとんでもないサイズまで一気に育つから餌もさぞかしと思ったら、植物なら何でも食べるんだって。だから、飼育しているところは草ボウボウで、もちろん餌。柵の外には木材を切り出した後に出た木くずが山と積まれていて、これも餌。ちなみに毒がある草なんかでも平気な上、肉が毒性を持つこともないという。そして、あっという間に成長してしまうせいもあって、病気らしい病気にかかることもない。


「じゃあ……」

「レオナ様、多分なんとかなると思いますよ」


 モーリスさん的には思ったよりも早く養ヨリト場が稼働し始めてくれたので、ヨリトの仕入れ先確保の心配がなくなったようで、ちょっと晴れやかな顔をしていた。まあ、目の下にクマがあって、お疲れの様子だけどね。

 そして迎えた二号店の開店日。あらかじめお知らせしていた効果もあって、開店前から長蛇の列ができていたけど、お店の皆さんは「腕が鳴るぜ」みたいな顔をしながら、準備をしている。元々繁盛店だったから、大勢の客をさばくのは慣れているんだろう。

 って、並んでる客相手に大道芸人が二組、いろいろな芸を見せている。こっちもこっちで商魂たくましいというかなんというか。


「お待たせしました!「待ってました!」

「押すな!押すなって!」

「腹が減ってんだ!」

「うるせえ!俺だって腹ペコなんだよ!」


 こっちはこっちで元々この店の客だった人が四~五割くらい?あっという間に満席になって、


「ええ!あれ、もう食えないのか?!」

「申し訳ないです!」

「まあ、オヤッさんも歳だったしなあ」

「この新メニューはなんだい?」

「おすすめですよ。ああ、エールは一緒に頼まないでくださいね?」

「え?」

「止まらなくなりますからね。エールと一緒に食べるのは夜まで我慢ですよ」

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