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  作者: ひじきとコロッケ
そろそろお金を稼いでもいいと思うんです
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22-4

前回、予約時間1時間ずれちゃってました……

 モーリスさんに言わせると、商業ギルドもその辺はきちんと考えているから大丈夫なはずとのこと。とりあえず元従業員に新しくなる店で働く気があるかどうか確認してもらうことにした。

 すでに新しい働き口を見つけているならそれでいい。無理にこちらで働けと言うつもりは全くないのだから。


「それではこの店、買い取ります」

「はい。ありがとうございます」


 それほど手をかけずに営業できる建物で、立地条件もよく、従業員のあてもありそうなら即決でいいでしょう。

 契約周りの諸々とかはモーリスさんに、厨房で必要なもののリストアップはクラレッグさんにお任せし、デリアさんとともに店に戻る。急がないとそろそろ開店時間なのよ。

 そして昨日に引き続き、怒濤の、嵐のような一日が始まった。

 二日目なら落ち着くかなと思ったんだけど、逆。昨日食べに来た人たちから評判が広まってさらにお客さんが増えていた。開店前の行列の長さで言うと、ほぼ倍。

 大道芸人さんがホクホク顔になるのもうなずけるわね。

 もちろん、昨日のアレから何も対策をとってないわけではない。

 ぶっちゃけ、屋敷の料理人フル稼働もあるので、料理の提供はどうにかなっているのだから、後はどうやって客の回転率を上げるか。

 客席に案内して注文を受けて厨房で用意して……一見、どこにも無駄がないように見えるので、これ以上回転率を上げようとすると、食べるのが遅いお客さんを「さっさと食べて出て行け」とケツをたたくことになってしまうと、私を除く全員が悩んでいた。

 それもそうよね。客商売である食堂が「さっさと食え」なんてあり得ないんだから。

 でも、なんとかしなきゃならないのでちょっと考えた。


「お客様、三名様ですか?」

「え?あ、はい」

「ご注文は?」

「えっと、何があるんだっけ?」

「唐揚げ定食か、おはぎティーセットのどちらかになります」

「からあ……確かそんな名前だったか?ヨリトの新しい料理とかなんとか」

「唐揚げ定食ですね。皆さん、一緒でよろしいですか?」

「いいよな?」

「うん」

「いいぜ」

「では唐揚げ定食を三つですね。こちらの札を持ってお待ちください」

「札?」

「はい。席が空きましたら番号でお呼びしますので」

「へえ……」


 並んでいる人にあらかじめ人数と注文を聞いておき、席に通すタイミングでは既に用意ができているという方式。私は行ったことがないけど、前世で確かひ孫がそういうお店があったとかなんとか言ってたっけ。お客さんは席に着いたらすぐに食事ができるから、席について注文してという方式よりも回転がいい。


「なるほど、これなら行列もすぐにはけていくというわけですか」

「そういうことです」

「これは……売上にも期待できますね……っと、厨房行かないと」


 デリアさんがニコニコと入っていったけど、この回転率、弊害もあるのよね。


「料理を作るペースが追いつかなくなる寸前です!」

「お、お皿を洗うのが追いつきませんっ!」

「料理持ってきたけど、大丈夫?」

「そこに置いてください!」

「ここ?」

「はいっ、すぐに出すことになるので」

「じゃあ、すぐにまた持ってこないとマズいわね」

「すみません。ご当主様にこんなことを」

「気にしなくていいから手を動かして」

「はいっ」


 そう、大忙しになるのよ。私も忙しいけど、それ以上に店員さんたちと、ウチの料理人たちが。

 結果、その日の閉店後は全員が足腰立たなくなっていた。


「皆さん、大丈夫ですか?」

「つ、疲れた……だけ……です」

「これ、いつまで続くんでしょうか」

「少なくとも明日もこんな感じ……?」


 売上は昨日の倍。

 で、死屍累々。

 そこへようやく色々片付け終えたモーリスさんが顔を出し、その光景に絶句した。


「これは……」

「深刻な人手不足ってことね」

「そうですか……はあ、これもまた問題ですね」

「そうね。とりあえず、今日の給料は予定より五割増しで!」

「「「「本当ですか?!」」」」


 死人が生き返ったわ。




 気をつけて帰るようにというのと、すぐに寝て体を休めるように伝えてからモーリスさんを伴って屋敷へ帰りながら、新しいお店についての諸々を聞いた。


「調理器具を少々用意しなければなりません」

「エルンスさんには?」

「指示を出してあります」


 唐揚げ用の揚げ鍋は今のところ扱ってる店はないので、エルンスさんに頼むしかない。


「そのほかにもいくつか必要な物がありますので手配してあります」

「わかりました」

「店内の改装も手配済みです。それほど多くないので二日もあれば終わるとか」

「無理はさせないでね?」

「何度も念を押しました」


 それでも無理をしたら、それは大工さんたちの自己責任ね。


「それと店員ですが」

「どうでした?」

「一名、元々歳だったのでこれを機に辞めるという者がいたほかは全員が働き続けたいと」

「よかった」


 いくら王都といえど、どこにでも求人があるわけではない。というか、求人があるかどうかを探すのが大変なのよね。ハロワとかないし、ハロワ代わりになりそうな商業ギルドも従業員募集とかやろうとすると手数料が取られるそうなので、お店もなかなか募集を依頼しないんだって。だから、こうしてやむにやまれぬ事情で店を畳まれてしまうと、働いていた人たちはいきなり路頭に迷ってしまう。だから、似たような食堂を継続するから働いてくれないかと言われたら、二つ返事。


「ただ、そっちもそっちで大忙しになりそうよね」

「そうですね。ただ、このタイミングでの求人はなかなか難しいかと」

「そうよね……」


 まだ二日とはいえ、相当な売上、つまり人気店になっているから、しばらくはこの忙しさが続くだろう。ここで人を追加しても、戦力になるかどうか。


「オルステッド侯爵家にも話を持ちかけてみてはと、セインさんが」

「侯爵家に?」

「ええ。私も詳しくはないのですが、侯爵領にもいくつか人気店はあるとか」

「忙しいお店を経験している人なら、と?」

「はい」


 頼ってみるか。


「あとはロア……開拓村でも探してみてはどうでしょうか?」

「うーん」


 言葉の問題がね。日常会話に支障ないレベルって、まだまだなのよねというところで屋敷に到着。


「セインさん」

「はい」

「求人をオルステッド侯爵家にという話ですが」

「ええ」

「明日、できるだけ早い内に相談に行きましょう」

「わかりました。手配しておきます」

「それと、開拓村でも探してみるわ」

「ではそちらはアランに連絡を入れておきます」

「侯爵家に行ったあとくらいになるかな?行ける時間次第だけど」

「わかりました。ただ、そうなると」

「うん?」

「屋敷と店を往復する者がいなくなります」


 課題が多いなあ。

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